125 Eランクパーティ【荒野の闇】

「俺が、Dランクのジンだ」

 そう言って、俺は女性冒険者へと近づく。

「貴方がDランクのジンさん、君ね」

 女性冒険者は俺を見ると、人称をさんから君に変えた。

 まあ、それについてはどうでもいい。

 女性冒険者は十代後半に見えるが、実年齢は不明だ。

 ダークエルフもエルフ同様、寿命が長い。

「パーティメンバーが外で待っているから、まずは移動してもいいかしら?」
「ああ、構わない」

 そう言われて、俺は女性冒険者の後に続いた。

 外に出て少し歩くと、そこには年の近そうな男性が二人いる。

 女性冒険者は二人に簡単な説明をして、俺と引き合わせた。

「君十五歳くらいだよね? その年でDランクなんて凄いなぁ」
「そうだな。俺たちも十七だが、やっとEランクになったばかりだからな」

 二人の男性、青年たちは見た目通りの年齢らしい。

 おそらく、女性も同年代な気がする。

「その通りね。この辺りじゃ期待の新人扱いだったけど、上には上がいるわね」

 どうやらこの年でDランクは、凄いらしい。

 確かに人族でも、十五でDランクはほとんどいなかった。

 しかし、いないわけではない。

 優れたスキルを十歳の時に授けられていれば、案外Dランクは目指せる。

 なので別に、おかしくはない。

「色々運がよかったんだ。ランクは上でも、知らないことばかりだ。だからランク差は気にしないでくれ」
「あら、謙虚けんきょなのね。それじゃあお言葉に甘えて、気軽に接させてもらうわ」
「ああ、それで構わない」

 情報収集をするには、それなりに友好的な方がいい。

 それに、冒険者の知識が無いのは本当だ。

 俺のランクが高いのは、グレートキャタピラーなどの強敵を倒したのと、二重取りのおかげである。

 ここでランクが高いからといって、指揮をするように言われたら困るというのもあった。

「私はルビス・ブルカ。Eランクパーティ、荒野の闇のリーダーよ」
「僕は姉さんの双子の弟、ギルス・ブルカ」
「そして俺は、ダンリ・ブルカだ。一応二人の幼馴染で、ルビスの恋人だ」

 すると三人は、簡単な自己紹介を始めた。

 なるほど。三人はブルカ村の出身という訳か。

 それと二人は双子らしいが、雰囲気が全く違う。

 姉のルビスは活発な雰囲気だが、弟のギルスはおとなしい感じだ。

 あとダンリは二人と幼馴染で、ルビスとは恋人らしい。

 俺がルビスに変な感情を抱かないように、釘をさしたのだろうか。

 まあ冒険者は男の方が多いし、最初に釘をさしておくのは重要だろう。

 けれども俺はそういう感情は抱かないと思うので、釘をさしてもさされなくても関係ないが。

「俺はジン。Dランク冒険者だ。諸事情で村名は無い」
「そう……改めてよろしくね」

 一瞬村名が無いことに驚いた表情をしていたが、特に何か言ってくることはなかった。

 嘘を言ってバレた方が不味いので、少し怪しまれてもそういった方がいいだろう。

 それとエルフの村では氏族名があるのかも訊かれたが、氏族名がある者は特別なのかもしれない。

 エルフの受付嬢キィーリアも無かったし、目の前の三人も同様だ。

 だとすれば、氏族名のあるエルフやダークエルフに会ったときは、注意した方がいいだろう。

 そんなことを考えながら、俺はこの三人と依頼を共にすることになるのであった。

 ◆

 挨拶も終えたので、集合場所である街の北側に集まる。

 一時間後に出発との事だが、既に多くの冒険者たちが集まっていた。

 その冒険者たちから、俺たちは少し距離をとる。

「ここら辺なら大丈夫よね。簡単にできることを話しておくわ。一応私は剣と水魔法が使えるの」
「僕は弓と火魔法。あ、下級だけど生活魔法も使えるよ」
「俺は盾と槍だ。二人と違って魔法は使えない」

