060 面倒な奴らの対処方法

「分かった、試合を受けよう。ただし、場所は俺が決めさせてもらう」
「ああ、構わないぜ!」
「よし! 早く案内しろ!」
「ひゃひゃっ! とうとう観念したか!」
「もうあのホブゴブリンは俺の物だ」

 騒がしい男たちが承諾したので、俺はとある場所へと向かう。

 道中男たちは文句を言いながらも、しっかりとついてきた。

 肝が太いのか、それとも馬鹿なのだろうか。

 だが次第に、その勢いもおとなしくなっていく。

「おい、どこに行く気だ?」
「待て、ここって……」
「え? ちょっとヤバくないか?」
「だまれ、勝てばいいんだよ。俺たちは何も罪を犯してねえ」

 そうして連れてきたのは、ハパンナ子爵の領主邸。

「あれ、ジン君どうした……そいつらは何だ?」

 屋敷に戻ってくると、運良く出会ったディーバが怪訝けげんな表情を浮かべる。

「ああ、俺の二次予選の出場権とホブゴブリンが欲しいみたいでな。試合しなければ一日中粘着してくるらしい。だから仕方がなく試合をしようと思ってな。けど良い場所が思いつかなくて、連れてきてしまった」
「……なるほど。承知した。練習場を貸そう。存分にやってくれ」

 そう言ってディーバが笑みを浮かべると、その場から去っていく。

 正直連れてくるのは途中で少し問題かと思ったが、練習場を快く貸してくれるようだ。

「おい、あれってディーバさんじゃ……」
「嘘だろ……」
「おい、どうするんだよ……」
「う、うるさい。ここまで来たらやるしかないだろ!」

 どうやらディーバは有名人だったようで、男たちのあせりは先ほどの比ではない。

「こっちだ。ついてこい」

 俺は四人に声をかけて、練習場へと向かう。

「ジン君。ちょうど良いから皆で見学させてもらうぞ」
「ああ、構わない」

 すると練習場には、多くの兵士たちが集まっていた。

 仕事は良いのかと一瞬思ったが、ここにいるのは練習場を先ほどまで使っていた者たちのようだ。

「いまから無かったことには……」
「どうするんだよ、本当に」
「だから俺は止めとこうって言ったんだ」
「か、勝てばいいんだ。勝てば問題ない!」

 そうして試合を行うことになるが、まずは確認しておく必要がある。

「俺が負ければ二次予選の札を渡すことになっているが、お前らは負けたら何を差し出すんだ? ああちなみにだが、俺は他人のモンスターはいらないからな」

 先にそう言って返事を待つと、男たちが慌てだす。

「ま、待て。そうなると俺たちに出せるものはない」
「そ、そうだ。賭けは不成立だ。だからこの試合は無しってことで」
「俺も同じだ。へへ。申し訳ねえな」

 この期に及んで、試合から逃げようとするのか。

 どうしようもない奴らだな。

 しかし、それを見ていたディーバが口を挟む。

「冒険者証だ。出すものが無ければ冒険者証を賭ける。それが昔からのルールだろ。見届け人にちょうど知り合いのギルド職員を呼んでいるから、安心して待っていろ」

 ディーバが悪そうな笑みを浮かべて、そう言った。

「へ……」
「そ、そんな……」
「嘘だろ……」

 男の手下たちは、もはや言葉を失って呆然としている。

 加えて周囲には兵士がいるので、逃げ出すことはできない。

 男たちは実質、先ほどと逆の事をされていた。

「ちなみにだが、当然二次予選の札もいらないからな」

 俺がそういうと、見る見るうちに男の顔色が悪くなる。

「ま、待て、試合は無しだ。俺たちは受ける気はない!」

 すると男が突然、そう声を上げた。

「そ、そうだ! 俺も試合は受けねえ!」
「強制的に試合をさせるのは違法だぜ!」
「俺たちは帰る!」

 しかし男たちがそう叫んだ時、不意にそれを否定する声が聞こえてくる。

「それは、認められませんねぇ」

 そう言って、一人の男性が現れた。

「おお、ラルド、早かったな」
「まあ、ギルドの前でもめ事がありましたからね。それに訊けば、後日アレを納品するという少年の容姿と一致しました。向かった方向から考えて、ここにいると思ったのですよ」

 どうやらラルドと呼ばれた男性は、ディーバが呼ぶと言っていたギルド職員のようだ。

「さて、君たちは挑まれる側ではなく、挑む側ですよね? 多くの者がギルドの前で聞いていましたよ? そして場所の指定にも応じたとか。ここで試合をしなければ、不戦敗ということでそのままギルド証をはく奪させて頂きます」

 坦々と告げるラルドの言葉に、男たちはそれでも文句を言ったが、無駄に終わる。

 男たちは、完全に詰んだ。

 ここから巻き返すには、俺に勝つしかない。

「そうだ。勝てばいいんだ」
「四人もいるんだ。負けるはずはない」
「じゃあ俺は最後な」
「何を言ってるんだ? お前ら先に行けよ」
「黙れ、大将の俺が最後に決まっているだろ!」

