064 リードと外出

 無事に朝食を終えると、それぞれやることがあるらしいので分かれていく。

 ルーナはレフと遊びたかったようだが、習い事があるようでメイドに連れていかれた。

 そうして残ったのは、俺とリードである。

「それじゃあ約束通り、今日は僕に付き合ってもらうよ」
「わかりました」

 昨夜予定を空けるとは言ったが、いったい何をするのだろうか。

 そんなことを考えていると、俺はリードに馬車へと押し込まれた。

 一体どこに行くのか訊いても、着いてからのお楽しみだと言う。

 なので道中はもっぱら、師匠であるディーバが如何いかにすごいかを聞くことになった。

 リードは本当に、ディーバのことを尊敬しているようだ。

 いつか自分もロックゴーレムと契約するのだと、そう豪語ごうごしている。

 実力もだいぶ上がってきたので、数年以内には達成したいとのこと。

 どうやらリードは、自分の実力に相当自信があるみたいだ。

 しかしそれでも、数年以内というのがひっかかる。

 俺の場合倒せばそれでカード化できるが、本来はそれだけ難しいことなのだろう。

 まあロックゴーレムはBランク下位だったと聞いたので、慎重に挑むのは当然か。

「にゃーん」

 ちなみにレフは、馬車の中で俺の膝の上に座っている。

 リードも最初はレフを見て、愛玩モンスターかと思っていた。

 しかしレフがディーバのロックゴーレムを倒したと知ると、興奮する。

 触らせてほしいと言ってきたので触らせたが、レフはとても嫌そうだった。

 レフは俺を見ながら、さながら旦那のために体を売る妻のような心情を送ってくる。

 なので仕方がなく、ほどほどにレフを俺の膝へと戻した。

 リードは少し残念そうにしていたが、あまり他の人に触られるのは得意でないと言って、納得してもらう。

「にゃにゃにゃ」

 そしてレフはというと、俺に体をこすりつけていた。

 おそらくそれによって、リードに触られたのを上書きしているようである。

 どうやらリードにというよりは、男に触られるのが嫌らしい。

 女性であればそこまでではないと、レフは思念を送ってくる。

 見た目は猫なのに、そんな事にこだわるとは不思議なやつだ。

 そんなことがありつつも、ようやく目的地へと辿り着く。

「ジン君も、きっと驚くと思うよ」

 リードがそう言って、先に馬車を降りた。

 俺もそれに続くと、そこはまるで、牧場と大型施設が合わさったような場所だった。

「ここは……?」
「それはすぐにわかるよ。さあ、こっちだ」

 俺はリードに連れられて、建物の一つに入っていく。

「これはこれはリード様。本日は何かお探しでしょうか?」

 すると手もみしながら、中年の男性が現れる。

「今日は僕の友人であるこちらのジン君に、ここを見せに来たんだ。それと、アレに挑戦するつもりだよ」
「なるほど。私も微力ながら、成功を祈らせていただきます。それとジン様ですね。私はこのハパンナモンスター園を任されている、デガロと申します」
「冒険者のジンです」

 リードがいる手前、口調をそのままで挨拶をした。

 それよりも、モンスター園とはなんだろうか?

