062 巣穴についての依頼報告

 ハパンナの街に戻ってきた俺は、さっそくギルドで報告を行う。

 すると専用の部屋で聞き取りをするという事なので、移動した。

 そこで女性の職員に、ソイルワームの巣穴について話す。

「えっと、もう一度言っていただけますか?」
「ああ、ソイルワームの巣を殲滅せんめつした。加えて上位種のソイルセンチピートの使役に成功した」
「……本当に?」
「本当だ」

 やはりというべきか、簡単には信じてくれそうにない。

 なので実際に召喚してみせると言うと、俺はギルドの練習場に連れてこられた。

 そこには多くの冒険者がおり、モンスターを連れている。

「ここでお願いします」
「一応言っておくが、何か起きても責任は取らないからな」
「構いませんので、早くお願いします」

 あの見た目のモンスターを出すことについて警告したつもりだが、どうやら俺が嘘をついていると思っているらしい。

 まあ、今から召喚すれば問題ないか。

「出てこい」
「ギシャーー!!」

 そうしてギルドの練習場に、ソイルセンチピートが現れる。

「ひぃいい!」
「何だこいつ!!」
「気持ち悪い!」

 すると思っていた通り、周囲は阿鼻叫喚の嵐になった。

 長さの違うムカデの足を全身に生やした巨大なミミズだし、これも仕方がない。

 加えて正面には、ヤツメウナギのような歯が並んだ口がある。

 人など、簡単に嚙み潰して飲み込めるサイズだ。

 ワシャワシャと動くその足は、生理的な嫌悪感がする者もいるだろう。

 しかし中には初めて新幹線を見た子供のように、目を輝かせている人たちもいる。

 その者たちの背後には、虫系のモンスターがいた。

 つまり、そういう事だろう。

「これでいいか?」
「……」
「気絶してる……」

 女性ギルド職員は、立ったまま気絶していた。

 なのでこれはどうしたものかと考えていると、そこに一人の男性がやって来る。

「騒がしいと思い来てみれば、君ですか。それにこれは、ソイルセンチピートですね……」
「あんたは確か……」
「はい。本日一度お会いしましたね。私はこのギルドでサブマスターをしている、ラルドと申します」

 そう俺に名を告げたのは、面倒な奴らを引き取ってくれたギルド職員のラルドだった。

 どうやら、このギルドのサブマスターでもあったらしい。

「それで、この状況を説明していただけますか?」
「ああ、分かった」

 顔は笑顔だが、何とも言えない迫力がある。

 俺はこれまでの流れを、できるだけ丁寧に説明した。

「なるほど、話は分かりました。ちなみにこのソイルセンチピートの送還先は、元の巣穴ですか?」
「いや、詳しくは言えないが、別の場所だ」

 まさかカードになっているとは言えず、そう言葉をにごす。

「……分かりました。君の実力は私も見ましたからね。信じましょう。一応、巣穴から持ってきた物も確認できれば、私の権限で依頼を達成にしましょう」
「助かる」

 そうして一度ソイルセンチピートを送還すると、次にギルドの解体場へと向かう。

 ちなみに女性職員は途中で気を取り戻し、ラルドと一緒について来ている。

「あれ? サブマスターがわざわざどうしたんですか?」
「ああ、この少年、ジン君がソイルワームの巣穴を潰したようでね。持ち帰ったものの確認のため、この場所に来たんだ」

 そう言ってラルドに話しかけてきたのは、解体場にいた中年の男性。

「なるほど。ジンといったか。数はどれくらいあるんだ?」
「おそらく百は余裕で超えるな」
「ひゃ、百? それならこっちだ」

 男性はその数に驚きながらも、広いスペースに誘導する。

「ここに出せばいいのか?」
「ああ。出してくれ」

 俺は言われた通り、百を余裕で超えるソイルワームの死骸をストレージから取り出す。

「これは……凄いですね」
「流石に気持ち悪いな……」
「ひぃい」

 ラルドと解体場の男性は顔を歪ませ、ついてきた女性職員は悲鳴を上げた。

「他にも卵百個と幼体の死骸を数百匹分確保してあるが、どうすればいい?」
「卵ですか。それはかなり貴重ですね。虫使いが欲しがるでしょう。ギルドでも買い取れますが、一度その者たちに声をかけてみてください。幼体は特定のモンスターの餌などになりますので、そちらはすべて買い取ります」
「わかった」