 すると三人は、それぞれできることを教えてくれた。

 なので俺も、簡単にできることを話しておく。

 まあ当然、偽装したステータスを元にしてだが。

「俺は剣と召喚、それと中級生活魔法が使える」
「召喚?」
「ああ、こんな感じだ」

 そう言って俺は、フォレストバードを召喚する。

「えっ!? 鳥? その鳥を召喚したの?」
「ね、姉さん、あれはフォレストバードっていうモンスターだよ」
「これは驚いた。だが、戦闘には向いているようには見えないな」

 三人の驚きからして、前の大陸と違いこの国でサモナーは珍しいようだ。

「もちろん召喚できるのはコイツだけじゃない。戦闘用のモンスターもいる。まあそれについては、後々見せることになるだろう」

 そう言って俺は、召喚したフォレストバードを送還したように見せかけて消す。

 今後何があるか分からないし、召喚できることは話しておいて問題はないだろう。

 幸いオブール王国で、サモナーについてはかなりの知識を得ることができた。

 この国でもサモナーやテイマーはいるだろうし、召喚しても大丈夫だと思われる。

「なるほど。その年でDランクなのも、納得ね」
「うん。そんな凄いスキルを持っているなんて、羨ましいな。テイマーはよく見るけど、召喚する人は初めて見たよ」
「戦闘用もいるのか。フォレストバードも偵察に使えそうだし、ソロでも大丈夫という訳か」

 三人は感心したように、そう口にした。

 またどうやらテイマーについては、そこそこいるみたいだ。

 であるならば、モンスターを連れていても騒がれることは少ないだろう。

 それと最初の掴みは、良い感じだな。

 第一印象は重要だし、少しくらい期待してもらった方がいい気がする。

 それから四人でどのように戦うかだが、話し合った結果、俺は遊撃ということになった。

 元々ルビスとダンリが前衛、ギルスが後衛らしい。

 なので剣を使う俺が前衛に加わるよりも、ここは遊撃に回る方がいいだろう。

 それに状況に応じてモンスターを召喚できる俺は、連携するよりも自由に動いた方がいい。

 三人も、その理由に同意してくれた。

 そうして時間が過ぎ、北の渓谷に向かう時がやってくる。

「皆さんお揃いですね。私はギルド職員のランツ・フィフニと申します。皆さんにはこれより、北の渓谷に向って頂きます。つきましては、最もランクが高く信用度の高い、破壊の拳に率いて頂きます」

 すると現れたギルド職員の男がそう言うと、一人の男が前に出てきた。

「Cランクパーティ、破壊の拳のリーダーをしているボーボス・ノキンだ。これから依頼を仕切らせてもらう。文句がある者は、前に出てきてくれ」

 ボーボスと名乗る男は、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうで巨漢の男だ。

 迫力があり、見た目はとても強そうである。

 ボーボスが仕切ることに、文句を言うものはいなかった。

 まあ冒険者ギルド側が決めた事なので、俺も文句はない。

 それにこの人数が好き勝手に動くと面倒なので、誰かが仕切った方がいいと思われる。

「誰も文句は無いようだな。それじゃあ、この依頼は破壊の拳が仕切らせてもらう。お前ら、コボルトどもを殲滅しに行くぞ!」
「「「おおぉー!!」」」

 ボーボスの鼓舞こぶに呼応して、周囲の冒険者たちが雄たけびを上げた。

 どうやら威圧感だけではなく、それなりに人望もあるようだ。

「ボーボスさんの破壊の拳はもうすぐBランクに上がるって噂だし、リーダーとして十分ね」
「そうだね。少し不安だったけど、ボーボスさんがいるなら大丈夫そうだ」
「俺もボーボスさんみたいに、強くなりたいぜ」

