046 二次予選の街に向かう

 予選は思わぬ形で終了したが、その後村長兼ギルドマスターのザッパルトより言葉をもらい、予選通過者の証である書状を渡される。

 なお書状に関しては、二重取りが発動しなかった。

 書状が二枚に増えても扱いに困るので、それがマイナス要素として判断されたのだろう。

 二重取りはマイナス要素に対しては、効果を発揮しないのである。

 ちなみに準優勝者であるアミーシャは、既にこの場にはいなかった。

 どうやら貰うものを先に受け取って、どこかへ行ってしまったようだ。

 過去にも似たような人物はいたようで、禁止されてはないらしい。

 まあ、あまり褒められたことではないようだが。

 その後は様々な人たちに声をかけられ、とても面倒な目に遭った。

 モンスターの強さの秘訣や育て方を訊く者、交換や売ってくれと詰め寄って来る者はまだいい。

 中には予選通過の書状や、モンスター自体を奪おうとする者まで現れる始末だ。

 実際予選通過の書状を奪った後、成り代わっての参加ができるらしい。

 なので予選通過者は、そうした襲撃者から身を守る必要もあるようだ。

 後は試合で戦ったジョリッツが、俺に話しかけてきた。

 内容は次の予選が行われる街、ハパンナまで共に行かないかというもの。

 どうやらジョリッツは元々ハパンナ出身であり、行商をしながら自身の店を切り盛りしているようである。

 もちろん護衛依頼として冒険者ギルドを通すとのことなので、俺はそれを了承した。

 向かう先は同じだし、ジャイアントボアとの試合を思えば、それぐらいは構わない。

 出発は明日とのことなので、宿にもう一泊することになった。

 ちなみに宿代は都合に合わせてもらう礼として、ジョリッツが払ってくれている。

 また外に出ると面倒なので、この日は宿屋でおとなしくしていることにした。

 ◆

 そして翌日冒険者ギルドで正式に依頼を受けて、村を出る。

 ジョリッツはジャイアントボアに荷馬車を引かせており、自身は御者をするようだ。

 もちろん、あの時のオーク二匹もいる。

 他にはこの前会った赤き抵抗のという、Dランクパーティもいた。

 どうやら元々、ジョリッツが頻繁に雇っているパーティとのこと。

 彼らはモンスターを使役していない分安いことに加えて、実力もあり依頼には誠実らしい。

「君はあの時の少年か。俺は赤き抵抗のリーダーをしているレッズだ」
「ジンという」

 改めて自己紹介をされたので、そう簡素に返事をする。

 テイマーの少年に言い返していた印象だったが、あれは馬鹿にされていたからだろう。

 話をしてみると、気の良い青年という印象だ。

 ちなみに他の二人は、ドンズとビリルというらしい。

 それと道中は、レフとホブンを召喚して歩かせた。

 だがなぜか、俺はジョリッツの横に座っている。

 どうやら、話し相手になってほしいようだった。

「私にはリルルという九歳の娘がいるのですが、娘はモンスターバトルが大好きでしてね。なので驚かすため、こっそり予選に参加したのですよ。ですが残念ながら、ジンさんに負けてしまいましたが」
「そうか」

 どうやら娘のため、ジョリッツは村の予選に参加したらしい。

 そして二次予選が行われる街には、その娘がいる。

 街の予選で戦う父親の雄姿を見れば、娘は大層驚くだろう。

 ジョリッツはその姿を娘に見せたかったようだが、結果として俺に負けて予選落ちしてしまった。

「しかし負けたことに後悔はありません。私は全力を尽くしたつもりです。また来年挑めばよいのです。それよりも少しばかりお願いがるのですが、どうか聞いては頂けませんか?」
「……話だけなら聞こう」

 お願いか、この状況で何をお願いする気だ?

