025 帰るまでがダンジョン探索

 かなりの疲労感があったが、帰りの道中でもモンスターを狩っていく。

 ちなみに、シャドーアーマーはなぜかしばらく使えないようだった。

 泥の不快感に眉をひそめながらも、二層目を目指した。

 その道中では、巨大なカエルやヒルを倒してカード化する。

 種族:ビッグフロッグ
 種族特性
【舌強化(小)】【水属性耐性(小)】

 種族:ジャイアントリーチ
 種族特性
【吸血】【麻痺攻撃】

 特にジャイアントリーチは数が多く、うっとうしい。

 大きさ自体は、トイレットペーパーの芯を繋げたくらいだ。

 どうにか俺の足に噛みつこうとするが、歯が通らないので吸いついているだけだった。

 しかしヌメヌメとしているので、不快感が強い。

 集団で敵に襲わせたら役に立ちそうなので、この機会にそろえておく。

 逆にビッグフロッグは、そこまで魅力がない。

 ただ単に、大型犬サイズのカエルである。

 舌を鞭のように振るったり、足を絡め取ろうとしてきた。

 対象を転ばしたあと、ヒルたちが襲うという連携だろうか。

 そうしてジャイアントリーチを五十枚、ビッグフロッグが十枚手に入る。

 ついでに、マッドクラブを食用として確保した。

 ストレージは時間が止まっているので、幾らあっても足りないくらいだ。

 そして無事階段に辿り着き、二階層へと上がる。

 上がった周辺には待機組の冒険者が何人かいたが、無視して先へと進む。

 今回は流石に疲れたのと、モンスターを回復させたいので街に戻るつもりだ。

 召喚している間は、カード時と違って自動回復することはない。

 モンスター各々の、自己治癒力に頼ることになる。

 効率が悪いので、今回は金を払って宿に泊まった方がいい。

 二層目からはほぼ無傷で生き残ったグレイウルフを召喚して、階段への案内を頼む。

 この森だと、流石に道に迷う。

 それからしばらく走って階段に辿り着くと、一階層目に上がった。

 流石に一階層になると、かなり安全になる。

「お前、生きていたのか? やっぱりオークはきついだろ」
「ん?」

 すると階段周囲の野営場所で、冒険者の男が声をかけてきた。

 この人物は確か、二階層に行こうとした俺を心配してくれた人だ。

「いや待て、その足元の泥はもしかして、三階層に行ったのか?」
「まあ、そんなところだ」
「そうか。俺のアドバイスはお節介みたいだったようだな」

 そう言って居心地が悪そうに、男は後頭部をかいて苦笑いする。

「いや、あのアドバイスは助かった。お礼にこれを食べてくれ」

 正しい情報には、対価を出すものだ。
 
 俺は作り置きしておいた、マッドクラブの塩ゆでを取り出して渡す。

「こりゃ、マッドクラブじゃねえか。泥臭くて食えたもんじゃねえぞ」
「大丈夫だ。泥抜きは完璧にしてある。味は保証するぞ」
「そりゃ、本当か?」
「ああ、これを食べてみてくれ」

