金曜日の0時、弟くん収穫祭が始まった。
といっても、深夜なのでまだ大きな動きはない。
もちろん、我慢できないシスターモンスターたちは動いているようだが、この秘密基地を狙う者は今のところいなかった。
とりあえず俺たちは、順番に見張りにつく。
メインルームにある六つのモニターから、それぞれ外の様子が映されている。
それを一人二時間ほど見張る予定だ。
順番は、俺・瑠璃香ちゃん・夢香ちゃん・鬱実という順番になった。
なので現在、メインルームにいるのは俺一人という訳である。
まだ始まったばかりだ。
これから三日間耐える必要がある。
ここに誰も来ないというのは、正直考えていない。
何故ならば、シスターモンスターには特定の相手に狙いをつけると、なんとなくその相手の場所がわかるらしい。
つまり、俺たちの誰かに狙いを付けているシスターモンスターがいる場合、この三日間の間にやってくる可能性は十分にあり得る。
俺の場合中学校の脱出の際や、食料配給の際に出会ったロリーちゃんがやってくる可能性が高かった。
もちろん来ないという事もあり得るが、食糧配給の時はかなり俺のことを目の敵にしていたはずである。
なのでこの秘密基地にやってくるシスターモンスターがいるとすれば、それはロリーちゃんだろう。
他の候補がいるとすれば、よく行くコンビニの店員であるシスターモンスターだが、そこまで目をつけられてはいない気がする。
あとは、この前俺のことを集団で囲んだシスターモンスターたちが来るかもしれない。
しかし来たところで果たして、この秘密基地に侵入できるであろうか。
まず入口を見つける必要があり、見つけたとしても梯子を下りる前に隔壁を開ける必要がある。
そして仮に梯子を下りたとしても、潜水艦にあるような重厚な扉を突破しないといけない。
いくら身体能力の高いシスターモンスターといえども、この扉を破るのは難しいはずだ。
まあ問題は、破れないと分かって諦めるかどうかになる。
他にも、この場所を他のシスターモンスターに教えないかが心配だ。
話が大きくなり、もしも重機などが用意されてしまえば、突破される可能性がある。
なのでもし仮に単体であれば、倒す事も考えた方がいいはずだ。
危険だが、その方が将来的にはプラスだろう。
だが、倒すための話し合いに応じてくれるかという、根本的な問題もある。
これは実際に相手が来て反応を見なければ分からなかった。
そこでふとモニター画面を見るが、今のところ外の様子に異変はない。
深夜で外は暗いが、遠隔で暗視カメラに切り替えることができる。
これらは全て鬱実が用意した物であり、普通にすごいと思った。
まあストーキングの際に身につけた技能だと思うので、少し複雑ではあるが。
こんなカメラで、深夜に俺のアパートを盗撮していたのかと思うと、恐怖を感じる。
こんな世界にならなければ、鬱実のストーカー能力は活かされることはなかっただろう。
一人で見張りを続けていると、変化がないので様々なことが脳裏によぎる。
この弟くん収穫祭を乗り越えたら何をしようとか、3人の気持ちに対していずれ何かしらの答えを出した方がいいとか、そんなことだ。
特にこの前に起きた夢香ちゃんと瑠璃香ちゃんが襲ってきたことは、未だに衝撃的な出来事である。
色々と事情はあったかもしれないが、俺が二人の気持ちを知りながらも気がつかないふりをし続けた事も原因だろう。
いつまでも、このままではいられない。
結局関係が変わることを、俺が恐れただけだ。
改めて考えると、あの時の俺は情けなかった。
受け入れるにしろ、断るにしろ、何かしら答えを出す必要がある。
それが誠意になるはずだ。
しかしそれは、どちらにしてもこの弟くん収穫祭が終わってからの話しになる。
今その話しをして動揺をさせてしまい、シスターモンスターが襲ってきた時に大きなミスを引き起こしてしまったら、本当に洒落にはならない。
それまでの間に、俺も二人に対してどのように返事をするのかを考えることにする。
そうしてモニター越しから外の監視をし続けたが、結局俺の番に誰かがやってくることは無かった。
「ふぁ、凛也お兄ちゃん、お疲れ様です」
「ああ、瑠理香ちゃんも目が覚めたようだね。まだ眠そうだけど大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。ここからは任せてください」
