なんだよこれ……宇宙船? だよな? え? どういうことだ?
俺は現実が受け入れられず、棒立ちになってしまう。
それは夢香ちゃんと瑠理香ちゃんも同じようで、二人して固まっていた。
「驚いたわよね? そう、これは宇宙船よ」
「ッ、な、なんで宇宙船が?」
鬱実の言葉に対して、そう返すのが精一杯だった。
「もちろん、あたしが乗ってきたからよ」
「乗ってきた?」
俺はそれを聞いて、とても嫌な予感がしてくる。
「そう、だってあたし、人間じゃないもの」
「――ッ」
「そんな……」
「うそ……」
俺は言葉を失う。
つまり、鬱実は自分のことを宇宙人だと言っているに他ならない。
「人間みたいな見た目の宇宙人。なんだか既視感がないかしら?」
そこまで言われてしまうと、自然と避けていた考えがどうしても浮かび上がってくる。
人間みたいな見た目の宇宙人。
どう考えても、シスターモンスターと結びつけてしまう。
「つ、つまり、鬱実はシスターモンスターだったのか?」
「いえ、シスターモンスターではないわ。あたしは、シスター星人。シスターモンスターは、シスター星人の下位互換の生き物に過ぎないわ」
シスター星人? シスターモンスターは下位互換の生き物?
「い、いったい何が違うっていうんだ」
「ふふ、簡単に言えば、シスターモンスターは雑用係みたいなものね。今みたいに星を侵略する時や、戦争時に最前線で戦うの。それに、彼女たちは噛みつく以外に繁殖する方法はないわ。そこが大きな違い」
意味は理解したが、同時に恐怖心が生まれる。
「い、いままで俺たちを騙していたのか? それで、いったい何が目的なんだ?」
「そうね。騙していたことは悪かったわ。でも、それがルールだったの。今回の地球で起きた出来事は、新たなシスター星人の女王を決める儀式のようなもの。それが目的ね」
シスター星人の女王を決める儀式? つまり鬱実は、女王になる存在なのか?
俺たちに秘密をばらしたということは、その儀式が終わったのかもしれない。
「それで、俺たちはどうなるんだ? 殺すのか?」
今でも鬱実を信じたい気持ちがある。
だが状況からして、俺たちは既に用済みだろう。
夢香ちゃんと瑠理香ちゃんは、恐怖や様々な感情が入り混じり、何も言えそうにない。
外にはシスターモンスター達がおり、もうすぐ侵入してくるだろう。
つまり、ここが最終地点。
終わりということだった。
そして、鬱実が俺の質問に回答する。
「え? 何を言っているの? 一緒に宇宙船で逃げましょう?」
「は?」
「え?」
「へ?」
一瞬時が止まったような気がした。
「早くしないと、奴らがやってくるわ。乗って」
鬱実がそう言うのと同時に、宇宙船のハッチのようなものが降りる。
「あ、ああ」
俺は間の抜けた表情をしたまま、夢香ちゃんと瑠理香ちゃんを引き連れて、鬱実の後に続き宇宙船に乗り込んだ。
船内は見た目以上に広く、一つの家のようだった。
「時間がないから、先に発進するわ」
すると鬱実は、コックピットのような場所に座り、何やら操作し始める。
そして少しすると、宇宙船の窓の様子が突然宇宙空間に切り替わった。
な、何が起きた? え? 宇宙?
「これで安心ね。もう大丈夫よ。ワープして宇宙空間にでたから」
「まじか……」
「ふぇ……」
「はわわ……」
俺たちは、夢でも見ているのだろうか。
現実味が無く、情報量が多すぎて語彙力を失う。
「色々と訊きたいことがあると思うけど、まずは落ち着いてお茶でも飲みましょう?」
「あ、ああ」
「はい……」
「うん」
俺たちは船内の部屋を移動して、テーブルと椅子が並べられた部屋にやってきた。
見た目は宇宙感が無く、地球の物と大差がない。
出された飲み物も、普通のお茶だ。
暫く無言でお茶を飲みながら、俺は心の整理をつける。
とりあえず、助かった事には違いない。
鬱実がシスター星人ということには驚きだが、これまでと変化は無いように思える。
だとすれば、鬱実はまだ味方の可能性が高い。
こうして秘密をばらして助けてくれたわけだし、きっとそうなのだろう。
なら、鬱実を信じよう。元々、あの状況では死ぬのも時間の問題だったんだ。
俺はそう考えて、落ち着きを取り戻した。
「鬱実、説明をしてくれないか」
「ええ、わかったわ」
そうして、俺は鬱実からシスターモンスターが現れた一連の流れを聞いた。
事の発端は、シスター星人の女王が亡くなったことから始まる。
それにより次期女王を決めることになり、その候補の一人が鬱実だったわけだ。
地球が狙われたのは、偶然らしい。
そして以下のルールにより、次期女王を決める儀式が行われた。
1.シスター星人と似た種族の男性がいる星に行き、パートナーを見つけること。
2.自身がシスター星人ということは知られてはいけない。
3.パートナーの行動を制限してはならない。
4.ランダムで補助を1つ受けることができる(鬱実の場合は秘密基地)
5.パートナーが失われた場合、女王になる資格を無くす。
6.シスターモンスターが放たれた瞬間から儀式が本格的にスタートする。
7.最後までパートナーと生き残った者が勝者。
8.パートナーから愛の告白を受けていなければ、勝利していても受理されない。
9.受理されていない間にパートナーが死亡した場合、再度この儀式は行われる。
10.他の次期女王候補とパートナーを故意に害してはならない。
11.勝利が受理された場合、宇宙船の使用許可が得られ、また全ての制限が解除される。
細かいルールは他にもあるようだが、以上がおおよそのものになる。
どうやら、俺が最後に三人に向けた愛の告白が、勝利を受理する引き金になったらしい。
また俺が度々外出するのを鬱実が止めなかったりしたのは、こうした理由があったわけだ。
他にも鬱実が不意に突然現れたりしたのは、鬱実がシスター星人であることに関係しているのだろう。
しかしそう言った理由があったとしても、たくさんの人が死んだことには変わりない。
俺は正直、複雑な気持ちになった。
だが俺の考えを読んでいたのか、鬱実は笑みを浮かべると、俺の考えに答える。
「ふふ、大丈夫よ。全てが終わったら、皆元の姿に戻るから。もちろん、光の粒子になって消えてしまった人たちもね」
「それは本当か!」
「それじゃあ、お父さんとお母さんも助かるんですか!」
「皆助かるんだ。本当によかった。よかったよぅ」
死んだと思っていた人たちが助かる。
それを聞いて、俺は心から安堵した。
夢香ちゃんと瑠理香ちゃんも同じようで、喜んで涙を流す。
「それに加えて、全てを元通りにした後、今回の出来事を地球の人たちの記憶から消すわ」
そんな凄いことができるのか……。
でもそれなら、トラウマを抱える人たちもいないだろう。
けどそれって、俺たちも含まれているのだろうか?