 俺はそう返事をすると、追加で幼体の死骸を数百匹取り出す。

 そんな幼体の見た目は成体とほとんど変わらず、大きさだけが違う。

 小さいものはペットボトルサイズから始まり、大きいと子供ほどのサイズまでと幅広い。

 だがそれでもステータス上はソイルワームと変わらず、種族名も同様だった。

 それなら、成体のカード化で十分である。

 加えて正直俺もソイルワームの見た目はあまり好みではないので、わざわざ育てようとも思わない。

 仮に育てることになっても、かなり後回しになるだろう。

 そんなことを考えながら、次に俺は卵を欲しがりそうな虫使いについて意識を回す。

 確かギルドの練習場に、そんな奴らがいたな。

 おそらく、ソイルセンチピートに熱い眼差しを向けていた者たちだろう。

 そうした者に卵を渡した方が、後々ギルドにとっても利益になると判断したのかもしれない。

 加えて、ギルドがさばく前に孵化したら一大事だしな。

「ちなみに、卵は元々どれくらいあったのですか? おそらく持ってきた数より多いはずです」
「ああ、正確には数えていないが、だいたい千個くらいはあったかもしれない。幼体も含めて全て処理したから、巣穴に生き残りはほぼ存在していないと思う」

 あれは、おぞましい数だった。

 放っておけば、ソイルワームは爆発的に増えていただろう。

「なるほど。それは危なかったです。ソイルセンチピートは巣穴が安定すると、一気に数を増やそうとしますからね」
「こんなのが千匹か……絶対にそんな巣穴行きたくはねえな」
「わ、わたしもですぅ……」

 どうやら思っていた以上に、状況は緊迫していたようだ。

 まあ俺が処理しなくても、幼体が育つまでしばらくの猶予はあったと思うが。

「さて、ソイルワームの確認もできましたし、この依頼は達成でいいでしょう。成果も十分すぎる程です。依頼ランクも、EからBランクに変更します」
「それはありがたい」
「いえいえ。それほどの成果ですよ。君は末恐ろしいですねぇ」

 そうして、ソイルワームの巣穴に関する依頼は終わった。

 なお当然二重取りが発動して、報酬と貢献度が倍増している。

 三つ上のBランクの依頼になったので、かなりおいしい。

 これが元々Eランク依頼だったのは、調査に重きを置いていたからだ。

 それにソイルワーム自体は、そこまで強くはない。

 ある程度巣穴を探索して、ソイルワームを十匹倒せば完了の依頼である。

 それを壊滅させて、上位種を使役すればこうなるのも当然だ。

 ちなみに使役した個体は、討伐したのと同様に処理されるみたいである。

 これは、モンスターを使役する国ならではのルールかもしれない。

 またソイルワームの卵については、虫使い以外にも欲しがる者が多くいた。

 訊けば、虫系はそもそも使役するのが難しいらしい。

 それが卵の状態であれば、自分の魔力を馴染ませ続けることで使役がしやすくなるとのこと

 しかし必ずではないので、せめて数個は確保したいと虫使いたちは言っていた。

 なので最終的にまずは一人に三個ずつ売り、それ以上欲しい者たちは競りで落とすという事に決まる。

 俺はそういうのは不得意なので、得意そうなやつに卵数個と引き替えに仕切らせた。

 そうしてソイルワームの卵を無事に全て売り切り、ようやく解放された時には外は真っ暗である。

 これは、遅くなりすぎたかもしれない。

 そんなことを思いながらギルドを出ると、なぜかセヴァンがいた。
 
 どうやら、ラルドが気を利かせて呼んでくれたらしい。

 当然馬車も用意されていたので、俺はそれに乗って屋敷へと帰る。

 途中ダンジョンで手に入れた物を売りそびれたと思ったが、それはまた別の機会にすることにした。

 あれだけのソイルワームを処理している中で大量に追加するのは、流石にかわいそうだ。

 それに、明後日にはグレートキャタピラーも控えている。

 あの解体場の男性は、これから大仕事になるはずだ。

 なので、どうか頑張ってほしい。

 そんな風に解体場の男性に対して、俺は心の中でエールを送るのだった。

 

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