「そういう訳で、園の中を見させてもらうよ」
「承知いたしました。どうぞごゆるりとご覧くださいませ」

 リードはそう言うと一度建物を出て、別の建物へと向かう。

 当然俺も、それに続いた。

「そろそろ話してもいいかな。ここはモンスター園。主にモンスターを飼育しながら、販売や他の人から預かったりしている場所なんだ」
「飼育に販売、預かりですか」

 テイマーやサモナーが多い国なので、あっても不思議ではない。

 特にサモナーはここにモンスターを預けて、必要時に召喚しているのだろう。

「その通り、それと家が豊かな子は、大抵ここで最初の一匹を買うんだ」
「なるほど」

 確かテイムや契約をするには、そのモンスターに認められる必要がある。

 野生のモンスターよりは、断然認められやすいだろう。

 ちなみにテイムはテイマーの使役方法の名称で、契約はサモナーの使役方法の名称である。

「まあ相性や容量を気にすのはもちろんだけど、初心者が強いモンスターといきなり契約することは、まずできない」
「確かに、そうでしょうね」

 飼育されているといっても、そう簡単にはいかないようだ。
 
「でも野生のモンスターを使役するよりは、断然安全なんだ。僕も、ここで最初の一匹と契約したんだよ」
「そうなんですね」
「うん……」

 そう口にするリードだが、どこか遠い目をしていた。

 もしかしたら、その最初の一匹は既にいないのかもしれない。

 そうして新たな建物に入り、リードが受付で何かを見せた後、先へと進む。

「実は今日、狙っているモンスターと契約をするつもりなんだ。ジン君には、それを見守っていてほしいんだよ」
「わかりました。私でよければ、見守らせていただきます」

 どうやらリードの目的は、これまで挑戦したが失敗の続いているモンスターとの契約らしい。

 またモンスターと契約することで、初めて売買が成立するとのこと。

 仮に他の人が先に契約してしまった場合は、諦めるしかない。

 そうして建物の反対側から出ると、まるで中は動物園のようだった。

 様々な檻に、モンスターが入っている。

 俺が見たことのないモンスターもおり、こうして眺めているだけでも面白い。

 また檻には簡単な解説が書いてあり、生息場所も分かった。

 俺がカード化するには一度倒す必要があるので、機会があれば一度生息場所に行ってみるのも良いかもしれない。

 そんなことを思いながら歩いていると、俺はグリーンキャタピラーの檻に目がいく。

「キシャ? キシャシャ!!」

 すると一匹のグリーンキャタピラーが、俺を見て飛び跳ねた。

 何だこいつ? いや、待て……。

 必死にアピールしてくるからか、以心伝心+で僅かだが思念が伝わってくる。

 どうやらこのグリーンキャタピラーは、ノブモ村で少年に売られた個体、ジョンのようだった。

 まさかの再会である。

 グリーンキャタピラーのジョンは、俺に自分を買ってくれと言っているようだった。

「どうしたんだい? ああ、凄いね。あのグリーンキャタピラーは、相当ジン君の事を気に入ったみたいだ。あれなら、契約は簡単だよ」

 リードはそう言うが、そもそもとしてグリーンキャタピラーは、正直いらない。

 既に二十枚のカードを持っている。

 それに鑑定してみたが、ジョンは通常個体でスキルに違いはない。

 また値段も小金貨一枚と高かった。

 利益や飼育費などがあるため仕方がないが、あの少年は相当安く買いたたかれたようだ。

 加えて結局のところ、カード化できなければ買っても意味がない。

 ……いや、待てよ。

 生きている個体をカード化できないと考えているのは、俺の固定概念という可能性もある。

 ここまで好意的なモンスターであれば、可能性があるのではないか?

 ダメなら言い訳として、契約できなかったかやはり気分が変わったと言おう。

 それと以前少年が所持していた他人のモンスターだが、グリフォンの時のように何かを感じることは無かった。

 おそらくスキルを何も覚えておらず、全く育っていないのが一因だと思われる。

 また少年への信頼や愛情が無いのだろう。

 まあ、おとりにされた上に売られれば当然か。

 俺は実験の意味も込めて、このグリーンキャタピラー、ジョンの購入を決めた。

 それにここまで好意を向けられて、スルーするのは普通にかわいそうである。

「それじゃあせっかくなので、購入することにします」

 そうして飼育員を呼び、ジョンを専用の部屋に連れてきてもらった。

「人の契約する姿は、いつ見てもワクワクするものだね」

 当然なのだが、リードもそれに付き添っている。

 まず契約の前に、先払いで小金貨一枚を払う。

 契約できずに諦める場合には、戻ってくるようだ。

 また事前に、必要事項を記入しておく。
 
 一度契約した場合、返品はお断り的な感じだ。

 そうして、ジョンと俺は向かい合う。

「キシャ!」

 ジョンは、俺を見て喜んでいた。

 売られたことで心細かったが、俺を見かけたことで興奮しているのだろう。

 加えて一度あの森から救出したことも、理由の一つだと思われる。

 さて、ここからどうしたものか。

 そもそも、俺はサモナーの契約方法など見たことはない。

 とりあえず、カード化する時のように右手を前に出して念じてみる。

 だが、変化はない。

 次に以心伝心+で心を通じ合わせ、カード化を受け入れるように念じてみる。

 するとそれが正解だったのか、ジョンが承諾した瞬間に変化が起きた。

 ジョンの体が光り、俺の右手に集まってくる。

 そして気が付けば、ジョンはカードになっていた。

 契約できたが、これはまずい。

「ジン君、そのカードはいったい何だい?」

 当然のように、リードがそう問いかけてきた。

 

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