120 果ての境界と妙な気配

 あれから数日順調に狩りを進め、俺たちは現在南東へと進んでいる。

 すると出現するモンスターも、再びDランクだけになった。

 しかしそれ以上のモンスターが出ることがなく、少し拍子抜けだ。

 また進み続けたことで、驚くべき事に遭遇した。

 なんとこのエルフの国のある大陸で、行き止まり・・・・・に辿り着いてしまう。

 地面から薄く赤い光の壁が、上空へと伸びている。

「もしかしてこれが、果ての境界か?」

 俺は思わず、そう呟く。

 目の前の光景は、そうとしか思えなかった。

 確か以前幸運の蝶にいたころ、果ての境界についてゲゾルグたちに教えてもらった記憶がある。

 あの時は、海の先に果ての境界があると聞いていた。

 だが、この大陸では少し違うみたいである。

 薄く赤い壁の先には、変わらず森と空が続いていた。

 俺は試しにゴブリンを召喚すると、壁に触れさせてみる。

 しかし触れても、ゴブリンに変化は特にない。

 次に叩かせてみると、衝撃が吸収されているのか音も鳴らなかった。

 当然、その先に行くことはできない。

 おそらく、俺の全力でも破壊はできない気がする。

 どう考えても、神が用意したものだろう。

 果ての境界とは、よく言ったものだ。

 特に地面との接着部が強く光っており、まるで赤い線に見える。

 ここから先は行けないという、境界線を体現していた。

 下手に何かして罰則があると困るし、果ての境界の先に行くのは諦めよう。

 俺はそう判断すると、ゴブリンをカードに戻すのであった。

 ◆

 さて、狩りもある程度一段落付いたし、そろそろエルフの村に行っても良いかもしれない。

 欲しいモンスターのカードも揃ったし、十分だろう。

 ちなみに、ジョンとトーンはまだ進化条件を満たしてはいない。

 まあそう簡単に進化するものでもないので、こちらは気長にいくとする。

 それはそうと、初見のモンスターが実はもう一種類いた。

 
 種族:ソードディア
 種族特性
【剣適性】【スラッシュ】【連撃】
【技量上昇(小)】【集団行動】

 このモンスターの見た目は、角が剣のようになっている鹿しかである。

 群れで行動しており、遠くから見ている分にはおとなしい。

 だが近付くと、酷く威嚇いかくしてくる。

 それでも近づくと、集団で襲ってくるのだ。

 群れでの脅威度は、おそらくCランク相当だろう。

 流石にジョンとトーンでは荷が重すぎるので、俺とレフも参戦して狩りつくした。

 単体でもDランク上位くらい強く、それなりに使えそうなので二十枚ほどカード化している。

 またソードディアの肉は少し癖があるが、結構美味しかった。

 角も個体ごとに個性があるものの、生活魔法の製作で柄などつければ十分に使える。

 むしろ下手な鉄よりも、切れ味が良い。

 加えて毛皮も手に入るソードディアは、冒険者的にかなりおいしいモンスターだと言えるだろう。

 俺もカードとは別に、いくつかストレージに確保している。

 それとこの数日の間に一瞬だけ、妙な気配がしたときがあった。

 何とも言えない異様なものであり、エクストラの直感が絶対に探してはいけないと告げるほどのものである。

 もしかしたら、エルフの国の主的な強いモンスターかもしれない。

 ゲヘナデモクレスの件もあるし、俺を超える存在は無数にいるということだろう。

 殺意などは感じなかったこともあり、俺はこの直感を信じて気配を探ることは止めた。

 世の中には、知らない方が良いこともある。

 そんな訳でこの数日妙な気配はあったものの、狩りの成果は以上だ。

 なのであとはエルフの村に行くだけだが、一つ問題が発生する。

「ふに”ゃ”ぁ”あ”あ”!!」
「仕方がないだろ、おとなしく戻れ!」
「にゃぁああ!!」

 なんとレフがカードへと戻ることに対して、全力で抵抗したのだ。

 まさか、ここまで抵抗されるとは思ってもいなかった。

 いつの間にかレフは、カードに戻ること自体に抵抗する術を編み出したようである。

 俺がカードに戻そうとしても、レフが気合で抵抗してきた。

 しかし既に体の半分が光になり、カードになっている。

 その光景はまるで、封印されるあわれなモンスターに見えないこともない。

 ダークネスチェインで体と木々を結んで抵抗している姿が、それに拍車をかけていた。

 そこまでカードに戻るのが嫌なのか?

