022 好きになった理由

 コンビニでのひと悶着を終えた後、俺たちは秘密基地へと帰還する。

 帰り道は買った荷物があるため当然行きよりも時間がかかった。

 しかしそれでもシスターモンスターに遭遇することはなく、警戒しすぎた分逆に疲労が溜まってしまう。

 秘密基地のある山を登る際には、体力の少ない夢香ちゃんと瑠璃香ちゃんなど、汗だくになってしまうほどだ。

 俺も相当辛いので、二人はかなり無理をしているに違いない。

 それに引き換え、鬱実は汗ひとつかかずに余裕な表情だ。

 コイツの体力はいったい、どうなっているのだろうか。

 とても気になるところだが、今はそんな状況ではないため自重した。

 それから時間をかけて秘密基地に辿り着くと、事前に入り口付近に隠しておいた縄を使う。

 流石にこの荷物を持って梯子を下りることは危険すぎる。

 なので先に鬱実に梯子を下りてもらい、縄に結んだ袋を下ろしていく。

 ちなみに夢香ちゃんと瑠璃香ちゃんは、念の為に周囲を警戒してもらっていた。

 またもしもの際に俺が縄を落とさないように、注意もしてくれている。

 そうして何度か荷物を下ろし続け、ようやくこの作業が終わった。

 腕がパンパンで千切れそうだ。明日の筋肉痛は免れないだろう。

「凛也先輩お疲れ様です。腕が辛そうなので、私が汗を拭いてあげますね」
「凛也お兄ちゃん。喉乾いているでしょ? るりが飲ませてあげる」
「ああ、ありがとう。助かる」

 俺は腕がしばらく動きそうになかったので、少し恥ずかしかったが、二人の好意に甘えることにした。

「うぅう。凛也君があたしを忘れてイチャイチャしてるぅ。さみしいぃ。はぁはぁはぁ」

 すると、まるで何か妖怪のように梯子から顔を半分だけ出した鬱実が、こちらを凝視している。

「なんだ。わざわざ上って来たのか? 下で待っていてもよかったんだぞ?」

 平気そうな顔をしているが、鬱実も疲労が蓄積しているはずだ。

 いつもおかしな行動が目立つ鬱実だが、無理をさせたいわけではない。

「一人で待つのは寂しかったの。それに上から寝取られの気配を感じて、居ても立っても居られなかったわ。はぁはぁはぁ」
「そ、そうか……」

 俺は、それ以上何も言えなかった。

 自分から無理してくるのなら、どうしようもない。

 そうしてある程度腕の疲労が回復したので、俺たちは梯子を下りて秘密基地に入る。

 これでなんとか、ミッション完了だな。

 途中現れたギャルっぽい少女には焦ったが、どうにかなった。

 深夜でも、あのようにして突然現れることがわかった以上、これからは外出の際は一層気をつけよう。

 そして買ってきた荷物は、備蓄倉庫とキッチンなどに保管しておく。

 これだけ買えば、元からある非常食も含めてしばらく大丈夫だろう。

 今後への不安はもちろんあるが、この時ばかりはそのことを忘れ、達成感に浸る。

 また汗も相当かいたので、順番に風呂に入った。

 今回は、前回の入浴順と逆になっている。

 俺は別に最後でもよかったが、三人が強調してそれを拒否したので仕方がない。

 入浴後は先に自室に戻ると、俺は疲れが溜まっていたのか、少し横になったつもりがそのまま眠ってしまった。

 ◆

 凛也先輩は、どうやら疲れて眠ってしまったようです。

 あれだけ頑張っていたので、仕方がありません。

 なので、今まさに侵入しようとしている鬱実さんを止める必要があります。

「鬱実さん駄目ですよ! 凛也先輩は疲れているんですから、そっとしておいてください!」
「分かっているわ。だから、あたしの体で温めてあげないと」
「全然分かってないじゃないですか!」

 これはまずいです。このままだと、凛也さんの部屋に入ってしまいそうです。

「むぅ、引っ張らないで」

 私は鬱実さんの腕を引っ張り、必死に止めました。

 ですが、まるで巨大な岩のように動きません。

 一か八か、私は奥の手を使います。

「今入ってもしも起こしてしまえば、凛也先輩に嫌われますよ!」
「ッ……それは、困るわ」

 その言葉が刺さったのか、鬱実さんはようやく諦めてくれました。

 この人の行動原理の大部分は凛也先輩のことなので、おそらく効くとは思っていましたが、予想以上です。

「とりあえず、メインルームにもどりませんか? この際だから瑠理香も呼んで、三人で色々話しましょう」
「わかったわ」

 よかった。鬱実さんは凛也先輩以外には興味がなさそうなので、私とお喋りしてくれないかと思いました。

 こんな状況なので、鬱実さんとは是非仲良くしたいです。

 そうして瑠理香も呼んで、三人でソファに座りました。

 さて、何を話しましょうか。

 正直鬱実さんとは、こんな風にお話をしたことが無いんですよね。

 大抵、凛也先輩がいるときにしか会話をしないので。

 私が何を話そうかと悩んでいると、瑠理香が先に鬱実さんへと話しかけました。

「あの、鬱実お姉さんは、どうして凛也先輩のことが好きになったんですか?」
「あ、それ私も気になります」

 実はそのことを、私もすごく気になっていました。

 私が凛也先輩を気になり始めたときには、既に鬱実さんは今と似たような感じだったので、どのようにして恋に落ちたのかとても気になります。

「ん? 好きになったのは、凛也君があたしのことを熱烈にストーキングしたからよ。毎日毎日、あたしのことを追いかけてくれていたわ」
「うそぉ! 凛也お兄ちゃんが鬱実お姉さんをストーキングしていたんですか!?」
「えっと……」

 この場に凛也先輩がいたら、ものすごく反論しそうな気がしました。

 もしかしたら、鬱実さんは好きになった理由を隠しているのか、それとも自分自身でも分かっていないのでしょうか?

