073 オブール杯二次予選 ④

 俺がこの決勝で出す最初のモンスターは、元から決めていた。

 これまで出番が無かっただけに、張り切って戦うだろう。

「いけ、レフ」
「グルオゥ!!」

 レフは小さな猫の姿ではなく、本来の姿になって現れる。

 種族:グレネスレーヴェ
 種族特性
【闇属性適性】【闇属性耐性(中)】
【威圧】【顎強化(中)】【気配感知】
【シャドーアーマー】【ダークネスチェイン】

 エクストラ
【フュージョンモンスター】

 スキル
【縮小】

 対してリードは、ロックリザードを出してきた。

「頼んだよ、ロッテン!」
「グアッ!」

 初手は、守りの優れたロックリザードか。

 さて、どう挑んでくる?

 するとさっそく、リードが命令を下す。

「14番だ!」
「グガ!」

 ロックリザードは番号を聞くと、小さな石の雨を発射した。

 聞いたことのない番号の命令だと思ったが、以前とは番号を変えたのか。

 モンスター園では確か、8番と言っていた。

 まあ俺が聞いた番号と同じ行動は、流石にさせないか。

 そう思いながら、レフは大きさに見合わない素早い動きで回避していく。

「7番だ!」
「グオ!」
 
 すると続いて、ロックバレットが放たれる。

 遠距離攻撃をして、できるだけ近付けない作戦か。

 だが、近付くのは時間の問題だ。

 レフは少しずつ、距離を縮めている。

 強さもあるが、相性もこちらが有利だ。

 ロックリザードは、動きが遅い。

 本来は物理的な防御力で、耐えるタイプだ。

 しかしその防御力も、レフの前では無意味である。

「グルゥ!」
「グガっ!」

 とうとう接近されたロックリザードは、レフの前足の一撃により転がった。

 立ち上がろうとするが、それも難しい。

「ロッテン、よくやってくれた。休んでいてくれ」
「グァ」

 そう言って、リードがロックリザードを送還する。

 さて、次は何を出してくる?

「いくよ、アサンサ!」
「ガァ!」

 そうして出した二匹目は、アサシンクロウ。

 ここで出してくるか。

 当然アサシンクロウは、空を飛ぶ。

 飛行制限の高さは、観客席に建てられた四本の柱が目印だ。

 それを超えれば警告が出され、複数回繰り返すとそのモンスターは負けになる。

 アサシンクロウは、やはりというべきかギリギリの高さを飛んでいる。

「四番だ!」
「ガァ!」

 するとアサシンクロウは、命令に従って黒い針を飛ばしてきた。

 あれはもしかして、シャドーニードルか?

 以前買おうとして、買えなかったスキルだ。

 この二次予選のために、覚えさせたのだろう。

 小さくて見えにくいが、レフは何とか避け続ける。

 しかし連射性が高いのか、マシンガンの弾丸のようにいくつも飛ばしてきた。

 流石に全てを避け切ることはできず、レフに命中する。

 だがレフには闇属性耐性(中)があるので、全くダメージを受けていない。

 二匹目のアサシンクロウとも、相性が良かったみたいだ。

 並大抵の闇属性攻撃では、レフに傷すらもつけられないだろう。

 けれども攻撃が通じにくいのは、こちらも同じか。

 確かアサシンクロウも、闇属性耐性(小)を持っていたはずである。

 しかしそれで完全に防げるほど、レフの攻撃は甘くはない。

 そろそろ、こちらも反撃に出るか。

 レフに命じて、ダークネスチェインを発動させる。

 複数の闇の鎖が、空中へと向っていく。

 それをアサシンクロウは避けていくが、増え続ける闇の鎖にとうとう捕まってしまう。

 当然もがくが、アサシンクロウの力では脱出ができない。

 少しずつ鎖が手繰り寄せられていき、地面へと降りてくる。

 その時点で、リードがアサシンクロウの負けを宣言した。

「これは、アサンサの負けだね。降参するよ」

 そう言ったので、ダークネスチェインを解除した。

 魔法により束縛をされていると、送還ができないみたいである。

「アサンサ、よく頑張ったね。またよろしく頼むよ」
「ガァ!」

 そうして、アサシンクロウは送還された。

 さて、次が最後か、何を出してくる?

 俺が期待をしながら待っていると、リードがいよいよ三匹目を召喚した。

「最後は任せたよ、ガークス!」
「グガア!」

 あれは、オーガか。

 屋敷のモンスターの中で、上位の強さを持つ個体である。

 見た目は筋肉質な赤い鬼であり、手には大剣を持っていた。

 名称は教えてもらっていたが、鑑定はしていない。

 頼めば許可はもらえただろうが、あえてしていなかった。

 しかし、それでいい。

 オーガは見るからに、Cランク以上は確実にある。

 鍛えている事も考えると、Bランクの実力はありそうだ。

 あれがいればアサシンクロウなど簡単に契約できそうな気もするが、何か縛りをもうけていたのだろうか?

