「ご、ごぶ!?」
俺は引き続き、ゴブリンを無力化する。
ジャイアントリーチの麻痺攻撃は、こういう時に役に立つ。
痙攣と僅かなうめき声は出せるが、動くことはできないようだ。
そして俺は、ゴブリンの魔石がある辺りに手のひらを向ける。
「魔充」
次に行う実験は、生きているゴブリンに魔充を発動すること。
死体の場合はゾンビになったので、生きている場合ではどうなるのだろうか。
魔充は問題なく発動し続け、ゴブリンに魔力が注がれていく。
「ご、ごばっ!?」
すると、ゴブリンの体に突如として変化が訪れる。
痙攣していたゴブリンが、激しく動き始めた。
体には血管が浮かび上がり、何となく筋肉が発達してきている気がする。
これは、瞬間的なパワーアップ状態なのだろうか?
そう思いつつも、俺は魔充を発動し続ける。
だがその途中で、驚くべきことが起きた。
「ごぶあぁ!!?」
「うお!?」
魔石を中心にして、ゴブリンが破裂する。
俺はゴブリンの内臓でぐちゃぐちゃになり、破裂の勢いで背後に倒れてしまった。
「……清潔」
生活魔法の清潔を発動して、汚れを消す。
なるほど……魔石の限界を超えると破裂するのか。
再び魔力を込めた種火でゴブリンの死体を証拠隠滅すると、俺は考える。
途中までは、強くなっている雰囲気だった。
これを見極めれば、ゴブリンでも結構強くなるのでは?
そう思い、次はゴブリンを召喚して魔充を試してみる。
「ん? さっきのゴブリンより魔充の効きが良いな。俺の召喚したゴブリンだからか?」
不思議なことに俺のゴブリンに魔充を発動すると、抵抗なく魔力が補充されていく。
まあ普段から召喚している間は、持続的に俺の魔力が流れているから当然かもしれない。
ちなみに、この持続的に流れる魔力を調整することはできなかったりする。
そうしてしばらくすると、先ほどのようにゴブリンの体が少したくましくなり、血管が浮き出た。
よし、どれくらい強くなったか試してみよう。
俺はもう一匹ゴブリンを召喚すると、無手で戦わせる。
「ごぶ!」
「ごぎゃ!?」
すると思った通り、魔充で強化したゴブリンが勝利した。
やはり、全体的に身体能力が高くなっているな。
次にオークを召喚して、戦わせる。
「ごぶが!」
「ぶひぃ!!」
すると戦いは途中まで拮抗したが、最終的に持続戦闘が得意なオークが勝利した。
なるほど。これは種族特性の差で負けた感じだな。
ゴブリンの種族特性のスキルは、【悪食】【病気耐性(小)】【他種族交配】である。
対してオークは、【腕力上昇(小)】【体力上昇(小)】【悪食】【他種族交配】だ。
腕力上昇と体力上昇があるオークが有利なのは、当然だろう。
しかし種族特性のスキルを無しで想定した場合、おそらく強化ゴブリンの勝率が高くなると思われる。
モンスターの格としては、一段階近くは確実に強くなっていた。
これは、凄い発見かもしれない。
だがこんな簡単なことは、既に知られていると思うべきだ。
ここも砦を通る前にいた国と同様、おそらくモンスターを使役する国である。
実験はしつくしているだろう。
とりあえず、この強化ゴブリンについてもっと知る必要がある。
それから俺は、強化ゴブリンの観察を続けた。
うーむ。これは、違法行為として禁止されている気がする。
結果として分かったのは、時間と共に魔力が抜けていき、強化ゴブリンは弱体化していく。
そして最後は、確実に死亡するのだ。
数匹試して全てそうだったので、間違いない。
俺の場合時間を置けば、カードが再び使えるようになって復活する。
だが通常はそうではない。
一時的に強くなるが、代償がそれに見合っていないのだ。
加えて、道徳的にも問題がある。
使役しているモンスターを大事にしている者は多いだろうし、これを見られれば非難は免れないだろう。
それに強化をするのにも時間がかかるし、今後これを使うのは控えることにする。
ちなみにカードに直接魔充を発動してみたが、意味はなかった。
そう簡単に、うまくはいかないようだ。
とりあえず試したいことは終わったので、昼食を適当に済ませてから村へと帰る。
するとその途中で、気になる光景が視界に入った。
あれは、モンスター同士を戦わせているのか?
