123 ダークエルフの村

 全感共有で視界を繋げてみると、そこには銀髪に赤い瞳をした褐色の人物がいた。

 耳も長く、手には武器を持っている。

 人数は四人であり、内三人が子供で一人が大人だ。

 どうやら、フライングモスボールを狩っているようである。

 たぶんあれが、ダークエルフなんだろう。

 それを確認すると全感共有を解き、俺は偽装を発動させる。

 次に生活魔法の氷塊で氷鏡を作り、容姿の確認を行う。

 氷鏡には耳が長く、銀髪と赤い瞳をした褐色姿の俺が映っている。

 続いて、ステータスの偽装も行った。

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 名称:ジン
 種族:ダークエルフ
 年齢:15
 性別:男
 種族特性
【剣適性】【スラッシュ】【闇属性適性】
【身体能力上昇(小)】【技量上昇(小)】

 スキル
【契約召喚】【アイテムポケット】
【鑑定】【中級生活魔法】【下級鑑定妨害】

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 よし、こんなところだろう。

 そうして問題なくダークエルフに偽装を果たした俺は、再びアサシンクロウの視界と繋ぐ。

 先ほどと同じように、ダークエルフたちはフライングモスボールを狩っている。

 保護者同伴とはいえ子供が狩りをしているということは、近くに村もありそうだ。

 そう思い近くにいる他のアサシンクロウに命じて、この周囲を探索させる。

 すると案の定、ダークエルフの村らしきものを発見した。

 エルフとは違い、土壁の平屋が無数にある感じだ。

 まあこの荒野には木が少ないので、土や石材を活用するのは当然か。

 それと規模は意外に大きく、先ほどいたエルフの村よりも広かった。

 これならよそ者の俺が紛れ込んでも、そこまで怪しまれないかもしれない。

 いや、油断は禁物だな。

 情報収集もしたいところだが、隠密があってもそこまで大々的に潜入するのは、アサシンクロウでは難しいだろう。

 またこの荒野に、フォレストバードがいるのは流石におかしい。

 これは自分の足で、情報収集した方がよさそうだ。

 スモールマウスが普通のネズミサイズなら偵察に適していたのだが、小型犬サイズだと逆に目立ちすぎる。

 なので一応軽くアサシンクロウに偵察をさせて、問題がないようであれば行くことを決めた。

 ◆

 それからしばらくして、俺は現在ダークエルフの村の中を歩いている。

 アサシンクロウの偵察で、問題がなさそうだと判断したからだ。

 加えてエルフの村同様に、壁や門は存在しない。

 ゆえに入ろうと思えば、簡単に入ることができた。

 またダークエルフは近接戦闘が得意だからか、周囲には武器や防具を装備した者が多い。

 その姿は冒険者にも見えることから、意外とダークエルフの冒険者数は多い可能性がある。

 これは一度冒険者ギルドに行ってみて、確かめてみた方がよさそうだ。

 なので俺は近くにいたダークエルフに声をかけて、冒険者ギルドの場所を訊く。

 するとよそ者でも普通に、冒険者ギルドの場所を教えてくれる。

 見たことのないよそ者だと、警戒される雰囲気は無かった。

 意外とこの村は、よそ者のダークエルフが結構来るのだろうか?