 謎は益々深まりました。

「それじゃあ、あなたたちはどうしてあたしの凛也君のことを好きになったの? とても気になるわ」

 ナチュラルに凛也先輩のことを”あたしの”と言いましたね。

 そのことに少しチクリとしながらも、私は自分が凛也先輩を好きになったときのことを思い出します。

 あれはまだ、私が高校の見学をしている時でした。

 高校に姉が通っている友達が、この高校には氷帝というあだ名の方がいると教えてくれたんです。

 どうやらクールで整った顔立ちとのことで、私はこの時から氷帝さん、凛也先輩が気になっていました。

 そして入学してから料理部に入部すると、元々お菓子作りをしていたこともあり、私はその日クッキーを作りすぎてしまい、持て余してしまいます。

 なので、まだ学校にいるクラスメイトの女の子にあげようと思っていました。

 ですが運悪くも、ガラの悪い先輩二人に目をつけられてしまいます。

 何やら私のことを理想のロリ妹とか言っていました。

 今でも思い出すと失礼な方たちです。

 しかし、そのときの私は恐怖で震えてしまい、言葉もろくに出せませんでした。

 このままどこかへ連れ去られるのでないかと恐怖した時、そこへ凛也先輩が現れたんです。

 ガラの悪い二人は凛也先輩の同級生だったようで、凛也先輩のことを氷帝と呼びました。

 この時、私は凛也先輩があの氷帝さんということを知ったのです。

 凛也先輩は眼力のある鋭い視線をガラの悪い二人に向けて、私から離れるように言いました。

 すると、どういうことでしょう。ガラの悪い二人は、恐れをなして逃げて行ったのです。

 そして助けられてから大丈夫かと聞かれた私は、そのとき凛也先輩の凛々しさにやられてしまいました。

 持っていたクッキーをお礼代わりに渡して、それからは度々料理部で作った食べ物を会う口実にして、凛也先輩と会話する機会を増やした訳です。

 凛也先輩を知れば知るほど、心の中の何かが大きくなっていくのを感じました。

 これが初恋なんだと、私はこの時思ったのです。

 だから、家で作ったお菓子にこっそり唾液を入れたり、血を入れたりしたのは仕方がなかったんです。

 もし世界がおかしくなっていなかったら、〇〇を入れようと思っていたのに、残念でなりません。

 私はお菓子に混入させている部分は当然内緒にしつつも、二人に凛也先輩に惚れた理由を語りました。

「くっ、まさかあの時のことが裏目に出るなんて……」
「え?」

 私の話を聞いた鬱実さんが、何故か悔しそうにしています。

 な、なんだか嫌な気がしてきました。

「あの男たちは、以前あたしにしつこく言い寄ってきたから、そのことを後悔させてやったの。それなのに、あたしの凛也君に手を出そうとしたから、後ろからこっそりトラウマ写真をチラつかせてやったのよ。けど、それが泥棒猫を生み出すきっかけになるなんて……」
「……」

 私は、頭の中が真っ白になりました。

 あの時、あのガラの悪い二人を追い払ったのは鬱実さんだったようです。

「へえ、そうなんだ。でも、凛也お兄ちゃんがお姉ちゃんを助けてくれたのには違いないですよね? 流石凛也お兄ちゃん!」
「そ、そうです! 凛也さんは危険を顧みずに助けてくれたんです! だから、あの気持ちは間違いじゃないです! むしろ、自分も危ないことを分かりながらも助けてくれた凛也先輩に益々惚れちゃいました!」

 瑠理香のおかげで、私はこの気持ちが真実だと改めて気が付きました。

 瑠理香には感謝しないといけないですね。

「まあでも凛也お兄ちゃんは、るりのことを命懸けで中学校から助けに来てくれたので、この中では一番ロマンチックです! 凛也お兄ちゃんとるりが出会うのは、まさに運命だったんですね!」
「「は?」」
「ひぃぅっ!?」

 いけない。思わず殺気が出てしまいました。

 何故か鬱実さんも同じように殺気が出たようです。

 でも実際、死ぬかもしれない状況で助けられたら、惚れちゃうに決まってますよね。

 まさか瑠理香がライバルになるとは思いませんでした。

 鬱実さんにはもちろんですが、妹である瑠理香にも絶対に負けません。

 少し空気がよどみましたが、それから私たちはお互いに親睦を深めました。

 これからこの世界がどうなってしまうのか不安ですが、皆となら、きっと何とかなりますよね。

 私は強く、そう願いを込めました。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 これにて第一章は終了です。
 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。

 第二章は一度プロットを見直すので、投稿は明後日か遅くても明々後日になります。
 引き続きシスターハザードをよろしくお願い致します。


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