059 二次予選までの活動方針を決める。

 まず部屋に戻った俺は、自然種のカードを一枚一枚鑑定していく。

 ちなみにカードから鑑定しても、その個体の能力を確かめることができた。
 
 だがユニーク個体というのはやはり珍しいのか、全くいない。

 しかし一枚だけ、他とは違う個体がいた。

 種族:ジャイアントバット
 種族特性
【吸血】【超音波】

 スキル
【日中行動】

 どうやら日中での行動を可能にして、更に日中の行動に補正がかかるらしい。

 ジャイアントバットは夜中に襲ってきたと思ったのだが、早朝付近で襲ってきた個体だろうか?

 記憶があいまいだ。

 けどまあ、将来性がありそうなスキルである。

 前にも思ったが、ジャイアントバットは上手く進化していけば、吸血鬼になるのではないだろうか。

 そして吸血鬼は、よくある話として太陽の光に弱い気がする。

 だがこのスキルがあれば、その弱点を克服こくふくできるかもしれない。

 これは、面白いことになりそうだ。

 一つの実験として、このジャイアントバットをこれから育てることにしよう。

 だが普通にランクアップしても、ただの大きい蝙蝠こうもりになる可能性がある。

 どうにかして吸血鬼になるように、上手くフュージョンをしていった方が良いのだろうか?