「いけぇ! ゴブラート!」
「ごぶぶ!」
片方は棍棒を持ち、右腕に黄色の布を巻いたゴブリン。
「負けるなジョン!」
「キシャー」
それに対するのは、黒い塗料で模様の描かれたジャイアントキャタピラー。
二人の少年が、自分のモンスターに命令を出して戦わせている。
なるほど。あんな風にモンスターを戦わせるのか。
試合の前半は、ゴブリンが素早い身のこなしで翻弄していた。
しかし後半では、グリーンキャタピラーの糸に捕らわれてしまい、そこへ体当たりを受けてやられてしまう。
どうやらこの試合は、グリーンキャタピラーの勝利のようだ。
「やったぜ! ジョン、予選も頑張ろうな!」
「キシャー」
見れば少年の背後には、他にも複数のモンスターがいる。
だが数合わせなのか、どちらも控えはスライムだけらしい。
そして負けた少年は、勝利した少年へ銅貨を数枚手渡した。
なるほど。負けると金銭を支払う必要があるのか。
もし負け続けた場合、悲惨なことになりそうだな。
そんなことを思っていると、勝利した少年と視線が合う。
「何だお前! 敵情視察か!」
「いや、何となく見ていただけだ」
すると少年が近付いてきて、ジロジロと俺を見る。
「お前、モンスターを持っているか?」
「ん? ああ、持っているぞ」
そう言って裾の下にグリーンスネークを召喚して、少年に見せた。
「はっ、そんな小さいヘビ程度か! よし、俺とモンスターバトルをしろ! 負けたら銅貨五枚だ!」
いきなりそんな事を言ってきたが、どうするべきか。
いや、ここで止めたら、タヌゥカの時と同じになってしまう。
ならばここは、受けた方がいい。
「いいだろう」
「よし! モンスターバトルだ!」
そうして、俺は少年とモンスター同士を戦わせる試合、モンスターバトルをすることになった。
先ほど負けた少年も、興味深そうに見ている。
「バトルは一対一だ。モンスターが動けなくなるか、降参を宣言したほうの負けになる」
「ああ、わかった」
ルールはシンプルで分かりやすい。
問題は、相手のモンスターを殺さないようにすることだな。
わざとではなくても、殺せば当然恨まれるだろう。
「よし、俺はコイツを出す! いけ、ジョン!」
「キシャ!」
ふむ。先ほど戦っていた巨大な緑色の芋虫、グリーンキャタピラーか。
同じグリーンの名を持つグリーンスネークでもいいが、毒を持っているので手加減が難しい。
であるならば、他のを出そう。
この機会だ。全く使っていなかったあのモンスターにするか。
負けたとしても、精々銅貨五枚だしな。
そう考えた俺は、とあるモンスターを召喚した。
「ゲコォ!」
「な、何だよそいつ! それにお前、サモナーだったのか!?」
少年は俺のモンスター、ビッグフロッグが召喚された事に、驚きの声を上げる。
この周辺にはいないだろうし、当然見たことはないだろう。
ビッグフロッグの大きさは、大型犬サイズのガマガエルだ。
ちなみに、能力は次の通りになっている。
種族:ビッグフロッグ
種族特性
【舌強化(小)】【水属性耐性(小)】
あまり強くはないが、やるだけやってみよう。
「コイツはビッグフロッグだ。さて、どのように対処する?」
「ぐっ、そんな奴に俺のジョンは負けない!」
そして、俺と少年のモンスターバトルが始まった。
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