 俺が少し警戒をあらわにすると、ジョリッツが苦笑いを浮かべながらお願いを口にする。
 
「ありがとうございます。実は、娘のリルルに会ってほしいのです。街の予選で戦う選手は、リルルにとって英雄なのです。どうかお願いできないでしょうか?」
「まあ、それくらいなら構わないが」
「本当ですか。助かります」

 てっきり二次予選の参加資格を譲ってくれと言われるかと思ったが、どうやら俺の杞憂きゆうだったようだ。

 子供に会うくらいは、別に問題はない。

 ジョリッツとの試合は面白かったし、それくらいのお願いなら聞いてもいいだろう。

 それから、ジョリッツの娘自慢などが始まる。

 娘はサモナーであり、既にホーンラビットと契約しているとか、将来美人になるとかだ。

 他にも妻が若くて美しく、気立てが良くて料理も上手いらしい。

 また弟夫婦とも関係は良好で、自身のジョリッツ商会で共に働いているようだ。

 加えてこのジャイアントボアも、つい最近手に入れたとのこと。

 行商の途中で偶然このジャイアントボアを単独で倒した者がいるらしく、止めを刺す前に交渉して売ってもらったようである。

 ジャイアントボアは瀕死という事と命を救ってもらったことを理解したのか、ジョリッツのテイムを受け入れたらしい。

「このジャイアントボアを、単独で倒す者か」
「はい、黒髪黒目の男性でしたよ。何でも、ラブライア王国に移るそうです」
「黒髪黒目……」

 なるほど。その人物はおそらく転移者だろう。

 転移の時期を考えればBランクではないだろうが、果たして国を渡ることができたのだろうか。

 俺には万能身分証がある。その人物も、もしかしたら持っているのかもしれない。

 それかBランクのルールは国境門だけであり、同じ大陸内の国に行くのは別ルールという可能性もある。

 なのでそれとなくジョリッツに訊いてみると、どうやら賄賂を渡すのが基本のようだ。

 他にも国境の砦を外れて森などを突っ切れば、別の国に行くこと自体はできるらしい。

 加えて冒険者ギルド証があれば、不法入国後も普通に働けるので数は多いとのこと。

 ここで創造神による、冒険者ギルド統一の弊害へいがいが出ている。

 一度冒険者になれば、それはどこでも使える身分証になってしまう。

 どうやら依頼の貢献度は大陸を越えてギルド同士でも共有しているが、活動場所の共有などは行っていないようだ。

 ランクによる移動制限など、実質ないようなものである。

 まあランクで移動できないことと、冒険者として別の場所で活動できるかどうかは別問題だけどな。

 冒険者証以外にも、領外や国外に行く方法はある。

 例に出すと、このジョリッツもそうだろう。

 商人として、領の外に出ることができる。

 またその護衛依頼であれば、共に出ることが可能だ。 

 加えて今回の予選通過者の書状は、期間限定の移動許可証でもあった。

 そう考えると、外に出る方法は結構ある。

 おそらく、他にもいくつか方法があるだろう。

 なので冒険者証以外の方法で別の場所に移動していても、冒険者としてその場所で働くこと自体は問題ないのである。

 実際俺はEランクであり、本来発行した領地外に出る身分証としては使えない。

 だが今はこうして国境門を通過して別の国にいるが、問題なく依頼を受けることができた。
 
 しかしまあここまで言っておいてなんだが、大多数の冒険者は理由が無ければランクを超えた移動はしないと思われる。

 実力もなく金もなく、それでいて無理やり渡るのにリスクがあるとすれば、効果はそれなりにあるだろう。

 それに実力があればランクは上げられるので、行ける範囲でコツコツ頑張るはずだ。

 結局無理やり国境を渡るのは、俺のようなやつか何か問題を抱えている人間がほとんどだろう。

 そんな思考の沼に落ちながらも、俺はジョリッツたちと共にハパンナの街へと向かった。

 道中のモンスターは弱く、特に問題はない。

 そもそもジャイアントボアがいても襲ってくるようなモンスターは、ゴブリンくらいである。

 ゴブリンは欲望に正直なことに加えて間抜けでもあるので、格上でも襲ってくる事はよくあるのだ。

 それから数日ほどかけて、目的地であるハパンナの街に辿り着く。

 また途中で気が付いたのだが、ホワイトキングダイルがようやく復活した。

 経過日数から考えて、幻影化を発動すると一週間くらい使えなくなるのだろう。
 
 そして同時にデメリットも解消されて、モンスターのカード化も可能になった。

 どうやら使用不可とカード化不可という二つのデメリット期間は、連動していたようだ。

 ちなみに道中カード化しようと思うようなモンスターは現れなかったが、これからは幾らでもできる。

 なによりジョリッツから聞いたのだが、ハパンナの近くにはダンジョンがあるようだ。

 二次予選に向けて、そこで戦力の補充をしようと思う。

 そうして俺は、ハパンナの街に入るのであった。

 

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