棍棒を持ったホブンが駆ける。
それに対して、ジャイアントボアも突っ込んで来た。
「ゴブッ!」
だが素早い身のこなしで、ホブンがすれ違うように回避をする。
そして、その背後に棍棒を叩きこんだ。
「ブヒィツ!?」
「なっ!?」
よし、攻撃が通った。
ジャイアントボアは苦痛に悶え、ジョリッツは驚愕の表情を浮かべる。
だが、これによって本気になったようだ。
ジャイアントボアはホブンを強く睨みつけ、僅かに後ろに下がって助走をつける。
そして先ほどよりも速く、狙いもしっかりと着けた突進がやってきた。
ホブンが横に動くと、驚くことに軌道修正をしてくる。
だめだ。この会場の広さじゃ、避け切れない。
俺は即座にそう判断を下す。
会場の広さが相手の弱点だと思っていたが、それが逆になるとはな。
だが避けられないのなら、向い撃つしかない。
ホブンに棍棒を両手で握らさせ、その瞬間を待つ。
面白い。面白いな。
次の一撃で、決着が付く。
そのことを強く感じた。
ホブン、頼むぞ。
そして、その瞬間がやって来る。
「ゴッブアッ!!」
「ブギィイ!!」
ホブンの振り下ろした全力の一撃が、ジャイアントボアの額に命中した。
だがそこで、棍棒が折れる。
「ゴブガっ!?」
続けてホブンが吹っ飛び、地面を転がった。
「ブ、ブギィ……」
だがジャイアントボアもその場に止まり、僅かに数歩進むと横に倒れる。
「ボ、ボアザード!! 立ちなさい! 立つんですよ!」
ジョリッツが必死に声を送る。
しかし、ジャイアントボアは声を聞いても立ち上がろうとはしない。
「ホブン、立て」
「ゴ、ゴブ……」
対してホブンは、俺の命令に答えてゆっくりと立ち上がった。
「そ、そんな……」
「ジャイアントボアの戦闘続行は、不可能と判断する」
そして審判役である職員の言葉により、ジャイアントボアの敗北が決まる。
「す、すげえ!」
「ホブゴブリンが勝ったぞ!」
「嘘だろ!」
「あっという間だったな!」
「どういう育て方をしたんだ!?」
「感動した!」
負けると思われていたホブンが勝ったことに、観客が熱狂した。
だが、試合はこれで終わりではない。
ジャイアントボアを何とか回復させて下げると、三匹目を繰り出してくる。
「相手は弱っています! 行きなさい、タレロ!」
「ぶひっ!」
ジョリッツは、三匹目にオークを出してきた。
「ホブン、まだいけるか?」
「ゴブア!!」
「よし、その力を見せつけてこい」
ホブンもやる気のようなので、引き続き戦わせる。
相手のオークは棍棒を持っているが、ホブンは素手だ。
しかし、その程度はどうとでもなる。
「ゴッブア!!」
「ぶひゃっ!?」
ホブンの右ストレートを喰らい、オークは情けなく声を上げて転がった。
その一撃でオークは、格の違いを理解したらしい。
ホブンに怯え、まともに戦うことができなかった。
「タレロ! 真面目に戦いなさい!」
ジョリッツは叱咤するが、その声はどうやら届かなかったようだ。
最終的にオークは、うずくまって動かなくなる。
「オークの戦闘続行は不可能と判断した。よって決勝トーナメント第一試合の勝者は、ジンとする!」
その瞬間、観客の歓声が再び周囲へと響き渡った。
「そんな……まさか負けるとは……」
ジョリッツは負けたことが信じられないようで、呆気に取られている。
対して俺は、満足行く試合結果に笑みを浮かべた。
中々に面白い試合だったな。
数で圧倒するのもいいが、こうした一対一も楽しいものだ。
そうして試合を終えたあと、ホブンと折れた棍棒を回収して、選手用の席に移動する。
「ふふっ、あなた強いわね」
その時すれ違いざまに、次の試合に出るアミーシャがそう耳打ちしてきた。
おそらく、決勝で戦うのはあの女になりそうだ。
もう一人のメインモンスターはオークみたいだし、勝率は低いだろう。
さて、どのようなモンスターを繰り出すのか、観察させてもらおうか。
俺は用意されていた席につくと、第二試合に注目する。
「相手が女性であろうと、俺は手加減しないぞ!」
「そう、でもあなたでは勝てないわ」
「くっ、言ってろ」
