無事に朝食を終えると、それぞれやることがあるらしいので分かれていく。
ルーナはレフと遊びたかったようだが、習い事があるようでメイドに連れていかれた。
そうして残ったのは、俺とリードである。
「それじゃあ約束通り、今日は僕に付き合ってもらうよ」
「わかりました」
昨夜予定を空けるとは言ったが、いったい何をするのだろうか。
そんなことを考えていると、俺はリードに馬車へと押し込まれた。
一体どこに行くのか訊いても、着いてからのお楽しみだと言う。
なので道中は専ら、師匠であるディーバが如何にすごいかを聞くことになった。
リードは本当に、ディーバのことを尊敬しているようだ。
いつか自分もロックゴーレムと契約するのだと、そう豪語している。
実力もだいぶ上がってきたので、数年以内には達成したいとのこと。
どうやらリードは、自分の実力に相当自信があるみたいだ。
しかしそれでも、数年以内というのがひっかかる。
俺の場合倒せばそれでカード化できるが、本来はそれだけ難しいことなのだろう。
まあロックゴーレムはBランク下位だったと聞いたので、慎重に挑むのは当然か。
「にゃーん」
ちなみにレフは、馬車の中で俺の膝の上に座っている。
リードも最初はレフを見て、愛玩モンスターかと思っていた。
しかしレフがディーバのロックゴーレムを倒したと知ると、興奮する。
触らせてほしいと言ってきたので触らせたが、レフはとても嫌そうだった。
レフは俺を見ながら、さながら旦那のために体を売る妻のような心情を送ってくる。
なので仕方がなく、ほどほどにレフを俺の膝へと戻した。
リードは少し残念そうにしていたが、あまり他の人に触られるのは得意でないと言って、納得してもらう。
「にゃにゃにゃ」
そしてレフはというと、俺に体をこすりつけていた。
おそらくそれによって、リードに触られたのを上書きしているようである。
どうやらリードにというよりは、男に触られるのが嫌らしい。
女性であればそこまでではないと、レフは思念を送ってくる。
見た目は猫なのに、そんな事にこだわるとは不思議なやつだ。
そんなことがありつつも、ようやく目的地へと辿り着く。
「ジン君も、きっと驚くと思うよ」
リードがそう言って、先に馬車を降りた。
俺もそれに続くと、そこはまるで、牧場と大型施設が合わさったような場所だった。
「ここは……?」
「それはすぐにわかるよ。さあ、こっちだ」
俺はリードに連れられて、建物の一つに入っていく。
「これはこれはリード様。本日は何かお探しでしょうか?」
すると手もみしながら、中年の男性が現れる。
「今日は僕の友人であるこちらのジン君に、ここを見せに来たんだ。それと、アレに挑戦するつもりだよ」
「なるほど。私も微力ながら、成功を祈らせていただきます。それとジン様ですね。私はこのハパンナモンスター園を任されている、デガロと申します」
「冒険者のジンです」
リードがいる手前、口調をそのままで挨拶をした。
それよりも、モンスター園とはなんだろうか?
「そういう訳で、園の中を見させてもらうよ」
「承知いたしました。どうぞごゆるりとご覧くださいませ」
リードはそう言うと一度建物を出て、別の建物へと向かう。
当然俺も、それに続いた。
「そろそろ話してもいいかな。ここはモンスター園。主にモンスターを飼育しながら、販売や他の人から預かったりしている場所なんだ」
「飼育に販売、預かりですか」
テイマーやサモナーが多い国なので、あっても不思議ではない。
特にサモナーはここにモンスターを預けて、必要時に召喚しているのだろう。
「その通り、それと家が豊かな子は、大抵ここで最初の一匹を買うんだ」
「なるほど」
確かテイムや契約をするには、そのモンスターに認められる必要がある。
野生のモンスターよりは、断然認められやすいだろう。
ちなみにテイムはテイマーの使役方法の名称で、契約はサモナーの使役方法の名称である。
「まあ相性や容量を気にすのはもちろんだけど、初心者が強いモンスターといきなり契約することは、まずできない」
「確かに、そうでしょうね」
飼育されているといっても、そう簡単にはいかないようだ。
「でも野生のモンスターを使役するよりは、断然安全なんだ。僕も、ここで最初の一匹と契約したんだよ」
「そうなんですね」
「うん……」
そう口にするリードだが、どこか遠い目をしていた。
もしかしたら、その最初の一匹は既にいないのかもしれない。
そうして新たな建物に入り、リードが受付で何かを見せた後、先へと進む。
「実は今日、狙っているモンスターと契約をするつもりなんだ。ジン君には、それを見守っていてほしいんだよ」
「わかりました。私でよければ、見守らせていただきます」
どうやらリードの目的は、これまで挑戦したが失敗の続いているモンスターとの契約らしい。
またモンスターと契約することで、初めて売買が成立するとのこと。
仮に他の人が先に契約してしまった場合は、諦めるしかない。
そうして建物の反対側から出ると、まるで中は動物園のようだった。
様々な檻に、モンスターが入っている。
俺が見たことのないモンスターもおり、こうして眺めているだけでも面白い。
また檻には簡単な解説が書いてあり、生息場所も分かった。
俺がカード化するには一度倒す必要があるので、機会があれば一度生息場所に行ってみるのも良いかもしれない。
そんなことを思いながら歩いていると、俺はグリーンキャタピラーの檻に目がいく。
「キシャ? キシャシャ!!」
すると一匹のグリーンキャタピラーが、俺を見て飛び跳ねた。
何だこいつ? いや、待て……。
必死にアピールしてくるからか、以心伝心+で僅かだが思念が伝わってくる。
どうやらこのグリーンキャタピラーは、ノブモ村で少年に売られた個体、ジョンのようだった。
まさかの再会である。
グリーンキャタピラーのジョンは、俺に自分を買ってくれと言っているようだった。
「どうしたんだい? ああ、凄いね。あのグリーンキャタピラーは、相当ジン君の事を気に入ったみたいだ。あれなら、契約は簡単だよ」
リードはそう言うが、そもそもとしてグリーンキャタピラーは、正直いらない。
既に二十枚のカードを持っている。
それに鑑定してみたが、ジョンは通常個体でスキルに違いはない。
また値段も小金貨一枚と高かった。
利益や飼育費などがあるため仕方がないが、あの少年は相当安く買いたたかれたようだ。
加えて結局のところ、カード化できなければ買っても意味がない。
……いや、待てよ。
生きている個体をカード化できないと考えているのは、俺の固定概念という可能性もある。
ここまで好意的なモンスターであれば、可能性があるのではないか?
ダメなら言い訳として、契約できなかったかやはり気分が変わったと言おう。
それと以前少年が所持していた他人のモンスターだが、グリフォンの時のように何かを感じることは無かった。
おそらくスキルを何も覚えておらず、全く育っていないのが一因だと思われる。
また少年への信頼や愛情が無いのだろう。
まあ、囮にされた上に売られれば当然か。
俺は実験の意味も込めて、このグリーンキャタピラー、ジョンの購入を決めた。
それにここまで好意を向けられて、スルーするのは普通にかわいそうである。
「それじゃあせっかくなので、購入することにします」
そうして飼育員を呼び、ジョンを専用の部屋に連れてきてもらった。
「人の契約する姿は、いつ見てもワクワクするものだね」
当然なのだが、リードもそれに付き添っている。
まず契約の前に、先払いで小金貨一枚を払う。
契約できずに諦める場合には、戻ってくるようだ。
また事前に、必要事項を記入しておく。
一度契約した場合、返品はお断り的な感じだ。
そうして、ジョンと俺は向かい合う。
「キシャ!」
ジョンは、俺を見て喜んでいた。
売られたことで心細かったが、俺を見かけたことで興奮しているのだろう。
加えて一度あの森から救出したことも、理由の一つだと思われる。
さて、ここからどうしたものか。
そもそも、俺はサモナーの契約方法など見たことはない。
とりあえず、カード化する時のように右手を前に出して念じてみる。
だが、変化はない。
次に以心伝心+で心を通じ合わせ、カード化を受け入れるように念じてみる。
するとそれが正解だったのか、ジョンが承諾した瞬間に変化が起きた。
ジョンの体が光り、俺の右手に集まってくる。
そして気が付けば、ジョンはカードになっていた。
契約できたが、これはまずい。
「ジン君、そのカードはいったい何だい?」
当然のように、リードがそう問いかけてきた。
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