 そんなことを思いながら、俺は冒険者ギルドにやってくる。

 ダークエルフの村にある冒険者ギルドは、かなり大きい。

 人も多く、人族の冒険者ギルドとあまり大差はなかった。

 ふむ。これなら、よそ者の俺がいてもあまり問題はなさそうだ。

 それに掲示板もあるようだし、まずはそちらを確認してみよう。

 俺はギルド内を歩き、掲示板の前にやってくる。

 色々と依頼が豊富だな。

 主に荒野での依頼と、ダンジョンでも依頼が多い。

 どうやらこの村の近くには、ダンジョンがあるようだ。

 やはりダンジョンがある場所では、冒険者が増えるらしい。

 もしかしたらエルフの国も、ダンジョンがある場所では冒険者が多かったのだろうか。

 それと他には商人の護衛依頼があり、エルフの大村までの往復が多い。

 差別されているとはいえ、それは敵対するレベルではないようだ。

 いくつも似たような依頼があることから、頻繁に行き来しているのだろう。

 さて、一番気になるのはもちろんダンジョンだが、それは後回しだ。

 何よりもまずは、国境門があるかどうか調べなくてはいけない。

 国境門が開いていれば、そのまま別の国に渡るのもアリだろう。

 自称ハイエルフはダークエルフにも声をかけているみたいだし、遭遇する可能性はゼロではない。

 であるならば、あまり目立つことも避けた方がいいと思われる。

 ダンジョンに入ってしまえば、俺はそのまま踏破してしまうかもしれない。
 
 加えて中途半端に出入りするのを選択するくらいなら、入らない方を選ぶ。

 深層に入り浸るのも、目立つ可能性がある。

 浅層や中層程度では、満足できそうにない。

 こっそり踏破すれば問題ない気もするが、ここは慎重に行こう。

 それに国境門は巨大だし、遅くても数日以内にはアサシンクロウが見つける気がする。

 目印の設置完了と情報収集の結果、動いても問題なさそうなら、その時にダンジョンへ挑もう。

 ゆえに今は情報収集も兼ねて、他の冒険者と関わる依頼で良い気がした。

 なので俺は掲示板の中で目を付けた、とある依頼を受けるか検討を始める。

 その依頼内容は、次の通りだ。

 
 依頼名:コボルト集落の殲滅せんめつ
 ランク:E~C限定
 依頼者:冒険者ギルド
 報酬:ランクと討伐数に応じて変動。
 期限:集まり次第現場に向ってもらいます。
 詳細
 コボルトが北の渓谷けいこくに大量発生しており、集落を形成しているとの情報を得ました。
 また上位種がいる可能性が非常に高いため、早急に殲滅する必要があります。
 参加の意思のある方は、受付にお声がけください。
 また詳しい内容は受付にて説明いたします。
 コボルト一匹につき小銀貨一枚、上位種は一匹につき小金貨一枚。
 加えてランクに応じた固定報酬を支払います。
 Eランクは銀貨五枚、Dランクは小金貨一枚、Cランクは小金貨三枚。
 またFランク冒険者の参加は認められません。

 驚くほどに、報酬が良い。

 以前受けたEランクのソイルワームの巣穴は、調査と十匹討伐で銀貨三枚~だった。

 なのにこの依頼はEランクでも固定で銀貨五枚、+倒せば倒すだけ報酬が上がる。

 また現在俺はDランクなので、固定報酬は小金貨一枚だ。

 かなりの大盤振る舞いだが、それほどコボルトの集落とは危険なのだろうか?

 冒険者のランクを考えれば、そこまで強いモンスターとは思えない。

 けれども試しにアサシンクロウに北へと飛ばしてみると、その理由が分かった。

 しばらく飛ばしても、渓谷が現れないのだ。

 北の渓谷という名称からして、北にあるはずである。

 空いている椅子に座り、アサシンクロウの報告を待つ。

 しかし中々見えてこないので、荒野に来た時に放った中で一番北にいるアサシンクロウに意識を向ける。

 すると丁度この村の北方向付近にいたので、そこから北上させていく。

 もちろん探索中渓谷に大量のモンスターがいなかったか訊いたが、見ていないらしい。

 また先ほどのアサシンクロウも、空白地を埋めるため引き続き北上させる。

 これで二匹同時に感覚を繋げたわけだが、思った以上にしんどい。

 ある程度集中できる場所でなければ、発動は難しいだろう。

 そうして十数分後、一番北にいるアサシンクロウが目的の場所を見つける。

 おそらくだが、人の足で片道三日ほどの距離にその渓谷はあった。

 見れば二足歩行をした狼のようなモンスターが、大量にいる。

 おそらくあれが、コボルトなのだろう。

 なるほど。報酬が良いのは、往復で六日もかかるからか。

 それだと逆に、報酬が少なく感じる。

 いや、その分倒して稼げばいいということか。

 実際渓谷にいたコボルトは、目算だが普通に五百匹以上いた。

 実力があれば、かなり稼げるだろう。

 まあ誰がどれだけ倒したか判別する方法が気になるところだが、それは受けてみれば分かると思われる。

 ただネックなのは拘束時間が長いことだが、それについては特に問題ない。

 この依頼中、自称ハイエルフと遭遇する可能性は低い気がする。

 わざわざ自称ハイエルフも、コボルトの集落にはやってこないだろう。

 逆に村にいる方が、遭遇率が高い気がする。

 それと共にいる時間が長い方が、情報収集もしやすいだろう。

 正直モンスター軍団をぶつけて殲滅したいところだが、ここはぐっと我慢する。

 なのでさっそく俺は、依頼を受けるため受付へと向かう。

 そして問題なく依頼は受理され、少し待つように言われた。

 まだ依頼開始の人数が、少し足りないないみたいである。

 ちなみにだが、エルフの村のような事は起きていない。

 それが少し心配だったので、安心した。

 なお最低限の食料や雑貨は、ギルドから出るようだ。

 ゆえに一見準備時間が無いように見えるが、冒険者の基本装備があればすぐに出てもどうにかなる。

 また気になっていた個々人の倒したモンスターの判別だが、殲滅開始前に特殊な計測用魔道具が貸し出されるらしい。

 なので気にせず、どんどん狩っても良いようだ。

 依頼を受ける時受付で、そのような事を説明された。

 それと集まっても即座に出発はしないみたいなので、時間には少し余裕がある。

 なので俺はこの間に、村の店を見て回ることにした。

 ちなみに依頼に必要な物はストレージ内にある物で、十分にまかなえる。
 
 見て回るのは、単なる暇つぶしだ。

 自称ハイエルフへの警戒はしているが、行動を制限し過ぎるつもりはない。

 そうした部分は、柔軟じゅうなんに考えるつもりだ。

 0か100かだと、逆に何もできなくなる。

 そんなことを考えながら、俺は冒険者ギルドを出るのであった。

 

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