049 ハパンナダンジョン ②

 昨夜のマッドクラブは、大変旨かった。

 塩が変わるだけで、あそこまで違うとは。

 そういえば、ジョリッツの店で岩塩を削る道具が売っていたな。

 普通の塩があるからいらないと考えて、岩塩も含めて買わなかった。

 まあ、岩塩は簡単に手に入るようになったので、結果的に塩は買わなくて良かったのだが。

 けれどもダンジョンを出たら、一度岩塩を削る道具を買いに行くことにしよう。

 現状だと、削るのが大変面倒だ。

 それと夜中に襲ってきたモンスターだが、一匹も死骸が見当たらない。

 寝る直前に襲ってきていたのには気が付いていたので、何も来なかったという事はないはずだ。

 もしかして、ダンジョンに吸収されたのか?

 シルダートのダンジョンでは、普通に残っていたのだが。

 やはり、ダンジョンによってルールが若干違うのかもしれない。

 あとは、遠目にこちらを観察する冒険者もいた。

 見張り用に召喚していたホブゴブリンとオーク、それとグレイウルフの群れを見て何事かと思ったのかもしれない。

 だがその奥で俺の張ったテントが見えたようで、少しすると遠ざかって行った。

 ちなみにテントは、今回買い替えている。

 以前の人一人がギリギリ寝れる三角形のものではなく、大人二人が余裕で横になれる立派なものだ。

 そこでいつも俺の枕となっているレフと、もはや寝具としての価値しかなくなったホーンラビットたちと眠った。
 
 ダンジョン内の気温はちょうどいいが、夏になったらこのモンスター寝具は熱いかもしれない。

 そうして目覚めて支度を整えると、ダンジョンの探索を再開する。

 流石にこの時間帯は人が少なく、ソルトタートルがよく見つかった。

 なので人が増えるまでの間、ここで狩りを続ける。

 特にソルトタートルは、他では余り見つからない可能性が高そうなので、この機会に集めておく。

 結果としてソルトタートルは昨日のと合わせて合計で十八枚、ホブゴブリンも合計三十四枚まで集まった。

 人もそろそろ増えてきたので、続きはダンジョンを踏破した後の二週目に集めることにする。

 その後はホブゴブリンの案内で階段を見つけ、五階層目に下りた。

 五階層目は時間帯も早いこともあるが、それでも人が全くいない。

 おそらくここからは、難易度が高いのだろう。

 しかし現れるのは、無手から棍棒持ちに変わったオークばかりである。

 一応鑑定しても種族特性は変わらず、スキルにも棍適性などはない。

 あとは、必ず集団で襲ってくるくらいだろうか。

 確かに普通の冒険者であれば、棍棒を持ったオークが集団で襲ってくるのは、脅威かもしれない。

 それなら無手に加えて、ソルトタートルのいる四階層目の方がよく稼げるだろう。

 俺はオークを倒しつつ、棍棒も回収していく。

 棍棒は既にカード化しているオークと、ホブゴブリンに配る予定だ。

 なので、棍棒目当てにオークを狩っていく。

 俺の場合だと、むしろここの方が稼ぎやすそうだ。

「ゴッブア!」
「ガゥ!」

 ホブンもオークを倒せているし、レフはホブンのサポートを上手く熟している。

 ただ案内役とはいえ、これ以上オークを増やしたくはないんだよな。

 カードの破棄とかは、できないのだろうか?

