王城に近づけたまでは良かったが、ここからが問題だ。
まず王城は周囲を堀で囲まれており、その奥には城壁がある。
出入口は正面の一つであり、そこは当然守りを固められているだろう。
正面突破は、消耗が激しくなる。
であれば他の隠し通路から侵入できればいいのだが、ブラッドも流石に知らないらしい。
上手く情報収集ができていれば、そうした隠し通路から侵入することもあったのだろうか。
しかし知らないものは仕方がないので、別の方法を考えるしかない。
すぐに思いつくのは、やはり上空からの侵入である。
グリフォンに乗れば、それも可能だろう。
だがモンスターを使役する者が多いこの大陸で、その対策をしていないのは考えづらい。
見れば城壁の上には、バリスタと呼ばれる巨大な弩が設置されている。
他にも、ツクロダが何か対策をしている可能性があった。
けれども現状、他に方法は思いつかない。
何となく中世の城は、城壁にあるトイレの排出口から侵入するイメージがある。
しかしここは異世界であり、トイレの技術力は高い。
そうした弱点は、なさそうだった。
なので結局のところ、危険だと分かっていても上空から行くしかない。
俺はそう思い、グリフォンを召喚した。
「なっ!? こりゃ、グリフォンか!?」
グリフォンを見て、ブラッドが驚愕する。
「うん、これに乗って侵入するよ。危ないけど、他に方法は無いからね」
そう言って俺は、グリフォンに跨る。
ちなみにスカートが長いと乗れないので、スリットを入れることでその問題を解決した。
なおメイド服の時も、同じようなことをしている。
だがメイド服の時は二―ハイソックスだったが、今は違う。
素足が大胆にも晒される。
「うひょぉ! ごほん。さて、俺も乗せてもらおうか」
ブラッドが、そんな気持ちの悪い声を上げた。
加えて、興奮しながら乗ろうとしてくる。
「いや、どう見ても二人は無理だよ。子供ならまだしも、普通の大人より大きなウェアウルフが乗れるわけないじゃん。ウルフはこの子の足に捕まってね」
「えッ……」
グリフォンは、人一人が乗るのが限界だ。
それなのに、なぜ二人乗りできると思ったのだろうか。
邪な気持ちが前に出て、おそらく気が付かなかったのかもしれない……。
そんな事を思いつつ、一度その場でグリフォンにホバリングをさせる。
「ぐぉ!? 風つよっ!?」
「時間が無いから、早く掴まって」
「わ、分かっている」
グリフォンの羽ばたきによって起きる強風に、ブラッドがモタモタしながらも、何とか掴まった。
そして準備が出来たので、グリフォンを城へと向けて飛ばす。
ちなみに最初からグリフォンに乗ればよかったと思うかもしれないが、先に見られてしまうと、城への侵入時により対策されると思ったから使用は控えた。
さて、それでも対策はされているみたいだな。
見れば城壁の上には、銃を持った兵士が何人もいた。
やはりリビングアーマーだけではなく、兵士にも持たせているらしい。
また少しでも被弾を避けるため、囮になる飛行可能なモンスターを召喚していく。
ジャイアントバット・ポイズンモス・フォレストバード・ドローンビートル。
ザコとはいえ約六十匹の数なので、多少は役に立つだろう。
なおサンについては、ここでは召喚していない。
名付けたモンスターは、何となく捨て駒として使う気にはなれなかった。
そうして城に近づくと、当然兵士たちが銃を撃ってくる。
グリフォンを上手く操作して避けつつ、反撃を行う。
敵兵士の真上に、逆さにしたソルトタートルを召喚する。
ソルトタートルは人が乗れるサイズなので、重量はかなりあった。
撃つのに夢中で気が付かなかった兵士は、ソルトタートルによって潰される。
加えてソルトタートルは背中の岩塩は砕けたものの、本体は無事だ。
何匹かはひっくり返って起き上がれなかったが、多くは残った岩塩の突起を活用して上手く起き上がる。