 そこが悩みどころである。

 まあ最も先にある程度の育成をする必要があるので、進化できるようになったらその時に考えよう。

 さて、続いて考える必要があるのは、二次予選までの一週間何をするかだよな。

 ダンジョンは踏破してしまったし、他のダンジョンに行くとしても時間が微妙だ。

 何より二次予選が終わるまでは、この屋敷でお世話になることになっている。

 なので、日帰りの距離が行動の限界範囲だろう。

 であるならば、しばらくは冒険者ギルドで何か依頼を受けるか。

 あとはジョリッツ商会に行って、欲しかった岩塩のすりおろし器を購入することにする。

 ソルトタートルの岩塩はかなり美味なので、良いものを買おう。

 とりあえずの行動方針を決めた俺は、一度屋敷を出ることにした。

 するとセヴァンに、とあるメダルを渡される。

 これはどうやら、ハパンナ子爵家の客人を現す物のようだ。

 何が起こるか分からないので、ありがたく受け取っておく。

 そうして屋敷を出ると、周囲はかなりの高級住宅街である。

 きれいな石畳と街灯が並んでおり、多くの兵士が巡回していた。

 ちなみにハパンナの街は、中央・北東・北西・南東・南西とおよそ五つに分かれている。

 現在の場所は北東であり、冒険者ギルドや闘技場は中央にある。

 ジョリッツ商会は、中央と北西の中間あたりにあったはずだ。

 距離的には冒険者ギルドの方が近いが、先にジョリッツ商会に行くことにする。

 そうして高級住宅街を出ようとすると、その途中に門のような場所があった。

 どうやら身分証を出さなければ通れないらしく、俺はさっそくハパンナ子爵の客人を示すメダルを使う。

 すると兵士は敬礼をして、快く通してくれた。

 行きは馬車だったから、門があることに気が付かなかったな。

 まあ仮にメダルが無くても、万能身分証があれば通ること自体はできただろう。

 そうして俺は街中を進み、しばらくして無事にジョリッツ商会へと辿り着いた。

「ジンさん、ようこそいらっしゃいました」

 するとちょうどジョリッツが店におり、迎え入れてくれる。

 どうやら行商は弟と交代で行っているようであり、現在は弟が行商中らしい。

 そして少し立ち話をした後、俺は岩塩のすりおろし器を購入した。

 棒状の特注品らしく、先の細い受け皿と小瓶のセットで小金貨二枚である。

 かなり高額だったが、良いものを長く使いたいと思い、決断した。

 それに岩塩が手に入るこの街だからこそ、こうした道具は良い物が作られている。

 別の場所で小金貨二枚払っても、ここまでの物は手に入らないだろう。

 そうして欲しい物も手に入ったので、俺はジョリッツ商会を後にする。

 ちなみに、リルルは不在だった。

 またレフを見せてくれと言われると対応に困るので、いなくて幸いである。

 もしもいた場合、他のグレイウルフをレフと言い張ることになっていただろう。

 その後は予定通り中央へと向かい、俺は冒険者ギルドへと入る。

 人はそれなりにいるが、ダンジョンにある出張所に分散されているので、街の規模にしては空いていた。

 掲示板を覗くと、やはりダンジョン関連のものが多い。

 だが中には街周辺の依頼もあり、特に薬草採取系が目立つ。

 まあダンジョンは洞窟型だし、植物はほぼ無かった。

 加えて冒険者の数も多いこともあり、ポーションの需要は高そうだ。

 だが今更、ランクの低い依頼を受けても仕方がない。

 自分のランクより低い依頼を達成しても、貢献度は下がる。

 それも一つ下なら半分だが、二つ下だとゼロになってしまう。

 しかし報酬自体は出るので、ランクアップに興味の無い者は構わず受けているようである。

 俺の場合は今後ランクを上げていくつもりなので、同じEランクか一つ上のDランクの依頼を受けたい。

 するとそんな依頼の中に、気になるものを見つける。

 依頼名:ソイルワームの巣穴の調査及び討伐
 ランク:E
 依頼者:冒険者ギルド
 報酬:銀貨三枚~
 期限:一週間
 詳細
 ハパンナの街の南西にあるリロットの森にて、ソイルワームの巣穴が発見されました。
 放置しておくと森の生態系に悪影響を与えるため、調査と討伐をお願いします。
 調査は巣穴のおおよその大きさや、ソイルワームのおおよその数、また可能であれば上位種がいるかの確認。
 討伐はソイルワームを十匹以上倒してください。
 討伐数や調査結果によっては、報酬を増額します。
 

 なるほど、ソイルワームか。まだ見たことのないモンスターだな。

 報酬は、Fランクのゴブリン討伐のおよそ三倍か。

 結果によっては報酬が増えるようだし、悪くはない。

 よし、これを受けるか。

 俺は依頼を掲示板から取ると、受付へと向かう。

 最初は俺一人という事に難色を示されたが、仕方がなくサモナーと言ってホブンを目の前で召喚したら、無事に受けることができた。

 どうやらこの依頼は、本来ソロで受けるものではないようである。

 そしてソイルワームの巣穴までの簡単な地図を受け取り、俺はギルドを出た。

「そこのガキ、少し待て」
「ん?」

 すると背後から、複数人の男が現れた。

「お前の持っているホブゴブリンを賭けて、モンスターバトルをしようぜ!」
「は?」

 いきなりこいつは、何を言っているんだ?

「もちろん俺が負けたら、これをやろう」

 そう言って男は、懐から番号の書かれた札を取り出す。

 あれは確か、二次予選の札だな。

「いや、俺も持っているから必要ない」
「そうか。お前も二次予選に出るのか」

 それを聞いて、男が笑みを浮かべる。

「じゃあその札を賭けて俺と勝負だ!」
「いや、俺と勝負してもらおう」
「はっ、俺が相手になってやるよ!」

 すると男の後ろに控えていた者たちが、そう言って俺を取り囲む。

 なるほど。これが参加者から札を奪って、成り代わろうとする者たちか。

「全員と試合をするまで、俺たちは諦めないぜ?」
「そうだ。お前の泊っている宿まで押しかけるぞ!」
「昼も夜も、睡眠中もだ!」

 確か卑怯な手段で奪うとダメだと聞いていたはずだが……。

 おそらくこれは、グレーゾーンなのだろう。

 面倒だな。

「そして札を失ったら、俺とホブゴブリンを賭けて勝負だ!」

 男はなぜか既に、勝ち誇ったような顔をしている。

 これで俺が直接倒したら、俺が罰せられるのだろうか?

 モンスターバトルで力を見せてもいいが、それを知ってまた別の奴が戦いを挑んできそうだな。

 加えて俺は本来テイマーやサモナーではないし、こいつらからモンスターを譲渡されても扱いに困る。

 それに他人の手垢のついたモンスターなど、俺はいらない。

 またこんな奴らにモンスターを譲渡するなど、もってのほかだ。

 つまりこいつらと戦っても、俺にとっては何も良いことがない。

 だが戦わなければ、こいつらは何時までも粘着してくるだろう。
 
「戦ってもいいが、お前らのモンスターを死亡させることになるかもしれないぞ?」

 遠回しに、試合になればモンスターを殺すと脅してみる。

 だがそれは、相手にとっても想定内だったようだ。

「いいぜぇ! 殺せるもんなら殺してみろよ!」
「故意のモンスター殺害は犯罪だぜ?」
「逆に俺らがお前のモンスターをやっちまうかもな!」

 男たちはゲラゲラと笑い、勢いづく。

 だんだん腹が立ってきたな。

 これでこいつらのモンスターを殺せば、難癖をつけてくるに決まっている。

 はぁ、面倒だが、あの手を使うしかなさそうだな。

 できれば、使いたくはなかったが……。

 俺はこいつらへの対処方法として、一つの手段に出ることを決めた。

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