027 シルダートの街で買い物

 俺がまずやって来たのは、やはり防具屋である。

 品ぞろえが豊富で、安い物から高いものまで揃っていた。

 その中で気になったのは、昨日見に来て諦めた装備。

「そちらは六階層にいるブラックヴァイパーの革と鱗を、ふんだんに使用した一品物になっております」

 俺がじっと見ていたからか、店員が近付いてきてそう言った。

 しかし店員は俺の装備を見て買えないと判断したのか、冷たい目をしている。

「こちらの一式全てセットでの大特価、金貨一枚で大変お買い得ですが、いかが致しますか?」

 金額を聞いたのなら、諦めて相応の物を選べといった雰囲気を感じた。

 けどまあ、大特価なのは事実なのだろう。

 漆黒の軽鎧に合わせるように、ブーツやグローブにローブ、加えてズボンにシャツなどがそろっている。

 どちらかといえば、暗殺者や軽戦士などが身につけていそうな一式だ。

 ゴテゴテとしておらず、スタイリッシュで動きやすそうに見える。

 よし、これを買おう。

「これをくれ」
「へ?」
「代金だ」
「た、確かに……ご購入、誠にありがとうございます……」

 店員はあまりに驚いたのか、代金を受け取って固まってしまった。

 それから他の店員がやって来て、固まっている店員の肩を叩くと、マネキンから装備を取り外していく。

 サイズ調整もサービスで行ってくれるようなので、お願いした。

 すると店員の一人が何やらスキルを発動させると、装備が俺にピッタリになる。

 そんな便利なスキルがあったことに驚きつつ、店内で着替えるか訊かれたので、頷く。

 試着室を借りて、ブラックヴァイパー一式に着替えた。

 それにしても、ブラックヴァイパーか。

 ダンジョンの六階層目にいるみたいなので、いずれ行こうと思う。

 着心地は悪くないな。

 全体的に漆黒色で、シャドーアーマーと近い雰囲気だ。

 しかしローブのフードは普段下げると思うので、この装備に銀髪は目立ちそうである。

 まあ、それは仕方がないか。諦めよう。

 そうして脱いだものをストレージに入れると、俺は試着室から出る。

「わぁ……大変お似合いです! こちらのお鏡をご利用くださいませ」

 すると先ほどとは違う女性の店員が、A4サイズくらいの鏡をこちらに向けた。

 鏡に映るのは、銀髪を肩まで伸ばした中性的な碧眼の美少年。

 それが、漆黒の軽装備をしている。

 なんというか、悪堕ちした王子みたいだ……。

 良い装備に変わったからか、余計にそう見える。

 初心者冒険者セットは、やはり初心者らしく、みすぼらしかったという事だろう。

 これなら、あまり舐められない気がする。

「ふむ、良い装備で満足した。これで失礼する」
「は、はい! またのご来店をお待ちしています!!」

 何か口調も、そんな感じになってしまった。

 まあ、それだけ俺も満足したということにしておこう。

 そうして防具屋を出ると、次にどうするかを考える。

 予定では武器屋に行くつもりだったが、予算をだいぶ使ってしまった。

 オークなどを納品した報酬があるので余裕はあるが、今回は武器を見送ろう。

 正直剣が無い方が強いし、中途半端な物を買っても俺の力に耐えられないと思われる。

 なので無理して、武器を買う必要はない。

 それよりも、あの店に行った方が有意義だ。

 俺はそう決断を下し、次の店へと向かった。

 そしてやって来たのは、スキルオーブ屋である。

 スキルオーブ屋は、目録とカウンターがあるだけの簡素なものだった。

 まあ使用されたら簡単に失われるので、これは仕方ないだろう。

 目録は同じものが複数あり、他の客も目を通している。

 ちなみに値段別や種類別になっており、目録の数が多い

 目録確認後に欲しい物を言って、在庫があるか確認する感じのようだ。

 そんな俺の目的は、遠距離の攻撃手段を手に入れることである。

 昨日来た時に軽く目を通したが、改めて目録に目を通すことにした。

 ファイアボールで、小金貨三枚か。

 予算的には、この辺りで抑えたい。

 出せて小金貨五枚だろう。

 その場合、宿を出て再びダンジョン生活が始まるが。

 他に良さそうなのがないか、目を通して候補を絞っていく。

 そしてしばらく経った頃、俺は購入候補を決めた。

 候補は次の通り。

・投擲
銀貨八枚
・ストーン
小金貨一枚
・ウィンドカッター
小金貨三枚
・ライトアロー
小金貨五枚
・シャドーニードル
小金貨五枚

 まず投擲は投擲時に補正がかかり、命中率や威力が上がるとのこと。

 俺の身体能力を合わせれば、かなりのものだろう。

 次にストーンは、石を生成して飛ばすというシンプルなもの。

 魔力次第では、石の硬度や発射速度などが上がる。

 加えてシンプルゆえに、使いやすいだろう。

 三つ目のウィンドカッターは、不可視の風刃で攻撃するというもの。

 回避しづらく、不意打ちにも向いている。

 ライトアローは、光属性の矢を放つ。

 シャドーアーマーが闇属性なので、その逆の光属性であれば戦闘の幅が広がるだろう。

