翌日俺は、冒険者ギルドに来ていた。
掲示板を見て、提出できそうなものを吟味する。
うーん。オークの納品はDランクか……。
現在俺はFランクなので、二つ上のDランクの依頼は受けられない。
例えそれが、納品できるとしてもだ。
しかし売却自体はできるようなので、売ることに決める。
ただその場合、かなり安くなってしまうみたいだ。
駆け出し冒険者が金に目がくらんで、格上を倒しに行かないための対策だろうか。
そんなことを思いつつ、俺のランクでも受けられる依頼を受けることにした。
受付に並び順番が来ると、依頼票と冒険者証を提示する。
すると受付の女性が俺の冒険者証を見ると、声をかけてきた。
「ジン様には商業ギルドより、救助依頼などに対する複数の達成報告が届いております」
「ん?」
商業ギルド? あぁ、もしかして盗賊からの救出に対して、ハプンが村の商業ギルドに報告しに行ったものだろう。
あの時逃げるように村を出たから、達成が今になったのかもしれない。
行き場所は知らないはずだが、この時期に冒険者が行く場所の目星は容易についたのだろう。
実際俺はここにいたわけだし、当たっている。
「達成したのは、盗賊団の壊滅及び指名手配犯である頭目ザブウの討伐、行商人ハプンとその家族の救出、そして安全な村までの護衛、商品全てを持ち主に返却したことに対する四件となっています」
おおっ、思ったより依頼としてカウントされたようだ。
「今回は特殊な状況下ということになり、ランクの制限はございません。また報酬はこちらになります」
そして俺の目の前に、大金が置かれる。
内訳は以下の通り。
・盗賊壊滅関係=小金貨二枚
・救出=小金貨一枚
・護衛=銀貨五枚
・商品の返却=小金貨一枚と銀貨五枚
合計小金貨四枚と銀貨十枚
あの盗賊の頭目、思っていたよりも凄かったんだな。懸賞金が半端ない。
それと商品返却の報酬が多い気がするな。もしかしてハプンが増額したのだろうか。
確かに、ハプンからは直接助けたお礼は貰っていなかったし、可能性は高いな。
にしても、こうも簡単に大金が手に入るとは。
俺の感覚だと、この世界の通貨価値は脳内でこう変換している。
・小銅貨=1円~10円
・銅貨=50円~100円
・小銀貨=500円~1,000円
・銀貨=5,000円~1万円
・小金貨=5万円~10万円
・金貨=50万円〜100万円?
村単位で物価が違うし、日本円に変換するのは少し無理があるかもしれない。
金貨一枚百万とか、どうなっているのだろう。
金貨といいつつ、特殊な素材も使われている気がする。
そんなことを考えていると、いつも通り二重取りが発動した。
『神授スキル【二重取り】が発動しました。依頼貢献度と報酬が倍になります』
どこからともなく硬貨が現れ、合計小金貨八枚、銀貨二十枚になる。
両替すれば金貨になるが、使いづらいので止めておく。
金貨については、いずれ見ることになるだろう。
「ジン様の貢献度が一定数に達したため、ランクアップ処置をさせて頂きますね。少々お待ちください」
すると待ち札を渡されたので、一旦受付から離れることになった。
ちなみに受けるつもりだった依頼は、問題なく受理されている。
大金はストレージに入れて、受付の列から出た。
ものすごく視線を感じたが、諦めることにする。
まあ、合計金貨一枚分だからな。
普通に生活する分には、使用するのはほとんど小銀貨までだ。
たまに銀貨を使う感じになる。
なので冒険者とは、意外と高給取りなのだ。
ただし、駆け出しは除く。
そう考えると、改めてあの銀貨二枚のぼったくり宿屋が酷い。
今いる宿屋は質が良くて銀貨二枚だが、感覚が麻痺していたんだな。
キョウヘンの宿屋は、小銀貨四枚だった。
あれが普通なのだろう。
この街では、宿屋の主人も高給取りのようだ。
それと俺の稼ぎがおかしく見えるが、本来は二重取りは発動しないし、パーティで山分けになる。
パーティは、二人〜六人くらいが一般的なようだ。
複数のパーティが集まると、同盟になる。
または大人数が一つのパーティに集まると、クランになるようだ。
そして複数のクランが集まると、連合になる。
