040 モンスターバトル

 まずビッグフロッグのできることは、長い舌による攻撃と高いジャンプ力だ。

 対してグリーンキャタピラーは、先ほどの戦いを見るに糸を飛ばしてくる。

 糸に捕らわれれば、ビッグフロッグは負けてしまうかもしれない。

「ジョン! 糸で相手を捕まえろ!」
「キシャー」

 すると案の定、グリーンキャタピラーは糸を飛ばしてくる。

 だが、ビッグフロッグはそれを難なく回避した。

 続けて、舌による叩きつけ攻撃を行う。

「ゲコ!」

 伸ばした舌が鞭のようにしなり、ビッグフロッグの攻撃が見事に命中した。

 それにより、グリーンキャタピラーが悲痛の鳴き声を上げる。

「キシャ!?」
「ジョン!!」

 ふむ。思念を飛ばすだけで命令ができる分、俺の方が圧倒的に有利だな。

 元々召喚したモンスターに対して、俺は思念による命令ができる。

 加えて軍団行動のスキルには、情報共有や意思疎通がやりやすくなる効果があった。

 これは例え味方モンスターが一匹でも、発動するようだ。

 更に召喚したモンスターは、絶対服従である。

 まるで自分の体を動かすように、ビッグフロッグを操作できた。

 これまで一匹に対し、ここまで集中して命令を出したことはない。

 なのでこれは、実に面白い発見である。

「ゲコゲコ!」
「ジョ、ジョン!」

 結果としてその後の試合は、一方的になった。

 少年が命令を出しても、当然後手に回る。

 その隙にビッグフロッグが攻撃を続けて、少年はもはや混乱状態だ。

 これは、勝負あったな。

「ゲコォ!」
「キシャッ!?」

 そしてビッグフロッグの横なぎの舌攻撃により、グリーンキャタピラーが転がって動かなくなる。

「ジョ、ジョン! 俺の負けだ! もうやめてくれ!」
「ああ、いいだろう」

 少年は負けを認めると、グリーンキャタピラーに駆け寄った。

「キシャ……」
「ジョン。ごめんよ」

 どうやら、グリーンキャタピラーは無事のようだ。

「すげえな! なあ、俺のゴブリンとそのモンスターを交換しないか?」

 すると、試合を見ていたもう一人の少年が、交換を持ちかけてきた。

「ん? 断るに決まっているだろ?」

 カード化してあることも理由だが、そもそもビッグフロッグとゴブリンでは、釣り合いが取れていないだろう。
 
「わ、分かった! スライムも二匹もつけるからさ! 頼む!」

 スライムか……少し欲しいが、再びカード化できるようになれば取り放題だ。

 それにそもそも、スライムはゴブリンより格下だろ……。

「断る」
「そ、そうか……そうだよなぁ……」

 そう言って少年は、素直に諦めた。

 すると今度は、戦っていた少年が俺に近づいてくる。

「これ、約束の銅貨五枚だ」
「ああ」

 そうえいば、負けた方は金銭を払うルールだったな。

「それでもしよければだけど、俺のジョンとそのビッグフロッグを……」
「断る!」

 先ほど見たグリーンキャタピラーとの友情は、いったいなんだったんだ……。

 俺は少年に呆れながらも、交換を断るのだった。

 ◆

 それから一先ず宿屋に帰ってくると、俺は予選で使うカードの選考を始める。

 うーむ。

 予選が三対三の勝ち抜き戦という事は、当然三匹のモンスターを選ぶことになる。

 であればまず先鋒は、グレイウルフにしよう。

 俺が思念で操作をすれば、ゴブリン程度なら相手にならないはずだ。

 それで中堅に置くモンスターは、まあオークだな。

 グレイウルフの素早さで倒せないなら、力と耐久力で勝負だ。

 そのためには、オーク用に何か武器を用意した方がいいだろう。

 これは考えがあるし、問題はない。

 そして大将には、ホブゴブリンを選ぶことにする。

 ダンジョンボスだし、大抵の敵には勝てるはずだ。

 これで負けるようなら、仕方がないだろう。

 ちなみに大会の本戦に出るとしても、あのグリフォンを使うことはおそらくない。

