028 配下との再戦

 あれからダンジョンの二階層目に来た俺は、誰もいないような奥地へと足を踏み入れている。

 余程のことがなければ、他の冒険者がやって来ることはないだろう。

 そしてある程度開けた場所に出ると、俺は目的を実行に移す。

「いでよ、ホワイトキングダイル」

 俺の言葉と共に、巨大な白いワニが姿を現した。

「グォウ」

 ホワイトキングダイルは、召喚者の俺に興味が無いように見える。

 どうやら、命令を聞く気はないらしい。

 やはりか。

 俺がここに来た目的は、このホワイトキングダイルの召喚と、命令を聞かない場合の対処法を考えることである。

「俺の命令に従う気が、ないということか?」
「グガウ」

 伝わってくる思念からは、不意打ちで倒した卑怯者の命令などきけないとのこと。

 不意打ちで倒されたことに、相当不服らしい。

 けれどもカード化されたことにより、俺に対して攻撃的なことができないようだ。

 できるのはこうして、命令を無視することである。

 なるほど。あらゆる隷属状況下でも、自由行動を可能とするというイレギュラーモンスターの効果があるが、絶対では無いらしい。

 神授スキルであるカード召喚術の方が、支配力が勝っているようだ。

 矛盾対決は、こちらに分がある。

 だが完全に支配できないことには変わりなく、命令を聞かせるのは骨が折れそうだ。

 結局コイツが命令を無視する理由は、まだ自分の方が強いと思っているからだろう。

 一対一の真っ向勝負で打倒うちたおせば、少しくらいは命令を聞くかもしれない。

 俺は軽く息を吐くと、シャドーアーマーを身に纏う。

 ちなみに一日経ったことで、再び発動できるようになった。

「いいだろう。なら、俺とお前の一対一の勝負だ。かかってこい」
「グォオ!!」

 俺が許可したからか、ホワイトキングダイルは召喚者の俺に攻撃できるようになる。

 そして巨体とは似つかない速度で回転して、硬い尻尾を俺に薙いできた。

「ははっ、いきなりだな! こちらも行くぞ!」

 ホワイトキングダイルの先制攻撃を回避すると、跳躍して以前のように踵落かかとおとしを狙う。

 だが相手も同じてつは踏まないらしく、ライトウェーブを繰り出してくる。

 近いほど威力を増すそれは、俺を容易に吹き飛ばす。

 くっ、やはりやっかいだな。

 それとどうやら、シャドーアーマーと属性の相性が悪いらしい。

 魔力を多く注ぎ込まなければ、鎧全体が崩壊するところだった。

 加えて俺が吹き飛ばされた隙に、ライトベールで状態異常の対策をしている。

 俺には状態異常系の攻撃は無い。しかしあるとして想定しているとは、見た目にそぐわず用心深いようだ。

 続けてホワイトキングダイルは、水弾連射を発動させる。

 無数の水の弾丸が、俺を襲う。

 だが軌道自体は単調なので、避けやすい。

 俺が勝っているのは機動力と、瞬間的な高威力を出せる接近攻撃だろう。

 ホワイトキングダイルもそれが分かっているからか、俺の接近に警戒をしていた。

 攻撃を回避して近付けば、ライトウェーブで後退を余儀なくされる。

 ホワイトキングダイルは、俺の体力と魔力切れを狙っているのかもしれない。

 そうとう、自身の体力と魔力に自信があるようだ。

 しかし、それは俺も同じこと。

 だがそれで勝っても、ホワイトキングダイルは認めてくれない気がする。

 どうにかして、納得いくような倒し方をしなければならない。

 くそ、ここで遠距離攻撃手段が無いことが悔やまれる。

 そこら辺の木を引き抜いて、投擲してみるか?

 いや、逆に隙を見せることになる。

 なら、どうすれば……なにか、何かないか?