 三人もボーボスには、憧れのようなものを抱いているらしい。

 見た目は粗暴に見えるが、ここいらでは有名な冒険者のようだ。
 
 俺はあまり目立つことが出来ないので、力を抑える必要がある。

 ゆえに、ボーボスのような強い者がいるのは歓迎だ。

 コボルトの上位種がいても、どうにかなるだろう。

「それでは冒険者の皆さん、よろしくお願いしますね」
「おう、任せておけ! お前ら準備は出来ているな! 行くぞ!」
「「「おお!!」」」

 そして夕陽が輝く時間帯の中で、依頼場所である北の渓谷に向かうことになるのであった。

 本当に、この時間帯から向かうのか。もうすぐ日が暮れるぞ。

 しかし周囲を見ても、驚く者はいない。

 早朝に出た方が良いと思うのだが、俺の方がおかしいのだろうか?

 などと考えていると、それが現れる。

「ギュォォォ」

 なんだ、あれは?

 現れたのは、馬車を引く巨大なトカゲだ。

 それが、複数現れた。

 尻尾は馬車を引くのに邪魔なのか、既に無く特殊な器具で覆われている。

「ジン君、早く行くわよ! でないと、出入り口付近が取られちゃう!」
「ん、ああ」

 ボケっとしていると、ルビスにそう言われて俺も駆けだす。

 だが既に出遅れたのか、座席は真ん中あたりになってしまう。

「ナイトゲッコーに乗るのなんて、久しぶりだなー」

 するとルビスの双子の弟、ギルスがそう口にした。

「ナイトゲッコー?」
「ああ、この大きなヤモリは、ナイトゲッコーというDランクのモンスターなんだ」

 思わず訊き返すと、この大きなモンスターについて教えてくれる。

 どうやらトカゲではなく、ヤモリだったようだ。
 
 まあ、どちらでもいいが。

「それでナイトゲッコーは、おとなしくて使役しやすいんだ。戦闘こそ不得意だけど、緊急時には馬車ごと隠す事もできる優秀なモンスターなんだよ」

 なるほど。ナイトゲッコーは、特殊な種族特性を持っているようだ。

「けど唯一欠点があって、それは夜行性という事なんだよね。昼間はほとんど、動かないんだよ。だから長距離移動するときは、今回みたいに夕方以降になるんだよね」

 そうか。だからこの時間帯に移動し始めたのか。

 気になっていた事が、これで解消されたな。

 けど受付では、このことを説明されなかったのだが……当たり前すぎて、説明されなかったのか?

 いや、普通に受付の職員が不真面目か抜けていて、説明しなかっただけかもしれない。

 討伐数を計測する魔道具についても、俺が訊かなければおそらく教えてくれなかった。

 だがそもそも前提として、知らないことを当たり前のように教えてもらえると考える方が、異世界ではおかしいのかもしれない。

 サービスの質が高いことを無意識に当たり前に思っていると、いずれ痛い目に合いそうだな。

 けれども予想が困難な内容を事前に訊くことは難しいし、知識ゼロなら質問する選択すら浮かび上がらない。

 だからこそ、力を蓄えることや情報収集が重要になってくる。

 しかしまあ、それも順調に行くとは限らないから、大変なんだがな。

 俺はふと、そんなことを思った。

「ギルス。なに当たり前のことを自信満々に説明しているのよ」
「あっ……そうだよね。当たり前の事だよね」
「いや、面白い話を聞かせてもらった。使役しやすいなら、俺も狙ってみてもいいかもしれない」

 今後の情報収集の意味も込めて、俺はギルスをそうフォローしておく。

「そ、それなら良かったよ」
「ああ、だから何かあったら、気にせず教えてくれ」
「う、うん! 分かったよ!」

 俺がギルスとそんなやり取りをしていると、馬車が動き出す。

 さて、この依頼を終えるまでに、できるだけ情報収集をしてみよう。

 

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