ソルトタートル自体はザコだが、いるだけで攻撃を分散できた。
ちなみに兵士は洗脳されているだけかもしれないが、躊躇なく倒していく。
例え洗脳されていようと、先にテロをしてきたのはこの国である。
それに向こうが殺す気なのに、敵を殺さずに無力化するほどの余裕はない。
「し、死ぬ。は、早く降ろしてくれ!!」
するとブラッドが情けなくそう叫ぶが、答えるのが面倒なので聞こえない振りをした。
けれども、降りる場所を考える必要があるのは確かだ。
しかし地上から攻めるのは、正直難しい。
今も少しずつだが、人が集まってきている。
それなら、どこかの窓から直接乗り込んだ方がよさそうだ。
確かツクロダが根城にしているのは、尖塔の一つだったはず。
複数あるが二番目に高いものだと、ミシェルから情報を得ている。
俺はそこを目指し、グリフォンを飛ばす。
またザコモンスターも追加で召喚していき、時間を稼ぐ。
よし、あの尖塔だな。窓もあるし、そこから侵入しよう。
「あそこから中に入るよ。たぶんツクロダの部屋だから、気をつけてね」
「へ? 急に何を……うぁああああ!?」
俺はグリフォンに勢いをつけさせると、ブラッドを尖塔の窓目掛けて飛ばした。
ブラッドはそれにより、窓を突き破って部屋へと侵入を果たす。
少し悪いことをした感じもするが、モタモタしている暇はない。
不味そうな罠もなさそうだし、俺も侵入しよう。
そして俺もグリフォンを窓に近づけると、尖塔の中へと入った。
すると、ブラッドが誰かと戦っている。
「ぐぉっ! 俺は女を殴れねえんだ! 止めろ!」
「侵入者め! ここはツクロダ様の寝室よ!」
「逃げるな!」
「こいつ、異常に頑丈よ!」
見れば卑猥なメイド服を着た美少女たちが、銃を撃っていた。
メイド服は超ミニスカートに加えて、上半身はほぼ水着と言っても過言ではない装いだ。
頭にはホワイトブリムをつけ、白いニーハイソックスを履いている。
そういう特殊な店のコスプレとしか、思えなかった。
あとこんな時に、何を言っているんだコイツは……。
俺はメイドの少女たちをダークネスチェインで縛り上げた後、ツクロダの居場所を訊く。
「ツクロダはどこ?」
「答える訳ないじゃない! 死んでも喋らないわ!!」
やはり狂信者状態だな。しかし、以心伝心+で心の声は筒抜けだ。
ツクロダはどうやら、現在貴族の女性たちと卑猥なパーティをしているようである。
しかしそれを聞いて、俺はおかしいと思った。
リビングアーマーを送り込んできたり、指名手配をしたのは何だったのかと。
なのでそのことをどうにか訊こうとしたのだが、内一人が途中ツクロダに連絡を取り始めた。
話を訊く前に装備類は鑑定して全て外していたのだが、どこかに隠していたらしい。
ちなみにこの少女たちの装備は、外しても爆発することは無いようだった。
『ツクロダ様、例の転移者の男とその仲間に侵入され、捕らえられてしまいました』
『はぁ!? 何やってんだよ! お前無能すぎるんですけど?』
『申し訳ございません……』
驚くことに、その内容が俺にまで聞こえてくる。
おそらく精神を繋げた念話だと思われるが、それが裏目に出ているのだろう。
それとこの男の声が、ツクロダだと思われる。
情報収集の意味も込めて、このまま会話させることにした。
もちろんその間も、俺は少女たちへの質問も続ける。
『じゃあ股でもなんでも開いて、男を油断させて毒とか自爆で仕留めろよ。僕ちゃんはその間に逃げるからさ』
『道具類は全て取り上げられてしまいました。残っているのは歯に偽装している念話石と、このメイド服しかございません』
『使えねぇ……飽きたのに置いてやってるのは、多少役に立つからだったにさぁ、もうお前、いらないよ?』
『も、申し訳ございません……』
話を盗み聞きしているのだが、何とも胸糞悪い会話だ。
この念話を可能にしている石を歯に偽装しているらしいが、この際どうでもいい。
