061 ソイルワームの巣穴

 あれから再び屋敷を出た俺は、街を出て現在森の中にいた。

 この森のとある場所に、ソイルワームの巣穴があるらしい。

 地図を見ながら、俺は先へと進む。

「にゃーん!」

 それと俺の側には、大型犬サイズに縮小したレフがいる。

 どうやら縮小のスキルは、ある程度小さくする大きさを選べるようだ。

 森の中で猫サイズだと逆に不便なので、これくらいがちょうど良い。

 それと小さくなると、その分身体能力が下がるようだ。

 といっても、ゴブリン程度では相手にならないが。

「にゃっ!」
「ゴブァ!?」

 今もレフが、ゴブリンの首をダークネスチェインで締め千切った。

 ロックゴーレムの時は動きを束縛する程度だったが、こうした使い方もできるらしい。

 意外と恐ろしいスキルだった。

 また魔力自体は小さくなっても変わらないので、本来の威力のままである。

「キィ!」
「ごばっ!?」

 それと新しく育てることにしたジャイアントバットにも、戦闘をさせていた。

 日中行動のスキルを持っているので、期待を込めて”サン”という名前をつけている。

 いずれ太陽にも負けない、立派な吸血鬼になってほしい。

 それから二匹を連れて、森の中を進んだ。

 また奥に進めば進むほど、見たことのないモンスターが増えていく。

 種族:フォレストバード
 種族特性
【集団行動】【警戒】

 種族:ドローンビートル
 種族特性
【物理耐性(小)】【顎強化(小)】

 種族:ポイズンスクワール
 種族特性
【毒牙】【毒耐性(小)】【姿隠し】

 まずフォレストバードは、緑色の小鳥である。

 戦闘能力は低く、集団で行動していた。

 スキルの警戒は気配感知と似ているが、少し違う。

 警戒は同じ場所にいると効果が上昇するが、移動中には効果が低下する。

 小さく密偵として使えそうなので、見つけ次第カード化していく。

 次にドローンビートルだが、簡単に説明すると子犬サイズのカナブンである。

 攻撃方法は噛みついてくるくらいしかないが、好戦的で俺を見つけ次第飛んでくるので面倒な虫だ。

 特に使い道を思いつかないザコモンスターだが、一応十枚は確保しておく。

 最後にポイズンスクワールは、毒の牙を生やしたリスである。

 大きさも普通のリスと大差ないが、姿隠しで気配を消してから襲い掛かってくるので、注意が必要だ。

 まあそもそも俺にこの程度の毒は効かず、噛みつかれても甘噛み程度にしか感じないので、こいつもザコモンスターである。

 暗殺要員として少しは役に立つかもしれないので、二十枚ほどの確保を目指す。

 森で遭遇した初見のモンスターたちはザコばかりだが、それでも楽しい。

 カードの種類が増えていくだけで、俺は満足だ。

 やはりダンジョンだけではなく、こうした森の中の探索も今後は増やしていこう。

 そうしてカードを増やしながら、俺は森の中を進むのだった。

 ◆

 地図だと、ここら辺にあるはずだが……。

 ソイルワームの巣穴を探しながら、俺は森の中を彷徨さまよい続ける。

 モンスターに道案内をさせようとしても、行ったことがある場所しか分からないようだった。

 加えてソイルワーム自体も知らないようであり、俺も知識がないので説明できずに困ってしまう。

 どうやら自然種はダンジョン種と違って、持っている情報が少ないようだった。

 ダンジョン種は生み出された瞬間に、ある程度の情報がインストールされているようだが、自然種にはそれがない。

 これは、地道に探すしかないか。

 だがソイルワームというくらいだし、細長い見た目をした虫だろう。

 そう思った俺は、道中手に入れたフォレストバードを複数放つ。

 今思い浮かんだ情報を思念で伝え、似たようなモンスターを探すように命じる。

「「「ぴぴぃ!」」」

 フォレストバードたちは俺の命令に答えて、綺麗な声を上げるとそれぞれ飛んで行った。

 地図だとこの辺りだし、しばらくすれば見つかるだろう。

