069 ハパンナの街で過ぎていく日々

 納品依頼を終えた日から、俺のしていたことにあまり変化はない。

 冒険者ギルドで依頼を受けたり、ハパンナ子爵家の人たちと交友を深める日々だった。

 まずDランクの依頼は、この街ではダンジョン関係か護衛依頼がほとんどである。

 どちらも微妙だったので、もっぱら街の周辺での依頼を行った。

 貢献度はほとんど稼げなかったが、仕方がない。

 ちなみに、新しいカードも増えなかった。

 というのもこの街の周辺には、ダンジョンとソイルワームの依頼で行った森くらいしかない。

 他は平原であり、いてもスライムかホーンラビットがほとんどだった。

 なので必然的に森に行くことになったのだが、見つけたのは既知のモンスターだけである。

 モンスターかと思えば、ただの動物や虫だった事が何度かあった。

 しかしその代わり、フォレストバード三十枚、ドローンビートル十枚、ポイズンスクワール二十枚と、目標枚数がそろう。

 それからは行動方針を変えて、手持ちのモンスターを育てることと、ユニーク個体の捜索を主軸にした。

 サンは相変わらず進化の兆しがないが、ホブンは無事に条件を満たす。
 
 進化方法は悩んだが、今回はランクアップの方を選択した。

 同系統であるゴブリンのカード二十枚を代償に、進化を行う。

 するとホブンはホブゴブリンから、上位種のエリートゴブリンになった。

 種族:エリートゴブリン
 種族特性
【無属性適性】【悪食】【病気耐性(小)】
【他種族交配】【腕力上昇(小)】
【技量上昇(小)】

 エクストラ
【ダンジョンボス】
【ランクアップモンスター】

 スキル
【打撃武器適性】

 まず見た目は細マッチョになり、少し顔に精悍せいかんさが出ている。

 そしてホブゴブリンより素早く器用になったが、力は多少落ちた感じだった。

 種族特性は無属性適性と、技量上昇が増えただけで控えめである。

 Dランクだったホブゴブリンと比べると、エリートゴブリンはDランク上位か、Cランク下位といった印象だった。

 またエクストラには、ランクアップモンスターが増えている。

 名称:ランクアップモンスター
 効果
 ・ランクアップ回数に応じて、生命力や魔力、身体能力などが上昇する。
 ・ランクアップ時にスキルのランダム取得か、スキルのランクアップが発生する。
 ・フュージョンが不可能になる。
 ・知力を上昇させ、個を確立する。

