まずビッグフロッグのできることは、長い舌による攻撃と高いジャンプ力だ。
対してグリーンキャタピラーは、先ほどの戦いを見るに糸を飛ばしてくる。
糸に捕らわれれば、ビッグフロッグは負けてしまうかもしれない。
「ジョン! 糸で相手を捕まえろ!」
「キシャー」
すると案の定、グリーンキャタピラーは糸を飛ばしてくる。
だが、ビッグフロッグはそれを難なく回避した。
続けて、舌による叩きつけ攻撃を行う。
「ゲコ!」
伸ばした舌が鞭のように撓り、ビッグフロッグの攻撃が見事に命中した。
それにより、グリーンキャタピラーが悲痛の鳴き声を上げる。
「キシャ!?」
「ジョン!!」
ふむ。思念を飛ばすだけで命令ができる分、俺の方が圧倒的に有利だな。
元々召喚したモンスターに対して、俺は思念による命令ができる。
加えて軍団行動のスキルには、情報共有や意思疎通がやりやすくなる効果があった。
これは例え味方モンスターが一匹でも、発動するようだ。
更に召喚したモンスターは、絶対服従である。
まるで自分の体を動かすように、ビッグフロッグを操作できた。
これまで一匹に対し、ここまで集中して命令を出したことはない。
なのでこれは、実に面白い発見である。
「ゲコゲコ!」
「ジョ、ジョン!」
結果としてその後の試合は、一方的になった。
少年が命令を出しても、当然後手に回る。
その隙にビッグフロッグが攻撃を続けて、少年はもはや混乱状態だ。
これは、勝負あったな。
「ゲコォ!」
「キシャッ!?」
そしてビッグフロッグの横なぎの舌攻撃により、グリーンキャタピラーが転がって動かなくなる。
「ジョ、ジョン! 俺の負けだ! もうやめてくれ!」
「ああ、いいだろう」
少年は負けを認めると、グリーンキャタピラーに駆け寄った。
「キシャ……」
「ジョン。ごめんよ」
どうやら、グリーンキャタピラーは無事のようだ。
「すげえな! なあ、俺のゴブリンとそのモンスターを交換しないか?」
すると、試合を見ていたもう一人の少年が、交換を持ちかけてきた。
「ん? 断るに決まっているだろ?」
カード化してあることも理由だが、そもそもビッグフロッグとゴブリンでは、釣り合いが取れていないだろう。
「わ、分かった! スライムも二匹もつけるからさ! 頼む!」
スライムか……少し欲しいが、再びカード化できるようになれば取り放題だ。
それにそもそも、スライムはゴブリンより格下だろ……。
「断る」
「そ、そうか……そうだよなぁ……」
そう言って少年は、素直に諦めた。
すると今度は、戦っていた少年が俺に近づいてくる。
「これ、約束の銅貨五枚だ」
「ああ」
そうえいば、負けた方は金銭を払うルールだったな。
「それでもしよければだけど、俺のジョンとそのビッグフロッグを……」
「断る!」
先ほど見たグリーンキャタピラーとの友情は、いったいなんだったんだ……。
俺は少年に呆れながらも、交換を断るのだった。
◆
それから一先ず宿屋に帰ってくると、俺は予選で使うカードの選考を始める。
うーむ。
予選が三対三の勝ち抜き戦という事は、当然三匹のモンスターを選ぶことになる。
であればまず先鋒は、グレイウルフにしよう。
俺が思念で操作をすれば、ゴブリン程度なら相手にならないはずだ。
それで中堅に置くモンスターは、まあオークだな。
グレイウルフの素早さで倒せないなら、力と耐久力で勝負だ。
そのためには、オーク用に何か武器を用意した方がいいだろう。
これは考えがあるし、問題はない。
そして大将には、ホブゴブリンを選ぶことにする。
ダンジョンボスだし、大抵の敵には勝てるはずだ。
これで負けるようなら、仕方がないだろう。
ちなみに大会の本戦に出るとしても、あのグリフォンを使うことはおそらくない。
