「俺が、Dランクのジンだ」
そう言って、俺は女性冒険者へと近づく。
「貴方がDランクのジンさん、君ね」
女性冒険者は俺を見ると、人称をさんから君に変えた。
まあ、それについてはどうでもいい。
女性冒険者は十代後半に見えるが、実年齢は不明だ。
ダークエルフもエルフ同様、寿命が長い。
「パーティメンバーが外で待っているから、まずは移動してもいいかしら?」
「ああ、構わない」
そう言われて、俺は女性冒険者の後に続いた。
外に出て少し歩くと、そこには年の近そうな男性が二人いる。
女性冒険者は二人に簡単な説明をして、俺と引き合わせた。
「君十五歳くらいだよね? その年でDランクなんて凄いなぁ」
「そうだな。俺たちも十七だが、やっとEランクになったばかりだからな」
二人の男性、青年たちは見た目通りの年齢らしい。
おそらく、女性も同年代な気がする。
「その通りね。この辺りじゃ期待の新人扱いだったけど、上には上がいるわね」
どうやらこの年でDランクは、凄いらしい。
確かに人族でも、十五でDランクはほとんどいなかった。
しかし、いないわけではない。
優れたスキルを十歳の時に授けられていれば、案外Dランクは目指せる。
なので別に、おかしくはない。
「色々運がよかったんだ。ランクは上でも、知らないことばかりだ。だからランク差は気にしないでくれ」
「あら、謙虚なのね。それじゃあお言葉に甘えて、気軽に接させてもらうわ」
「ああ、それで構わない」
情報収集をするには、それなりに友好的な方がいい。
それに、冒険者の知識が無いのは本当だ。
俺のランクが高いのは、グレートキャタピラーなどの強敵を倒したのと、二重取りのおかげである。
ここでランクが高いからといって、指揮をするように言われたら困るというのもあった。
「私はルビス・ブルカ。Eランクパーティ、荒野の闇のリーダーよ」
「僕は姉さんの双子の弟、ギルス・ブルカ」
「そして俺は、ダンリ・ブルカだ。一応二人の幼馴染で、ルビスの恋人だ」
すると三人は、簡単な自己紹介を始めた。
なるほど。三人はブルカ村の出身という訳か。
それと二人は双子らしいが、雰囲気が全く違う。
姉のルビスは活発な雰囲気だが、弟のギルスはおとなしい感じだ。
あとダンリは二人と幼馴染で、ルビスとは恋人らしい。
俺がルビスに変な感情を抱かないように、釘をさしたのだろうか。
まあ冒険者は男の方が多いし、最初に釘をさしておくのは重要だろう。
けれども俺はそういう感情は抱かないと思うので、釘をさしてもさされなくても関係ないが。
「俺はジン。Dランク冒険者だ。諸事情で村名は無い」
「そう……改めてよろしくね」
一瞬村名が無いことに驚いた表情をしていたが、特に何か言ってくることはなかった。
嘘を言ってバレた方が不味いので、少し怪しまれてもそういった方がいいだろう。
それとエルフの村では氏族名があるのかも訊かれたが、氏族名がある者は特別なのかもしれない。
エルフの受付嬢キィーリアも無かったし、目の前の三人も同様だ。
だとすれば、氏族名のあるエルフやダークエルフに会ったときは、注意した方がいいだろう。
そんなことを考えながら、俺はこの三人と依頼を共にすることになるのであった。
◆
挨拶も終えたので、集合場所である街の北側に集まる。
一時間後に出発との事だが、既に多くの冒険者たちが集まっていた。
その冒険者たちから、俺たちは少し距離をとる。
「ここら辺なら大丈夫よね。簡単にできることを話しておくわ。一応私は剣と水魔法が使えるの」
「僕は弓と火魔法。あ、下級だけど生活魔法も使えるよ」
「俺は盾と槍だ。二人と違って魔法は使えない」
すると三人は、それぞれできることを教えてくれた。
なので俺も、簡単にできることを話しておく。
まあ当然、偽装したステータスを元にしてだが。
「俺は剣と召喚、それと中級生活魔法が使える」
「召喚?」
「ああ、こんな感じだ」
そう言って俺は、フォレストバードを召喚する。
「えっ!? 鳥? その鳥を召喚したの?」
「ね、姉さん、あれはフォレストバードっていうモンスターだよ」
「これは驚いた。だが、戦闘には向いているようには見えないな」
三人の驚きからして、前の大陸と違いこの国でサモナーは珍しいようだ。
「もちろん召喚できるのはコイツだけじゃない。戦闘用のモンスターもいる。まあそれについては、後々見せることになるだろう」
そう言って俺は、召喚したフォレストバードを送還したように見せかけて消す。
今後何があるか分からないし、召喚できることは話しておいて問題はないだろう。
幸いオブール王国で、サモナーについてはかなりの知識を得ることができた。
この国でもサモナーやテイマーはいるだろうし、召喚しても大丈夫だと思われる。
「なるほど。その年でDランクなのも、納得ね」
「うん。そんな凄いスキルを持っているなんて、羨ましいな。テイマーはよく見るけど、召喚する人は初めて見たよ」
「戦闘用もいるのか。フォレストバードも偵察に使えそうだし、ソロでも大丈夫という訳か」
三人は感心したように、そう口にした。
またどうやらテイマーについては、そこそこいるみたいだ。
であるならば、モンスターを連れていても騒がれることは少ないだろう。
それと最初の掴みは、良い感じだな。
第一印象は重要だし、少しくらい期待してもらった方がいい気がする。
それから四人でどのように戦うかだが、話し合った結果、俺は遊撃ということになった。