 だがエルフの村で猫は見なかったし、偽装するにしても少し変えたくらいじゃ怪しまれる。

 なのでカードに戻すのが、一番安全なのだ。

 あまりに違う生き物への偽装だと、それこそ見破られるかもしれない。

「今回は諦めろ」
「ふにゃぁああああ!?」

 そしてレフの抵抗もむなしく、カードへと戻っていった。

 カードからレフの悲痛な思いが伝わってくる気がしたので、俺は早々にカードを収納する。

 次は抵抗力が上がっているかもしれないし、たぶんカードに戻せなくなるかもしれないな……。

 何となく、そんな感じがした。

「まあ、それについてはその時に考えよう」

 俺は自分にそう言い聞かせると、エルフの村付近に待機させているフォレストバードを意識する。

 この数日で、エルフの村もいくつか見つけていた。

 その中で程よく広く、国境門から離れている場所を選んだ。

 ここであれば、紛れ込んでも怪しまれる可能性は低いだろう。

 既に村の偵察も終えているので、情報も十分だ。

 そういう訳で、俺は召喚転移を発動した。

 ◆

 よし、周囲には誰もいないようだな。

 俺はそれを確認すると、何食わぬ顔で村の中に入る。

 エルフの村は柵や門がないので、どこからでも入ることが可能だ。

 一応村の安全のために巡回しているエルフはいるみたいだが、警戒心は薄い。

 これまであまり、大きな事件などが起きていないからだろう。

 だがふとそこで、あることを思い出す。

 いや、そう言えば違ったな。

 現在エルフの歴史に残る大事件が、正に起きている真っ最中だったか。

 数日前に、その情報を知ったばかりだった。

 しかしそれについては、既に基本的にスルーすることを決めている。

 既に自分の中で解決していた事なので、一瞬記憶から抜けていた。

 まあ流石に今回の事は、俺の手には負えない。

 けれども何となく、巻き込まれる気がするんだよな。

 この国で旅をする以上、その事件とぶつかる可能性はあるだろう。

 なので場合によっては、ゲヘナデモクレスに助けを呼ぶかもしれない。

 だが召喚回数は三回なので、出来れば消費したくないところだ。

 いずれゲヘナデモクレスを倒すため呼び出すのに、一回分は残す必要がある。

 故に実質、二回しか使えないのだ。
 
 そんな訳でエルフ的には大事件だと思うのだが、どうやら普段と変わらない生活を送っているようだ。

 ある意味、のんきな種族である。
 
 そこそこ大きな村でも、その程度なのだろう。

 逆に大騒ぎしているのは、偉いエルフたちなのかもしれない。

 そんなことを思いつつ、俺はエルフの村の中心部へと足を踏み入れる。

 よし、問題なさそうだな。

 周囲のエルフは、俺を見ても何かしてくることはない。

 この村は規模がそこそこ大きく、エルフの行商人なども出入りしている。

 それに対して、エルフの冒険者の数は意外と少ない。

 これは基本冒険者に頼まなくても、自分らである程度の事ができるからだろう。

 また情報収集で知ったことなのだが、どうやらエルフの犯罪率は低いようだ。

 道中盗賊などは、めったに出ないのだろう。

 それにより、安全な道を通れば護衛が少なくてもどうにかなる。

 結果として、冒険者の仕事も減っている感じだ。

 ちなみに犯罪率が低いのは、エルフが食うに困っていないからだろう。

 理由はエルフの主食となる、あるモンスターが簡単に取れるからだ。

 村を歩いていても、見かける程である。

 また子供でも、簡単に捕まえる事ができるようだ。
 
 今もエルフの子供たちが、そのモンスターを捕まえている。

「そっちに行ったぞ!」
「捕まえろー!」
「やったぜ!」

 それを大人のエルフが、微笑ましく見守っている感じだ。

 なおそのモンスターだが、鑑定するとこのような結果が出てくる。

 種族:フライングモスボール
 種族特性
【浮遊】【分裂】【同種融合】

 見た目を簡単に説明すると、空飛ぶまりもだ。

 大きさは様々であり、大きいものだとサッカーボールくらいある。

 完全に無害であり、Fランクモンスターの中でも最弱だろう。
 
 なのでその弱さもあり、普通モンスターが発生しない村の中でも、自然発生するのだと思われる。

 それをエルフは主食として、食べているようだ。
 
 パンと他の食材を使った、モスサンドというのが家庭料理らしい。

 俺も後で食べてみよう。

 通貨は創造神が統一しているので、エルフの国でも使える。

 これについては、とても助かった。

 でなければ冒険者としての仕事も少なそうだし、金を稼ぐのは大変だったと思われる。

 そういう訳で村にも入れたし、まずは宿屋から探すことにしよう。

 俺はそんな事を考えながら、エルフの村を歩くのだった。

 

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