「ははは! よくぞここまで来たな! ぼくちゃん感動したよ!」
ボスエリアに入って早々、そんな笑い声が聞こえてくる。
当然その人物は、ツクロダだ。
ボスエリアは広く、奥には階段がある。
そして階段の上で、ツクロダが玉座に座り見下ろしていた。
またその背後には二本の柱があり、上部には紫の水晶が乗っている。
他にもツクロダの頭上には、青色のキューブのような物が浮いていた。
しかしそれ以外、変わったところは見られない。
俺を転移させた時に魔力を相当消費したはずだが、そうした影響もなさそうだ。
加えて、敵のような存在もいなかった。
俺はその直後に鑑定を飛ばすが、それも見事に防がれてしまう。
無理をすれば通りそうだが、莫大な魔力を消費してしまう予感がした。
鑑定対策は、バッチリという訳だろう。
「おいおい猫耳ちゃん、そう急かすなって。口上を聞くのはマナーじゃん?」
鑑定されたのを感じ取ったのか、ツクロダはヤレヤレと言う雰囲気を見せる。
「うるせえ! お前は許されねえことをした! ここで決着をつけさせてもらうからな!!」
「あん? 犬畜生ごときに何ができるっていうんだ? 攻略を見ていたが、お前役立たずだったじゃん。ここまで連れて来るとか、猫耳ちゃん優しすぎっしょ」
するとツクロダがそう言った時だった。ブラッドが、神授スキルを発動させる。
「喰らえ! 強制決闘!」
その途端、辺りはまるでブラックライトに照らされたように、青暗くなった。
これが、強制決闘が発動した状態か。
俺の予想だとこれでツクロダは逃げられなくなったはずだが、果たしてどうだ?
「ざまあみやがれ! 決闘の賭けに俺は、お前の命を求める! これでお前の死は、確実だ!」
どうやら強制決闘の効果には、相手の賭けるものも強制できるようだ。
これはその賭けの範囲次第では、かなりチートになりそうな気がする。
しかしツクロダに命を賭けさせた訳だが、ブラッドは代わりに何を賭けたんだ?
俺がそう思った時だった。
「は、ははは! こいつマジで使いやがった! 僕ちゃんがお前の神授スキルを知らないわけがないだろ! お前この王都で何回使ったか思い出してみろ! そして賭けの対象を見て絶望するんだな!!」
ツクロダが額に手を当て、玉座のひざ掛けを叩きながら爆笑する。
「は? ……か、賭けの対象、俺の命とジフレちゃんの隷属化!? な、何でだ!? 賭けの対象は自動的に、同等なものになるはずじゃ!?」
ブラッドが、そんな驚きの声を上げた。
俺の隷属化? いったいどういうことだそれは!?
それを聞いて、俺も動揺を隠せない。
「お前、自分の神授スキルなのに、そんなことも知らなかったのか? 以前美少女を助けたことがあっただろ? それで、美少女の為にある男をその神授スキルで倒した。
その時男は、美少女が永遠に自分の物になることを望んだはずだ。つまり、そういうことってわけ」
どうやらブラッドは、神授スキルの効果を分析されたらしい。
「は? そいつは、自分の死よりもあの子の方が大事だったからだろ? だから、そうなったはずだ!」
ブラッドはそう言うが、仕込みだったことに気が付いていないようだった。
「お前、やっぱり犬畜生だな。男も美少女も、俺の手駒に決まっているだろ? ようするにお前の神授スキルの賭けの対象は、事前に願っていればそれが通るわけだ。
僕ちゃんの魔道具じゃ転移者をまだ洗脳できないから、助かったぜ。これで、猫耳ちゃんは僕ちゃんのものってわけだ!!」
これは、不味いかもしれない。
ツクロダの言葉は、勝つという前提で成り立っている。
つまりそれだけ自分の勝利を、やつは疑っていない。
だがここで、ブラッドが思いがけないことを言う。
「くっ、だが強化自体はされた。俺の強制決闘は、相手が強大であればあるほど、俺を強化する。お前は世界征服を企むマッドサイエンティストだ。その強大さは、嫌でも分かる。ここまで強化されたのは、初めてだぜ」
どうやらブラッドの神授スキルには、まだ隠された効果があったらしい。
「はぁ? そんなの聞いてないぞ!! ちゃんと調べてから報告しろって言ったのに、あいつらふざけるなよ!」
すると途端に、ツクロダが慌てだす。
どういうことだ? いや、状況から察するに、ブラッドの神授スキルを調べたのはツクロダの信者だったのだろう。
つまりツクロダは信者が調べたことを、あたかも自分が調べたかのように言っていたことになる。
今思い返せば、スラムの小屋にリビングアーマーを送り込んだり、指名手配したのもメイドたちだった。
それを考えると、他にもツクロダの腑に落ちなかった点が分かってくる。
ツクロダがこの国に来たのは、およそ一ヶ月という情報を得ていた。
だがそれにしては、ツクロダの手が広すぎる。
短い期間で、出来過ぎているのだ。
国の掌握や他国の侵略、テロ行為に加えて魔道具・モンスター・ダンジョンまで作っている。
それなのに貴族の少女たちを集めて、パーティをしていた。
なのでおそらくツクロダは、要望だけ出して信者にほとんどのことを任せていたのだろう。
言動と有能さの乖離は、ここなのかもしれない。
たぶん頑張ったのは最初だけで、今は好きな事だけをして暮らしていると思われる。
「ま、まあいい。どうせお前は僕ちゃんには勝てない。猫耳ちゃんだってそうだ。ここまで来るのに消耗しただろう?
それにお前たちの戦う様子は、既に観察済みだ。僕ちゃんが100%勝つに決まっているっしょ!」
俺はツクロダが何か言っているうちに、自動的に収納されていた緑斬のウィンドソードを取り出す。
そしてウィンドカッターを、ツクロダに飛ばした。
しかし透明な壁のようなものに防がれて、消えてしまう。
「無駄無駄! 僕ちゃんに攻撃が届くはずないじゃん! 猫耳ちゃん流石に話の途中でうざすぎ! 飽きたら改造して別の美少女にするからな! それに我慢できないなら、もう始めてやんよ!」
そう言って俺たちの目の間に、何かが召喚される。
「何だコイツ!」
「これは……」
「ヴヴぁあああ!!」
目の前に現れたのは、巨大な四足獣。だが、普通ではない。
全身が絶え間なく溶けており、床へとドロリとした液体が広がる。
しかし不思議なことに、一定の範囲以上には広がらない。
まるで、それが循環しているようにも見える。
その中で赤く光る目と、先の鋭い四本の尻尾が唯一元々の特徴だと思われた。
他には何かの魔道具のようなものが、体中に埋め込まれている。
一番目立つのは、背中にある巨大な大砲のような物だろう。
明らかに、ツクロダの手が入っている。
そう思いながら反射的に、俺は鑑定を行う。
するとこのモンスターに対しては、すんなりと鑑定が通った。
種族:失敗作EX1
種族特性
【超再生】【吸収】【魔力回復力上昇(大)】
【魔道具操作】
エクストラ
【イレギュラーモンスター】
【人工モンスター】
マジか……。
どうやら目の前のこれは、イレギュラーモンスターの成れの果てのようだった。
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