043 ノブモ村での大会予選 ①

 朝日が昇り、とうとう大会の予選日がやってきた。

 会場は村の外に用意されており、参加申請をしている俺は当然向かう。

 どうやら観戦客も多いようで、臨時の屋台なども多い。

 そして参加者用の受付が用意されていたので、俺はそこに並んだ。

 意外と参加者が多く、三十人くらいはいるのではないだろうか。

 受付では名前と申請した場所、それと参加者用の札を提出する。

 この札には番号が書かれており、俺の場合は26番だった。

 ちなみにこの札は、今朝宿屋の店主から受け取ったものである。

 そして提出した札の代わりに同じ番号の別札をもらい、しばらく待機することになった。

 俺は時間を潰すため屋台を巡ったり、使役されているモンスターなどを観察する。

 中には噂になっていた、ジャイアントボアらしき姿も見ることができた。

 確かに大きい。高さだけでも、三メートル以上はありそうである。

 これが突っ込んできたら、オークなどき潰されても仕方がない。

 他にも珍しいモンスターを見て心をおどらせていたら、あっという間に時間が過ぎた。

「これよりオブール杯の予選を行う! 参加者は受付付近に集まるように!」

 すると職員の男がそう言っているのが聞こえたので、俺は受付に向かう。

 受付には今日のために用意された掲示板があり、トーナメント表になっていた。

 トーナメント表は四つに分かれており、俺はBブロックらしい。

 どうやら各ブロックの勝者が、決勝トーナメントで戦うようだ。

 そして優勝者と準優勝者が、次の街で行われる二次予選の参加資格を得るとのこと。

 参加者は割り振られたブロック会場に移動する必要があるので、俺はBブロックへと向った。

 ここが会場か。さて、どのような奴が相手だろうか。 

 周囲には他の参加者はもちろんのこと、審判役の職員や見物客もいた。 

 選手の数は俺を含めて八人か。つまり、三回勝てば良いということだ。 

 Bブロックは合計八人のようであり、三回勝てば決勝トーナメントに進める。

 近くには掲示板があり、俺の出番は第二試合からのようだった。

「第一試合、6番と12番は前へ」

 するとさっそく試合が始まるようであり、少年と青年が前に出る。

「よっしゃ! 負けないぞ!」
「はっ、こんなガキが相手か。楽勝だな」

 試合は三対三の勝ち抜き戦なので、お互いの背後にはモンスターが三匹ずつ控えていた。

 少年の手持ちは、スライム・ゴブリン・ゴブリン。
 青年の手持ちは、ホーンラビット・ゴブリン・グリーンキャタピラー。

 ぱっと見では、同等くらいに思われる。

「いけぇ! ぷるりん!」
「……」

 まず少年が繰り出したのは、スライムだ。ゆったりと前に出る。

「ふん、それならこっちはゴブリンだ。いけ!」
「ごぶ」

 青年は対してゴブリンを選ぶ。それとどうやら、名前はつけていないようだった。

 一見するとゴブリンが勝ちそうだが、どうなる?

