一瞬焦りはしたものの、こうなる可能性は一応考えていた。
なので平静を装い、質問への返事をする。
「私の契約は少し特殊でして、できればご内密にしていただけると助かります」
「なるほど。けど、少しは知りたいな。こんな契約初めて見たから、正直気になって仕方がないよ」
これは、少しは話した方がいいな。
だが、リードはいいとして……。
俺が飼育員に視線を向けると、リードが察したのかこう宣言した。
「ハパンナ子爵家の次男として命じる。このことは一切の他言無用である」
「しょ、承知いたしました!」
飼育員はそれを聞いて、慌てて首を縦に振った。
そしてジョンの購入手続きを完了させると、飼育員を部屋から出す。
するとこれで問題ないだろうと、リードは目を輝かせて俺の説明を待っていた。
話すのはいいが、流石に全てを話すことはできない。
特に倒したモンスターをカード化できるのは、この国、いやこの大陸で知られてはいけないだろう。
モンスターを使役する国だ。契約など関係なくモンスターを使役できると知れば、面倒は避けられない。
なので俺は少し内容を伏せながら、なるべく当たり障りのないように説明する。
「私の契約は、モンスターをカード化して保管することができるのです。なので場所をとらず、また私の魔力によって生命が維持されます。
それとカード化中は飲食も不要で、傷も少しずつ治っていく感じですね。普段はサモナーを装って、召喚や送還をしています」
現状話せるとすれば、これくらいだろう。
「す、凄い! まるで伝説のサモナーじゃないか! 大陸を統一した初代ドラゴルーラ王が、異空間に契約していたモンスターを入れていたのは有名な話だよ! ジン君のそれは、正にそのレベルに違いない!」
リードはそう言って、興奮を隠そうともしない。
大陸を統一した初代ドラゴルーラ王というのが気になるが、それを訊ける雰囲気ではなかった。
ドラゴルーラ王国という国があるので、それと関係しているのだろう。
おそらく過去には大陸を統一していたが、何らかの原因で分裂したと思われる。
そしてドラゴルーラ王国・オブール王国・ラブライア王国の三つの国になったという訳だ。
この予想は、間違っていないだろう。
俺がそんな関係のないことを考えている間も、リードはマシンの如く何かを話し続ける。
だが聞きなれない専門用語が連発するので、俺は上手く聞き取れなかった。
それからリードの興奮がようやく落ち着いたので、本来の目的場所へと向かう。
またリードが俺に向ける視線は、いつの間にか英雄を見た子供のようになっていた。
正直リードには悪いが、むず痒くて仕方がない。
それと俺のカード召喚術の能力を一部知られることになったが、知ったことで何か悪さをすることは無いだろう。
むしろ何か困ったら、力になってくれる気がする。
そうして道中会話を続けながら、俺たちは目的の場所に到着した。
これが、リードが狙っているモンスターか。
檻の中には、一匹のモンスターがいる。
それは一見カラスのようだが、サイズが倍ほど大きかった。
あれは確か、アサシンクロウというモンスターだっただろうか。
ノブモ村のギルドマスターであるザッパルトが、肩に乗せていたモンスターである。
俺はアサシンクロウを見て、そのことを思い出した。
また檻の近くには解説があり、名称も思った通りアサシンクロウである。
ランクはCで、リジャンシャン樹海に生息しているらしい。
この樹海は、ディーバがジャイアントサーペントを使役した場所だとも聞いていた。
ランクの高そうなモンスターが多そうだし、俺もいつか行ってみよう。
ついでに、鑑定もしてみる。
本来他人のモンスターを鑑定するのはマナー違反だが、モンスター園のモンスターは鑑定しても大丈夫とのこと。
種族:アサシンクロウ
種族特性
【闇属性適性】【闇属性耐性(小)】
【隠密】【暗殺】【追跡】【警戒】
【ナイトビジョン】
これはかなり優秀だな。
暗殺者としてだけではなく、護衛や偵察も十分できるだろう。
追跡は指定した相手の場所をしばらく追えるという効果であり、ナイトビジョンは夜中でも周囲を見通すことができるようだ。
警戒はフォレストバードも所持しており、同じ場所に留まる事で周囲への感知能力をあげることができる。
隠密と相性が良く、獲物を待ってから暗殺による不意打ち二倍ダメージで仕留めるのだろう。
それで倒せずに逃げる獲物は、追跡で追いかけるということか。
どうやらアサシンクロウというモンスターは、優秀なハンターのようである。
正直、かなりほしい。
だが流石に、ここで横取りをする訳にはいかない。
今回はおとなしく、諦めよう。
そうしている間に、飼育員がアサシンクロウを鷹匠のように腕に乗せてやってくる。
ずいぶんおとなしいが、それは足輪に秘密があった。
名称:仮契約の足輪
説明
仮契約を結ぶことで以下のことを制限する。
・脱走
・自傷
・自決
・許可なき攻撃行為
・許可なきスキル等の使用
飼育員の努力というのもあるだろうが、この足輪による制限があるからこそだろう。
またこれを上手く使えればモンスターの使役が簡単になりそうだが、そうはなっていない。
つまり、それができないだけの理由があるのだと思われる。
ちなみにジョンには足輪が無かったので、それなりに希少な物でもあるのだろう。
そんな事を考えながら広い草原まで移動すると、いよいよ契約のために何かが行われるようだ。
「ジン君見ててくれ、今日こそ契約してみせるよ」
「微力ながら、応援させて頂きます」
「ありがとう。ジン君の応援があれば、何だかいけそうな気がするよ」
リードはそう言うと、一匹のモンスターを召喚する。
「こい! ロッテン!」
「グオッ」
現れたのは、茶色い巨大な蜥蜴。
確か同種が、このモンスター園にもいたな。
Dランクのロックリザードというモンスターで、こんな能力をしていた。
種族:ロックリザード
種族特性
【地属性適性】【地属性耐性(小)】
【ストーンバレット】【物理耐性(小)】
こいつをアサシンクロウと戦わせて、勝てば認められるのだろうか?
