065 ハパンナモンスター園

 一瞬あせりはしたものの、こうなる可能性は一応考えていた。

 なので平静を装い、質問への返事をする。

「私の契約は少し特殊でして、できればご内密にしていただけると助かります」
「なるほど。けど、少しは知りたいな。こんな契約初めて見たから、正直気になって仕方がないよ」

 これは、少しは話した方がいいな。

 だが、リードはいいとして……。

 俺が飼育員に視線を向けると、リードが察したのかこう宣言した。

「ハパンナ子爵家の次男として命じる。このことは一切の他言無用である」
「しょ、承知いたしました!」

 飼育員はそれを聞いて、慌てて首を縦に振った。

 そしてジョンの購入手続きを完了させると、飼育員を部屋から出す。

 するとこれで問題ないだろうと、リードは目を輝かせて俺の説明を待っていた。

 話すのはいいが、流石に全てを話すことはできない。

 特に倒したモンスターをカード化できるのは、この国、いやこの大陸で知られてはいけないだろう。

 モンスターを使役する国だ。契約など関係なくモンスターを使役できると知れば、面倒は避けられない。

 なので俺は少し内容を伏せながら、なるべく当たり障りのないように説明する。

「私の契約は、モンスターをカード化して保管することができるのです。なので場所をとらず、また私の魔力によって生命が維持されます。
 それとカード化中は飲食も不要で、傷も少しずつ治っていく感じですね。普段はサモナーを装って、召喚や送還をしています」

 現状話せるとすれば、これくらいだろう。

「す、凄い! まるで伝説のサモナーじゃないか! 大陸を統一した初代ドラゴルーラ王が、異空間に契約していたモンスターを入れていたのは有名な話だよ! ジン君のそれは、正にそのレベルに違いない!」