するとちょうど二人が会話を終えて、定位置に着く。
「最初から全力だ! 行け! オークス!」
「ぶひい!」
冒険者の男ジブールは、オークを繰り出した。
「それじゃあ、私はこの子よ。フィミィ、現れなさい」
「ギギギ」
対してアミーシャが出したのは、巨大な紫色の蝶。
しかもアミーシャはサモナーであったのか、光と共にモンスターが現れる。
あの女はサモナーだったのか。初めてみたな。
それにあの小型犬サイズの巨大な蝶、あれも初めてみる。
状態異常を得意とするようだが、いったいどのようなものだろうか。
「両者とも準備はいいか? それでは、決勝トーナメント第二試合を開始する! 始め!」
俺が思考を巡らしている間に、試合が開始する。
「ギギギ!」
「ぶひ?」
するとさっそく、巨大な蝶が上空から鱗粉を撒き散らす。
だがすぐには効果は出ないようで、オークは一度首をかしげた後、棍棒を振り回し始めた。
巨大な蝶は空を飛んでいるが、一定以上の高さを越えると場外扱いになる。
即座に戻らない場合、負けという訳だ。
なので、オークが跳躍してギリギリ届く辺りを飛行している。
飛行対策か。これも考えないといけないな。
「ぶひ……」
すると先ほどまで暴れまわっていたオークが、突然倒れて眠り始めた。
なるほど。あれは眠りの状態異常効果があったのか。
これは勝負がついたな。
「お、おい! 起きろオークス! ふざけるな!」
それからジブールが何度声をかけても、オークが起きることはなかった。
審判である職員のテンカウントにより、敗北が決まる。
そして中堅、大将とジブールが繰り出したのは続けてゴブリンであり、オークと同じ結果になった。
「ゴブリンの戦闘続行は不可能と判断した。よって決勝トーナメント第二試合の勝者は、アミーシャとする!」
まあ、当然の結果だな。
しかし、観客は納得がいかないようだった。
「それで勝って嬉しいのか!」
「卑怯だぞ!!」
「最低の試合内容だった」
「もう帰れよ!」
うーむ。俺は状態異常でも勝ちは勝ちだと思うのだが、確かに見世物としては退屈かもしれない。
そうして第二試合が終わると、決勝は休憩を挟んだ後になる。
俺は周囲から熱烈に応援され、食べ物の差し入れをいくつも渡された。
デミゴッドは状態異常に強い耐性があるので、構わず頂くことにする。
対してアミーシャは、気が付くと既にいなかった。
ここにいれば罵倒を浴びせられると思うので、当然かもしれない。
にしても、先ほどの巨大な蝶をどう攻略したものか。
空を飛べるとはいえ、ジャイアントバットとポイズンモスでは少々心もとない。
蝶、蝶か……。
意外と、何とかなるかもしれないな。
俺は一つ、使える手を思いついた。
予選に出すモンスターは決めたが、絶対に出さなければいけないというわけではない。
なら、蝶相手にピッタリのモンスターが俺にはいる。
それは、ビッグフロッグだ。
長い舌と得意の跳躍力があれば、あの巨大な蝶も攻略できるだろう。
これは、面白くなりそうだ。
俺は期待に胸を膨らませながら、その時を待った。
そうして休憩時間が終わり、とうとう決勝戦が始まる。
「この試合、棄権するわ」
「は?」
だが驚くことに、会場に来たアミーシャが突然そう宣言してしまう。
「えっと、アミーシャ選手、いったいどういう事でしょうか?」
審判の職員も戸惑ったように問いかける。
「どういう事も何も、準優勝でもここの予選は通過でしょ? だから戦う必要は無いわ」
アミーシャの言葉に、観客は当然ブーイングの嵐だ。
「ふざけるな!!」
「予選大会だからって、そんなことが許されるか!」
「戦え!!」
「納得できるか!!」
しかしそれに対してアミーシャは、どこ吹く風で受け流す。
「アミーシャ選手、試合をしていただくことは……」
「試合はしないわ」
「そ、そうですか……。アミーシャ選手の棄権により、ノブモ村の大会予選の優勝者は、ジン選手です」
最悪の優勝だ……。
試合を楽しみにしていた俺は、深いため息を吐くのだった。
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