 試しにオークのカードに破棄しようと念じてみると、カードが光の粒子となって消失した。

 おおっ、やればできるものだな。

 これでオークは四十九枚になったので、新たに一枚案内役として補充する。

 そしてオークに道案内をさせながら、俺は宝箱を探し始めた。

 するとやはりこの階層は人が少ないからか、未開封の宝箱がよく見つかる。

 ほとんどは硬貨やポーション類だったが、中には防具なども入っていた。

 ただ残念ながら俺には必要ないものだったので、サイズを調整してホブンでも装備させることにする。

 しかし今は魔力を急激に減らすことは避けたいので、ダンジョン踏破後に行うことにしよう。

 それと今目の前には、一つの宝箱を守るオーク集団がいた。

 以前シルダートのダンジョンで戦った、オークの集団を思い出す。
 
 だが前回とは違うのは、まず空間に限りがあること。

 洞窟型のダンジョンなので、広さには当然制限がある。

 といっても数十匹はいるので、広いといえば広いのだが。

 次にオーク全員が、棍棒を所持している点。

 以前の時は、全員が無手だった。

 そして最後に、それを指揮している青色のオークがいることだろう。

 種族:ハイオーク
 種族特性
【集団指揮】【無属性適性】
【パワーアップ】【腕力上昇(小)】
【体力上昇(小)】【悪食】【他種族交配】

 種族特性はオークと同じものに加えて、集団指揮・無属性適性・パワーアップが加わっている。

 集団指揮は集団行動と似ており、違いは前者が味方全体に効果を及ぼし、後者は自分自身に効果を発揮するかどうかだろうか。

 つまりこの能力によって、オークたちは集団行動時に補正がかかる。

 またパワーアップはおそらく無属性魔法であり、効果は単体の力を一時的に上昇させるというシンプルなもの。

 だが背後からオークを強化されると、面倒なことになるのは間違いない。

 現状宝箱のある部屋に足を踏み入れていないこともあり、相手に動きは無かった。

 しかし一歩でも足を踏み入れれば、数十匹のオークを差し向けてくるだろう。

 ホブゴブリンとオークの部隊を召喚して戦わせても、被害は大きくなりそうだ。

 かといって、前回のように毒などを使うと肉の価値が無くなる。

 なのでここは、シンプルに行くことに決めた。

 それにこいつにも、そろそろリハビリをさせたい。

 俺はそう考えて、復活したばかりのこいつを呼び出す。

「いでよ、ホワイトキングダイル!」
「グォウ!!」

 数十匹がひしめくオークの群れの前に、ホワイトキングダイルを召喚した。

 さて、俺の言うことを聞いてくれればいいのだが。

 そして俺は、ホワイトキングダイルにウォーターブレスを命じる。

「グガァ!」

 すると仕方がないという雰囲気を出しながらも、命令に従った。

「ぶぎゃあぁ!!」
「ぶぎぃ!」
「ブグア!」

 敵のオークたちは、ウォーターブレスにより蹴散らされていく。

 一か所に集められていたこともあり、被害は甚大なものとなる。

「ブギィイ!!」

 ハイオークが何か叫ぶが、オークたちはそれどころではない。

 閉じられた空間内での近距離ウォーターブレスは、とても凶悪だった。

 そうしてオークたちがほぼ壊滅状態のそこに、俺たちは突撃する。

 ホブンとレフは、生き延びたオークたちへと止めを刺していく。

「ゴッブア!」
「バウ!」

 対して俺はハイオークの元に駆けながら、シャドーアーマーを身に纏う。

「喰らえ」
「ぶぎゃっ!?」

 そして魔力を込めたシャドーネイルにより、あっけなくハイオークは首を飛ばされた。
 
 当然死亡したので、俺はハイオークをカード化する。

「ハイオーク、ゲットだ」

 オーク部隊を任せるのには、ちょうど良い。

 倒したオークたちもストレージに収納して、ホワイトキングダイルをカードに戻す。

 これで出番が終わりかと不服そうにしていたが、通路を通れる大きさでは無いので仕方がない。

 ホワイトキングダイルが入れるこの部屋の広さこそ、珍しいのだ。

 さて、次は肝心の宝箱だな。

 奥の中央に鎮座している宝箱は、いつもより少し大きい。

 これは、期待ができそうだ。

 俺はいつも通り、ゴブリンに宝箱を開けさせた。

 もはやゴブリンは、宝箱を開けさせるか、実験体の役割などがほとんどである。

 ふむ。どうやら罠は無いようだな。

 ちなみに道中の宝箱には罠がある物もあり、ゴブリンが何匹か犠牲になっていたりする。

 俺は役目を終えたゴブリンをカードに戻すと、期待を込めながら宝箱を覗くのであった。

 

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