124 ダークエルフの村で買い物

 人が集まるまでの間、俺は村の中を練り歩いた。

 屋台なども複数あり、モスサンドも売っている。

 ちょうど小腹も減っていたので、購入して食べてみた。

 丸いパンにフライングモスボールから取れた藻が挟んであり、他にも野菜や肉が入っている。

 フライングモスボールの藻は海藻のような食感であり、悪くない。

 それが他の具材と合わさり、絶妙なハーモニーを奏でている。

 ボリュームもあり、満足感が凄い。

 またフライングモスボールの藻は、他の料理にも使われているようだ。

 サラダやスープ、炒め物など多岐に渡る。

 フライングモスボールは、エルフとダークエルフにとって重要な食材だ。

 もはや主食である。

 また食べ物以外にも、ダークエルフの村には武具屋が多い。

 様々な近接武器や、革鎧が置いてある。

 重鎧が少ないのは、種族柄だろうか。

 ダークエルフは、身軽な防具を好む傾向にあるらしい。

 俺もどちらかと言えば、軽防具の方が好みだ。

 この機会に、防具を一新してみるのも良いかもしれない。

 ブラックヴァイパーの防具一式は、もう長いこと使っている。

 当時は高額な装備だったが、今では安物の装備に思えてしまう。

 これまではデザインが気に入っていることもあり、使い続けていた。

 デミゴッドの防御力の前では、防具などあまり意味が無いと思っていたこともある。

 だがゲヘナデモクレスとの事があってから、その意識が変わった。

 僅かでも防御力が上がるなら、質の良い防具に変えるべきである。

 それに、自称ハイエルフという懸念もあった。

 これからは装備についても、考えていく必要がある。

 ちなみに武器については、緑斬リョクザンのウィンドソードで十分だ。

 別に軽視しているのではなく、緑斬リョクザンのウィンドソードはかなり強い。

 ウィンドとウィンドカッターを放てるし、時間と共に自動修正されるので整備いらずだ。

 店売りの武器を少し見たが、緑斬リョクザンのウィンドソードを超えるものはほとんどなかった。

 あったとしても、使いづらそうな物が大半だ。

 やはりダンジョンボス撃破で手に入れた武器は、優秀なのだろう。

 なので緑斬リョクザンのウィンドソードから変えるとすれば、相当能力が上の物に限る。

 既にこの剣を、だいぶ使い慣れてきたというのもあった。

 この剣より少し強いくらいであれば、逆に変えない方がいいだろう。

 あとは、装飾品だろうか。

 紫黒しこくの指輪は固定として、耐地の指輪(下級)は変えてもいい。

 他にも、未装備の装飾部位をつけた方がいいだろう。

 左右の指輪以外にも、装飾はつけられる。

 装備可能な箇所は腕輪を左右に一つずつに、イヤリング一セット、ネックレス一つだ。

 そういう訳でまずは装飾品店を巡り、有用なものを探していく。

 鑑定が使えるので、偽物を掴ませられることはない。

 そして俺は装飾品店を巡り、以下の装飾品を購入した。

 名称:呼吸の指輪
 説明
 ・装備中、呼吸不可能な場合酸素を生成して呼吸を可能にする。またその場合、外部からの吸入を防ぐ。
 ・この指輪は時間経過と共に修復されていく。