 それとも接近戦しかできなくて、アサシンクロウとは相性が悪かったのかもしれない。

 どちらにしても、これは強敵だ。

 大きな一撃を喰らえば、レフも倒される可能性がある。

 油断はできない。

「2番だ」
「ゴア!」

 使ったのは、無属性魔法のパワーアップか?

 先に動いたオーガは、ハイオークも使えるパワーアップを発動させた。

 やはり、パワー型っぽいな。

 近づかれると面倒なので、まずはダークネスチェインで行動を縛る。

 だがオーガは、それを大剣で破壊していく。

 凄い力だな。それにあの大剣も、かなりの業物だ。

 ぱっと見ではあるが、かなり頑丈にできていそうである。

 これは、ダークネスチェインで縛るのは難しそうだ。

「よし、六番!」
「ガガア!」

 すると次にオーガが剣を振るった瞬間、小さな波動が飛んでくる。

 咄嗟とっさにレフが回避をするも、当然それを読んで無数に飛ばしてきた。

 これは、面倒だな。
 
 近距離戦しかできないと思っていたが、その弱点は既に対策をしているようだ。

 なら、こちらから接近するしかない。

 しかし近づけば、強力な一撃がくるだろう。

 であるならば、そろそろこれを使おう。

 そう思い、俺はレフにシャドーアーマーの発動を命じた。

 やはりいつ見ても、SF世界に出てきそうな見た目だ。

 漆黒の鎧を纏う四足獣となったレフが、オーガへと駆ける。

 その間にも、小さな波動がいくつも飛んできた。

 だがそれを回避しながら、レフはオーガの元へと辿り着く。

 魔力を溜める余裕は無かったが、仕方がない。

 レフにシャドーネイルを生やさせ、そのままオーガへと攻撃させる。

 だがそれを読んでいたのか、オーガの剣が淡く光った。

 なっ、そうか、思念で命令をしたのか。

 リードはこれまで番号を口に出していたが、どうやら誘う為の罠だったようだ。

 しかしそれに気がついたとしても、もう止まることはできない。

 このまま、いくしかないか。

 そしてレフのシャドーネイルと、オーガの大剣がぶつかる。

 火花が散るのを幻視した一瞬の拮抗の後、砕けたのはレフのシャドーネイルだった。

「グルァ!?」

 そのまま大剣がレフの首下あたりに叩きこまれ、衝撃を与える。

 だがシャドーアーマーに守られていたレフは、そこで終わらない。

 ダークネスチェインで自分を支えると同時に、オーガと大剣を拘束する。

 今度は攻撃直後だったからか、ダークネスチェインが上手く決まった。

 大剣もレフから離れ、刃先が下を向く。

 そして次は、オーガが驚愕する番だ。

 この距離ならば、射程圏内である。

 レフの牙が、オーガの肩へと喰らいついた。

「ガガァ!?」

 あぎと強化(中)を持つレフの噛みつきは、かなり強力だ。

 まるで鋼のような肉体を持つオーガでも、耐えられないだろう。

 オーガも何とか必死にもがくが、抜け出すことができない。

 肩から血を流し、少しずつ弱っていく。

 それを見てリードも葛藤していたようだが、最後には決断を下す。
 
「くっ、降参だ……」

 これには流石に抜け出せないと判断したのか、リードがとうとう負けを認めた。

 そうしてその瞬間、俺の優勝が決まる。

 かなりの強敵だったが、レフが勝ったな。

 正直あのオーガなら、ディーバに勝てるんじゃないのか?

 いや、あの時は魔力を溜める余裕があったし、リードは事前にレフの情報を持っていたみたいだ。

 そう考えると、ディーバのロックゴーレムの方が強いのかもしれない。

 俺はレフを送還に見せかけて消しながら、そんなことを思った。

 リードも、オーガにポーションをかけた後に送還する。

 そして最後にお互いに近づき、言葉を交わす。

「やっぱり、僕の負けか。一匹くらいは倒せると思ったんだけどね」
「あのオーガは凄かった。もし首に攻撃が当たっていたら、流石に危なかったかもしれない」
「はは、どうやら惜しかったみたいだね。悔しいなぁ。次は負けないよ!」
「いや、次も俺が勝つ」

 俺とリードはそんな会話をしたあと、握手をするのであった。

 

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