039 実験の続き

「ご、ごぶ!?」

 俺は引き続き、ゴブリンを無力化する。

 ジャイアントリーチの麻痺攻撃は、こういう時に役に立つ。

 痙攣けいれんと僅かなうめき声は出せるが、動くことはできないようだ。

 そして俺は、ゴブリンの魔石がある辺りに手のひらを向ける。

「魔充」

 次に行う実験は、生きているゴブリンに魔充を発動すること。

 死体の場合はゾンビになったので、生きている場合ではどうなるのだろうか。

 魔充は問題なく発動し続け、ゴブリンに魔力が注がれていく。

「ご、ごばっ!?」

 すると、ゴブリンの体に突如として変化が訪れる。

 痙攣していたゴブリンが、激しく動き始めた。

 体には血管が浮かび上がり、何となく筋肉が発達してきている気がする。

 これは、瞬間的なパワーアップ状態なのだろうか?

 そう思いつつも、俺は魔充を発動し続ける。

 だがその途中で、驚くべきことが起きた。

「ごぶあぁ!!?」
「うお!?」

 魔石を中心にして、ゴブリンが破裂する。

 俺はゴブリンの内臓でぐちゃぐちゃになり、破裂の勢いで背後に倒れてしまった。

「……清潔」

 生活魔法の清潔を発動して、汚れを消す。

 なるほど……魔石の限界を超えると破裂するのか。

 再び魔力を込めた種火でゴブリンの死体を証拠隠滅すると、俺は考える。

 途中までは、強くなっている雰囲気だった。
 
 これを見極めれば、ゴブリンでも結構強くなるのでは?

 そう思い、次はゴブリンを召喚して魔充を試してみる。

「ん? さっきのゴブリンより魔充の効きが良いな。俺の召喚したゴブリンだからか?」

 不思議なことに俺のゴブリンに魔充を発動すると、抵抗なく魔力が補充されていく。

 まあ普段から召喚している間は、持続的に俺の魔力が流れているから当然かもしれない。

 ちなみに、この持続的に流れる魔力を調整することはできなかったりする。

 そうしてしばらくすると、先ほどのようにゴブリンの体が少したくましくなり、血管が浮き出た。

 よし、どれくらい強くなったか試してみよう。

 俺はもう一匹ゴブリンを召喚すると、無手で戦わせる。

「ごぶ!」
「ごぎゃ!?」

 すると思った通り、魔充で強化したゴブリンが勝利した。

 やはり、全体的に身体能力が高くなっているな。

 次にオークを召喚して、戦わせる。

「ごぶが!」
「ぶひぃ!!」

 すると戦いは途中まで拮抗きっこうしたが、最終的に持続戦闘が得意なオークが勝利した。

 なるほど。これは種族特性の差で負けた感じだな。

 ゴブリンの種族特性のスキルは、【悪食】【病気耐性(小)】【他種族交配】である。

 対してオークは、【腕力上昇(小)】【体力上昇(小)】【悪食】【他種族交配】だ。

 腕力上昇と体力上昇があるオークが有利なのは、当然だろう。

 しかし種族特性のスキルを無しで想定した場合、おそらく強化ゴブリンの勝率が高くなると思われる。

 モンスターの格としては、一段階近くは確実に強くなっていた。

 これは、凄い発見かもしれない。

 だがこんな簡単なことは、既に知られていると思うべきだ。

 ここも砦を通る前にいた国と同様、おそらくモンスターを使役する国である。

 実験はしつくしているだろう。

 とりあえず、この強化ゴブリンについてもっと知る必要がある。

 それから俺は、強化ゴブリンの観察を続けた。

 うーむ。これは、違法行為として禁止されている気がする。

 結果として分かったのは、時間と共に魔力が抜けていき、強化ゴブリンは弱体化していく。

 そして最後は、確実に死亡するのだ。

 数匹試して全てそうだったので、間違いない。

 俺の場合時間を置けば、カードが再び使えるようになって復活する。

 だが通常はそうではない。

 一時的に強くなるが、代償がそれに見合っていないのだ。

 加えて、道徳的にも問題がある。

 使役しているモンスターを大事にしている者は多いだろうし、これを見られれば非難は免れないだろう。

 それに強化をするのにも時間がかかるし、今後これを使うのは控えることにする。

 ちなみにカードに直接魔充を発動してみたが、意味はなかった。

 そう簡単に、うまくはいかないようだ。

 とりあえず試したいことは終わったので、昼食を適当に済ませてから村へと帰る。

 するとその途中で、気になる光景が視界に入った。

 あれは、モンスター同士を戦わせているのか?

