119 エルフの森で狩り

 姿をエルフに偽装した俺は、森の中を歩く。

 この周辺に現れるモンスターは、どうやらDランクが多いようだ。

 お馴染みのオークやトレントはもちろんのこと、まだ手に入れていないモンスターも現れる。

 種族:ウィップバルブ
 種族特性
【身体操作上昇(小)】【鞭適性】
【ウィップ】【ドレイン】

 見た目は一メートルほどの茶色い球根であり、左右に鋭いつるが生えていた。

 また細い根がいくつもあり、それで移動も可能なようだ。

 本来は巧みに蔓を操り、対象を捕まえて栄養を吸い取るのだろう。
 
 だが逆にレフのダークネスチェインに捕らわれると、そのまま引きちぎられてしまった。

 おそらく、Dランクの下位ほどの強さだと思われる。

 もちろん、カード化しておいた。

 相手を束縛するのに向いているので、二十枚くらい集めておきたいところだ。

 レフがダークネスチェインを使えない時が、今後あるかもしれない。

 あとは以前大会襲撃者の一人が従えていた、ブラウングリズリーも現れた。

 種族:ブラウングリズリー
 種族特性
【威圧】【激怒】【食い溜め】
【腕力上昇(中)】【物理耐性(小)】

 見た感じ、ロックベアーの下位互換だ。

 こいつもDランクほどなので、同じくDランクのジョンを繰り出してみる。

 ついでに、ユニーク個体のトレントも出す。

 種族:キャタピラーモンキー
 種族特性
【糸吐き】【毒爪】
【自然治癒力上昇(小)】
【身体能力上昇(小)】

 エクストラ
【フュージョンモンスター】

「うきっ!」

 種族:トレント
 種族特性
【自然治癒力上昇(中)】【硬化】
【エナジードレイン】【身体操作上昇(小)】

 スキル
【樹液生成】【再生】

「――!!」

 ジョンだけでは少し厳しいが、トレントもいれば大丈夫だろう。

 実際ジョンの吐いた糸を、ブラウングリズリーは簡単に引きちぎる。

 トレントが自身の根でブラウングリズリーの足を束縛しても、それは同様だ。

 しかし両方喰らえば、流石に抜け出すのが難しくなるようである。

 その隙にジョンが毒爪で毒を与え、トレントがエナジードレインで体力を吸い取っていく。

 体力の多いブラウングリズリーは、それでも中々倒れない。

 むしろ激怒を発動させて、束縛から強引に抜け出す始末だ。

 うーむ。これはあまり、相性の良い相手では無い感じだな。

 いや、ブラウングリズリー側も攻めあぐねているし、良くも悪くもない感じか。

 どちらかと言えば、こちらに決定打が無いだけだろう。
 
 それから戦いはしばらく続いたが、結果的にジョンとトレントが勝利した。

 ブラウングリズリーの攻撃はジョンにはほとんど当たらず、トレントは喰らっても耐久力と回復力で乗り切った感じである。

 また戦闘中何匹かオークが現れたが、そちらは即座に倒してストレージに収納した。

 加えてブラウングリズリーも、カード化している。

 こいつはロックベアーの下位互換だし、そこまで数はいらないか。

 それでも最低限、十枚は集めることを決める。

 あとはこの戦闘から、俺はあることに気が付く。

 それはトレントがタンクとして、意外と優秀だということだ。

 ダメージは硬化で減少できるし、自然治癒力上昇(中)・エナジードレイン・再生で回復もできる。

 特にこの三つの回復方法が強力で、ブラウングリズリーからのダメージも瞬く間に回復してしまった。

 ただあまり動けないのと、攻撃範囲が限られていることがネックである。

 進化先もフュージョンではなくランクアップを選ぶ予定なので、それは今後も変わらないだろう。

 しかし進化させていけば、優秀なタンクになる気がする。

 樹液生成の役割が主だったが、コイツも育てていくことを決めた。

 であれば、今の内に名前をつけよう。

 トレント……トレト、レト? うーん。レフと名前が似すぎているし、これは没だな。

 トレント、トン、トーン。よし、こいつはトーンにしよう。

「お前の名前は、今日からトーンだ」
「――!!」

 トレント、トーンには顔はあるものの、声を出すことはできない。

 なので身体を揺らし、喜びを表現していた。

「ウキッ!」
「にゃ~ん!」

 ジョンとレフも、仲間の名付けを喜んでいる。

 とりあえず名付けも済んだし、当分の間はジョンとトーンを育てることにしよう。

 あとはそろそろ、進化条件を既に満たしているサンについても、どうにかする必要があるな。

 ヴァンパイアを目指すつもりだが、それに固執しすぎて進化させないまま放置するのもかわいそうな気がしてきた。

 サンについては、おちつける場所に辿り着いてから考えよう。
 
 そうして再び移動を開始するために、トーンを一旦カードに戻す。

 流石にトーンの移動速度に合わせていたら、日が暮れてしまう。

 ちなみに今回、ホブンはお休みだ。

 これは直感なのだが、格下を倒してもそこまで良い経験にはならない気がする。

 同格や格上を倒すことで、進化に近付く気がした。

 なのでDランクが現れるここでは、ジョンやトーンの方が向いている。