 俺はそれを注意深く見守っていた。

 そうして試合は進み、結果は少年の勝利に終わる。

「やった! 勝った!」
「くそっ、こんなはずじゃ……」

 少年が勝ったか。やはり、初戦でスライムがゴブリンを倒したのが大きかったな。

 あのスライムがゴブリンの顔に飛びつき、運良く窒息で倒したのだ。
 
 それによって試合は、少年の有利になった。

 残りは少年の持つ二匹のゴブリンが頑張り、青年に勝った訳である。
 
 さて、次は俺の番だな。

「第二試合、26番と18番のは前へ」

 職員の呼び出しを聞き、俺は前に出る。

「へっ、俺に勝てるとは思うなよ?」
「そうか。ならば結果で示せ」
「ぐっ、泣かせてやる」

 俺の相手は、厳つい冒険者の男だった。

 男の手持ちはゴブリン、グリーンキャタピラー、それと初めて見る茶色いネズミである。

「おいおい、モンスターはどうした? 俺はコイツだ。いけ、茶色の悪魔!」
「チュゥ」

 そう言って男が繰り出したのは、大層な名前をした茶色いネズミ。

 うーむ。初めて見るモンスターだが、おそらくザコモンスターだろう。

「レフ、軽くあしらってやれ」
「ウォフ!」

 俺はグレイウルフのレフを召喚して、敵を指さした。

「なっ!? サモナーだと!!」

 男が驚いている間に、レフが茶色いネズミに迫る。

「チュゥウウッ!!!」

 するとレフを見て、一目散に茶色いネズミは逃げ出してしまった。

「お、おい! 逃げるな! くそっ!」
「逃亡により、そのスモールマウスは敗北とする」

 審判役の職員がそう口にしたので、早くも男の手持ちは一つ減る。

 あの茶色いネズミは、スモールマウスというのか。

 対して俺は、のんきにそんなことを考えていた。

「くそっ! 緑の色欲王よ! あいつに力を見せてやれ!」
「ごぶぶ!」

 先ほどといい、凄い名前だな。

 緑の色欲王、もといゴブリンが前に出る。

 今度は逃げる様子はなく、持っている棍棒でレフへと襲い掛かってきた。

 だが所詮はゴブリン、レフの相手ではない。

「ウォフ!」
「ごぶあっ!?」

 腕や足を噛まれて血だらけになったゴブリンは、少しすると動かなくなった。

 多分、死んでないよな?

「うぉお! 緑の色欲王が!!」

 男は予選のため用意されていたポーションを手にして、ゴブリンに振りかける。

「ご、ごぶ?」

 それにより、何とかゴブリンは復活した。

 今回の予選では、怪我をしたモンスター用に無料のポーションが置かれている。

 もちろんそれを使用した場合、即そのモンスターは敗北扱いだ。

「ちくしょう、一匹くらいは倒して見せる。いけ、緑の暴食王!」
「キシャ!!」

 色が先ほどと被っているが、グリーンキャタピラーの事らしい。

「ウォン!」
「キシャ!?」

 まあ結果は、レフの勝ちである。

「勝者、26番!」

 初戦だし、こんなものか。

「ちくしょう、次はぜってえ負けねぇ!」
「そうか」

 そうして試合は進み、俺の二戦目はスライムでゴブリンを倒した少年だった。

 だが当然相手にはならず、またしてもレフでストレート勝ちをする。

 顔面スライム戦法は、そう何度も決まるようなものではない。

 そしてBブロックは、いよいよ決勝戦を迎える。

「Bブロック決勝を行う! 26番と4番は前へ!」

 俺が前に出ると、対戦相手も前へ出た。

「勝つ。勝って、あの子に告白をするんだ」

 そう決意を口にするのは、爽やかな青年。

 しかしどのような理由があろうとも、負ける気はない。

 青年の手持ちは、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン。

 まさかの三匹連続で、ゴブリンだった。

 ゴブリン三匹か、つまらん。

 確かにこの周辺では、ゴブリンは強い方だ。

 グリーンキャタピラーに負けることはあるが、それも糸さえ気をつければゴブリンが勝つ。

 つまりゴブリン三匹という構成は、この村では意外にも強い方だったりする。

 だがそれは、この村周辺でしかモンスターを手に入れることができない場合だ。

「そ、そんな……」
「残念だったな」

 結果として、またもやレフでストレート勝ちとなる。

「Bブロックの勝者は26番に決まった。26番はこの札を持って、受付に行くように」
「ああ」

 俺は審判役の職員からBブロック勝者の札を受け取ると、受付に向かう。

 そして受付で26番の札とBブロック勝者の札を渡すと、決勝トーナメント用の別札が渡される。

 決勝トーナメントは午後からのようなので、しばらく休憩となった。

「試合見てたぜ、凄いな。俺は応援してるぞ!」
「残りの二匹は一体何なんだ? こっそり教えてくれよ」
「あの狼はどこで手に入れたんだ? 教えてくれ!」

 すると俺の試合を見ていた者たちが、群がってくる。

 しかし面倒なので、それを適当に受け流すと、俺は落ち着ける場所に移動した。

 昼食には少し早いが、途中の屋台で買ったものを口にする。

 ホーンラビットを使ったハンバーガーか。悪くない。

 しょっぱいタレがパンに染み込み、葉野菜との相性も抜群だ。

 これにピクルスが欲しくなるが、無いものは仕方がない。

 そんなことを思いながら、俺は昼休憩を終えた。

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