「もしかして、俺の記憶も消すのか?」
だとすれば、それはとても寂しい。鬱実とは長い付き合いだ。その記憶まで消えてしまうのだろうか。
俺はそんな不安に苛まれるが、鬱実は優しく微笑んだ。
「それは無いわ。だって、凛也君はこれからあたしの伴侶として、シスター星人の王配になるのだから」
「は?」
「え?」
「へ?」
またしても鬱実の発言に、俺たちは固まってしまう。
「だってこれは、次期女王と共にその伴侶を決める儀式なの。それに、凛也君はあたしのことを愛してくれてると言ったわ」
「いや、それはそうだけど……」
突然王配になると言われても、正直困る。
別に鬱実が嫌という訳ではない。あの時の告白は本気だ。嘘じゃない。
しかしどうしても、戸惑う気持ちが大きかった。
「な、納得できません!」
「そ、そうだよ! 一人だけずるい!」
そんなことを考えていると、夢香ちゃんと瑠理香ちゃんが鬱実に反論し始める。
「大丈夫よ。二人がよければだけど、側室として一緒に凛也君と結婚しましょう?」
「凛也先輩と結婚……その話しに乗ります!」
「る、るりも!」
「はぁ!?」
即座に手の平返しをした二人に対して、俺は思わず声を上げてしまう。
「シスター星人は重婚ありよ。むしろ、男女比率が1:9だから、凛也君は他の子とも結婚する必要があるわ。そう、他の人とも寝なきゃいけないの。はぁはぁはぁ」
色々とツッコミどころ満載だが、どうやら本気のようだ。
俺はしばらく悩んだ末、結局それを受け入れることにした。
今更ここで拒否しても、仕方がない。
それに、四人で今後も過ごせるのであれば、文句はなかった。
それとどうやら話を聞けば、女王候補だった人たちも後に蘇るパートナーを連れ帰るようであり、またこっそり他のシスター星人たちも恋人を地球で見つけているのだという。
ここまで聞いて、シスター星人の一割いる男性は何も言わないのかと訊けば、驚きの事実が判明する。
「え、漢田さんってシスター星人だったの!?」
「そうよ。おそらく周囲に同類のシスター星人もいたはずね」
「嘘だろ……」
シスター星人の男性は、基本的に漢田さんのような人が多く、男にしか興味がないのだという。
なので、シスター星人は地球人などといった他の男性からパートナーを見つける必要があるようだ。
そういう理由からシスター星人の人口は少なく、大部分はシスターモンスターなのだという。
また今回は儀式の為にシスターモンスターを使ったが、普段は戦争相手をシスターモンスターに変えるのだとか。
その宿敵がブラザー星人というらしい。
名前だけ聞くと、シスター星人と相性が良さそうな気がするが、色々あるのだろう。
そうして鬱実との話し合いも終わり、この一連の出来事に幕が下りた。
◆
あれから時は流れ、現在俺はシスター星人の王配になり、女王となった鬱実を支えている。
覚えることは多かったが、やりがいのある生活だ。
また意外にも今住んでいる場所、シスター星は平和そのものであり、ほのぼのとしている。
地球出身の者たちとも仲良くなり、あの一連の出来事をバイオ〇ザードならぬシスターハザードと名付けて呼んでいた。
夢香ちゃんと瑠理香ちゃんも、今では俺の妻になっている。
俺としては、数年待って成人してからがよかったが、シスター星人にそうした法律は無く、二人の希望もあって結婚していた。
ちなみに、二人は地球にいる両親から自分たちの記憶を消してしまったようだ。
相当の覚悟が必要だったことだろう。
それでも、俺の隣にいることを選んでくれた。
「凛也君、あたし子供は100人ほしいわ」
「いや、それは流石に無理だろ……」
「他の女を抱けば、100人なんて余裕よ。はぁはぁはぁ」
「勘弁してくれよ……」
女王になっても、鬱実は鬱実のままだ。
今後も、いろんな意味で俺の苦難は続いていくことだろう。
END
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これにてシスターハザードは完結です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次回作もよろしくお願いします。
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