067 リーナの恋愛事情

 リードと色々話し合った後は、ハパンナ子爵家のモンスターを見せてもらった。

 見たことのないモンスターや、複数の高ランクモンスターを見れて満足である。

 ただ俺だけ見るのはアレなので、リードに何匹か俺のモンスターを見せた。

 中でもホワイトキングダイルや、レフの本来の姿を見た時のリードの興奮は凄かったとだけ言っておく。

 けれども流石のリードでも、ソイルセンチピートにはドン引きしていた。

 あの長さの違う数千のムカデの足がワシャワシャと動くのは、生理的にくるものがあるので仕方がない。

 そうしてお互いのモンスターを知ったわけだが、モンスターバトルはしなかった。

 なぜなら二次予選に俺とリードは出場するので、勝負の楽しみをその時に取っておくことにしたのだ。

 仮にどちらかが敗退して勝負ができなければ、その時は後日改めて勝負を行う約束をした。

 そんな風に一日を過ごし、気が付けば翌日。

 この日は早朝から、グレートキャタピラーの納品のために馬車に乗って移動をしていた。

 どうやら、ギルドの準備が整ったらしい。

 加えてリードと、ハパンナ子爵家の長女であるリーナも同行をしている。

 理由はグレートキャタピラーを見る機会など、早々にないからだ

 なお次女で四歳のルーナは、もちろんお留守番である。

 来たとしても、新たなトラウマを植え付けるだけだろう。

 ちなみに最初は来たがっていたが、グレートキャタピラーの名前を出したらおとなしく引き下がった。

 どうやらザコモンスターである、グリーンキャタピラーの方を見たことがあるらしい。 

 同じキャタピラーという名称で、幼いながらも色々察したのだろう。

 そうして目的地に着くまでの間は、これまであまり会話をしていなかったリーナと交流を深めた。

 どうやらリーナは今年から王都の学園に通っているようであり、今回初めての長期休暇らしい。

 また一応友人はできたが、実家に帰るリーナに対して、婚約者マウントを取ってきたようだ。

 婚約者と別荘に行くことや、婚約者の実家に遊びに行くことなど、散々自慢されたとのこと。

 対してリーナには婚約者がおらず、苦虫を嚙み潰したような思いで帰ってきたようだ。

 なお友人に悪意は無かったようで、それが余計にたちが悪いとリーナは言っていた。
 
 だがそこまで聞くと、なぜリーナに婚約者がいないのかという話になる。

 デリケートな話だが、俺が疑問に思っているのを察して、リードが教えてくれた。

 なんでもハパンナ子爵と夫人は恋愛結婚らしく、出会いが学園らしい。

 それゆえに、自分の子供も学生の内は自由に恋愛させる方針とのこと。

 だが学生の内に相手ができないようであれば、その時にハパンナ子爵が相手を探すようだ。

 しかし当然卒業後ともなると、良い相手はほとんど婚約をしている。

 なのでハパンナ子爵が見つけてきたとしても、悪く言えば売れ残りの人物ということだ。

 リーナはそうした相手だけは嫌なので、卒業までに絶対相手を見つけると決意をしていた。

 するとそこでリードが、余計なことを口走る。

「リーナ、そんなに相手を探しているなら、ジン君はどうだい? 平民だけど、絶対に出世するよ。なろうと思えば、貴族になることも可能だろう。容姿も優れているし、性格にも問題はない。加えてまだ他者に見つかっていない、最高の原石だと僕は思うけど」
 
 ふざけているように見えて、リードの目は本気だった。

 対して、それを聞いたリーナはというと。
 
「え、えっと、ど、どうしようかなぁ……なんて。ジンさんの事はまだ知らないけど、ルーナも懐いているし、悪い人じゃないと思う。だ、だから、まずは少しずつ知っていくとろこから……」

 な、何で、満更でもない感じなんだ……。

 不味い。嫌な予感がする。

 正直俺は、誰かと結婚する気はない。

 旅は続けたいし、最強の軍団を作る目標がある。

 そもそもこの世界に来てから性欲はあまり感じないし、美しい女性を見てもドキリともしない。

 デミゴッドは不老なので、そうした欲求が元々薄いのだろう。

 だがデミ・・ゴッドという時点で、神であっても子供を作れたことは証明されている。

 ただ、ライガーといったライオンとトラのハーフが子をほとんど成せないように、デミゴッドも同じ可能性があるかもしれない。

 加えて俺は自分を神と人族のハーフだと思っているが、それも違う可能性もある。

 そういえば、キャラクターメイキングの時には人族以外にも種族があったはずだが、まだ見かけていないな……。

 だめだ、考えすぎて脱線してきた。

 つまるところ俺は、現状誰とも付き合う気は無いし、結婚する気はない。

 これがはっきりしていれば、今のところいいだろう。

 なので俺はリーナをなるべく傷つけないように、遠回しに断った。

 だがそれによって少し空気が重くなってしまったのは、仕方がない。

 先ほどの会話の盛り上がりが嘘のように、馬車の中はしばらく静かになった。

 リードもこれには、少々あせっているようだ。

 自分の言動が原因で、この事態を招いてしまったからだろう。

 最終的にはリードが友人を何人か紹介する約束をしたことで、リーナの機嫌が少し治った。

 貴族社会も、大変そうだな。

 やはり、気楽な冒険者のままが一番だ。

 俺は深く、そう思うのだった。

 ◆

 それから俺たちが辿り着いたのは、大きな倉庫である。

 既に多くの人が集まっており、サブマスターのラルドもいた。

「これはこれは、リード様とリーナ様、よくぞおいでくださいました」
「僕たちはただの見学者だから、そこまでしなくても大丈夫ですよ」
「承知いたしました」

 先にリードたちへ挨拶をしたラルドは、次に俺へと声をかける。

「ジン君も今日はよろしくお願いしますね。グレートキャタピラーを出して頂く場所まで、さっそく案内しましょう」
「わかりました」
「ほう」

 一瞬言葉遣いに迷ったが、リードたちがいるので丁寧な口調で統一することにした。

 ラルドもそれを理解したのか、意味深に声を出す。

 表情からは何を考えているのか分からないが、以心伝心+によって若干の感心と安心したという雰囲気が伝わってくる。

 俺が意識を向けている相手の感情が多少とはいえ分かるのは便利だが、それ故に不便でもあると感じた。

 分からないからこそ、精神的な安定が保たれるということもある。

 それに勝手に感情を盗み見るのは、鑑定と同じでマナー違反な気がした。

 なので俺は以心伝心+に意識を向けると、相手の感情を勝手に読み取らないように制限をかける。

 すると問題なくラルドの感情が見えなくなったので、一息ついた。

 この能力は、必要な時に発動すればそれでいい。

 今はその時ではなかった。

 そうして俺は、倉庫の中央へとやって来る。

 もちろん、リードとリーナも一緒だ。

 周囲にはギルド職員や解体を請け負っている人たち、他にもハパンナ子爵家の兵士たちもいる。

 総勢数十人で、グレートキャタピラーの解体や管理調整を行うのだろう。
 
 それにグレートキャタピラーは、大変希少な素材である。

 誰かが奪うため、襲撃してこないとも限らない。

 ハパンナ子爵家の兵士たちがいるのも、当然だろう。

 また解体の人数を増やすために、信用できる冒険者なども雇っているようだ。

 加えてこの人数を集めても、ギルドがいつも通り回るための調整も完了しているらしい。
 
 なので後は、俺がここにグレートキャタピラーを出すだけだ。

 そうして周囲が見守る中、俺はグレートキャタピラーをストレージから取り出すのであった。

 

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