昨夜のマッドクラブは、大変旨かった。
塩が変わるだけで、あそこまで違うとは。
そういえば、ジョリッツの店で岩塩を削る道具が売っていたな。
普通の塩があるからいらないと考えて、岩塩も含めて買わなかった。
まあ、岩塩は簡単に手に入るようになったので、結果的に塩は買わなくて良かったのだが。
けれどもダンジョンを出たら、一度岩塩を削る道具を買いに行くことにしよう。
現状だと、削るのが大変面倒だ。
それと夜中に襲ってきたモンスターだが、一匹も死骸が見当たらない。
寝る直前に襲ってきていたのには気が付いていたので、何も来なかったという事はないはずだ。
もしかして、ダンジョンに吸収されたのか?
シルダートのダンジョンでは、普通に残っていたのだが。
やはり、ダンジョンによってルールが若干違うのかもしれない。
あとは、遠目にこちらを観察する冒険者もいた。
見張り用に召喚していたホブゴブリンとオーク、それとグレイウルフの群れを見て何事かと思ったのかもしれない。
だがその奥で俺の張ったテントが見えたようで、少しすると遠ざかって行った。
ちなみにテントは、今回買い替えている。
以前の人一人がギリギリ寝れる三角形のものではなく、大人二人が余裕で横になれる立派なものだ。
そこでいつも俺の枕となっているレフと、もはや寝具としての価値しかなくなったホーンラビットたちと眠った。
ダンジョン内の気温はちょうどいいが、夏になったらこのモンスター寝具は熱いかもしれない。
そうして目覚めて支度を整えると、ダンジョンの探索を再開する。
流石にこの時間帯は人が少なく、ソルトタートルがよく見つかった。
なので人が増えるまでの間、ここで狩りを続ける。
特にソルトタートルは、他では余り見つからない可能性が高そうなので、この機会に集めておく。
結果としてソルトタートルは昨日のと合わせて合計で十八枚、ホブゴブリンも合計三十四枚まで集まった。
人もそろそろ増えてきたので、続きはダンジョンを踏破した後の二週目に集めることにする。
その後はホブゴブリンの案内で階段を見つけ、五階層目に下りた。
五階層目は時間帯も早いこともあるが、それでも人が全くいない。
おそらくここからは、難易度が高いのだろう。
しかし現れるのは、無手から棍棒持ちに変わったオークばかりである。
一応鑑定しても種族特性は変わらず、スキルにも棍適性などはない。
あとは、必ず集団で襲ってくるくらいだろうか。
確かに普通の冒険者であれば、棍棒を持ったオークが集団で襲ってくるのは、脅威かもしれない。
それなら無手に加えて、ソルトタートルのいる四階層目の方がよく稼げるだろう。
俺はオークを倒しつつ、棍棒も回収していく。
棍棒は既にカード化しているオークと、ホブゴブリンに配る予定だ。
なので、棍棒目当てにオークを狩っていく。
俺の場合だと、むしろここの方が稼ぎやすそうだ。
「ゴッブア!」
「ガゥ!」
ホブンもオークを倒せているし、レフはホブンのサポートを上手く熟している。
ただ案内役とはいえ、これ以上オークを増やしたくはないんだよな。
カードの破棄とかは、できないのだろうか?
