「分かった、試合を受けよう。ただし、場所は俺が決めさせてもらう」
「ああ、構わないぜ!」
「よし! 早く案内しろ!」
「ひゃひゃっ! とうとう観念したか!」
「もうあのホブゴブリンは俺の物だ」
騒がしい男たちが承諾したので、俺はとある場所へと向かう。
道中男たちは文句を言いながらも、しっかりとついてきた。
肝が太いのか、それとも馬鹿なのだろうか。
だが次第に、その勢いもおとなしくなっていく。
「おい、どこに行く気だ?」
「待て、ここって……」
「え? ちょっとヤバくないか?」
「だまれ、勝てばいいんだよ。俺たちは何も罪を犯してねえ」
そうして連れてきたのは、ハパンナ子爵の領主邸。
「あれ、ジン君どうした……そいつらは何だ?」
屋敷に戻ってくると、運良く出会ったディーバが怪訝な表情を浮かべる。
「ああ、俺の二次予選の出場権とホブゴブリンが欲しいみたいでな。試合しなければ一日中粘着してくるらしい。だから仕方がなく試合をしようと思ってな。けど良い場所が思いつかなくて、連れてきてしまった」
「……なるほど。承知した。練習場を貸そう。存分にやってくれ」
そう言ってディーバが笑みを浮かべると、その場から去っていく。
正直連れてくるのは途中で少し問題かと思ったが、練習場を快く貸してくれるようだ。
「おい、あれってディーバさんじゃ……」
「嘘だろ……」
「おい、どうするんだよ……」
「う、うるさい。ここまで来たらやるしかないだろ!」
どうやらディーバは有名人だったようで、男たちの焦りは先ほどの比ではない。
「こっちだ。ついてこい」
俺は四人に声をかけて、練習場へと向かう。
「ジン君。ちょうど良いから皆で見学させてもらうぞ」
「ああ、構わない」
すると練習場には、多くの兵士たちが集まっていた。
仕事は良いのかと一瞬思ったが、ここにいるのは練習場を先ほどまで使っていた者たちのようだ。
「いまから無かったことには……」
「どうするんだよ、本当に」
「だから俺は止めとこうって言ったんだ」
「か、勝てばいいんだ。勝てば問題ない!」
そうして試合を行うことになるが、まずは確認しておく必要がある。
「俺が負ければ二次予選の札を渡すことになっているが、お前らは負けたら何を差し出すんだ? ああちなみにだが、俺は他人のモンスターはいらないからな」
先にそう言って返事を待つと、男たちが慌てだす。
「ま、待て。そうなると俺たちに出せるものはない」
「そ、そうだ。賭けは不成立だ。だからこの試合は無しってことで」
「俺も同じだ。へへ。申し訳ねえな」
この期に及んで、試合から逃げようとするのか。
どうしようもない奴らだな。
しかし、それを見ていたディーバが口を挟む。
「冒険者証だ。出すものが無ければ冒険者証を賭ける。それが昔からのルールだろ。見届け人にちょうど知り合いのギルド職員を呼んでいるから、安心して待っていろ」
ディーバが悪そうな笑みを浮かべて、そう言った。
「へ……」
「そ、そんな……」
「嘘だろ……」
男の手下たちは、もはや言葉を失って呆然としている。
加えて周囲には兵士がいるので、逃げ出すことはできない。
男たちは実質、先ほどと逆の事をされていた。
「ちなみにだが、当然二次予選の札もいらないからな」
俺がそういうと、見る見るうちに男の顔色が悪くなる。
「ま、待て、試合は無しだ。俺たちは受ける気はない!」
すると男が突然、そう声を上げた。
「そ、そうだ! 俺も試合は受けねえ!」
「強制的に試合をさせるのは違法だぜ!」
「俺たちは帰る!」
しかし男たちがそう叫んだ時、不意にそれを否定する声が聞こえてくる。
「それは、認められませんねぇ」
そう言って、一人の男性が現れた。
「おお、ラルド、早かったな」
「まあ、ギルドの前でもめ事がありましたからね。それに訊けば、後日アレを納品するという少年の容姿と一致しました。向かった方向から考えて、ここにいると思ったのですよ」
どうやらラルドと呼ばれた男性は、ディーバが呼ぶと言っていたギルド職員のようだ。
「さて、君たちは挑まれる側ではなく、挑む側ですよね? 多くの者がギルドの前で聞いていましたよ? そして場所の指定にも応じたとか。ここで試合をしなければ、不戦敗ということでそのままギルド証をはく奪させて頂きます」
坦々と告げるラルドの言葉に、男たちはそれでも文句を言ったが、無駄に終わる。
男たちは、完全に詰んだ。
ここから巻き返すには、俺に勝つしかない。
「そうだ。勝てばいいんだ」
「四人もいるんだ。負けるはずはない」
「じゃあ俺は最後な」
「何を言ってるんだ? お前ら先に行けよ」
「黙れ、大将の俺が最後に決まっているだろ!」
すると誰が最後に戦うかで、男たちがもめ始めた。
連戦すれば、それだけ後の方が有利に戦えると考えたのだろう。
面倒だな。
「四人一度でいい。モンスターも一対四でどうだ」
俺が面倒に思いそう言うと、男たちが下品な笑い声を上げる。