 何かあったときの補助役としてレフもいるし、問題ないだろう。
 
 そんなことを考えながら、俺たちは先へと進んでいくのだった。

 ◆

「ウキャッ!」
「――ッ!」

 順調に森を進みながら、ジョンとトーンで敵を倒していく。

 この森は比較的、しぶとい敵が多い気がする。

 けれどもジョンとトーンは、時間をかけながらも勝利を収めた。

 敵の攻撃パターンも覚えてきたので、後半は結構余裕だった気がする。

 あとは歩き続けているうちに、Eランクモンスターも出てくるようになった。

 ゴブリンは当然として、グレイウルフもいるようである。

 グレイウルフはレフの進化前の種族であり、譲渡した関係で枚数が二十六枚だった。

 なのでこの機会に、三十枚に揃えておく。

 それと初見のモンスターも現れたのだが、これがやっかいな敵だった。

 種族:スティンクバグ
 種族特性
【激臭生成】【激臭弾】

 見た目は三十センチほどのカメムシであり、激臭の液体を飛ばしてくる。

 ジョンは運悪くこれに当たってしまい、大変なことになった。

 嗅覚が効かなくなり、目が開けられないほどの激痛に襲われたらしい。

 これがもし目に直接当たっていれば、失明していただろう。

 顔にかかった液体を腕でぬぐった時に、まぶたの上に付いただけでこれである。

 ちなみに、トーンにはあまり効いていなかった。

 顔はついているが、普通の生き物とはやはり違うらしい。

 そんな訳でスティンクバグには、ある意味苦戦した。

 生活魔法の清潔をこれほどありがたく思ったことは、なかったかもしれない。

 なおスティンクバグ自体はとても弱く、簡単に倒せた。

 敵を殺さずに無力化するときに使えそうなので、一応集めることにする。

 そうして狩りを続けていると、偵察に出していたフォレストバードから、連絡の思念が届く。

 どうやら、村を発見したようだ。

 早速感覚を共有して、俺も様子を確認することにした。

 そしてエルフの村を見てみれば、別に木の上に家がある訳ではないようだ。

 普通に木造の住宅が並んでいる。

 だが人族の村とは違い、周囲に木の壁や柵などは無かった。

 外敵への備えは、特に問題ないということだろうか?

 するとそれを裏付ける理由の一つを、偶然にも見つけた。

 村にいるエルフの一人が、何やら餌をやっている。

 その餌をやっている生き物が、なんとフォレストバードだった。

 これはモンスターと、共存しているということだろうか?

 とりあえず、俺のフォレストバードもその場に向かわせる。

「お前ら餌だぞー。食え食え」
「ピピィ!」
「ピュイピュイ」
「ピー」

 見た感じ雰囲気から、頻繁に餌をやっている印象を受けた。

 フォレストバードも、警戒心が一切ない。

 これがもしテイムされていないのだとしたら、純粋に懐いているのだろう。

 エルフは長生きだし、数十年規模で餌をやっていれば、警戒心が無くなるのも当然かもしれない。

「おっ、君は見たことない子だな。ほら、怖くないぞ。君も食え食え」

 すると俺のフォレストバードに気が付き、声をかけてくる。

 どうやら、フォレストバード一羽一羽の区別がついているらしい。

 怪しまれてもアレなので、俺はフォレストバードに餌を貰ったら機会を見て離れるように命じると、一旦全感共有を切った。

 見た感じ門も無いし、出入りが制限されていることもなかったな。

 それにフォレストバードが飛んでいても、特に怪しまれないようだ。

 こちらからすれば、かなり好都合である。

 エルフは排他的ではあるが、一度内側に入ってしまえば何とかなりそうだ。

 だからこそ、あのエルフ達は入国した俺を追いかけてきたのだろう。

 あまり他種族の侵入を考慮した作りには、なっていないのかもしれない。

 であるならば、今頃穴の先に消えたと思って、大騒ぎしている可能性がある。

 これは注意した方が良いな。

 それとあの村の発見については、実のところ二つ目である。

 国境門から西に進んだ先に、一つ目の村があった。

 しかし流石にここは危険と判断して、情報収集を見送ったのである。

 俺を見失ったエルフ達はまず、一番近い村に向かうだろう。

 なので先ほど見つけた村は、一つ目ではなく二つ目という訳だ。

 だが二つ目の村でも、少ししたら俺の情報が回ってくるかもしれない。

 偽装しているとはいえ、十分に警戒する必要がある。

 ゆえに俺は二つ目の村で情報収集をしつつ、他の村も探すことにした。

 四つ目くらいの村であれば、おそらく俺が行っても大丈夫だろう。

 もちろんその時も、十分に偵察をする予定である。

 そこまで急いでいる訳でもないし、慎重に行くことにしよう。

 加えて、もう少しここで狩りをしたい。

 場所が変われば、出現するモンスターも変わってしまう。

 俺はそう判断を下すと、再びジョンとトーンに狩りをさせるのであった。

 

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