逆にホワイトキングダイルについては、復活次第本戦で使う可能性がある。
ホワイトキングダイルはグリフォンとは違い、嫌な直感などは特にない。
使い続けていれば、何か変化がある気がした。
よし、とりあえず予選は、このメンバーでいこう。
先鋒【グレイウルフ】
中堅【オーク】
大将【ホブゴブリン】
俺は予選で戦わせるモンスターを選ぶと、次にストレージから棍棒を取り出す。
これは以前、盗賊を倒した時に手に入れた武器の一つだ。
あの時はゴブリンに刃のついた武器を配ったが、棍棒などもいくつかは売らずにとっておいた。
そしてオークを召喚すると、その棍棒を渡す。
当然大きさが合わないが、俺にはこの魔法がある。
「調整」
すると指輪の時とは比にならないほどの魔力が消費され、棍棒のサイズがオークにピッタリになった。
なるほど。調整で武器のサイズを変えるのは、難しいようだ。
それと小さくするよりも、大きくする方が圧倒的に魔力の消費量が多くなる気がする。
俺の着ているブラックヴァイパーの一式も、サイズの調整をして小さくしてもらった。
そう考えると、あの調整をした店員にはあまり負担にはなっていないと思われる。
いや、普通の魔力量を考えれば、かなり無理をしたのか?
その点が気になるが、今更確かめようがない。
まあ、それはいいか。
何はともあれ、これでオークの武器は問題ない。
それと以前買いだめしておいた赤い布を、オークの右手首に巻いておく。
今後の事も考えて、目印をつけておくことは重要だ。
続けてオークをカードに戻すと、ホブゴブリンを召喚して右手首に同じく赤い布を巻く。
ちなみにグレイウルフは、既に赤い布を首に巻いている個体がいるので大丈夫だ。
そうしてホブゴブリンをカードに戻したところで、やることが無くなる。
日はまだ高く登っており、夕食には早い。
微妙な時間だな……よし、久々にシャドーアーマーの練習をするか。
俺はこの時間を使い、以前からできるようになりたかったことを試みる。
部分的にシャドーアーマーができるようになれば、かなり便利になるはずだ。
シャドーアーマーは確かに強いが、目立ちすぎる。
部分的に腕だけ変えられれば、そこまで目立たないはずだ。
そう考えた俺は、残りの時間をシャドーアーマーの部分発動の練習に費やすのだった。
結果として完成には至らずとも、僅かに手がかりを掴む程に落ち着く。
少しずつ練習していけば、いずれはできるようになるだろう。
その後夕食の時間になり、俺は下の階に向った。
ちなみにグリーンスネークも、再び召喚している。
一度夕食時に連れてきているので、居なければ怪しまれるかもしれない。
また夕食の内容は、昨日とほぼ変わらなかった。
そして今日も、近くの話し声に耳を傾ける。
「おい聞いたか? ホブゴブリンを従えていたやつが負けたらしいぞ」
「それは本当か? 相手のモンスターは何だったんだよ」
「何でも、ジャイアントボアというモンスターらしい」
「ジャイアントボア……確かその突進は、オークですらひき殺すという噂だったな」
「ああ。実際オークと同等の強さを持つホブゴブリンが、その突進で死にかけたようだ」
「まじか。これで予選の優勝候補が脱落か。流石に死にかけじゃあ無理だろう」
なるほど。どうやらあのホブゴブリンは、やられてしまったようだ。
それにしても、ジャイアントボアか。
俺のホブゴブリンと戦った時、どうなるか楽しみだな。
やられたホブゴブリンと違って、俺のはダンジョンボスだ。
同じ結果には、おそらくならないだろう。
俺はまだ始まっていない予選に対して、胸を膨らませるのであった。
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