 名称:魔補充のイヤリング
 説明
 ・装備中に限り、装備者の自然魔力回復量を小増加させる。
 ・このイヤリングは時間経過と共に修復されていく。

 名称:気配感知のネックレス
 説明
 ・適性があれば装備中に限り、スキル【気配感知】を発動できる。
 ・このネックレスは時間経過と共に修復されていく。

 名称:スピードバングル
 説明
 ・装備中に限り、装備者の速度を小増加させる。

 名称:テクニカルバングル
 説明
 ・装備中に限り、装備者の技量を小増加させる。

 俺に足りないものや、補助するものを選んだ。

 特に呼吸の指輪は、見つけるまで気が付かなかった弱点である。

 俺も呼吸している以上、窒息からは逃れられない。

 本来は水の中で活動するための指輪らしいが、こういう対策にも使える。

 またこの国には、海が無いらしい。

 なので効果に反して、安い方だった。

 といっても中堅冒険者でも、手が出せないほどの値段だったが。

 次に魔補充のイヤリングだが、丸い輪に紫色の爪のような物がついているイヤリングだ。

 効果はシンプルだが、俺にとってはありがたい。

 スキルの自然魔力回復速度上昇(中)と重複発動するので、とても有用だ。

 あとはこれまでレフに頼りきりだった、気配感知をネックレスを装備することで使えるようになった。

 適正が必要らしいが、問題なく発動できている。

 おそらく直感のエクストラが、それを満たしているのだろう。

 最後は、速度と技量を小増加させる腕輪になる。

 効果はシンプルで上昇値は少ないが、悪くはない。

 このわずかな差が、結果を変える可能性もある。

 そういう訳で、俺はこの五つの装飾品を手に入れた。

 しかしその代わりに、これまで貯め込んでいた金銭をかなり使い込んでしまう。

 呼吸の指輪以外はとても人気があるらしく、高価だった。

 加えて人気のない呼吸の指輪も、安めに設定されていたとはいえ相応の値段である。
 
 だが、後悔はない。

 金はまた貯めればいいだけだ。

 けれどもこれで、防具を買う資金がかなり無くなってしまった。

 一応買えない事はないが、個人的に微妙な物が多い。

 属性耐性や状態異常を軽減する防具は、俺にはあまり必要なかった。

 それよりも、特殊なスキルの付いた防具の方がいい。

 しかしそういった防具は無く、高価な物は無駄な装飾が施された実用性の低い物ばかりだ。

 他には見た目こそ厳ついものの、能力がショボい防具もあった。

 まるで世紀末の世界に出てきそうな、トゲトゲとした肩パッドが付いた防具である。

 威圧感はあるものの、何となくザコ臭がするのはなぜだろうか。

 うーむ。これは資金を貯めて、より上のランクの防具を買った方が良さそうだな。

 少しは防御力を上げた方がいいと思ったが、これでは安物買いの銭失いになりそうだ。

 それにブラックヴァイパーの防具一式の装備中は、姿隠しが使える。

 あせって今すぐ買う必要は、ないかもしれない。

 加えてここより栄えた大村に行けば、俺好みの防具が見つかる可能性がある。

 ダークエルフの村にも大村に匹敵する村があれば、まずはそちらに行ってみよう。

 なので防具については残念だが、機会があればその時に購入することにした。

 でもまあ防具こそ買えなかったが、この装飾品を装備したことでかなり生存率が上昇しただろう。

 良い買い物ができた。

 そうして村の中をある程度見て回れたので、俺はもう一度冒険者ギルドに足を運ぶ。

 するとどうやら依頼の人数が揃ったようであり、パーティの代表者とソロ冒険者は大部屋に向かうように言われた。

 もうすぐ日も暮れそうだし、今日は顔合わせと軽い説明だろうか。

 そんなことを思いつつ、ソロ冒険者の俺はそのまま指定された大部屋に入る。

 大部屋には、既に大勢の冒険者がいた。

 ソロは左、パーティの代表者は右に集まるよう職員に言われる。
 
 なので俺は、言われた通り左側に移動した。

 そしてしばらく待っていると全員そろったのか、職員が口を開く。

「皆よく集まってくれた。今回の依頼内容は、北の渓谷けいこくにあるコボルト集落の殲滅だ。数は推定で数百匹以上おり、上位個体もいることだろう」

 まずそう説明する職員に対し、冒険者は驚く者と落ち着いたもの、また笑みを浮かべる者に別れた。

 前者ほど、ランクが低いように見える。

「だがコボルトはEランクのモンスターだ。今回Cランクパーティも複数参加していることから、問題はないだろう。しかし油断すれば当然命を落とす、そのことを留意しておいてくれ」
 
 これは一瞬安堵した、Eランク冒険者に向けたものだろう。

 冒険者は基本一つ上の依頼まで受けられるが、今回Fランクはいない。

 それはこの依頼が、Fランクには荷が重すぎるという事を意味している。

 実際掲示板の依頼内容にも書かれていたが、Fランクの参加は認められていなかった。

「またソロの冒険者だが、こちらで臨時のパーティを結成させてもらった。また人数の少ないパーティにも振り分けている。詳しいことは、後でこの表を確認してくれ」

 そう言って、職員が背後のある表をちらりと見る。

 やはりあの表は、そういうことか。

 依頼を受ける時にソロか訊かれたが、これが理由だったらしい。

「そして出発時期だが、今から一時間後になる。それまでに準備をして、村を出た北側で待機するように」

 は? 今から一時間後? 日が暮れるぞ?

 俺は呆気に取られて周囲を見渡すが、誰も疑問に思っていないようだった。

 これがダークエルフの普通なのか? ダークエルフは別に、夜目が利くようなスキルは無いはずだが……。

 俺がそんな疑問を抱いているうちに、話は終わったのか解散になる。

 まあ、なってしまったことは仕方がない。
 
 冒険者ギルドがそう判断したのなら、それに従おう。

 それよりも、誰と組まされたのか確認する必要がある。

 俺はさっそく表を確認しようとするが、既に人が群がっていた。

 なので少し待ち、後から確認する事を決める。

 だがそうして待っていると、一人の女性冒険者が俺の名前を呼んでいた。

「Dランクのジンさんという方はいますか? 今回組むことになった荒野の闇です!」

 どうやら、向こうから俺を探してくれたらしい。

 表を確認する必要がなくなったので、俺は呼んでいる女性冒険者の元へ向かうのであった。

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