 最後のシャドーニードルは、闇属性の針を無数に飛ばすスキルだ。

 闇属性に特化させるのも、ありだと思った。

 この中から、一つを選ぶことにする。

 だがその前に、在庫があるか確認することにした。

「全部無いよ。国境門が開くからね、戦闘に役立ちそうなスキルは、粗方品切れ中だよ」
「そうか……」

 俺は何も買えずに、店を出た。

 まあ状況を考えれば、そうだよなぁ……。

 買う気満々だったので、余計に落胆してしまう。

 逆に今身につけているブラックヴァイパーの装備一式は、入荷したばかりだったのかもしれない。

 そういう意味では、運を使い切っていたのだろう。

 別に、急いで遠距離攻撃を用意する必要はないな。

 もしかしたら、ダンジョンで見つかる可能性もある。

 そう考えることにしよう。

 俺はその後適当に屋台で食事をとると、宿に戻ってもう一泊分の代金を払った。

 部屋に戻ると、ベッドに腰かけて一息つく。

 スキルオーブを買えなかった分、金銭的には余裕がある。

 そういえば、金貨一枚貯めて図書館に行くはずだったな。

 もう一度ダンジョンに潜れば貯まるだろうし、それを次の目的にするのもありだろう。

 あとはこの防具の元になった、ブラックヴァイパーがいる六層目を目指すのも良い。

 それはそうと、この装備を鑑定してみるか。

 名称:ブラックヴァイパーの軽鎧
 説明
 ・ブラックヴァイパーの革と鱗をふんだんに使用された軽鎧。
 ・装備中は闇属性耐性(小)と姿隠しが発動する。

 どうやら装備することで、効果を発揮するようだ。

 それと、姿隠しとは何だろうか。

 説明箇所を更に鑑定することはできないので、分からない。

 なので姿隠しを試しに意識してみると、俺の体が薄っすらとし始める。

 消えたというよりも、気配が薄くなったという感じだった。

 なるほど。ますます暗殺者向けの装備だな。

 続いて軽鎧以外の一式を鑑定してみると、所々ブラックヴァイパーの革や鱗が使われているようであり、同様の効果があった。

 しかし軽鎧と違って、1/4という表記がある。

 どうやら、シャツ・ズボン・ブーツ・グローブを同時に装備することで、効果が発揮されるようだ。

 それとローブについては闇属性耐性が無い代わりに、単体で姿隠しが可能だった。

 ちなみに効果が重複しているが、その分気配を上手く消すことができるようである。

 試しに軽鎧とローブを外して姿隠しをしても、例えるならクラスで影の薄い人程度の効果だった。

 三つ合わさることで、探索で十分活かせるレベルになる感じだ。

 それを確認するために、気配感知のあるホーンラビットを召喚して確認させてみた。

 するとそこにいるのを知っていなければ、真後ろに立たれてもすぐには気づけないかもしれないという感覚が伝わってくる。

 スキルがあってそれならば、かなりの有用性だ。

 俺はソロで活動しているので、こういうスキルは大変役に立つだろう。

 良い買い物をした。

 よし、明日はさっそくダンジョンに行って、実戦で性能を確かめよう。

 まだ時間もあるし、明日のためにもう一度冒険者ギルドでよさそうな依頼を確認するのもありだな。

 六層目を狙うなら、ランクもあと一つは上げたい。

 そう思った俺は、再び冒険者ギルドに足を運んだ。

 するとそこである意味タイミング良く、驚愕きょうがくの事実が近くから聞こえてくる。

「おい聞いたか、国境門がとうとう開いたってよ!」
「マジかよ! いったいどこと繋がったんだ?」
「なんでも、モンスターを操る国らしい」

 モンスターを操る国!?

 国境門が開いた事にも驚きだが、モンスターを操るというのは聞き捨てならなかった。

「その話、俺にも詳しく教えてくれないか?」
「だ、誰だよお前!?」

 俺は静かに小銀貨三枚を、男に握らせる。

 すると男は一瞬驚いたものの、知っていることを教えてくれた。

 どうやら、ここから南に徒歩で半日ほど歩いたところに、国境門があるらしい。

 その国境門につい最近まで開く前兆があり、噂を聞きつけた冒険者が集まってきていた。

 そして今日の日が昇る前に、国境門が開いたとのこと。

 繋がった国の者たちは何匹ものモンスターを連れていたらしく、更にそこからやって来た代表者に、宣戦布告されたらしい。

 近いうちにギルドから通達されて、戦争に参加する者が募集されるみたいだ。

 活躍すれば大金や爵位が手に入るチャンスがあると、男は話していた。

 なるほど。これから戦争か。

 カード召喚術を使う者として、これは参加しない手はないな。

 相手の国の者が、どのようなモンスターを連れているのか気になって仕方がない。

 これは、面白いことになったな。
 
 ダンジョンに集中するわけには行かなくなった。

 それよりも、優先的にすることがある。

 宿代はもったいないが、引き払った後すぐにダンジョンに行くことにしよう。

 俺はギルドを後にすると宿屋に事情を説明してから、ダンジョンへと向かった。

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