試しにオークのカードに破棄しようと念じてみると、カードが光の粒子となって消失した。
おおっ、やればできるものだな。
これでオークは四十九枚になったので、新たに一枚案内役として補充する。
そしてオークに道案内をさせながら、俺は宝箱を探し始めた。
するとやはりこの階層は人が少ないからか、未開封の宝箱がよく見つかる。
ほとんどは硬貨やポーション類だったが、中には防具なども入っていた。
ただ残念ながら俺には必要ないものだったので、サイズを調整してホブンでも装備させることにする。
しかし今は魔力を急激に減らすことは避けたいので、ダンジョン踏破後に行うことにしよう。
それと今目の前には、一つの宝箱を守るオーク集団がいた。
以前シルダートのダンジョンで戦った、オークの集団を思い出す。
だが前回とは違うのは、まず空間に限りがあること。
洞窟型のダンジョンなので、広さには当然制限がある。
といっても数十匹はいるので、広いといえば広いのだが。
次にオーク全員が、棍棒を所持している点。
以前の時は、全員が無手だった。
そして最後に、それを指揮している青色のオークがいることだろう。
種族:ハイオーク
種族特性
【集団指揮】【無属性適性】
【パワーアップ】【腕力上昇(小)】
【体力上昇(小)】【悪食】【他種族交配】
種族特性はオークと同じものに加えて、集団指揮・無属性適性・パワーアップが加わっている。
集団指揮は集団行動と似ており、違いは前者が味方全体に効果を及ぼし、後者は自分自身に効果を発揮するかどうかだろうか。
つまりこの能力によって、オークたちは集団行動時に補正がかかる。
またパワーアップはおそらく無属性魔法であり、効果は単体の力を一時的に上昇させるというシンプルなもの。
だが背後からオークを強化されると、面倒なことになるのは間違いない。
現状宝箱のある部屋に足を踏み入れていないこともあり、相手に動きは無かった。
しかし一歩でも足を踏み入れれば、数十匹のオークを差し向けてくるだろう。
ホブゴブリンとオークの部隊を召喚して戦わせても、被害は大きくなりそうだ。
かといって、前回のように毒などを使うと肉の価値が無くなる。
なのでここは、シンプルに行くことに決めた。
それにこいつにも、そろそろリハビリをさせたい。
俺はそう考えて、復活したばかりのこいつを呼び出す。
「いでよ、ホワイトキングダイル!」
「グォウ!!」
数十匹が犇くオークの群れの前に、ホワイトキングダイルを召喚した。
さて、俺の言うことを聞いてくれればいいのだが。
そして俺は、ホワイトキングダイルにウォーターブレスを命じる。
「グガァ!」
すると仕方がないという雰囲気を出しながらも、命令に従った。
「ぶぎゃあぁ!!」
「ぶぎぃ!」
「ブグア!」
敵のオークたちは、ウォーターブレスにより蹴散らされていく。
一か所に集められていたこともあり、被害は甚大なものとなる。
「ブギィイ!!」
ハイオークが何か叫ぶが、オークたちはそれどころではない。
閉じられた空間内での近距離ウォーターブレスは、とても凶悪だった。
そうしてオークたちがほぼ壊滅状態のそこに、俺たちは突撃する。
ホブンとレフは、生き延びたオークたちへと止めを刺していく。
「ゴッブア!」
「バウ!」
対して俺はハイオークの元に駆けながら、シャドーアーマーを身に纏う。
「喰らえ」
「ぶぎゃっ!?」
そして魔力を込めたシャドーネイルにより、あっけなくハイオークは首を飛ばされた。
当然死亡したので、俺はハイオークをカード化する。
「ハイオーク、ゲットだ」
オーク部隊を任せるのには、ちょうど良い。
倒したオークたちもストレージに収納して、ホワイトキングダイルをカードに戻す。
これで出番が終わりかと不服そうにしていたが、通路を通れる大きさでは無いので仕方がない。
ホワイトキングダイルが入れるこの部屋の広さこそ、珍しいのだ。
さて、次は肝心の宝箱だな。
奥の中央に鎮座している宝箱は、いつもより少し大きい。
これは、期待ができそうだ。
俺はいつも通り、ゴブリンに宝箱を開けさせた。
もはやゴブリンは、宝箱を開けさせるか、実験体の役割などがほとんどである。
ふむ。どうやら罠は無いようだな。
ちなみに道中の宝箱には罠がある物もあり、ゴブリンが何匹か犠牲になっていたりする。
俺は役目を終えたゴブリンをカードに戻すと、期待を込めながら宝箱を覗くのであった。
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