 俺が頭を悩ませていると、ふとスキルオーブ屋で買おうとしたスキルのことを思い出す。

 投擲、ストーン、ウィンドカッター、ホーリーアロー、シャドーニードル。

 いずれも、タイプの違う属性スキル。

 そうだ、俺にもあるぞ。無数の属性を持つ、そんなスキルが。

 そしてそれを高めるだけの魔力や集中力、操作力が俺にはある。

「暗闇」
「ぐがぁ!?」

 ライトベールを発動させたはずなのに、目の前が突然暗くなった事でホワイトキングダイルは慌てだす。

 それは状態異常攻撃ではない。ただの生活魔法だ。

 俺は笑みを浮かべながら、次の準備に取り掛かる。

「氷塊」

 小さな氷の塊を生み出すそれは、氷山のように巨大化していく。

 だがその時には、ホワイトキングダイルがライトウェーブで、暗闇を消し飛ばすところだった。

 しかしその瞬間先に暗闇を解除して、数十の眩い光球を顔面周囲に作り出す。

「がぅ!?」
「暗闇からいきなり明るくされると、良く効くだろ?」

 そして、準備は整った。

「喰らえ!」

 強大な氷塊を、俺は投擲する。

 更に過剰なまでに魔力を注ぎこんだ微風を発動させて、軌道修正と勢いをつけた。

 光球に一瞬視界を奪われたホワイトキングダイルは、弧を描いた氷塊をその背で受けることになる。

「ぐがぁああ!」

 ホワイトキングダイルの巨体が、氷塊に押しつぶされていく。

 ライトウェーブを発動させても、氷塊が動くことはない。

 今なお微風により左右からは支えられ、上部から勢いがつけられている。

 巨体を動かそうにも、もがくだけだ。

 するとホワイトキングダイルは、ここで狂化を発動させた。

「ガウガァ!」

 目が赤く光り、オーラのようなものが浮かび上がる。

 身体能力を大幅に引き上げ、強引に立ち上がろうとし始めた。

 凄いな。この氷塊から逃れるというのか。

 確かに、驚異的なパワーアップだ。

 しかしその代わり、お前は重要なものを失った。

 氷塊からとうとう抜け出したホワイトキングダイルは、巨大なあぎとを開き、俺を噛み殺そうと迫る。

 だがその時には、俺のシャドーアーマーも赤い光に満ちていた。

「失ったそれは、人に匹敵する知力だ」
「ぐぎゃぁが!?」

 一瞬で下に回り込んだ俺のアッパーが、ホワイトキングダイルの下顎したあごを撃ち抜く。

 あまりの勢いに、ホワイトキングダイルがひっくり返った。

「流石にこれなら、納得したよな?」
「がぐぅ」

 最後に正気に戻ったのか、ホワイトキングダイルはそう鳴いて光の粒子に変わる。

 そして俺の手に、灰色のカードになって戻って来た。

「俺の勝ちだ」

 俺のつぶやきと同時に、シャドーアーマーが砕け散る。

 この前戦った以上の疲労感が、俺を襲った。

 流石に、これはまずい。
 
 魔力と集中力を使い過ぎた。

 本来戦闘用ではない生活魔法を、強引に魔力で強化したつけが回ってくる。

 くそ、やはり遠距離攻撃の習得は必須だな。

 今回はどうにかなったが、毎回通用するような戦い方じゃない。

 これが今の俺の、限界か。

 デミゴッドとして力のおおよそを知れたという意味では、為になった。

 ここから成長しなければ、いずれ死ぬことになりそうだ。

 ホワイトキングダイルより強いモンスターは、当然沢山いるだろう。

 転移者たちも強くなるし、単独戦闘に特化したチートスキルも存在する可能性がある。

 それを前にしたとき、今のままではどうにもならない。

 俺自身も、そしてモンスター軍団も強くしなければ。

 まずい、歩くのも億劫だ。

 この気持ち悪さと頭痛、気怠さは、魔力の使い過ぎが原因か。

 魔力の使い過ぎで、モンスターを召喚できそうにない。

 いつも有り余る魔力があるせいで、モンスター召喚時に魔力が必要なことと、そこから維持に魔力を消費し続けることを忘れていた。

 勝つことに、集中しすぎたせいか。

 すると運悪く、近くの草むらから足音が聞こえてくる。

 まずい。この状況だと、相手をする余裕がないぞ。

 なら、この装備の姿隠しは使えないか? いや、これも発動と維持に魔力が必要だ。

 数分休めば発動できるが、その数分が無い。

 この世界に来て、俺は初めて死を意識した。

 無理やりにでも発動を……だめだ、集中力も使い切っている。

 うまく発動できない。

 本当に不味い。しかも今のせいで、余計に魔力と集中力が減った。

 身体も震えて、寒気まで感じる。

 くそ、どうすれば……。

 俺がもがいている内に、とうとう草むらから何かが飛び出してくるのだった。

ブックマーク
0

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA