700万シルをストレージの中とはいえ、持ち運ぶ勇気は無く、俺は早速冒険者カードを利用して冒険者ギルドに預けた。
「君のような稀人ばかりならいいのだが、あのような者もそれなりにいるとみて対応をすべきだな。では、私はこれで失礼する」
「ここまでありがとうございました」
「かまわぬよ」
そう言ってギルドマスターのロドルスさんは去って行く。どうやら俺が大金を預けるまで警戒してくれていたようだ。
いくら雰囲気の良い冒険者ギルドでも、フェニックス・アルティメイトのように危ない者も少なからずいるのだろう。改めてこれからは気を引き締めないといけないな。
俺はそう決心した。
さて、これからどうしたものか。
冒険者ギルドで依頼を受けてみるのもありだな。外も丁度お昼時だし、昼食を摂ってから外にでるのもいいかもしれない。
俺がそう簡単に予定を組んだ時だった。戻ってくるまで一人待っていたのか、エロランド君が近づいて来る。
「あ、あのさ! 宿屋ってまだ決めていないだろ? 俺がお勧めを教えてあげる! それと、依頼も! 俺父ちゃんに色々教わっているから初心者の依頼も詳しいんだよ!」
「わ、わかった。わかったから少し落ち着いて」
「あ、うん」
いったいエロランド君はそんなに慌ててどうしたのだろうか。
とりあえずまずは依頼のお勧めを教えてくれるそうで、掲示板の前まで向かう。
「やっぱり最初は薬草採取だよ! 点数は0.5で報酬も安いけど安全だし!」
そう言ってエロランド君はランク1の薬草依頼を指差すが、背伸びするバランスをとるために、人にズボンを支えにするのをやめてくれないだろうか。若干下がって来る。
俺がズボンの位置を直すと、周囲からガッカリしたような声が聞こえるが、聞かなかったことにする。
話しを戻すが、エロランド君が進めてくれた薬草採取の点数は0.5点で、ランクが1つ上がる為には後0.5点足りない。つまり、1点で1ランク上がる仕組みだ。
「あとはホーンラビットの角の採取とかもお勧め! ここら辺で一番弱い魔物だよ! 0.5点だけど、薬草を採取する場所の近くにいるから一緒に受けるのが良いんだよ!」
「なるほど」
想像以上にエロランド君のお勧めは有益なものだった。ただ、なぜこいつは人の尻を撫でているんだ? 調子に乗るなよ。
「いでっ!?」
「それじゃあこの二つを受けることにするよ」
「わ、わかったよ」
俺はエロランド君の手を軽くつねると、そう言って依頼書を受け取って受付を済ませた。
依頼はギルド登録にも使用された石板の隙間に挟んでプレスされた後、ギルドカードを石板の上に乗せて受注と念じるようだ。
今更だが、この石板凄い技術だな……。
そうして、俺はエロランド君と共に冒険者ギルドを出る。次はお勧めの宿屋だ。
「ここだよ。俺が冒険者になったらここを利用しなさいって、父ちゃんに言われてるんだ!」
「なるほど。良さそうな場所だね」
着いた場所は、白の憩い停という冒険者ギルドから西に少し行った宿屋で、大道理からは少し外れるが、近くに商店なども立ち並ぶ立地の良い場所だった。
早速中に入ると、木造になっており、一階は主に食堂兼受付となっているようだった。
「おや? ランドじゃないかい。またうちのサラの尻を撫でに来たのかい?」
そう声をかけてきたのは、恰幅の良い三十代の女性だ。
「ち、違うよ! 今日はここがお勧めだってこの人を連れてきたんだよ!」
「どうも初めまして、今日冒険者になったばかりのルイ・ウィンターと申します」
エロランド君に紹介されたのでそのまま自己紹介を済ます。
「あれまぁ、稀人さんかい。私はベティ、ランドの紹介だし、もちろん歓迎するよ! けれど、そこのエロガキには気を付けた方がいい。あんたみたいな美人さんは気を抜くと尻を撫でられるからね」
「ははは、気を付けます」
もう手遅れですと内心思ってしまう。それと、やはり俺の性別が間違えられている……最早いちいち訂正し続けるのは不毛になりそうだな。
性別の訂正は今後負の連鎖だろうと、ある程度は諦めることにした。
そうして、決まった時間に朝食と夕食付で、一日1,500シルと安かったので、一週間お願いしたところ、500シルおまけして1万シルでいいと言われた。
やばい、700万シルで金銭感覚おかしくなっているかも。
そんな事を思いつつ、俺は1万シルを支払った。
一応部屋と貴重品入れの鍵を受け取ったが、ストレージがあるから貴重品入れを使用することは無いかもしれない。
「ありがとうランド君、おかげで助かったよ」
「別にいいよ! それに俺もミフィーを助けてもらったから、そのお礼だよ!」
どうやらエロランド君はそのためにこうして案内をしてくれたらしい。
「そ、それに、父ちゃんに妹は兄貴が守らなきゃいけないって言われていたのに、俺あの時怖くて動けなかったし……」
どうやら義理の妹であるミフィ―ちゃんが人質になった時、動けなかったことに対して子どもながらに負い目を感じているようだ。
「ならこれからは守れるように強くならないとな。その気持ちがあれば大丈夫。でも、だからって無謀なことはしないように」
落ち込んでいるエロランド君の頭を撫でてそう言ってあげる。確かにこの子はスケベなところがあるが、根はやさしくて真面目なんだろう。
「あっ……う、うん。俺は強くなるよ! そしたら皆守ってあげるんだ! もちろんルイ姉ちゃんも俺が守るから!」
「う、うん、ありがとう」
心の中でお前は俺が兄ちゃんだって知っているだろう。と思ったが、ここは空気を読んで黙っておく。
「こりゃ、あの双子も強敵出現だね」
一部始終を見ていた宿屋のベティさんが最後にそう言った。俺はなんだかとても恥ずかしい気持ちになった。
◆
それからエロランド君は、これから修行だと言って逃げるように去って行った。
俺も昼食や最低限の装備を揃えるためにベティさんに軽く出ることを伝えて、西部にあるという商店街に行くことにした。
とりあえず、消耗品は初心者セットにあるから大丈夫だとして、必要な物は装備だよな。
一応最初は身の丈に合った装備にしよう。700万シルは必要な時の為にとって置くことにする。
そう思いつつ、歩いていると先に屋台の立並ぶ場所に着いた。活気があり、どことなく食欲のそそる香りが漂っている。
昼食は決まりだな。
俺はそう決めると、屋台の一つによって肉とレタスが挟まれたパンを購入した。
早速食べてみると、甘じょっぱい鶏肉のような風味と、その汁を吸いこんだパン、そしてシャキシャキとしたレタスの触感は実にマッチしており、あっという間にボリュームのあるパンを食べ終えてしまった。
想像以上においしかったな。もう少し食べたい気持ちもあるけど、思った以上にお腹がいっぱいだ。
俺はそう満足すると、屋台エリアを抜けて商店街に向かう。
◆
必要なのは武器だよな。けど、何が良いのだろうか。やっぱり剣? それとも短剣や弓? それとも槍や棍棒? どの武器が良いのかさっぱりだ。
俺は商店街で武器屋を探しつつ、自分の使う武器を考えながら歩いていると、不意に声をかけられる。
「稀人のお主、少しいいかの?」
「はい?」
そこにいたのは、真っ黒なローブで全身を包んだ低身長の存在だった。
コメントを残す