 逆にホワイトキングダイルについては、復活次第本戦で使う可能性がある。

 ホワイトキングダイルはグリフォンとは違い、嫌な直感などは特にない。

 使い続けていれば、何か変化がある気がした。

 よし、とりあえず予選は、このメンバーでいこう。

 先鋒【グレイウルフ】
 中堅【オーク】
 大将【ホブゴブリン】

 俺は予選で戦わせるモンスターを選ぶと、次にストレージから棍棒を取り出す。

 これは以前、盗賊を倒した時に手に入れた武器の一つだ。

 あの時はゴブリンに刃のついた武器を配ったが、棍棒などもいくつかは売らずにとっておいた。

 そしてオークを召喚すると、その棍棒を渡す。

 当然大きさが合わないが、俺にはこの魔法がある。

「調整」

 すると指輪の時とは比にならないほどの魔力が消費され、棍棒のサイズがオークにピッタリになった。

 なるほど。調整で武器のサイズを変えるのは、難しいようだ。

 それと小さくするよりも、大きくする方が圧倒的に魔力の消費量が多くなる気がする。
 
 俺の着ているブラックヴァイパーの一式も、サイズの調整をして小さくしてもらった。

 そう考えると、あの調整をした店員にはあまり負担にはなっていないと思われる。
 
 いや、普通の魔力量を考えれば、かなり無理をしたのか?

 その点が気になるが、今更確かめようがない。

 まあ、それはいいか。

 何はともあれ、これでオークの武器は問題ない。

 それと以前買いだめしておいた赤い布を、オークの右手首に巻いておく。

 今後の事も考えて、目印をつけておくことは重要だ。

 続けてオークをカードに戻すと、ホブゴブリンを召喚して右手首に同じく赤い布を巻く。
 
 ちなみにグレイウルフは、既に赤い布を首に巻いている個体がいるので大丈夫だ。

 そうしてホブゴブリンをカードに戻したところで、やることが無くなる。

 日はまだ高く登っており、夕食には早い。

 微妙な時間だな……よし、久々にシャドーアーマーの練習をするか。

 俺はこの時間を使い、以前からできるようになりたかったことをこころみる。

 部分的にシャドーアーマーができるようになれば、かなり便利になるはずだ。

 シャドーアーマーは確かに強いが、目立ちすぎる。

 部分的に腕だけ変えられれば、そこまで目立たないはずだ。

 そう考えた俺は、残りの時間をシャドーアーマーの部分発動の練習に費やすのだった。

 結果として完成には至らずとも、僅かに手がかりを掴む程に落ち着く。

 少しずつ練習していけば、いずれはできるようになるだろう。

 その後夕食の時間になり、俺は下の階に向った。

 ちなみにグリーンスネークも、再び召喚している。

 一度夕食時に連れてきているので、居なければ怪しまれるかもしれない。

 また夕食の内容は、昨日とほぼ変わらなかった。

 そして今日も、近くの話し声に耳を傾ける。

「おい聞いたか? ホブゴブリンを従えていたやつが負けたらしいぞ」
「それは本当か? 相手のモンスターは何だったんだよ」
「何でも、ジャイアントボアというモンスターらしい」
「ジャイアントボア……確かその突進は、オークですらひき殺すという噂だったな」
「ああ。実際オークと同等の強さを持つホブゴブリンが、その突進で死にかけたようだ」
「まじか。これで予選の優勝候補が脱落か。流石に死にかけじゃあ無理だろう」

 なるほど。どうやらあのホブゴブリンは、やられてしまったようだ。

 それにしても、ジャイアントボアか。

 俺のホブゴブリンと戦った時、どうなるか楽しみだな。

 やられたホブゴブリンと違って、俺のはダンジョンボスだ。

 同じ結果には、おそらくならないだろう。

 俺はまだ始まっていない予選に対して、胸を膨らませるのであった。

 

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