翌朝目が覚めると、俺は宿屋の店主に大会の事を訊いてみた。
するとどうやら大会は王都で行われるようであり、本戦は二カ月後らしい。
現在は予選が行われているようで、ちょうどこの村でも二日後にあるようだ。
またこの宿屋はテイマーとサモナー専用という事もあり、予選の参加申請ができるようである。
それを聞いた俺は、もちろん参加申請をした。
予選参加費の銀貨一枚を払い、用紙に必要事項を記入していく。
といっても名前や年齢、性別が主であり、出身地の欄もあったが未記入でも構わないとのこと。
ちなみに文字は言語理解のおかげで、問題なく書けている。
他には簡単な説明があり、基本的にルールは三対三の勝ち抜き戦のようだ。
先に相手のモンスターを全て倒せば勝ちである。
それと、相手のモンスターを故意に殺害してはいけないそうだ。
まあそれは当たり前なので、問題はない。
後は出場に際し、モンスターを三匹用意する必要がある。
それについても余裕なので、大丈夫だ。
むしろどのモンスターを出すか、考えなければいけない。
そう言う訳で二日後の午前から予選が始まることもあり、俺は追加で二日分の宿代を払った。
さて、二日後までにできることをしておこう。
その後宿屋を出た俺は、まずはこの村、ノブモ村を散策することにする。
ちなみに村の名前は、宿屋の店主に訊いた。
ノブモ村は意外と規模が大きく、活気がある。
行きかう人も多いし、屋台などもたくさん見かけた。
そして流石モンスターを使役する国なのか、村の中でモンスターが普通に歩いている。
もちろん誰かに使役された個体なので、基本的には安全だ。
「ごぶっ!」
「ごぶが!!」
「おいやめろ!」
「こらっ! 喧嘩するな!」
だが稀にモンスター同士が喧嘩をしていたり、商品をこっそり盗もうとしていた。
他にもすれ違う女性に、ちょっかいをかけている。
まあ、そのほとんどがゴブリンなのだが。
やはり、ゴブリンの使役は難しいようである。
他にもホーンラビットやスライム、巨大な芋虫も見かけた。
おおよそ、ザコモンスターに分類されるものがほとんどだ。
しかしこれほどモンスターを使役する者が多いこと自体が、驚きである。
使役方法はスキルなのだろうか? それとも、スキル無しで使役しているのか?
気になるが、安易に鑑定はしない。
それで面倒ごとになったら困るし、そもそもマナー違反だ。
この国にいれば、いずれ詳細が分かるだろう。
そうして村の散策を続けると、俺は冒険者ギルドを見つける。
またギルドのすぐ近くには、モンスターを預ける場所があるみたいだ。
よく見れば、ホブゴブリンがいる。
何気に俺のホブゴブリン以外では、初めて他のホブゴブリンを見た。
おそらく強さは、オークと同等くらいだろう。
つまりはダンジョンボスのエクストラを持つ、俺のホブゴブリンの相手にはならない。
このホブゴブリンも、大会の予選に出てくるのだろうか。
戦うとなれば、それはそれで楽しみだ。
そんなことを思いつつ、俺は冒険者ギルドに入る。
ギルド内は、ラスターダ王国のものと大差はない。
まあ創造神によって冒険者ギルドは統一されているらしいので、気にしなくてもいいだろう。
なのでおそらく、俺も普通に活動できるはずである。
「予選に出るのか? 俺はやめにしたぜ。見たか、あのホブゴブリン。ゴブリン三匹集めても勝ち目がねえよ」
「だよなぁ。こんな村であれは反則だ。おそらく外から来た奴だろう」
「ドラゴルーラの奴か? 大会に出身国は関係ないが、何か複雑だな」
「外の奴に荒らされるのは、国境付近の村だから仕方ない。だが毎回そうだと嫌になる」
掲示板に向っていると、そんな話し声が聞こえてきた。
どうやらあのホブゴブリンは、この村の冒険者にとってはかなりのものらしい。
村規模だと、そんなものなのか。
テイマーが多いといっても、大部分はゴブリンレベルなのかもしれない。
問題は、外からやって来る強者という訳か。
あのホブゴブリン以外にもいるかもしれないし、これは注意しておこう。
そして掲示板に辿り着いて内容を確認するが、どれも微妙だ。
内容的には、護衛依頼が多い。
いつかは経験してみようとは思うが、今はその時ではなかった。
少なくとも、大会が終わるまでは進んで受けることはない。
あとはゴブリンの討伐やホーンラビットの納品、薬草採取にグリーンキャタピラーの納品などがある。
