「ここに各ブロックを勝ち上がった者がそろった。これより選手の紹介を行う!」
決勝トーナメントが始まり、俺は会場となる場所にやって来た。
周囲には多くの人々がおり、視線が次々に向けられる。
現在俺は、試合会場の中央にいた。
職員の男が高らかに声を上げ、俺を含めた四人の紹介を始める。
「まずはAブロックを勝ち上がった男、29番のジブールだ! 彼の連れるオークにゴブリンなど、相手にはならないぞ!」
まず初めに紹介されたのは、ジブールという冒険者の男。
どうやらオークを使って勝ち進んだらしい。
「続いてBブロックを勝ち上がったのはこの美少年! 26番のジンだ! 彼はたった一匹のグレイウルフだけで勝利したサモナー! 果たして残りの二匹を見ることはできるのか?」
美少年か。傍から言われると、何だかむず痒い。
「次にCブロックを勝ち上がったのはこの女性! 5番のアミーシャだ! 彼女はここでは珍しい状態異常攻撃を得意とするモンスターで勝利した! 上手く決まれば優勝も十分狙えるぞ!」
俺の次に紹介されたのは、紫色の瞳と同色の髪を腰まで伸ばした、村人風の服を着た女性。
年齢は二十歳前後であり、少女から女性に変わったばかりという印象だった。
なるほど。状態異常を得意とするモンスターか、これはやっかいだな。
下手をすると、負ける可能性もある。
油断できない相手になるだろう。
「そして最後にDブロックを勝ち上がったのはこの男性! 17番のジョリッツだ! なんとジャイアントボアを使役していることに加えて、優勝候補のホブゴブリンを事前に倒してしまった強者だ!」
それを聞いて、周囲の観客が盛り上がる。
やはり一番の強敵は、この人物になるだろう。
選手紹介の場にモンスターはいないが、その巨体はこの場からも見えている。
どのような試合になるのか、今から楽しみだ。
「それでは選手の四人は、この棒を同時に引いてくれ! 同じ番号の相手と試合になる」
そうして、棒の入った箱が用意された。
俺と他三人はそれぞれ棒を手に取り、同時に抜く。
ふむ。一番か。
相手は……さっそくか。
「決勝トーナメント第一試合は26番のジン対17番のジョリッツだ! そして第二試合は29番のジブール対5番のアミーシャに決まった!」
番号の書かれた棒を見て、職員が声を張り上げる。
こうして俺の決勝トーナメント最初の相手は、ジャイアントボアを使役するジョリッツに決まった。
そして試合はさっそく行われるようであり、俺は会場でジョリッツと向かい合う。
「よろしくお願いしますね。もちろん、勝たせてもらいますが」
ジョリッツは優しそうな中年男性だ。腹が出ており、ジョリッツ自身は戦闘が不得意そうに見える。
「ああ、俺も負けるつもりはない」
軽い会話を終えると、それぞれ会場の端へと移動した。
「ではまずは小手調べといきましょう。ブレロ、いきなさい」
「ぶひっ!」
そう言ってジョリッツが最初に繰り出してきたのは、なんとオークである。
「レフ、行け」
「ウォン!」
対して俺は、Bブロックと同じようにレフを召喚した。
そして二匹のモンスターが場に出ると、審判役である職員の男性が声を上げる。
「両者とも準備はいいか? それでは、決勝トーナメント第一試合を開始する! 始め!」
その開始の合図と共に、レフが駆けた。
瞬く間にオークに接近すると、背後を取る。
「ぶひ!?」
相手のオークは振り返り棍棒を振るうが、既にレフはいない。
「ヴァウ!」
「ぶぎゃ!?」
気が付けば、既にレフがその左足に噛みついていた。
オークは確かに腕力もあるし、耐久力も優れている。
だが、圧倒的に速度が不足していた。
「な、何をしているのですか! 後ろですよ!」
ジョリッツが慌てて命令を下すが、オークはレフを捕らえきれない。
ふむ。どうやらジョリッツは、命令を出すのがそこまで上手くはないみたいだ。
ジョリッツ自身も戦闘が得意じゃなさそうに見えるし、もしかしてモンスターを買ったのだろうか?
服装も普通の村人より質がよさそうだし、十分にあり得る。
おそらくこの村に来たのは、全体的にモンスターの弱い予選に出て優勝するためだろう。
確かにオーク一匹でも、決勝トーナメントには十分勝ち上がれる。
だがそれでも、ここで俺と戦うことになったのが運の尽きだ。
「ぶひぃ!?」
「ブ、ブレロ……」
結局オークはレフに嬲られ続け、出血により動けなくなる。
「オークは戦闘の続行が不可能だと判断する!」
「くっ」
そして審判役である職員の判断により、オークの敗北が告げられた。
すると同時に、観客席から歓声が鳴り響く。
「すげえ!!」
「何だよあれ!」
「おい、あいついつ命令していたんだ?」
「凄すぎだろ!」
そうしている間に、オークはポーションで回復して下がっていった。
「ま、まだ負けていません。もう一匹オークがいます。しかしこれで出しても結果は同じでしょう。なので早いですが、この子に出てもらいます。行きなさい! ボアザード!」
「ブヒイイ!!」
するとジョリッツは、大将であるジャイアントボアを先に出してきた。
まあ当然か。二匹目のオークが出てきても、結果は同じだろう。
判断力はあるようだ。
しかし、これは不味いな。
「ワウン!」
「ブギ?」
何とか回り込んで噛みついても、レフの攻撃が全く通らない。
ジャイアントボアの皮膚は、それほどに硬かった。
「ブギィ!」
「ギャウ!」
だが会場という広さ制限があるからか、ジャイアントボアも突進をそこまで活かせないようだ。
観客の中にはジャイアントボアが突っ込んでくるかもと思い、席を立っている者もいる。
これはダメだな。攻撃は単純で避けやすいが、ダメージが全然通らない。
流石に試合で目を狙うことはできないし、体力勝負ではレフが不利だろう。
なら、仕方がない。
「レフの敗北を宣言する」
「ジン選手の宣言により、グレイウルフを負けとする」
それを聞いて、ジョリッツが安堵の表情を浮かべた。
対してレフは尻尾を股の下へと挟み、恐る恐る戻ってくる
「くぅん」
「あれは仕方がない。気にするな」
「ワゥン」
そう言って俺はレフの頭を撫でると、召喚を解いた。
さて、どうしたものか。
中堅はオークにしていたが、おそらく勝つのは無理だろう。
例え攻撃が通ったとしても、逆に避けることができない。
噂通り、ジャイアントボアに轢かれたオークになってしまう。
それなら、こちらも大将を出すしかないか。
「いでよ、ホブン」
「ゴッブ!!」
俺はそう判断して、ホブゴブリンのホブンを繰り出した。
「おや、ホブゴブリンですか? それなら先日倒しましたねぇ」
ジョリッツはホブンを見て、既に勝った気のようだ。
だが、その油断が命取りだぞ?
俺のホブンが普通のホブゴブリンではないことを、今見せてやろう。
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