「わかった。それじゃあ、後は任せるよ」
「はい、任されちゃいます!」
時間になって瑠理香ちゃんがやってきたので、軽く会話を交わすと、俺は見張りを交代して部屋に戻る。
この後は夢香ちゃん、鬱実と続く感じだ。
順番を考えると、途中で起きて見張ることになった夢香ちゃんと瑠理香ちゃんの負担が大きい。
しかし、それについては事前に話しあって決めたことなので、問題はない。
代わりに明日は俺と鬱実の見張る順番が中間になる。
そうして俺は部屋に辿り着くと、眠りについた。
何があっても良いように、この三日間は私服のまま横になる。
少し寝づらいが、我慢するしかない。
頼むから、俺が寝ている間は何も起きないでくれよ……。
そして、俺の意識は沈んでいった。
◆
目が覚めると、周囲に変わった様子はない。
起こされなかったということは、何もなかったのだろう。
俺はゆっくりと起き上がると、準備を済ませてからメインルームに向かった。
「あら、凛也君おはよう」
「ああ、おはよう。鬱実だけか?」
「ええ、二人はまだ眠っているわ」
夢香ちゃんと瑠理香ちゃんは、どうやらまだ寝ているらしい。
まあ、何もないのなら寝かせておこう。
「一応聞くが、何か変化はあったか?」
「いえ、ここには誰も来ていないわ。でも、日本中で大変なことになっているみたいよ」
そう言って鬱実がタブレット端末を俺に差し出す。
「くそっ、やっぱりこうなるのか……」
映っているのは、大勢の男性がシスターモンスターに捕まり、次々に噛みつかれている動画だった。
投稿者は、もちろんシスターモンスターである。
やはり人が多い場所ほど、襲われている男性が多いようだ。
この光景を見ると、漢田さんが無事であるのか気になってしまう。
しかし、今ここで電話やメールを送っても大丈夫だろうか。
このような状況で忙しいのは当たり前だ。
そして何より俺が躊躇ってしまう理由は、漢田さんに助けを求められてしまったら正直困るからだった。
自己嫌悪に陥ってしまうが、漢田さん達よりも一緒にいる三人の方が大事だ。
ここにあの人数を避難させる余裕は無いし、場所も他のシスターモンスターに見つかる可能性が高まる。
本当に申し訳ないところだが、漢田さんには連絡をしないことにした。
もしかしたら、向こうも同じことを考えているかもしれない。
普通に考えて、俺のような高校生がこんな秘密基地にいるとは思わないはずだ。
漢田さんのチームにも、おそらく余裕はないだろう。
それに、漢田さんのチームは女性の加入は禁止されている。
俺は以前、漢田さんに異性と共に行動していることを告げていた。
そういう意味でも、もし仮に俺たちに助けを求められたら、漢田さんは相当困るはずだ。
なのでお互いに、連絡しないのが正解だろう。
それが結果として、漢田さんたちが全滅してしまうことになったとしても。
俺は別に主人公でも何でもない。
漢田さんよりも、鬱実たちの方が大事だ。
そう考えて、俺は一度取り出したスマホを再びしまう。
「凛也君、分かっていると思うけど……」
「ああ、大丈夫だ。外の誰かを助けるようなことはしないよ。俺は、三人の方が大事だからな」
「そ、そんな凛也君、あたしのことが大事だなんて……これは、愛の告白だよね?」
三人と言ったのにも関わらず、鬱実は都合よくまるで自分のことだけが大切だと言われたように返事をしてくる。
俺は溜息を吐くと、言葉を言い直した。
「俺は、夢香ちゃんと瑠理香ちゃんが大事だ」
「な、何であたしを省くの!? 凛也君があたしに塩対応ぅ!」
いつものように、鬱実が騒ぎ出した。
しかしそんな時、ふと視線を感じて見てみれば、そこには顔を真っ赤にした夢香ちゃんと瑠理香ちゃんが立っていた。
「り、凛也先輩。わ、私も凛也先輩のことがた、大切でしゅぅ」
「凛也お兄ちゃんったら、いきなりそんなこと言って、るり、困っちゃうなぁ」
俺の言葉を聞いてそういう反応をする二人に、俺まで恥ずかしくなってくる。
「こ、これは、寝取られの気配! うぅう! あたしだけハブられて甘い雰囲気だしてるぅ! はぁはぁはぁ」
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