005 奴隷商

「娘を助けていただきありがとうございました。遅れながら申しますが、私はこちらの冒険者ギルド職員をしておりますフィーネと言います。今は会計や依頼の仕分けなどを主にしておりますが、以前は受付嬢をしておりました」

フィーネさんはそういうと、冒険者登録を行う為の石板を取り出す。

「ウィンターさんはまだ冒険者登録の途中のようでしたので、この場で登録いたしますね。私はお礼を言わせて頂くために交代して頂いたのです」
「なるほど」

そう納得して俺は目の前に置かれた石板に右手を置く。

確か登録って念じればよかったんだよな……登録!

その瞬間、適性属性である金色の光が登録に応じるかのように光ると、石板の下部から長方形で鉄のようなカードが排出された。

「こちらが冒険者の証である冒険者カードとなります。普段は念じることで出し入れ可能となっておりまして、死亡した際には裏面に死亡理由が表記された上で、自動的にその場に現れるようになっております。また依頼を登録することで自動的に討伐数などを記録いたします。ギルドカードの個人情報変更の際には受付にお越しください」

フィーネさんはギルドカードについて説明してくれた。またギルドカードで冒険者ギルドに金銭の出し入れや、借金もできるとのこと。更に冒険者カードは、身分証としての役割を果たすらしい。

 本来ならば身分証となるまでに面倒な手続きが多いのだと言うが、稀人はそれが免除されるのだとか。

 そうして、無事に冒険者登録が終わると、フィーネさんと少し世間話をした。

 なんと、あのエロランド君とは義理の親子で、父親の連れ子だったらしい。

 また受付嬢は未婚という条件があるので、再婚を気に裏方に移動したそうだ。

 なるほど……将来エロランド君にセクハラされない事を切に願うよ。何故だがそれが不安でならない。フィーネさん美人だしね。

 そして、ひと段落するとフィーネさんは退出し、また一人の時間がやって来ると思われたが、丁度入れ替わるようにギルドマスターのロドルスさんと、あの稀人の少年、そして奴隷商人思わしき太った初老の男性が入って来たので、俺は反射的にソファーから立ち上がる。

「ん? 構わん、座ってくれ」
「あ、はい」

 そうロドルスさんに言われて、俺は再び着席し、向かいのソファーにロドルスさんと奴隷商人が座り、稀人の少年は奴隷商人の横に立たされたままだ。

 こちらを殺気だって睨んでいるが気にはしない。

「初めまして、私はアガッド西部にあるデンヴァー商会の会頭、デンヴァーでございます」
「こちらこそ初めまして。稀人のルイ・ウィンターです」

お互いに軽い自己紹介を終えると、デンヴァーさんが早速話を切り出す。

「本日はこちらの奴隷を売っていただけるという事でよろしいでしょうか?」
「はい」

当然よろしいので俺は素直にそう返事をする。

「では、こちらで直接奴隷に質問をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい」

続けてそう返事をすると、稀人の少年に喋る許可と、嘘偽りなく質問に答えるように命令をした。
 
 そしてデンヴァーさんが様々な質問をする。その結果、稀人の少年の言動などが常軌を逸していたのは、ポイントを得るために欲望促進という悪条件を足していたからだそうだ。

 本人曰く、自分なら大丈夫だと思ったらしい。まあ全然大丈夫では無かった訳だが。

そうして、無事にデンヴァーさんが質問を終えて、彼の売却値段を口にする。

「いくつかのマイナス点はございますが、それを上回るプラス点がございますので、お値段は650万シルでいかがでしょうか?」
「えぇ!?」

 思わず声を上げてしまった。それもそのはずで、今現在の所持金が、今まさに売られる稀人の少年から取った所持金を含めて10万シルだからだ。

 こう考えると、俺って酷いやつなのかもしれない……けれど、こいつのやったことを考えれば、冷たいかもしれないが自業自得だろう。この世界は色々と厳しそうだしな。

「むむむ、確かにマイナス点を稀人という希少価値で相殺するのは無理がありますな……わかりました。700万シルでどうでしょうか?」

 何かを勘違いしたのか、売却値段が上がっていた。

「わ、分かりました! お売りいたします!」

 こうして俺は、いきなり大金を手にすることとなった。

 そして、引き渡しの言葉を教えてもらい、宣言する。

「我、ルイ・ウィンターは、デンヴァーに所有奴隷、フェニックス・アルティメイトを譲渡する!」
「我、デンヴァーは、ルイ・ウィンターより、奴隷、フェニックス・アルティメイトを譲受する!」

 その瞬間、俺の元から稀人の少年、フェニックス・アルティメイトの所有権がデンヴァーさんに移動した。

 因みに直前で稀人の少年から名前を聞いたが、PVPでも名前は出ていたらしい。そんなものは覚える余裕が無かった。それと、引き渡しの言葉は様式美であり、受け渡しの際に互いの了承があれば問題ないそうだ。

≪稀人で初めて隷属した者を売却したことにより、称号『奴隷商』を獲得いたしました≫

 何か変な称号を獲得してしまった……。

「な、なんだよこれ!? ふざけるな! こんな称号認めてたまるか!」

 おそらくフェニックス・アルティメイトも称号を得たのだろうが、雰囲気からして碌なものではないのだろう。
 デンヴァーさんも気になったようで彼に聞くと、どうやら奴隷という称号を獲得したようで、隷属状態が解除されると死亡するらしい。つまり、彼は一生奴隷という訳だ。

 流石に可愛そうになってきたが心を鬼にして、明日は我が身だと思い気を付けることにする。

 俺はデンヴァーさんに700万シルを無事に受け取り、連れて行かれるフェニックス・アルティメイトを見送りながら、一つのミスで一生奴隷になる可能性があるのだと、心に刻み込んだ。

「絶対復讐してやるからな! 覚えてやがれ!」

 これが俺の聞いた、彼の最後の捨て台詞だった。


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