068 グレートキャタピラーの納品

「すげぇ……」
「これが、グレートキャタピラー……」
「本当にこれを、単独で倒したのか……」

 俺が意識を向けている相手の感情が多少とはいえ分かるのは便利だが、それ故に不便でもあると感じた。

 分からないからこそ、精神的な安定が保たれるということもある。

 それに勝手に感情を盗み見るのは、鑑定と同じでマナー違反な気がした。

 なので俺は以心伝心+に意識を向けると、相手の感情を勝手に読み取らないように制限をかける。

 すると問題なくラルドの感情が見えなくなったので、一息ついた。

 この能力は、必要な時に発動すればそれでいい。

 今はその時ではなかった。

 そうして俺は、倉庫の中央へとやって来る。

 もちろん、リードとリーナも一緒だ。

 周囲にはギルド職員や解体を請け負っている人たち、他にもハパンナ子爵家の兵士たちもいる。

 総勢数十人で、グレートキャタピラーの解体や管理調整を行うのだろう。
 
 それにグレートキャタ

 倉庫の中央に横たわった、グレートキャタピラー。

 その大きさに、周囲の者たちは驚きを隠せない。

 聞いていたのと、実際に見るのとでは大きく違うのだろう。

「ジン君、君は本当に凄いよ。これを倒すところなんて、全く想像できない」
「わ、私もです。学園にも優れた方はたくさんいますけど、単独での討伐はまず無理でしょう」

 リードとリーナも、グレートキャタピラーを見て興奮と驚きを隠せないようだ。

「もちろん倒したのも凄いですけど、これを運べる収納能力も規格外ですねぇ。さて、皆さん呆けていないで、そろそろ作業に取り掛かってください」

 ラルドがそう声をかけると、周囲の者たちが動き出す。

 あらかじめ解体方法は話し合っていたのか、それぞれが迷いなく解体を始めた。

 最初は二日も待つのかと思っていたが、逆に二日でよくここまでの準備ができたものだ。

 この倉庫も、本来大量の荷物が入っていたはずである。

 グレートキャタピラーの大きさは、まるで列車のように大きい。

 それだけで、この倉庫の大きさがよく分かる。

「ジン君、次にグレートキャタピラーを討伐しに行くときは、僕も連れていってほしいな。もちろん邪魔はしないし、分け前もいらないからさ」
「次があるか分かりませんが、行く場合にはお声がけさせて頂きます」

