093 ツクロダとの決戦 ②

「こいつはダンジョンにいたイレギュラーモンスターとかいう、Aランク超えだったやつだ。
 改造に失敗して自壊し始めたが、僕ちゃんの天才的な頭脳でそれも克服した! 強さだけならたぶん、Sランクはあるんじゃないかな?」

 ツクロダは自慢するかのように、上機嫌でそう言った。

 おそらく種族特性の吸収で、自壊して溶けた体を回収し、それで魔力などを回復しているのだろう。

 そして魔力回復力上昇で効果を上げ、超再生で肉体を取り戻していると思われる。

 だが自壊は止まっていないので、崩壊が続いている感じだろう。

 個を確立するイレギュラーモンスターと、個を失わせる人工モンスター。

 その矛盾の狭間で、このモンスターはどのような精神状態なのだろうか。

「ヴぉあぁあ!」

 まあ、まともなはずはないよな。

 息の根を止めるのが、救いになるだろう。

「行くよ」
「おう」

 そうして俺とブラッドは、目の前の元イレギュラーモンスター、失敗作EX1に立ち向かう。

 まずは緑斬リョクザンのウィンドソードを振るい、ウィンドカッターを飛ばす。

 だが当たる直前に、バリアのようなものが展開されて阻まれる。

「おらっ!」

 そこへ接近したブラッドの拳も合わさるが、びくともしない。

「ヴぁぁああ!!」
「ぐおっ!?」

 対して相手が咆哮を上げると周囲に電撃が走り、ブラッドの肌を焼く。

 バリアがやっかいだな。これはグレートキャタピラーの時と同様、魔力消費を目指すべきか?

 いや、魔力が足りなくなれば、ツクロダが補充する可能性が高い。

 今は高みの見物をしているが、不利になれば介入してくるだろう。

 であれば、あのバリアを打ち破る一撃を叩きこむのが良いかもしれない。

 それにおそらくあのバリアは、魔道具によるものだ。

 身体に埋め込まれている物を、種族特性の魔道具操作で操っているのだろう。

 ならその魔道具をどれか見極めて、一撃を叩きこむ事にする。

 そのためには、情報が必要だ。

 俺はそう考えて、まだ使っていなかったザコモンスターたちを召喚する。

「行け」

 召喚したザコモンスターたちは、俺の命に従って敵に向かっていく。

 しかしザコモンスターがそのまま突っ込めば、簡単にやられてしまうだろう。

 なので心の中で攻撃を最小限にして、敵の気を逸らすように命じる。

「そんなザコ召喚しても無駄無駄! もしかして猫耳ちゃん、モンスターのストックがない感じ? それとも、差が分からないおバカさんなのかなぁ?」

 するとそれを見たツクロダが挑発してくるが、俺は気にしない。

 どれだ? どれがバリアを発生させている?