 見ればフュージョンモンスターと似たような効果だが、違いはスキルの取得かランクアップをすること。

 ホブンの場合、棍適性が打撃武器適性にランクアップしていた。

 フュージョンモンスターと違って、初回から恩恵があるようだ。

 ちなみフュージョンモンスターの場合は、次回のフュージョン時に種族特性をいくつか引き継ぐことが可能になる。

 そうしてエリートゴブリンになったホブンには、ダンジョンで手に入れた防具なども装備させた。

 結果として、どこかの蛮族ばんぞくの頭みたいになってしまう。

 全体的に茶色い、革と毛の防具である。

 また武器であるスマッシュクラブが、余計に蛮族っぽさを際立たせていた。

 それと装備させた防具に効果は特に無いが、丈夫な作りになっている。

 耐久面もおそらくホブゴブリンより下がっている気がするので、これで補えるだろう。

 ホブンについては、以上である。

 あとはユニーク個体だが、残念ながら見つからなかった。

 サンがユニーク個体だったのは、本当に偶然だったのだろう。

 なお以前森で手に入れたカードにも、ユニーク個体はいなかった。

 他にはモンスター園で買ったジョンだが、育成することを決めている。

 生きたままカード化した貴重な存在であり、何より俺への忠誠心が凄い。

 カード化すると他のモンスターも俺に絶対服従なのだが、ジョンの場合そこに熱がある。

 例えるなら、尊敬や崇拝に近いかもしれない。

 また生きたままカード化したからか、個性がある。

 ジョンは一歩引いたような、謙虚けんきょな性格のようだ。

 それでいて、感謝するときには過剰な反応を示す。

 感情の起伏が、ある意味激しい。

 とりあえず成長してランクアップするとなれば、行きつく先はグレートキャタピラーになると思われる。

 それはそれで面白いのだが、俺は別の姿も見たかった。

 なので、ジョンはフュージョンさせる予定である。

 グリーンキャタピラーからどこまで変わっていくのか、今から楽しみだ。

 俺のここ数日外でやっていたことは、そんなところである。

 ちなみにダンジョンで集めたモンスターの死骸などは、ギルドに出してはいない。

 というより、出すとしても大会後になるだろう。

 グレートキャタピラーの解体はまだ終わっていないので、解体現場はとても忙しいのだ。

 ここで大量に納品するのは、鬼畜の所業だろう。

 そして屋敷では兵士たちとモンスターバトルなどもしたのだが、当然ホブンに驚かれる。

 名前もいっしょなので、進化したことに気づかれてしまった。

 だが事前に予想していたので、慌てることはない。

 そもそもモンスターが進化することは、極まれにある。

 ただしそれを狙ってするのは、大変難しいようだ。

 前提として同じ種族でも、進化する可能性のある個体と、進化することが無い個体がいるらしい。

 それを見分けることはできないらしく、進化できる個体を使役できるかは運になる。

 仮にリーダー個体や強い個体を使役しても、進化するとは限らないとのこと。

 また進化条件も、不明な点が多い。

 進化した個体同士でも、そこまでに至る経緯が違う場合があるのだ。

 しかし長い間使役していたり、たくさんのモンスターを倒すと進化しやすいことは共通の認識らしい。

 だが結局のところ進化を狙うくらいなら、上位種を使役したほうが確実である。

 案の定ゴブリンを厳選するよりも、ダンジョンでホブゴブリンの使役を狙う者が大半だった。

 中には残酷な実験により、進化個体を手に入れやすくなる方法があるらしいが、それもコストに見合わず自然消滅したらしい。

 つまり進化は珍しいが、してもおかしくはないという訳だ。

 そう言う訳でホブンが進化していて驚く者はいても、おかしいと思う者はいなかった。

 ちなみにこれらは、全てリードから教えてもらった情報である。

 この数日間で、リードには色々教えてもらった。

 なので何か恩返しの方法を考えているのだが、やはり別れの際にカードを渡すことになる気がする。

 リードには、それだけの事をしてもらった。

 そして他にしていた事といえば、レフをルーナと遊ばせた事だろう。

 ルーナは相当レフを気に入っているのだが、いずれ来る別れの時は大丈夫だろうか。

 少しずつモンスターにも興味が出てきたようなので、レフの代わりになるモンスターを見つけてくれることを願う。

 他にはリーナもサモナーなので、モンスターを見せてもらった。

 リーナはホーンラビット、スモールマウス、フォレストバード、ポイズンスクワールなど、どこか愛嬌のあるモンスターを使役している。

 だがこれは相性の問題で、獣や鳥類系以外基本的には使役できないそうだ。 

 またモンスターバトルをするよりも、見る方が好きらしい。

 なので二次予選の時は、応援すると言っていた。
 
 ちなみに俺との会話も違和感が無いし、馬車で婚約の話を断ったのはもう大丈夫だろう。

 そう思ったのだが、ハパンナ子爵夫人にリーナとルーナを遠回しに勧められる。

 俺は苦笑いを浮かべつつ、それをなんとかやり過ごした。
 
 それと流石に四歳のルーナとは年が離れていると一瞬思ったが、これくらいなら貴族だと普通にありそうである。

 あとはハパンナ子爵にグレートキャタピラーの件で、改めてお礼を言われた。

 どうやら払った金額以上に、様々な面でリターンがあるらしい。

 いくつかは王や、世話になっている上位貴族の寄り親に献上するとのこと。

 これによりハパンナ子爵家の印象が、かなりよくなるらしい。

 それほど、グレートキャタピラーの素材は貴重なのである。

 なのでハパンナ子爵は、何かあれば是非頼ってほしいと言っていた。

 現状特に頼むようなことはないので、機会があればその時に頼ることにする。

 そんな風に俺は数日間を過ごし、気が付けばあっという間に二次予選当日を迎えた。

 

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