 追加で俺はマッドクラブの足の身をストレージから取り出して、男に差し出した。

「た、確かに良い匂いがするな。よし、試してみよう……こ、こりゃうめえ! エールが欲しくなるな!」

 マッドクラブの旨さを知った男が、喜びの声を上げる。

 するとなんだなんだと、男の仲間たちがやって来た。

 そしてマッドクラブの旨さを男が口にすると、仲間たちも喉を鳴らす。

 あの人数で分け合ったら少なそうなので、俺は追加でもう一杯差し出した。

 男はそれに大層喜び、野営で一緒に宴会でもしようと誘ってくる。

 だが俺はそれを断り、その場を後にする事にした。

 これでマッドクラブの旨さが広がれば、いずれこの街でマッドクラブの料理文化が発達するかもな。

 そうして俺は別のグレイウルフを召喚し直して、一階層を駆け抜ける。

 ダンジョンを出るのは、あっという間だった。

 ちなみに出入り口付近に行く前に、グレイウルフはカードに戻している。

 何だか、久々に街に戻ってきた気がするな。

 太陽はまだ出ているが、夕方まではあっという間だろう。

 さて、宿屋を探すか。

 さいあくの場合、あのぼったくりの宿屋なら空いているかもしれない。

 俺はまだ探していない場所の宿屋を、総当たりしていく。

 大抵満室であったり、異常に値段が高かった。

 そんな中で、質がよさそうな中堅レベルの宿屋を見つける。

 どうやら部屋は空いているようだが、紹介状が必要らしい。

 受付の男は厳つく強そうに見えるので、元冒険者なのだろう。
 
 当然俺に紹介状は無いが、使えるかもしれないと万能身分証を差し出した。

 するとこれが上手く行き、宿泊を認められる。

 一泊銀貨二枚とあの店と同じだが、サービスが段違いだ。

 朝晩食事付きで、希望するなら桶とお湯を出してくれるらしい。

 また部屋も全体的に綺麗で、ベッドのシーツや枕などは頻繁に洗濯しているようだ。

 他にも馬小屋も完備されており、追加料金を払えば面倒も見てくれるようである。

 これが本当の、銀貨二枚の宿屋だ。

 最近影が薄かったが、万能身分証を持っていてよかった。

 ちなみにダンジョンを出る前に清潔を発動させて綺麗にしているので、泥で汚すことはない。

 最初からここに泊っていれば、ダンジョンで寝泊まりすることもなかったな。

 さてと、時間が余ったがどうするか。

 冒険者ギルドへの納品は、明日の朝でいいか。

 夕方だと、かなり混んでいるはずだしな。

 とりあえず、街でも散策しよう。

 そうして俺は街へと繰り出し、気になる店を見て回った。

 欲しい物をいくつか見つけたので、金が入ったら色々買うことを決める。

 また街中を歩けば、冒険者以外にも様々な人がいることに気が付く。

 商人や一般市民はもちろんのこと、大道芸人や辻馬車の御者。猫なども見かけた。

 猫を鑑定してみるが、普通にどこにでもいる猫のようである。

 猫は動物なので、おそらくカード化はできないだろう。

 カード化できるのは、あくまでモンスターだ。

 しかしだとすれば、グレイウルフも普通の動物じゃないのか? 灰色の狼だぞ。

 動物とモンスターの基準が分からないな。

 種族特性の有無だろうか。

 猫の種族は猫だったが、種族特性はなかった。

 対してグレイウルフには、嗅覚上昇(小)と集団行動の種族特性がある。

 そういえば、人族にも種族特性がなかったな。

 なら種族特性があるデミゴッドは、モンスターなのか? 違う気がする。

 だめだ。この疑問について考えるのはよそう。

 別に俺は学者でも何でもない。

 いずれ知る機会を得る可能性があるし、今答えを無理やり出す必要はないだろう。

 俺は一旦動物とモンスターの違いという疑問を、頭の隅へと追いやった。

 その後は日が暮れて宿に戻ると、夕食が用意される。

 献立はオークの肉を使ったステーキがメインで、スープやサラダ、パンとエールが添えられた。

 味は濃いめだが、かなり旨い。

 この宿は当たりだな。

 無事に食事を終えて部屋に戻ると、清潔を発動させて横になった。

 清潔は便利だ。風呂も歯磨きも一瞬で済ませることができる。

 しかし周囲ではあまり見ないから、下級では使えないのだろう。

 二重取りの効果で進化したのは、正に僥倖ぎょうこうだった。

 そして俺は一日の疲れと満腹になったという事もあり、あっという間に眠りにつく。

 だが毛が落ちるのを考えて、グレイウルフとホーンラビットを寝具にしなかったのが、なぜか少し寂しく感じた。

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