「ば、馬鹿がいるぜ!」
「ぎゃはは! こいつはマジもんだ!」
「ひゃひゃひゃ! 俺たち四人に勝てると思っているのか?」
「おいおい、俺はこれでも二次予選に出場するんだぜ?」
男たちは勝った気でいるようだが、背後に控えているモンスターを見れば、俺の勝ちは確実だった。
それに、ここまでされて手加減する気はない。
周囲も俺が勝つと考えているのか、口を出すどころか逆に笑みを浮かべていた。
ギルド職員のラルドもディーバに何か耳打ちされて、見守ることにしたようだ。
そうして騒がしい男たちを練習場の端に移動させて、さっそく試合を開始する。
「いけ!」
「ぶっ殺せ!」
「やっちまえ!」
「目にものを見せてやれ!」
男たちがそう言って繰り出したモンスターは、ありきたりなモンスターだ。
オーク・オーク・オーク・オーク。
それに四人ともが、オークを出してきた。
ちなみに手下の男三人の他のモンスターは、ゴブリンやスモールマウスなどである。
二次予選を突破したという男はもう一匹オークを従えており、残りの一匹はゴブリンだ。
俺のホブンを手に入れることができれば、二次予選で良い結果を残せると考えたのだろう。
さて、俺の方もモンスターを出すか。
「出てこい」
「グォオ!」
そこで俺が召喚したのは、ホワイトキングダイル。
正直出そうかどうか迷ったが、出すことに決めた。
中途半端に勝てば、こいつらは報復をしてくる気がしたからだ。
そしてその場合、また知り合いに危害が及ぶ可能性がある。
この場を借りた以上、俺は自分が目だってでも、力を見せる必要があった。
それで更に面倒な奴が来るのであれば、それこそ次は手段を選ばない。
「な、何だよ……あれ」
「ひぃいい!」
「もうだめだぁ!」
「ひ、人が従えられる存在じゃねえだろ!」
男たちが騒がしく何かを言っているが、当然無視をする。
「少し遊んでやれ」
「グォウ」
「ダメだ。後で代わりをやるから、食べるな」
「グゥウ」
カード化したモンスターに食事は必要ないが、個を確立しているコイツは娯楽として食事をしたいようだった。
オークなど、コイツにとってはご馳走にしか見えないのだろう。
「ぶひっ!?」
「ブッ……」
「ぶぎゃ!」
「ぶぎぃ……」
するとオークたちは遥か格上のホワイトキングダイルの威圧を受けて、体が固まる。
そしてゆっくりと近付いたホワイトキングダイルのよだれが、オークたちに降り注ぐ。
本当に食べるなよ。
俺が思念を送ると、分かっていると返事が来た。
「グオウ」
続けて面倒そうに鳴いたホワイトキングダイルが、軽く前足を振るう。
それだけで、オークたちがオモチャのように転がっていった。
たったの一撃に過ぎないが、それによりオークたちは完全に怯えて動けなくなってしまう。
身体のダメージは軽微だが、精神的なダメージが深刻なようだ。
「これで俺の勝ちでいいよな?」
「グォォ!」
俺の言葉と同時に、ホワイトキングダイルが男たちに向けて声を上げる。
それを聞いて、男たちは首が折れると思えるくらいに激しく頷いた。
ちなみに男たちの足元には、いつの間にか水たまりができている。
おそらくここまですれば、今後馬鹿なことはしないだろう。
しないよな?
その後四人の男たちはギルド職員のラルドと、数人の兵士が付き添いギルドへと向っていった。
これからギルド証のはく奪が、ギルドで行われるのだろう。
この試合で得るものは何も無かったが、無事に終わって清々した。
「旨いか?」
「グオオ!」
そんな俺はダンジョンで倒したオークの死骸を、現在ホワイトキングダイルに与えている。
こういうことが今後あるなら、オークの死骸はある程度残しておいた方がいいな。
ギルドで全て納品しようと考えていたが、その数を減らそう。
ホワイトキングダイルは現状俺の言うことを聞くが、こうした褒美をやらないと、いずれいう事を聞かなくなる気がする。
コイツは俺の切り札だが、扱いが少々面倒なやつだ。
「ジン君、まさかこんなモンスターを従えているとは、本当に驚いたぞ」
するとディーバがホワイトキングダイルの食事風景を眺めながら、そう言った。
「まあ、コイツは扱いが難しいから、苦労しているがな」
「そうだろうな。見たところ、Aランクは確実に超えているだろう。この国でも、このランクを従えている者はほとんどいないぞ」
ほとんどという事は、何人かはいるのか。
大会の本戦に行けば、そういう凄い人物と戦えるかもしれない。
「そうなのか。コイツといい試合をしてくれる奴と出会うのが、今から楽しみだ」
「ははっ、君は大物になるな。こりゃ、ジン君と戦ったことは将来良い自慢話になる」
そうして面倒な奴らとの戦いを終えた俺は、満腹になったホワイトキングダイルを送還に見せかけながら、カードに戻すのであった。
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