高難易度の依頼ほど、大人数で受けることが増えていく。
結果として、一人当たりの報酬も常識的なものに落ち着く感じだろう。
まあ上位になってくると、一人当たりの報酬も多そうだが。
俺が冒険者の上澄みになったら、いったい報酬はどうなるのだろうか。
モンスター軍団を使って依頼を熟すと思うので、高ランク依頼でも報酬は独り占めだ。
そして、二重取りで倍になる。
……なんだか、経済を破壊しないか心配だ。
そこは通貨を統一したという、創造神にどうにかしてもらおう。
俺が先の未来に少々頭を悩ませていると、専用の窓口から呼ばれる。
そこで新しく渡された冒険者証は、Eランク。
おそらく、ギリギリランクアップに届いたと思われる。
今回は特殊依頼で、ランク制限はない。
そしてランクが一つ上になるごとに、貢献度は倍増していく。
今回の依頼が一つCランクの場合、八倍になる。
更に二重取りで十六倍だ。それが四つで六十四。
俺のこれまでの貢献度は、おそらく四十は無いくらいだった。
それか特殊依頼には、貢献度に何かボーナスが発生するのだろう。
本来ランクアップにはかなりの時間を要するので、短期間でのランクアップは実は凄かったりする。
Fランク依頼だけだと、百回分の貢献度が必要だ。
真面目にこなしても、四カ月近くかかる。
今回は、運が良かったと考えよう。
これで一つ上の、オークの納品依頼が受けられる。
だが待てよ、俺の貢献度をどうやって他の村と共有したんだ?
俺が知らないだけで、冒険者ギルドは未知のアイテムを使用しているのかもしれない。
それか、そこは創造神が上手くやっているのだろう。
俺はそう思いつつも、新しい冒険者証であるドックタグを受け取った。
この冒険者証も、実は凄い隠し効果があるのだろうか?
やはり鑑定してみても、特に効果は見られない。
まあ今気にしても、仕方がないか。
ちなみに、ランクアップには二重取りは発動しないようである。
コツコツ上げていこう。
そしてランクアップを終えると、掲示板から追加で依頼を手に取った。
結果として俺は、更なる報酬と貢献度を稼ぐことに成功する。
ランクアップで目立ってしまったので、もはや自重するのも馬鹿らしいと思い、ストレージから自分で食べる分以外は全て納品した。
他にもゴブリン、ホーンラビット、ポイズンモス、グリーンスネークなどを筆頭に、三階層のジャイアントリーチやビッグフロッグ、その他etc…を提出している。
解体場の男性は、もはやドン引きだ。
加えてその場にいる全員が、大変な長時間作業になることを理解して、絶望した表情になった。
これには思わず、罪悪感を覚えてしまう。
だが俺にはお願いすることしかできず、しばらくギルドの椅子に座って待ち続けることになった。
けれどもその途中、様々な人物から勧誘の誘いが来る。
当然断ったが、諦めない者が何人もいた。
これは、しばらく粘着されそうである。
すると見かねた職員が、専用の待合室に案内してくれた。
本来高ランク冒険者用だが、今回は特別に使わせてくれるようだ。
将来性のありそうな冒険者には、こうした便宜を図るのだろう。
そうして全てが済んでギルドを出ると、既に昼を越えていた。
とりあえず、後をつけてくる者たちから離れることにする。
相手をするのも面倒だ。
デミゴッドの身体能力を発揮すれば、逃げ切るのは簡単だった。
それにしても、一気に稼いでしまったな。
少し前まで金欠だったのが、嘘のようだ。
これだけあれば、欲しい物をある程度そろえられるだろう。
そろそろ、防具とかをどうにかしたかったんだよな。
ここまでずっと、初心者冒険者セットの装備だった。
増えたのはゴブリンの洞窟で手に入れた、グレイウルフのグローブくらいだ。
そのグレイウルフのグローブも、ホーンラビットを触るために外したままだったりする。
今もストレージの中で、眠っている状態だ。
正直、あれくらいの防具では無い方が楽だった。
なので外してから、忘れたままだったのだろう。
そんなことを思いつつ、俺は昨日目星をつけていた店に向かうのだった。
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