 そうして数分経つと、早くもフォレストバードから連絡が入る。

 もう見つけたのか。

 思ったよりも、近くに巣があったみたいだ。

 それからフォレストバードのいる方向へと進み、俺はようやくソイルワームの巣穴を見つける。

 ふむ。あれがソイルワームか。

 見た目は茶色いミミズであり、先端に鋭い歯が並ぶ口があった。

 種族:ソイルワーム
 種族特性
【地属性適性】【地属性耐性(小)】
【顎強化(小)】

 
 大きさは、成人男性一人分という感じだろうか。 

 能力的には、ザコモンスターである。

 しかし大きさも相まって、ゴブリンよりは強そうだ。

 とりあえず緑斬リョクザンのウィンドソードを抜くと、ウィンドカッターを剣先から飛ばした。

 ソイルワームはそれにより呆気なく両断されるが、それでも即死せずにグネグネとのたうち回っている。

 正直、見ていて気持ちが悪い。

 だが少しすると息絶えたので、俺はいつも通りにソイルワームをカード化しておく。

 さてと、問題の巣穴についてだが、大きさは普通に人が通れる大きさのようだ。

 これは、ソイルワームの大きさにすると違和感がある。

 だが依頼では、上位種の存在についての確認もあったはずだ。

 つまり、この大きさを空けるだけのモンスターがいることになる。

 上位種の討伐は明記されていなかったが、見つけたら倒すことにしよう。

 そう思いながら、俺は久々に生活魔法の光球を浮かべると、巣穴の中を進む。

 ダンジョンの壁には光る石が埋め込まれているが、この巣穴はそれが無くとても暗いのだ。

「キシャー!」

 すると目の前にソイルワームが何匹も現れるので、斬り伏せてはカード化していく。

 レフとサンにも戦わせて、順調に探索を進めた。

 奥に進めば進むほど、ソイルワームの数が増えていく。

 気が付けば二十匹もカード化していたので、残りはストレージに送っていった。

 そしていくつかの分かれ道を順番に確認していくと、広い部屋に出る。

 見ればそこには大量の卵らしきものが並んでおり、無数のソイルワームがそれを守っていた。

 まるで、アリのような生態である。

 そんなことを考えながら、卵と幼虫もろともソイルワームを処理していった。

 他にも似たような部屋がいくつかあり、順調に潰していく。

 一応証拠と何かに使えるかもしれないので、卵を百個ほど確保した。

 またこの時気が付いたことだが、孵化前であれば卵もストレージに入るようである。

 そうして処理していくことしばらく、俺は巣穴の奥で上位種を発見した。

 うわっ……これは流石に気持ち悪いな。

 広々とした巣穴の奥にいたのは、巨大なソイルワーム。

 だが普通とは違い、体中に長さの違うムカデのような足を数千、いや下手すると数万の規模で生やしていた。

 それが絶え間なくワシャワシャと動いており、人によっては見れば卒倒してしまうだろう。

 種族:ソイルセンチピート
 種族特性
【地属性適性】【地属性耐性(中)】
【顎強化(中)】【食い溜め】
【眷属出産】【集団指揮】

 能力的には、眷属であるソイルワームに命令を下し戦わせるタイプのようだ。

 直接戦闘は、そこまで得意ではないだろう。
 
 しかしその眷属も、道中で既にほぼ全てを討伐済みである。

 なので周囲に残っているソイルワームを処理すれば、あとはコイツだけだ。

 であるならば、ここは一つ試してみることにしよう。

 俺は瞬く間に残りのソイルワームを処理すると、さっそく実験を行うことにした。

「ギシャア!!」

 まずは暴れ狂うソイルセンチピートを、レフのダークネスチェインで束縛して動けなくする。

 次に行うのは、緑斬リョクザンのウィンドソードをサンに使わせることだ。

 といっても、サンは当然剣を持つことができない。

 なので生活魔法の土塊で台を作り、剣先が敵に向くような形で固定する。

 そして剣の上に乗ったサンに、ウィンドカッターを発動させるという試みだ。

 この剣は適性が無くても、装備中に限りウィンドとウィンドカッターを使える。

