074 優勝メダルの授与

 二次予選を優勝した俺には、本戦出場用のメダルと賞金が授与される。

 渡すのは、もちろんハパンナ子爵だ。

 リードも同様に授与されるが、賞金は少ない。

 またこの賞金は、おそらく王都に行くまでの旅費という面もあるのだろう。

 そうして会場には俺やリード、ハパンナ子爵以外にも何人か人が集まっている。

 ハパンナ子爵の護衛だったり、他の有力者たちだ。

 加えて決勝トーナメントに出場した選手たちも、俺の後ろにいる。

 彼らも頑張ったので、最後に観客へ顔を見せるという理由もあるのだろう。

 よく見れば、戦うと思っていたアミーシャもいた。 

 あと他にいるのは、マイク型の魔道具を持つ進行係の人物くらいだろうか。

 そうして俺とリードは前に出て、メダルを受け取る。

 まずは、リードからだ。

「リード、準優勝おめでとう。王都の本戦でも、頑張ってきなさい」
「はい!」

 リードは強くそう答えて、ハパンナ子爵からメダルと賞金の入った袋を受け取った。

 さて、次は俺の番か。

 続いて俺も、リードと入れ替わるようにして前に出る。 

 メダルは大丈夫だと思うが、賞金には二重取りが発動する気がするな……。

 村での二次予選通過証には、二重取りは発動しなかった。

 おそらく増えても困るだけなので、マイナス要素には効果を発揮しないという部分を満たしていたのだろう。

 二重取りは、マイナス要素に対しては効果を発揮しないのである。

 そのマイナス要素というのは、たぶん俺の主観かもしれない。

 俺は一瞬そんなことを考えつつも、ハパンナ子爵からの言葉を待つ。

「ジン君、やはり君は素晴らしい。きっと本戦でも、優勝を狙えるだろう。吉報を期待しているよ」
「はい。ご期待に沿えるように、全力を尽くしてきます」

 そうして、俺がメダルと賞金を受け取ろうとしたその時だった。

 周囲に、大量の何かが召喚される。

「なっ!?」

 確認できたのは、紫色の鎧が銃のような物を持っている姿だった。
 
 俺は瞬間的に右手をリード、左手をハパンナ子爵に向け、全力の氷塊で包み込む。 
 
 だが自分まで守るには、一歩遅かった。

 無数の弾丸が、俺に迫る。

 速い!

 銃弾など、簡単に避けられると思っていた。

 だが引き伸ばされる時間の中で確認をすれば、弾丸は魔力か何かでできている。

 明らかに、普通の弾丸ではない。 

 加えて意識では把握できていても、体の回避が追いつかなかった。

 想像以上の速度で、魔力の弾丸が俺を撃ち抜いていく。

「ぐっ、くそ……」

 気が付けば俺は体から無数の血を流し、地に伏していた。

「あはははは! 所詮サモナーなんて、こんなものよ!」

 そんな高笑いが、俺の耳に届く。

 声の主は、アミーシャだった。

 加えて、周囲からも悲鳴が響き渡る。

 どうやら他の参加者たちも、撃たれたようだった。

 まずい、急所は外れたが、血が止まらない。

 再生で少しずつ治ってはいるが、一度にダメージを受けすぎた。

 完治するには、多少の時間がかかる。

「なにしているの! そんな氷早く砕きなさい!」

 だめだ。このままだと、リードとハパンナ子爵がやられる。

 そんなことは、絶対に許されない。

 これでは、ゲゾルグの時と同じではないか。

 同じことを繰り返す訳にはいかない。

 何としてでも、助けなければ。

 俺が強く、そう思った時だった。

“”レフも皆を助けたい! 主の為に戦いたい!”

 そんなレフの声が、どこからともなく聞こえてくる。

 ああ、助けよう。だから、力を貸してくれ。

 俺がレフにそう答えると、目の前にカードが現れる。

 それはもちろんレフのカードであり、強く光り輝く。

「いったいなに!?」

 当然光に気が付き、アミーシャが声を上げた。

 だがその時には、気が付けば俺は立っており、体には力がみなぎる。

「なっ!? あ、あなた、いったいどこから現れたの! 優勝者はどこ!!」

 何を言っているんだ?

 アミーシャの戸惑いの声に、俺は首をかしげる。

 だが、ハパンナ子爵を閉じ込めている氷塊に反射された姿を見て、理解した。

「嘘でしょ……」

 俺の声は、やけに高くなっている。

 だが、それもそのはずだ。

 氷に映っているのは、腰まで伸びる黒髪に、黄金の瞳。そして黒い猫耳と尻尾を生やした、美少女である。

 加えて何よりも、服装がおかしい。

「なんで、メイド服……?」

 そう、俺は今、ハパンナ子爵家に仕えているメイドと、同じ服を着ている。

 “主かわいい!”

 レフのそんな声が、どこからともなく聞こえたような気がした。

 これは、レフが原因か。

 幻影ではなく、まるで融合したような姿だ。

 耳と尻尾以外にも、両手足の肘と膝の先が、人型の獣のそれだった。

 相応に太く、黒い毛に覆われた手足の先には、鋭い爪が生えている。

 色々と言いたいことはあるが、まあ、今は見た目などはどうでもいい。

 力が溢れていることには、違いがなかった。

「答えなさい! あなたは誰なの!」

 すると、アミーシャが金切り声を上げながら、俺を睨む。

 俺が誰か、か。

 ジンとレフが融合した姿。差し詰め名付けるとすれば……。

「私の名前は、ジフレ」

 この姿だと、俺というよりも私と口に出した方が、合っている気がした。

 まあ、心の中では俺という人称を変えることはないだろうが。

「ジフレ? 聞いたことないわね。まあいいわ。それで、優勝者をどこにやったの?」
「さあね。何でそんなにこだわるのかな?」

 ん? 口調がおかしい。勝手に変換される……。

「貴方には関係ないわ。答えないのなら、痛い目に遭うわよ?」
「言う訳ないじゃん。それに、おばさんじゃ無理だよ」

 やはり、勝手に変わってしまうな。

 人称は私の方が合っていると一瞬思ったが、実は俺の思い違いだったようだ。

 違和感なく、人称や口調が勝手に変換されていただけなのだろう。

 もしかして、レフと融合したからか?