元々ルビスとダンリが前衛、ギルスが後衛らしい。
なので剣を使う俺が前衛に加わるよりも、ここは遊撃に回る方がいいだろう。
それに状況に応じてモンスターを召喚できる俺は、連携するよりも自由に動いた方がいい。
三人も、その理由に同意してくれた。
そうして時間が過ぎ、北の渓谷に向かう時がやってくる。
「皆さんお揃いですね。私はギルド職員のランツ・フィフニと申します。皆さんにはこれより、北の渓谷に向って頂きます。つきましては、最もランクが高く信用度の高い、破壊の拳に率いて頂きます」
すると現れたギルド職員の男がそう言うと、一人の男が前に出てきた。
「Cランクパーティ、破壊の拳のリーダーをしているボーボス・ノキンだ。これから依頼を仕切らせてもらう。文句がある者は、前に出てきてくれ」
ボーボスと名乗る男は、筋骨隆々で巨漢の男だ。
迫力があり、見た目はとても強そうである。
ボーボスが仕切ることに、文句を言うものはいなかった。
まあ冒険者ギルド側が決めた事なので、俺も文句はない。
それにこの人数が好き勝手に動くと面倒なので、誰かが仕切った方がいいと思われる。
「誰も文句は無いようだな。それじゃあ、この依頼は破壊の拳が仕切らせてもらう。お前ら、コボルトどもを殲滅しに行くぞ!」
「「「おおぉー!!」」」
ボーボスの鼓舞に呼応して、周囲の冒険者たちが雄たけびを上げた。
どうやら威圧感だけではなく、それなりに人望もあるようだ。
「ボーボスさんの破壊の拳はもうすぐBランクに上がるって噂だし、リーダーとして十分ね」
「そうだね。少し不安だったけど、ボーボスさんがいるなら大丈夫そうだ」
「俺もボーボスさんみたいに、強くなりたいぜ」
三人もボーボスには、憧れのようなものを抱いているらしい。
見た目は粗暴に見えるが、ここいらでは有名な冒険者のようだ。
俺はあまり目立つことが出来ないので、力を抑える必要がある。
故に、ボーボスのような強い者がいるのは歓迎だ。
コボルトの上位種がいても、どうにかなるだろう。
「それでは冒険者の皆さん、よろしくお願いしますね」
「おう、任せておけ! お前ら準備は出来ているな! 行くぞ!」
「「「おお!!」」」
そして夕陽が輝く時間帯の中で、依頼場所である北の渓谷に向かうことになるのであった。
本当に、この時間帯から向かうのか。もうすぐ日が暮れるぞ。
しかし周囲を見ても、驚く者はいない。
早朝に出た方が良いと思うのだが、俺の方がおかしいのだろうか?
などと考えていると、それが現れる。
「ギュォォォ」
なんだ、あれは?
現れたのは、馬車を引く巨大なトカゲだ。
それが、複数現れた。
尻尾は馬車を引くのに邪魔なのか、既に無く特殊な器具で覆われている。
「ジン君、早く行くわよ! でないと、出入り口付近が取られちゃう!」
「ん、ああ」
ボケっとしていると、ルビスにそう言われて俺も駆けだす。
だが既に出遅れたのか、座席は真ん中あたりになってしまう。
「ナイトゲッコーに乗るのなんて、久しぶりだなー」
するとルビスの双子の弟、ギルスがそう口にした。
「ナイトゲッコー?」
「ああ、この大きなヤモリは、ナイトゲッコーというDランクのモンスターなんだ」
思わず訊き返すと、この大きなモンスターについて教えてくれる。
どうやらトカゲではなく、ヤモリだったようだ。
まあ、どちらでもいいが。
「それでナイトゲッコーは、おとなしくて使役しやすいんだ。戦闘こそ不得意だけど、緊急時には馬車ごと隠す事もできる優秀なモンスターなんだよ」
なるほど。ナイトゲッコーは、特殊な種族特性を持っているようだ。
「けど唯一欠点があって、それは夜行性という事なんだよね。昼間はほとんど、動かないんだよ。だから長距離移動するときは、今回みたいに夕方以降になるんだよね」
そうか。だからこの時間帯に移動し始めたのか。
気になっていた事が、これで解消されたな。
けど受付では、このことを説明されなかったのだが……当たり前すぎて、説明されなかったのか?
いや、普通に受付の職員が不真面目か抜けていて、説明しなかっただけかもしれない。
討伐数を計測する魔道具についても、俺が訊かなければおそらく教えてくれなかった。
だがそもそも前提として、知らないことを当たり前のように教えてもらえると考える方が、異世界ではおかしいのかもしれない。
サービスの質が高いことを無意識に当たり前に思っていると、いずれ痛い目に合いそうだな。
けれども予想が困難な内容を事前に訊くことは難しいし、知識ゼロなら質問する選択すら浮かび上がらない。
だからこそ、力を蓄えることや情報収集が重要になってくる。
しかしまあ、それも順調に行くとは限らないから、大変なんだがな。
俺はふと、そんなことを思った。
「ギルス。なに当たり前のことを自信満々に説明しているのよ」
「あっ……そうだよね。当たり前の事だよね」
「いや、面白い話を聞かせてもらった。使役しやすいなら、俺も狙ってみてもいいかもしれない」
今後の情報収集の意味も込めて、俺はギルスをそうフォローしておく。
「そ、それなら良かったよ」
「ああ、だから何かあったら、気にせず教えてくれ」
「う、うん! 分かったよ!」
俺がギルスとそんなやり取りをしていると、馬車が動き出す。
さて、この依頼を終えるまでに、できるだけ情報収集をしてみよう。
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