 リードはそう言って、興奮を隠そうともしない。

 大陸を統一した初代ドラゴルーラ王というのが気になるが、それを訊ける雰囲気ではなかった。

 ドラゴルーラ王国という国があるので、それと関係しているのだろう。

 おそらく過去には大陸を統一していたが、何らかの原因で分裂したと思われる。

 そしてドラゴルーラ王国・オブール王国・ラブライア王国の三つの国になったという訳だ。

 この予想は、間違っていないだろう。

 俺がそんな関係のないことを考えている間も、リードはマシンのごとく何かを話し続ける。

 だが聞きなれない専門用語が連発するので、俺は上手く聞き取れなかった。
 
 それからリードの興奮がようやく落ち着いたので、本来の目的場所へと向かう。

 またリードが俺に向ける視線は、いつの間にか英雄を見た子供のようになっていた。

 正直リードには悪いが、むず痒くて仕方がない。

 それと俺のカード召喚術の能力を一部知られることになったが、知ったことで何か悪さをすることは無いだろう。

 むしろ何か困ったら、力になってくれる気がする。

 そうして道中会話を続けながら、俺たちは目的の場所に到着した。

 これが、リードが狙っているモンスターか。

 檻の中には、一匹のモンスターがいる。

 それは一見カラスのようだが、サイズが倍ほど大きかった。 

 あれは確か、アサシンクロウというモンスターだっただろうか。

 ノブモ村のギルドマスターであるザッパルトが、肩に乗せていたモンスターである。
 
 俺はアサシンクロウを見て、そのことを思い出した。

 また檻の近くには解説があり、名称も思った通りアサシンクロウである。

 ランクはCで、リジャンシャン樹海に生息しているらしい。

 この樹海は、ディーバがジャイアントサーペントを使役した場所だとも聞いていた。

 ランクの高そうなモンスターが多そうだし、俺もいつか行ってみよう。

 ついでに、鑑定もしてみる。

 本来他人のモンスターを鑑定するのはマナー違反だが、モンスター園のモンスターは鑑定しても大丈夫とのこと。
 

 種族:アサシンクロウ
 種族特性
【闇属性適性】【闇属性耐性(小)】
【隠密】【暗殺】【追跡】【警戒】
【ナイトビジョン】

 これはかなり優秀だな。

 暗殺者としてだけではなく、護衛や偵察も十分できるだろう。

 追跡は指定した相手の場所をしばらく追えるという効果であり、ナイトビジョンは夜中でも周囲を見通すことができるようだ。

 警戒はフォレストバードも所持しており、同じ場所に留まる事で周囲への感知能力をあげることができる。

 隠密と相性が良く、獲物を待ってから暗殺による不意打ち二倍ダメージで仕留めるのだろう。

 それで倒せずに逃げる獲物は、追跡で追いかけるということか。

 どうやらアサシンクロウというモンスターは、優秀なハンターのようである。

 正直、かなりほしい。

 だが流石に、ここで横取りをする訳にはいかない。

 今回はおとなしく、諦めよう。

 そうしている間に、飼育員がアサシンクロウを鷹匠たかじょうのように腕に乗せてやってくる。
 
 ずいぶんおとなしいが、それは足輪に秘密があった。

 名称:仮契約の足輪
 説明
 仮契約を結ぶことで以下のことを制限する。
 ・脱走
 ・自傷
 ・自決
 ・許可なき攻撃行為
 ・許可なきスキル等の使用

 飼育員の努力というのもあるだろうが、この足輪による制限があるからこそだろう。

 またこれを上手く使えればモンスターの使役が簡単になりそうだが、そうはなっていない。

 つまり、それができないだけの理由があるのだと思われる。

 ちなみにジョンには足輪が無かったので、それなりに希少な物でもあるのだろう。

 そんな事を考えながら広い草原まで移動すると、いよいよ契約のために何かが行われるようだ。

「ジン君見ててくれ、今日こそ契約してみせるよ」
「微力ながら、応援させて頂きます」
「ありがとう。ジン君の応援があれば、何だかいけそうな気がするよ」

 リードはそう言うと、一匹のモンスターを召喚する。

「こい! ロッテン!」
「グオッ」

 現れたのは、茶色い巨大な蜥蜴とかげ

 確か同種が、このモンスター園にもいたな。

 Dランクのロックリザードというモンスターで、こんな能力をしていた。

 種族:ロックリザード
 種族特性
【地属性適性】【地属性耐性(小)】
【ストーンバレット】【物理耐性(小)】

 こいつをアサシンクロウと戦わせて、勝てば認められるのだろうか?

 俺がそう思っていると、飼育員がアサシンクロウを解き放つ。

「よし、行くぞ! ロッテン、五番だ!」
「グゴゴ!」
 
 するとディーバの弟子らしく、命令を番号で行うようだ。

 巨大な蜥蜴であるロッテンは、その指示を聞いて口から石の弾丸を飛ばす。

 おそらくあれは、ストーンバレットだろう。

 それをアサシンクロウは空中で簡単に回避すると、急降下してロッテンの背中を鋭い爪で引っかいた。

「ギャオッ!」

 鋭い痛みを感じたのか、ロッテンが悲鳴を上げる。

 もし仮にアサシンクロウが暗殺を発動できていたら、あれで終わっていたかもしれない。

 だが、リードもこれは予想していたようだ。

「ロッテン、八番だ!」
「グガァ!」

 するとロッテンから、小さな石が雨のように発射される。
 
「ガァ!?」

 至近距離から無数の攻撃を受けたアサシンクロウは、流石に避け切れない。

 耐久力自体はあまり無いのか、アサシンクロウはそれで動きがぎこちなくなる。

 普通ならここからが勝負の本番だが、今回の目的は契約だ。

 リードは前に出ると、アサシンクロウと見つめ合う。

 何となく、思念のようなものがやり取りされている気がする。

 それはほんの数秒の事だったが、アサシンクロウはゆっくりとリードの前に着地した。

 対してリードはアサシンクロウに右手をかざし、契約の言葉を口にする。

「リード・ハパンナの名をもって命ずる。なんじは我が友となり、障害のことごとくを退ける爪となれ。さすれば我は、汝に安息の地を与えるだろう。この命に従うのであれば、今この時、汝と我の契約は為される。この熱い意思を受け入れよ!」
「ガァ!」

 そしてアサシンクロウが声を上げた瞬間、一瞬アサシンクロウの体が光る。

「や、やった。契約できた! 君の名前はアサンサだよ!」

 リードは喜びの声を上げて、アサシンクロウを持ち上げた。

 初めてサモナーの契約を見たが、ここまで盛大なのか。

 俺は無言でカード化してしまったが、それはおかしいことなのかもしれない。

 それとサモナーがモンスターを使役するのは、ここまで大変だという事を知った。

 おそらく、テイマーも同様だろう。

 そんなモンスターをカード化して奪うのは、やはり止めることにして正解だったな。

 ジョンのように売られてしまったのは例外だが、改めて敵だとしても、他人のモンスターをカード化する気が無くなった。

 敵だとしても、今後はせめて主人と共に葬るのが情けだろう。

 目の前の光景を見ればより強く、そう思った。

 それからしばらくの間、リードはアサシンクロウと契約できたことを喜び続ける。

 落ち着いても、送還せずに抱いたり腕に乗せたりして、連れていくようだ。

 ちなみに契約した瞬間、足輪は自然と外れた。

 また飼育員から、専用のグローブを買い取っている。

 でなければリードの腕は、今頃大変なことになっていただろう。

 その後は軽くモンスター園を回って楽しんだあと、屋敷に帰ることになった。

 帰りの道中で、契約の言葉についてそれとなく訊いてみる。

 すると契約のやり方は人それぞれで、俺のように無言の人もいるようだ。

 ただ貴族はこうした契約の時、専用の言葉を唱えるものだという。

 一応形式は決まっており、多少のオリジナリティを出すだけらしい。

 リードは我が友と言っていたが、中には我が配下や我がこまという者もいるようだ。

 他にも退ける爪の部分を、牙や剣といった風に言うとのこと。

 ちなみにテイマーのテイムは、基本無言かテイムと口にするだけらしい。

 中にはサモナーのように唱える者もいるが、少数のようだ。

 そうした契約やテイムについての話を聞きながら、俺は無事屋敷へと戻るのだった。

 

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