あの巨大な緑色をした芋虫の名称は、見た目通りグリーンキャタピラーのようだ。
納品という事は、有用な素材が手に入るのだろう。
続けて他の依頼も見てみるが、高ランクのものはほとんどない。
俺の受けられる範囲では、Dランクのゴブリンの村殲滅作戦だろうか。
これは人数がそろい次第、三日後に行われるようだ。
ちなみに注意事項には、使役しているゴブリンには分かりやすい目印が必須であることや、間違って殺してしまった際には当事者同士で問題を解決することが書かれている。
まあ、ぱっと見ゴブリンの違いなんて分からないから、仕方がないか。
それとスケジュールはおそらく、大会の予選を意識したものだろう。
大会の予選後にまだ受け付けていたら、その時考えるか。
この二日の間に、何かあるかもしれないしな。
そうして結局、俺は常備依頼だけを確認してギルドを出た。
元々今日は依頼を受ける気はなく、試したいことをするつもりである。
冒険者ギルドに寄ったのは、何となく目についたからだ。
その後は村を出て、人気のない場所まで歩く。
この辺ならいいだろう。
人が周囲にいないことを確認すると、俺は足元の草にとある魔法を使った。
「植育」
それは、上級生活魔法の植育である。
植育を発動させると、魔力が草に集まっていく。
「おおっ」
すると草はまるで早送りのように成長していくが、限界が来たのか途中から枯れ始める。
そして最後には灰のようになり、風と共に飛んでいく。
なるほど。植育は想像以上に凄いスキルのようだ。
ここまでするのには膨大な魔力が必要であり、正直割に合わない。
だが効果が及ぶ範囲によっては、面白いことができるだろう。
試してみる価値はある。
なので俺は、実験のためにモンスターを探した。
「ごぶ?」
そうして見つけたのは、どこにでもいるゴブリン。
「植育」
まずはゴブリンに向けて発動するが、変化はない。
まあ、これは当然だ。
「ごぶぶ!」
続いてゴブリンの目の前に、ストレージから取り出したリンゴを転がす。
ゴブリンはそれを見て周囲を確認するが、誰もいないと判断すると旨そうにリンゴを食べ始めた。
ちなみに俺は姿隠しで隠れているので、ゴブリンに見つかることはない。
さて、これならどうだろうか。
「植育」
俺はゴブリンの食べたリンゴの種を意識して発動してみるが、これも変化はない。
うーん。距離が遠すぎたのだろうか。
「ごぶあぁ!?」
なのでジャイアントリーチを数匹放ち、ゴブリンを麻痺で動けなくした。
この距離なら、どうだ?
俺は動けなくなったゴブリンの胃袋辺りに手のひらをかざし、植育を発動してみる。
すると草の時以上の魔力が必要なことに加えて、かなりの操作性と集中量が要求された。
だがそれでも魔法は通っているようなので、そのまま続ける。
「ごがごがぁあああ!!!」
そしてとうとう、ゴブリンの腹を若木が突き破って現れた。
ゴブリンはしばらく苦痛に悶えていたが、出血と根の侵食によって息絶える。
ふむ。これを実戦で使うのは、あまり現実的ではないな。
必要な魔力や時間がかかり過ぎる。
植育は、戦闘で使えるものではない。
だがもしかしたら植物系モンスターになら植育は効くかもしれないので、見つけたら試してみよう。
それと一応修理と調整を発動してみるが、何も起きない。
けれども、魔充は発動した。
ん? 体内の魔石に魔力を補充しているのか?
念のためしばらく続けていると、ゴブリンの死体に変化が訪れる。
「ご、ごぶ……」
虚ろな目をしたゴブリンが、腹に若木を生やしたまま立ち上がった。
「おおっ」
もしかして、ゾンビになったのか?
カード化してみたいが、まだカード化できない期間は続いている。
もったいないが、処分するしかない。
俺はゴブリンゾンビに魔力を込めた種火を飛ばして証拠を隠滅すると、その場から離れることにした。
うーん。ここまでしておいて何だが、流石にゴブリン相手でもやりすぎたかもしれないな。
客観的に見ても、狂気じみている。
ゴブリンの腹から植物を生やして殺害し、ゾンビ化させて焼却処分した。
けれども不思議なことに、罪悪感は一切ない。
やったことにも後悔はないし、これからも自分の力を確認する為には行い続けるだろう。
悪いが、ゴブリンには犠牲になってもらうことにする。
そうして俺は、次の実験体を探すのであった。
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