 すると誰が最後に戦うかで、男たちがもめ始めた。

 連戦すれば、それだけ後の方が有利に戦えると考えたのだろう。

 面倒だな。

「四人一度でいい。モンスターも一対四でどうだ」

 俺が面倒に思いそう言うと、男たちが下品な笑い声を上げる。

「ば、馬鹿がいるぜ!」
「ぎゃはは! こいつはマジもんだ!」
「ひゃひゃひゃ! 俺たち四人に勝てると思っているのか?」
「おいおい、俺はこれでも二次予選に出場するんだぜ?」

 男たちは勝った気でいるようだが、背後に控えているモンスターを見れば、俺の勝ちは確実だった。

 それに、ここまでされて手加減する気はない。

 周囲も俺が勝つと考えているのか、口を出すどころか逆に笑みを浮かべていた。

 ギルド職員のラルドもディーバに何か耳打ちされて、見守ることにしたようだ。

 そうして騒がしい男たちを練習場の端に移動させて、さっそく試合を開始する。

「いけ!」
「ぶっ殺せ!」
「やっちまえ!」
「目にものを見せてやれ!」

 男たちがそう言って繰り出したモンスターは、ありきたりなモンスターだ。

 オーク・オーク・オーク・オーク。

 それに四人ともが、オークを出してきた。

 ちなみに手下の男三人の他のモンスターは、ゴブリンやスモールマウスなどである。

 二次予選を突破したという男はもう一匹オークを従えており、残りの一匹はゴブリンだ。

 俺のホブンを手に入れることができれば、二次予選で良い結果を残せると考えたのだろう。

 さて、俺の方もモンスターを出すか。

「出てこい」
「グォオ!」

 そこで俺が召喚したのは、ホワイトキングダイル。

 正直出そうかどうか迷ったが、出すことに決めた。

 中途半端に勝てば、こいつらは報復をしてくる気がしたからだ。

 そしてその場合、また知り合いに危害が及ぶ可能性がある。

 この場を借りた以上、俺は自分が目だってでも、力を見せる必要があった。

 それで更に面倒な奴が来るのであれば、それこそ次は手段を選ばない。

「な、何だよ……あれ」
「ひぃいい!」
「もうだめだぁ!」
「ひ、人が従えられる存在じゃねえだろ!」

 男たちが騒がしく何かを言っているが、当然無視をする。

「少し遊んでやれ」
「グォウ」
「ダメだ。後で代わりをやるから、食べるな」
「グゥウ」

 カード化したモンスターに食事は必要ないが、個を確立しているコイツは娯楽として食事をしたいようだった。

 オークなど、コイツにとってはご馳走にしか見えないのだろう。

「ぶひっ!?」
「ブッ……」
「ぶぎゃ!」
「ぶぎぃ……」

 するとオークたちは遥か格上のホワイトキングダイルの威圧を受けて、体が固まる。

 そしてゆっくりと近付いたホワイトキングダイルのよだれが、オークたちに降り注ぐ。

 本当に食べるなよ。

 俺が思念を送ると、分かっていると返事が来た。

「グオウ」

 続けて面倒そうに鳴いたホワイトキングダイルが、軽く前足を振るう。

 それだけで、オークたちがオモチャのように転がっていった。

 たったの一撃に過ぎないが、それによりオークたちは完全に怯えて動けなくなってしまう。

 身体のダメージは軽微だが、精神的なダメージが深刻なようだ。

「これで俺の勝ちでいいよな?」
「グォォ!」

 俺の言葉と同時に、ホワイトキングダイルが男たちに向けて声を上げる。

 それを聞いて、男たちは首が折れると思えるくらいに激しく頷いた。

 ちなみに男たちの足元には、いつの間にか水たまりができている。

 おそらくここまですれば、今後馬鹿なことはしないだろう。

 しないよな?

 その後四人の男たちはギルド職員のラルドと、数人の兵士が付き添いギルドへと向っていった。

 これからギルド証のはく奪が、ギルドで行われるのだろう。

 この試合で得るものは何も無かったが、無事に終わって清々した。

「旨いか?」
「グオオ!」

 そんな俺はダンジョンで倒したオークの死骸を、現在ホワイトキングダイルに与えている。

 こういうことが今後あるなら、オークの死骸はある程度残しておいた方がいいな。

 ギルドで全て納品しようと考えていたが、その数を減らそう。

 ホワイトキングダイルは現状俺の言うことを聞くが、こうした褒美をやらないと、いずれいう事を聞かなくなる気がする。

 コイツは俺の切り札だが、扱いが少々面倒なやつだ。

「ジン君、まさかこんなモンスターを従えているとは、本当に驚いたぞ」

 するとディーバがホワイトキングダイルの食事風景を眺めながら、そう言った。

「まあ、コイツは扱いが難しいから、苦労しているがな」
「そうだろうな。見たところ、Aランクは確実に超えているだろう。この国でも、このランクを従えている者はほとんどいないぞ」

 ほとんどという事は、何人かはいるのか。

 大会の本戦に行けば、そういう凄い人物と戦えるかもしれない。

「そうなのか。コイツといい試合をしてくれる奴と出会うのが、今から楽しみだ」
「ははっ、君は大物になるな。こりゃ、ジン君と戦ったことは将来良い自慢話になる」

 そうして面倒な奴らとの戦いを終えた俺は、満腹になったホワイトキングダイルを送還に見せかけながら、カードに戻すのであった。

 

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