 そう答えたが、おそらく二度目は無いだろう。
 
 まず前提として、ダンジョンのボスが復活するまでには、それなりの時間がかかるらしい。

 グレートキャタピラーくらいになると、早くても数ヶ月はかかるだろう。

 なのでその頃には、既に別の場所へと旅立っている可能性が高い。

 リードも、半分冗談のつもりで言っているのだと思われる。

 ちなみにダンジョンボスがいない間は、ボスエリアは閉ざされてしまい、絶対に入れないという。

 こうした情報は、昨日リードと話した時に訊いていたことである。

 またダンジョンボスが復活するのであれば、それまで死骸をとって置くという選択もあった。

 理由は、復活後に死骸をカード化できないかと一瞬考えたからだ。

 しかしそれは、すぐにダメだということに気が付いた。

 なぜなら時間が経過した死骸は、カード化できないからである。

 これまでは倒せばすぐにカード化していたので、思ってもいなかった。

 だが脳裏にそれを思い浮かべると、本能的にそれができないと分かるのだ。

 おそらく、最も重要なのは死骸ではない。

 もちろん死骸も必要な条件の一つであるが、その上がある。

 予想として考えられるのは、魂だろう。

 倒した直後であれば、周囲に魂が留まっている可能性がある。

 つまりカード化の条件は死骸と魂、そして俺か配下のモンスターが倒すことだろう。

 これはまだ憶測に過ぎないし、他にも条件があるのかもしれない。

 まだまだカード召喚術には謎が多いし、これから少しずつ解明していくつもりだ。

 そうしてグレートキャタピラーの解体をしばらく見学した後は、ラルドと共に冒険者ギルドに向かうことになった。

 理由は、これで納品依頼が完了したからである。

 今回はラルドが直接、依頼を処理してくれるらしい。

 ちなみにリードたちはもうしばらく解体を見ていくというので、その場で別れた。

 ハパンナ子爵家にとって、グレートキャタピラーは重要なモンスターだ。

 おそらくハパンナ子爵領で、最強の野生モンスターである。

 なので、その目に焼きつけておくのだろう。

 それから無事にギルドにやってくると、個室に通される。

 これから受け取るのは、大金だ。

 どうやらグレートキャタピラーまるまる一匹の納品は、Sランク依頼として評価されたらしい。

 まあダンジョンを踏破する必要があるし、巨大なグレートキャタピラーを収納する能力も無ければいけない。

 俺以外にできる者は、限られているだろう。

 でなければそれこそ数をそろえる必要があるが、それは難しい。

 なぜならハパンナダンジョンのボスエリアは、六人までしか一度に入れないようだ。

 もちろん、使役しているモンスターを除いてである。

 つまるところ、数によるごり押し攻略は不可能ということだった。

 加えて、仮に討伐しても他の者があとからボスエリアに入ることはできない。

 その時点で、既にボスエリアの扉は閉ざされているからである。

 なので倒した者たちだけで、回収するしかない。

 そんなことを考えながら待っていると、ようやくラルドがやってくる。

 手には袋を持っており、それなりに重そうだ。

「依頼の完遂おめでとう。これが、今回の報酬です」
 
 するとそう言って、その袋を俺の前のテーブルに置く。

 これ、全てが硬貨なのか……。

 そう思っていると、いつものアレが始まる。

『神授スキル【二重取り】が発動しました。依頼貢献度と報酬が倍になります』

 そして、目の前にどこからともなく同じ袋が現れた。

「……今、袋が増えたよな?」
「そのようだね?」

 これまで訊くに訊けなかったが、今はラルドと二人きりである。

 俺は思わず、そう疑問を口にした。

 ラルドの反応からも、袋が増えたのは認識しているらしい。

「何とも思わないのか?」
「? 何かおかしいことがあるのかい?」
「いや、この袋がどこから現れたとか、気にならないのか?」
「いえ、気になりませんねぇ。突然どうしたんですか?」

 ダメだ。認識はしているが、疑問に思っていない。

 明らかに、何かがじ曲げられている。
 
 これ以上追及しても、俺がおかしいと思われるだけだ。

 神授スキルである二重取りのヤバさを、俺は改めて認識した。

 それから俺は何とか今のことを誤魔化して、報酬をストレージにしまう。

 また貢献度も倍になり、この依頼で一気に貢献度を六十四も稼いでしまった。

 依頼の貢献度は、自分のランクから一つ上がるごとに倍増していく。

 俺はEランクなので、Sランクでは三十二倍なのだ。

 それに二重取りが発動して、六十四になった訳である。

 加えてこれにより、俺はDランクへと昇級した。

 Dランクからは冒険者証のドックタグが銀になり、国内であれば自由に移動できる。

 それと本来Dランクに上がるのには、試験があるらしい。

 だがラルド曰く結果が明らかに見えているので、免除するとのこと。

 ちなみにDランクの試験は、ギルドが指定した相手との模擬戦である。

 ホワイトキングダイルを見たことのあるラルドなら、その判断も当然だろう。

 これでやることが終わったのだが、ふとソイルワームの巣穴にあった冒険者の亡骸なきがらのことを思い出す。

 それを提出したのだが、事務的な処理だけで終わった。

 あとは、ギルドの方でやってくれるらしい。

 一応拾った冒険者証のランクによって、報酬が出た。

 まあ駆け出し冒険者の物だったので、小銭程度だ。

 加えて冒険者証の無い亡骸は、一律で決まった額が貰える。

 これも同様に、少額だ。

 だが冒険者の亡骸を持ち帰ると、その亡骸の冒険者ランクによって、貢献度が足されるようである。

 ちなみに報告が遅れたが、特にそれで何かを言われることはない。

 冒険者が亡くなった場合、亡骸すら見つからないことがよくあるからだ。

 なので持ち帰るだけで、ありがたいとのこと。

 親族や仲間がいればそちらに報告して、いなければ共同墓地に埋葬されるらしい。

 またその冒険者を殺したモンスターを従えたわけだが、それで何か罰せられることはなかった。

 そもそもこの大陸の実在した英雄譚には、人々を殺害した凶悪なモンスターを従える話がいくつもあるからだ。

 なので従えたことを称えられることはあっても、非難されることは少ないらしい。

 そうして今度こそやることを全て終えたので、俺は冒険者ギルドを後にした。

 しばらく遊んで暮らせるほどの大金を手に入れたが、これに浮かれるのはよそう。

 必要な時には使うが、普段は無いものと考えた方がいい。

 大金で無双するのは、何だかつまらない気がする。

 まあこのままいけば、今回の稼ぎもはした金になりそうだが。

 そんなことを思いながら、俺は一旦ハパンナ子爵家の屋敷へと帰るのであった。

 

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