 俺は普段剣を振ったときに合わせて発動しているが、剣先からも飛ばせることは確認済みだった。

 なので装備されていると判定されれば、サンでもウィンドカッターを発動できるはずなのだ。

「キキィ」

 しかし俺の考えは甘かったのか、サンは発動のしかたが分からずに戸惑っている。

 ふむ。使い方が分からないのか。

 まあ、当然だな。

 ならハイオークの時と同様に、俺がサンを操作して実践してみよう。
 
 全感共有や以心伝心+などを活用して、サンの体を動かす。

 やはり人型じゃないからか、操作が難しいな。

 だが、発動自体はできそうだ。

 問題は発動に必要な魔力が、一回分あるかどうかだ。

 よし、いけそうだ。サン。この感覚を忘れるなよ。

 そうして緑斬リョクザンのウィンドソードが能力を発動し、ウィンドカッターを飛ばした。

「ギシャア!!」

 直撃したソイルセンチピートワームは、緑色の液体を垂れ流しながら金切り声を上げる。

 だがまだまだ元気そうであり、倒れる様子はない。

「キキィ」
「魔力が切れたようだな。これを飲め」

 俺は自分の腕を自傷して、血を流す。

 サンには吸血という種族特性のスキルがあり、血を飲むことで体力や魔力を回復することができる。

 ただ俺の肉体にサンの牙が通る事はないので、自傷する必要があった。

「キキィ!」

 するとサンは、嬉しそうに俺の血をペロペロと舐める。

 そして少し舐めただけで全回復したのか、俺の手を借りずにウィンドカッターを発動して見せた。

 またそれだけに留まらず、連続で二発、三発と続けて発動させる。

 加えてなぜか、威力も高くなっていた。
 
 うーむ。これは、デミゴッドの血を飲んだ影響かもしれないな。

 おそらく一時的なものだろうが、俺の血を飲むことで強化されたらしい。

 全容は掴めないが、少なくとも魔力関係は見た通り上昇している。

 これは、絶対に知られてはいけないことが増えたな。

 そんなことを思いつつも、サンに何度もウィンドカッターを使わせる。

 ちなみに腕の傷は再生で塞がってしまうので、俺は毎回自傷行為をすることになった。

 またレフもなぜか羨ましそうに鳴き声を上げたが、今あげて敵を絞め殺されてはいけないので、今度という事で我慢させている。

 それから数十発のウィンドカッターを発動させた後、ようやくソイルセンチピートが息絶えた。

 とてもしぶとかったが、これでほぼサンだけでの討伐に成功する。

 俺の血の強化が無ければ、あと数時間は平気でかかっていただろう。

 そしてこの後の問題は、このソイルセンチピートをどうするかになる。

 カード化してしまうと、上位種の報告時に困ってしまう。

 この巣穴の大きさから、ギルドも上位種がいることをおおよそ把握していたはずだ。

 上位種と契約したと言ったとして、果たして通るだろうか?

 正直持っていないカードが欲しいという気持ちと、気持ち悪いし戦力としても微妙だからいらないという気持ちがあるんだよな。

 うーん。いつか地中を掘り進むときに使えるか?

 まあ、ギルド職員のラルドにはホワイトキングダイルも既に見せているし、どうにかなると信じよう。

 俺はそう決断して、ソイルセンチピートをカード化するのだった。

 また一応サンをカードに戻してみたが、残念ながら進化のきざしはない。

 けれども今日育て始めたばかりなので、仕方がないと切り替える。

 あとは運悪くも喰われたのか、人の残骸だと思われるものがあったので回収しておく。

 冒険者証も落ちており、駆け出しのようである。

 経緯は分からないが、ここは駆け出しが来るには遠い。

 調子に乗って、森の奥へと進んでしまったのだろうか?

 そんなことを思いながら、俺は念のために生き残りがいないかもう一度巣穴を回る。

 すると多少の生き残りがいたのでそれを処理してから、俺は巣穴を脱出するのだった。

 

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