 俺は意識を集中させて、失敗作EX1の身体に視線を向けた。

 失敗作EX1には杖や指輪、よく分からない機械部品のような物が多く見られる。

 ぱっと見では、どれがバリアを発生させているか判断がつかない。

 また身体が溶け続けているからか、埋め込まれた魔道具が見えづらかった。

 だがその中で、紫色の水晶が目に映る。

 あれは、どこかで見たことがあるような……そうか、ツクロダの背後にあるやつか。

 失敗作EX1の左後ろ脚付近に、紫色の水晶がある。

 それはツクロダの背後にある、柱の上に設置された水晶に酷似していた。

 ツクロダを守ったバリアと、こいつのバリアは似ているな。

 もしかしたらアレを破壊すれば、バリアが消えるかもしれない。

 俺はそう思い、まずは緑斬リョクザンのウィンドソードを収納する。

 続いて、両腕を獣に変えた。

 このメイド服はシャドーアーマーだ。であれば、シャドーネイルを生やせるはず。

 そう意識すれば獣の爪を強化するように、シャドーネイルが現れた。

 よし、思った通りだな。

 俺は続いて、魔力をシャドーネイルに込めていく。

 これなら、行ける。

 そして俺は、失敗作EX1に駆けた。

 相手も俺の動きに気が付き、背中の大砲から火の玉を連射してくる。

 俺はそれを回避しながら、肉薄した。

「喰らえ!」

 そして、シャドーネイルが繰り出される。

 当然バリアが発生して、俺の攻撃を阻もうとした。

 だが次第にきしむような音がバリアから鳴り始め、割れるのも時間の問題だった。

 しかしその時、急激にバリアの強度が増す。

 加えて周囲に電撃と衝撃波が走り、俺を吹き飛ばした。

「ぐぅ!?」

 流石に俺も攻撃を中断して、引き下がるしかない。

「あぶねぇ。僕ちゃんが魔力を送らなきゃ、ヤバかったっしょ。猫耳ちゃん、僕ちゃんの想像以上じゃん! こりゃ、ますます欲しくなった! 
 それにコイツだけじゃ、厳しいな。なら、増員するしかないじゃんね!」

 ツクロダがそう言うと、俺たちの周囲に新たな敵が現れる。

 それはまるで、失敗作EX1を小型化したようなモンスターだった。

 種族:劣化失敗作EX1
 種族特性
【再生】【吸収】【魔力回復力上(中)】
【魔道具操作】

 エクストラ
【人工モンスター】

 鑑定してみればやはりそのようで、失敗作EX1の劣化版のようである。

 それが、周囲に九体現れた。

「まじかよ……」

 ブラッドも思わず、冷や汗をかきながらそう口にする。

「うひゃひゃ! こいつらは劣化版だが、Bランク上位の強さはあるぜ! さあ、どうする? もっと足掻け! 僕ちゃんを楽しませろ!」

 勝ち誇ったように、ツクロダが笑う。

 これは、不味いな。

 バリアが壊れそうになれば、ツクロダが補強してくる。

 それにここにきて、モンスターの増加。

 ツクロダの魔力が切れることを期待して、攻撃を続けるべきか?

 いや、魔力を回復させる魔道具など、持っていないはずがない。

 持久戦になれば、こちらの方が不利になる。

 ブラッドも神授スキルでパワーアップしたようだが、あのバリアを打ち破るほどではないようだ。

 ここまで強化されたのは始めてというのは、何だったのだろうか?

 なので、ブラッドに期待しすぎるのはよそう。

 自分でどうにかする方法を、見つけなければいけない。

 そう思いながら、俺はダークネスチェインを叩きつけるように振るう。

 だが劣化版でも、そのバリアはあるようだ。

 加えてイレギュラーモンスターでないとしても、Bランク上位というのは強い。

 一体程度ならどうとでもなるが、九体は流石にきつかった。

 手持ちのモンスターを出しても、消耗するだけだろう。

 一応ホワイトキングダイルやホブンは残っているが、今は出すべきではない。

 せめてバリアをどうにかしなければ、召喚しても無駄に終わるだろう。

「鉄の拳! そして強撃だ! おらぁ!」
「ヴェエエ!」

 するとそんな時、なんと劣化版のバリアをブラッドが打ち破った。

「よっしゃ! 続けて行くぜ! 連撃だぁ!」
「ヴォゲゲッ!?」

 そしてそのままスキルを発動させて、劣化版を倒しきる。

 期待していないと思ったばかりだが、まさか倒すとは。

 劣化失敗作EX1のバリアは、どうやら少し弱いみたいだ。

 加えてブラッドの強化は、俺の想像よりも高いみたいである。

「はぁ!? 犬畜生の癖に生意気すぎるだろ!? ふざけるな! あーあ、僕ちゃん切れちまったよ。遊びはもうお終いだ!」

 だがそれが引き金になり、ツクロダが数十体のリビングアーマーを召喚した。

 その手には当然、銃が握られている。

「お前ら! その犬畜生を殺せ! 猫耳ちゃんは生け捕りにしろ!」

 ツクロダが右手を振るうと、モンスターたちが一斉に動き出した。

 この数は不味い。

 俺はその瞬間、ホブゴブリン・ミディアムマウス・アシッドスライムを全て召喚する。

「は? 猫耳ちゃん、どんだけ召喚できるんだよ!? 普通じゃないっしょ! だとすれば、やはり猫耳ちゃんの神授スキルは、召喚系か! 
 それって、僕ちゃんと相性バッチリじゃん! 後は、夜の相性を確かめるだけじゃんね! うひゃひゃ!」
 
 ツクロダに神授スキルを予想されてしまったが、仕方がない。

 今は、この状況を乗り切る必要がある。

 

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