「何がどうなっているんだよ!!」
倒壊したボロ小屋の中から、ブラッドが姿を現す。
やはり無事だったようだ。
「どうやら、ツクロダがモンスターを送り込んできたみたいだね。完全に狙われているよ」
「な!? あいつ、そんなこともできたのか!?」
ブラッドもツクロダのことを知っているようだったが、ここまでデタラメだとは思ってもいなかったようである。
「おそらく私たちは、このままだと捕まるか殺されるね。最初に言っておくけど、私も転移者で、ツクロダと貴方もそうでしょ? 逃げても、きっと狙われ続けることになるよ」
「お、お前も転移者だったのか!?」
ここでカミングアウトしたのは、協力を得やすくするためだ。
また話をスムーズに行うのにも、役に立つ。
現状の窮地では、秘密にしていた方がデメリットが大きい。
「うん。それと私はオブール王国にいたんだけど、ツクロダの悪辣な侵略を終わらすために来たんだよね」
「それは、一体どういうことだ?」
そしてここで、二次予選での襲撃について教える。
如何にツクロダの思想が危ないのか、また今後何をするのかも伝えた。
もちろんこの情報は、襲撃犯を捕まえてどうにか情報を引き出したということにしておく。
流石に心を読めるとまでは、伝えなかった。
緊急時なので、細かい説明まではしない。
またブラッドの正義心を煽り、国全体への洗脳によって、テロの襲撃犯にしたてられている者、戦争に送られた者もいる事を教えた。
すると義賊をしているブラッドは、当然怒りを募らせる。
「くそっ、そりゃヤバいじゃねえか。それに許せねえ」
「うん。だから、貴方にも協力してほしい。ツクロダは想像以上にやっかい。でも転移者二人がかりなら、きっとどうにかなるはずだよ」
「ああ、当然協力しよう。ツクロダの野望を叶えさせる訳にはいかねえからな」
思った通り、ブラッドは協力を申し出てくれた。
よし、これで最低限の戦力は得られたな。
まだ強さは分からないが、あの爆発でもほとんどダメージを受けていないし、盾役や囮役はできるだろう。
「とりあえず、よろしく。私はジフレ」
そう言って、俺は頭に巻いていた白い布を取る。
すると、それを見たブラッドが固まった。
「……結婚してくれ!」
そして、いきなりとんでもないことを言ってくる。
「絶対無理」
「ぐはっ!?」
何が悲しくて、男と結婚などしなければいけないのか。
だが相手が好印象なら、ツクロダとの戦いでは役に立つだろう。
俺のこの姿はレフと融合したものだが、このまま黙っておくことにする。
むしろ知られたら、協力関係が崩れかねない。
「それで呼び方だけど、ブラッドとウルフマン、どちらで呼べばいい?」
「……この姿の時はウルフ、人の時はブラッドで頼む……」
「分かった。ウルフ、よろしくね」
「……かわいい。うぉっほん。ああ、よろしく頼むぜ」
俺が改めて名前で呼ぶと、ブラッドは何か呟いた後、キメ顔でそう言った。
ちなみに名前を使い分けるのは面倒なので、脳内ではブラッドで統一することにする。
そして再度白い布を頭に巻くと、俺たちは移動を開始した。
いつまた、モンスターを送り込んで来るか分からないからだ。
ただ連続で送ってこないことを考えると、頻繁には使えないのかもしれない。
それとも、これ以上リビングアーマーを送っても意味がなさそうだと判断したのだろうか。
とりあえずはそう考えて、移動を続けるしかない。
目的地は王城だ。
ツクロダは、王城に自室があるらしい。
特別な研究室も持っており、王国魔道具研究室局長という地位に就いているようだ。
なおこれはミシェルたちから情報収集をした際に、得たものである。
また相手も俺たちの行動を見過ごすはずがなく、さっそく手を打ってきた。
『王都民に通達いたします。現在王都内にて、ケモ仮面とその仲間の少女が爆破テロを行いました。危険ですので、速やかに自宅等に避難してください。また捕獲した者には懸賞金として、金貨百枚が送られます。力に自信がある者は、テロリストの捕獲にご協力をお願いいたします』
そんなアナウンスが響き渡り、上空には俺とブラッドの顔写真のようなものが現れている。
まじか、こんなことまで出来るのか。
「ファンタジー世界なのに、SF的な技術とか卑怯すぎるだろ!!」
「これは急がないと、敵がどんどん出て来るよ」
ブラッドが叫び、俺も冷や汗をかく。
これは、想像以上に不味い状況だ。
いつの間にか、スラムの一角を爆破したテロリストにされている。
リビングアーマーを倒したのは俺だが、爆発するようにしたのはツクロダだ。
洗脳と情報の流布能力が高いのは、正に最悪の組み合わせだろう。
そうしている間にもスラムを抜け、風俗街に出る。
王城は王都の中央付近にあり、現在は南西のスラム街から北上した場所だ。
「いたぞ! 捕まえろ!」
「金貨百枚は俺の物だ!」
「捕まえれば女を買い放題だぜ!」
すると早くも見つかり、男たちが襲い掛かってくる。
「邪魔だ! どきやがれ!」
だがブラッドが拳を振るい、瞬く間に倒してしまう。
どうやら、拳を使った体術が得意のようだ。
しかしザコをいくら倒したところで、自慢にはならない。
だから倒した後に、俺のことをチラチラ見るな。
その後も、襲ってくる者たちが次第に増えていく。
当初はこのように指名手配をされるとは思っていなかったため、移動を優先していたことが裏目に出ている。
指名手配前から、俺たちの姿は目撃されていた。
なので時間が経てば経つほど、襲撃してくる者が増える。
中にはそれなりに強い者もおり、何度か足止めを喰らってしまう。
そういう時はモンスターを召喚して、相手をさせることで回避した。
「ジフレちゃんはサモナーだったのか!?」
「そうだよ。だから無理に相手をせずに先を急ぐよ」
「承知した!」
召喚できることはなるべく隠し、ツクロダの不意を突くのに使う予定だった。
しかしこうも襲撃者が増えれば、使わざるを得ない。
そうして風俗街を抜け、商店街や鍛冶街、住宅街を抜けていく。
さて、ここから先は、おそらく富裕層が暮らすエリアだ。
当然、防衛力は高い。
ちなみに王城の正面には大通りがあるが、それ以外の周囲には貴族や豪商などが住んでいる。
また大通りには、当然多くの襲撃者が待ち受けているだろう。
だから通るとすれば、まだ富裕層のエリアの方が可能性がある。
それに、ここにはこのエリアを熟知した人物がいた。
「義賊の俺にとって、この場所は庭みたいなものだ。任せてくれ」
「うん。頼んだよ」
ブラッドは義賊として、日々富裕層のエリアを研究している。
なので、抜け道や逃走に使える場所を知っているようだ。
その道を進んで行くと、襲撃者との遭遇が一気に減った。
何よりもこのエリアの入り口では、他の襲撃者が門番に止められていることもでかい。
いくら俺たちがいるとしても、富裕層のエリアに関係のない人たちを入れる訳にはいかないようだ。
まあ富裕層の者たちが自分らの手柄にする為に、他の襲撃者たちをわざと通していないだけかもしれないが。
このエリアの目立つ通りでは、そうした富裕層たちの私兵が陣形を組んでいる。
ブラッドがいなければ、アレを相手にして時間をロスしていた可能性があっただろう。
なので案内という面では、ブラッドはかなり役に立っている。
そうして富裕層のエリアを突き進み、俺たちはようやく王城のすぐそばまで辿り着いた。
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