それよりも、このままだとツクロダに逃げられてしまいそうだ。
おそらくツクロダ自体は、そこまで戦闘能力が高くないのかもしれない。
強ければ、嬉々としてやってきそうな気がする。
『あ、そういえば、もう一人いるんだっけ? そいつは確か女だったよな? どんな奴だ?』
ツクロダが少女にそんなことを訊いていたので、俺はこれだと思い行動に出た。
頭の白い布を、蒸れて暑いという理由で取る。
『黒髪に黄金の瞳をした、とても容姿の優れた猫の獣人です。美しいというよりは、愛らしい印象を受けます』
『ね、猫の獣人だと!? おまっ、それを先に言えよ!! 獣人はドラゴルーラとオブールに僅かにいるだけで、この国にはいないんだぞ! しかも美少女で猫の獣人とか、レア中のレアじゃないか!! 絶対欲しい! 僕ちゃんのコレクションに絶対加える!』
どうやら、俺の姿はツクロダの欲望を大いに刺激したらしい。
『ですが危険です。この少女は、多くのモンスターやグリフォンまで使役するサモナーです。加えて本人も強く、送り込んだリビングアーマーも倒されてしまいました』
『は? 逆に最高じゃん。僕ちゃんの戦力を全て出してでも、手に入れたくなった。それに大量のザコで、強力な一体を手に入れるのはゲームの基本でしょ』
なるほど。あのリビングアーマーを送り込んだのはツクロダではなく、この少女たちらしい。
何人かはサモナーのようだし、今召喚しないのは機会を伺っているのだろうか?
それと、指名手配もこの少女たちが行った可能性が高い。
ツクロダの配下のようだが、かなりの権限を与えられているようだ。
俺がそう思っていると、事態が動く。
『しかし他の転移者もいて、大変危険で……』
『うるさいなぁ。無能は黙っていろよ。お前、これが終わったら豚貴族のオヤジに貸し出すからな。もう飽きたしちょうどいいだろ。
それと国まで手に入れた僕ちゃんが負けるはずないじゃん。ケモ仮面だっけ? そいつの能力もだいたい分かっているし、100%勝てるっしょ。準備も済んだし、今から行くわ』
『そんな……』
ツクロダと会話していた少女は、絶望の表情を浮かべている。
同情はするが、何も言うことはない。
それにツクロダを倒せば、洗脳もどうにかなるだろう。
ならなかった場合は、その時に考えるしかない。
それよりも、ツクロダがもうすぐやって来る。
今の内に、戦いやすい服装に変えておこう。
俺はそう思い、町娘スタイルから戦闘用にチェンジする。
だがレフの強力な干渉により、服装が思わぬ形になってしまう。
「ジ、ジフレちゃん、そ、その恰好……た、たまらんっ!」
「へ? 嘘でしょ……」
なんと俺の服装は、目の前の少女たちと同じ卑猥なメイド服になっていた。
短いスカートに水着のような上半身、ニーハイソックスとホワイトブリム。
それに猫耳と尻尾があるものだから、余計に酷い。
加えてブラッドの視線に、俺は身の毛がよだつ。
初めて身の危険を感じた。
レフ、これはあんまりだ……。
“主、最高にかわぃい!!”
俺が心の中で文句を言っても、レフは興奮して聞いてくれない。
ツクロダが来る前に、せめて以前のメイド服に戻してくれ、頼む。
結果として思いが通じたのか、俺は最初に着ていたメイド服に姿を変える。
服装の選択権は俺よりもレフの方が強かったので、このまま変わらなければどうしようかと、本気で思ってしまった。
「もったいない……でもジフレちゃん、ナイス貧にゅ――ぐべらっ!?」
「それ以上言ったら、殴るよ?」
「も、もう殴ってるじゃないか……」
何だか分からないが、無性に腹が立った。
心の中でレフも、フシャーと声を上げている。
だがとりあえず、服装の準備は無事に整った。
あとは、ツクロダが来るのを待つだけである。
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