俺がそう思っていると、飼育員がアサシンクロウを解き放つ。
「よし、行くぞ! ロッテン、五番だ!」
「グゴゴ!」
するとディーバの弟子らしく、命令を番号で行うようだ。
巨大な蜥蜴であるロッテンは、その指示を聞いて口から石の弾丸を飛ばす。
おそらくあれは、ストーンバレットだろう。
それをアサシンクロウは空中で簡単に回避すると、急降下してロッテンの背中を鋭い爪で引っかいた。
「ギャオッ!」
鋭い痛みを感じたのか、ロッテンが悲鳴を上げる。
もし仮にアサシンクロウが暗殺を発動できていたら、あれで終わっていたかもしれない。
だが、リードもこれは予想していたようだ。
「ロッテン、八番だ!」
「グガァ!」
するとロッテンから、小さな石が雨のように発射される。
「ガァ!?」
至近距離から無数の攻撃を受けたアサシンクロウは、流石に避け切れない。
耐久力自体はあまり無いのか、アサシンクロウはそれで動きがぎこちなくなる。
普通ならここからが勝負の本番だが、今回の目的は契約だ。
リードは前に出ると、アサシンクロウと見つめ合う。
何となく、思念のようなものがやり取りされている気がする。
それはほんの数秒の事だったが、アサシンクロウはゆっくりとリードの前に着地した。
対してリードはアサシンクロウに右手をかざし、契約の言葉を口にする。
「リード・ハパンナの名をもって命ずる。汝は我が友となり、障害の悉くを退ける爪となれ。さすれば我は、汝に安息の地を与えるだろう。この命に従うのであれば、今この時、汝と我の契約は為される。この熱い意思を受け入れよ!」
「ガァ!」
そしてアサシンクロウが声を上げた瞬間、一瞬アサシンクロウの体が光る。
「や、やった。契約できた! 君の名前はアサンサだよ!」
リードは喜びの声を上げて、アサシンクロウを持ち上げた。
初めてサモナーの契約を見たが、ここまで盛大なのか。
俺は無言でカード化してしまったが、それはおかしいことなのかもしれない。
それとサモナーがモンスターを使役するのは、ここまで大変だという事を知った。
おそらく、テイマーも同様だろう。
そんなモンスターをカード化して奪うのは、やはり止めることにして正解だったな。
ジョンのように売られてしまったのは例外だが、改めて敵だとしても、他人のモンスターをカード化する気が無くなった。
敵だとしても、今後はせめて主人と共に葬るのが情けだろう。
目の前の光景を見ればより強く、そう思った。
それからしばらくの間、リードはアサシンクロウと契約できたことを喜び続ける。
落ち着いても、送還せずに抱いたり腕に乗せたりして、連れていくようだ。
ちなみに契約した瞬間、足輪は自然と外れた。
また飼育員から、専用のグローブを買い取っている。
でなければリードの腕は、今頃大変なことになっていただろう。
その後は軽くモンスター園を回って楽しんだあと、屋敷に帰ることになった。
帰りの道中で、契約の言葉についてそれとなく訊いてみる。
すると契約のやり方は人それぞれで、俺のように無言の人もいるようだ。
ただ貴族はこうした契約の時、専用の言葉を唱えるものだという。
一応形式は決まっており、多少のオリジナリティを出すだけらしい。
リードは我が友と言っていたが、中には我が配下や我が駒という者もいるようだ。
他にも退ける爪の部分を、牙や剣といった風に言うとのこと。
ちなみにテイマーのテイムは、基本無言かテイムと口にするだけらしい。
中にはサモナーのように唱える者もいるが、少数のようだ。
そうした契約やテイムについての話を聞きながら、俺は無事屋敷へと戻るのだった。
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