「お、おばっ!? ゆ、許さないわ。貴方たち、やっておしまいなさい!」

 すると、アミーシャが周囲にいる紫色の鎧に命令を下す。

 当然持っている銃、ライフルのような物を向ける。

 あれを一斉に撃たれると、不味いな。
 
「シャドーアーマー」

 なのでいつも通り、シャドーアーマーを発動しようとした。

 だが、様子がおかしい。

 何も変わらない。

 いや、既に発動していたのか。

 この着ているメイド服が、そうなのだろう。

 だがしかし、どこにシャドーアーマーの要素があるんだ?

 俺とレフがどちらもシャドーアーマーを所持しているから、起きたことだろうか?

 一瞬俺はそんなことを考えたが、実はあまり余裕がない。

 見ればすでに、銃弾は発射されていた。

 全て避けるのは、現状難しい。

 だがそれなら、避けられるようになればいいだけだ。

 この状態であれば、レフのスキルも使えるはずである。

「縮小」

 そのスキルを発動した途端、俺は一気に小人サイズになった。

 弾丸は魔力を感じるし、そもそも狙われた場所が手足だ。

 俺を弱らせて、情報を聞き出そうと思っていたのだろう。

 当然そこに、俺の肉体はない。

 それに縮小に合わせて、メイド服も小さくなった。

 性能はまだ不明だが、これは便利だ。

 そして弾丸をやり過ごした直後に元のサイズに戻ると、俺は駆けだす。

 幸いあのライフル銃は、単発式だ。

 加えて次を撃つのに、時間もかかるらしい。

 なので俺は紫鎧の一人に接近すると、右手の爪で引き裂いた。

 俺の爪は想像以上に切れ味が良く、斜めに紫鎧を両断する。

「中身が、無い?」

 だが驚くことに、紫鎧の中には何もいなかった。

 そして俺が一瞬反応に遅れたことで、回避が間に合わない。

「くぅ!?」

 紫鎧が首、両手首、両足首につけていた五つの輪が、突然爆発を引き起こす。

 またその直後に、ライフル銃も爆発した。

 俺はその爆発に巻き込まれ、吹っ飛ぶ。

「あはは! 馬鹿ねぇ! そいつらは倒されたら自爆するのよ!」

 実際に紫鎧自体が爆発した訳ではなさそうだが、そう言ってアミーシャが喜びの声を上げる。

 おおよそ、今ので俺を倒したと思ったのだろう。

 だが、俺に一切の傷は無かった。

 メイド服に守られた部分はもちろんのこと、肌が露出している箇所かしょも無傷だ。

 なるほど。一見防御力がなさそうに思えるが、全身に守りの効果が行き届いているのか。

 それに、防御力自体はシャドーアーマーより高そうだ。

 そう思いながら、俺は立ち上がる。

「な、何で無傷なのよ! おかしいでしょ! ロックゴーレムだって、あの爆発には耐えられないのよ!!」
「うるさいなぁ。面倒だし、もう終わらせるね?」

 俺はそう答えると、ダークネスチェインを発動させた。

 周囲にたくさんいる紫鎧と、アミーシャが束縛される。

 そして俺は右手を前に出し、握りつぶす動作をした。

 するとそれに連動して、紫鎧たちがダークネスチェインにめ千切られる。

 周囲には爆発が響き、アミーシャと、情報源として残した紫鎧一体だけが生き延びた。
 
「な、何なのよ……有り得ないわ……」
「少し黙っててくれる?」
「ぐぇえ!?」

 ダークネスチェインで軽く首を絞めて、アミーシャを気絶させた。

 そして周囲を見れば、観客たちは全力で逃げ出している最中であり、貴賓席はもぬけの殻である。

 おそらくルーナたちは、安全な専用通路で逃げ出しているのだろう。

 ディーバもついているし、何とか生きていることを願うしかない。

 他の参加者たちはというと、こちらは残念ながら全滅していた。

 モンスターを召喚する間もなく、撃ち殺されたのだろう。

 そしてリードとハパンナ子爵については、まだ生きている。

 レフの所持していた気配感知で周囲を探るが、他に潜んでいる者の気配はない。

 なので急いで氷塊を解除すると、どうやら二人の意識ははっきりしているようだった。

 完全密閉状態だったが、一緒に取り込んだ空気で足りたようである。

「さ、寒い……だが、生きている。助かったのか」
「けど、これは……」
 
 二人は周囲を見渡して、唖然あぜんとなる。

「氷の中から見えていたが、ここまで酷いとは……」

 ハパンナ子爵は、現状を酷く嘆いていた。

 するとリードが、俺のことをじっと見てくる。

「助けてくれてありがとう。君は誰かな? それと、ジン君という銀色の髪をした少年がどこにいるか、知っているなら教えてほしい」

 まあ、当然それを訊いてくるよな。

 まさか俺がレフと融合して、この姿になったとは思っていないらしい。

 さて、ここはジンと答えるか、それともジフレと名乗るべきか……。

 俺は一瞬、頭を悩ませるのだった。

 

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