「いけぇ! ゴブラート!」
「ごぶぶ!」

 片方は棍棒を持ち、右腕に黄色の布を巻いたゴブリン。

「負けるなジョン!」
「キシャー」

 それに対するのは、黒い塗料で模様の描かれたジャイアントキャタピラー。

 二人の少年が、自分のモンスターに命令を出して戦わせている。

 なるほど。あんな風にモンスターを戦わせるのか。

 試合の前半は、ゴブリンが素早い身のこなしで翻弄ほんろうしていた。

 しかし後半では、グリーンキャタピラーの糸に捕らわれてしまい、そこへ体当たりを受けてやられてしまう。

 どうやらこの試合は、グリーンキャタピラーの勝利のようだ。

「やったぜ! ジョン、予選も頑張ろうな!」
「キシャー」

 見れば少年の背後には、他にも複数のモンスターがいる。

 だが数合わせなのか、どちらも控えはスライムだけらしい。

 そして負けた少年は、勝利した少年へ銅貨を数枚手渡した。

 なるほど。負けると金銭を支払う必要があるのか。

 もし負け続けた場合、悲惨なことになりそうだな。

 そんなことを思っていると、勝利した少年と視線が合う。

「何だお前! 敵情視察か!」
「いや、何となく見ていただけだ」

 すると少年が近付いてきて、ジロジロと俺を見る。

「お前、モンスターを持っているか?」
「ん? ああ、持っているぞ」

 そう言って裾の下にグリーンスネークを召喚して、少年に見せた。

「はっ、そんな小さいヘビ程度か! よし、俺とモンスターバトルをしろ! 負けたら銅貨五枚だ!」

 いきなりそんな事を言ってきたが、どうするべきか。

 いや、ここで止めたら、タヌゥカの時と同じになってしまう。

 ならばここは、受けた方がいい。

「いいだろう」
「よし! モンスターバトルだ!」

 そうして、俺は少年とモンスター同士を戦わせる試合、モンスターバトルをすることになった。

 先ほど負けた少年も、興味深そうに見ている。

「バトルは一対一だ。モンスターが動けなくなるか、降参を宣言したほうの負けになる」
「ああ、わかった」

 ルールはシンプルで分かりやすい。

 問題は、相手のモンスターを殺さないようにすることだな。

 わざとではなくても、殺せば当然恨まれるだろう。

「よし、俺はコイツを出す! いけ、ジョン!」
「キシャ!」

 ふむ。先ほど戦っていた巨大な緑色の芋虫、グリーンキャタピラーか。

 同じグリーンの名を持つグリーンスネークでもいいが、毒を持っているので手加減が難しい。

 であるならば、他のを出そう。

 この機会だ。全く使っていなかったあのモンスターにするか。

 負けたとしても、精々銅貨五枚だしな。

 そう考えた俺は、とあるモンスターを召喚した。

「ゲコォ!」
「な、何だよそいつ! それにお前、サモナーだったのか!?」

 少年は俺のモンスター、ビッグフロッグが召喚された事に、驚きの声を上げる。

 この周辺にはいないだろうし、当然見たことはないだろう。

 ビッグフロッグの大きさは、大型犬サイズのガマガエルだ。

 ちなみに、能力は次の通りになっている。
 

 種族:ビッグフロッグ
 種族特性
【舌強化(小)】【水属性耐性(小)】

 あまり強くはないが、やるだけやってみよう。

「コイツはビッグフロッグだ。さて、どのように対処する?」
「ぐっ、そんな奴に俺のジョンは負けない!」

 そして、俺と少年のモンスターバトルが始まった。

 

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