004 能力の確認

≪稀人で初めてPVPに勝利したことにより、称号『勝利者』を獲得しました≫
≪アルカナ『吊るされる男』の能力『忍耐の試練』により、称号『勝利者』は『連勝者』に向上しました≫

視界が戻ると同時に、そんなアナウンスが聞こえてくる。

 そして、目の前にはPVP前と同じように、稀人の少年が黄色いオーラを纏いながら、ミフィ―ちゃんの首筋ナイフを沿えていた。

「ナイフを捨ててその子を解放しろ! そして動くな!」

咄嗟にそう俺は叫んだ。PVPに勝利したという事は、つまり稀人の少年が隷属していると思ったからだ。事実彼はナイフを投げ捨て、ミフィ―ちゃんを解放するとその場で動かなくなる。

「うぅ、怖かったよ」
「もう大丈夫だよ」

俺は駆け寄って抱き着いて来たミフィ―ちゃんを抱きしめ返し、声をかけながら頭を撫でて安心させた。

「くそくそくそくそくそがぁ!! お前のせいで敗北者とかいう称号付いちまったじゃねえか! 責任をとれ! それと早く隷属を解きやがれ!!」
「黙れ!」
「っ!?」

余りにうるさかったので黙らすと、ようやく周りも状況を把握し始め落ち着く。

すると、PVP中にこの場所に来ていたのか、衛兵の男性に、どこかシフィ―ちゃんとミフィ―ちゃんに似ている二十代後半と思わしき、茶色いポニーテイルをした女性がいた。

「「おかあさん!」」

その女性はやはり二人の母親のようで、駆け寄る二人を抱きしめた。

 そして、衛兵の後ろから更にもう一人現れる。身長190cm程の筋肉質な四十代の男性、金髪碧眼で歴戦の戦士といった風某だ。

 全体的に暗っぽい色の軽装で、茶色のマントを着けている。

「私はアガッド支部でギルドマスターをしているロドルスだ。この状況の主要人物だと思われるが、説明していただけるだろうか?」
「は、はい」

只ならぬ者の雰囲気をひしひしと感じながら、俺はこれまでの経緯を説明した。

「なるほど。では君が今この者の主人となる訳だが、本来奴隷が問題を起こした場合、主人が責任を取るか、奴隷が責任を取るかのどちらかなのだが、今回は状況からして特例で不問としよう。被害を受けた冒険者にはこちらで手を打っておく。そして、君はこの奴隷をどうするつもりかね?」

そうギルドマスターであるロドルスさんから聞かれるが、答えは決まっている。

「私としては速やかに手放したいところです」
「っ!!?」

未だ黙らされている稀人の少年が抗議をしたそうに何かを訴えているが、知った事ではない。

「了解した。ならばこちらで奴隷商を用意しよう。そしてその場で売却をすればいい。ユニークスキルを所持した奴隷は貴重だ」
「あ、ありがとうございます」

何というか至れり尽くせりなのだが、スムーズ過ぎて逆に怖くなってくるのは気のせいだろうか? もしかしてユニークスキルを持った稀人の奴隷がほしいのか? まあ、どちらにしても、俺としては売却した方が得なので構わないが。

そうして、俺は奴隷商が来るまでの間、冒険者ギルドの二階にある客室に通された。

 部屋の中央に長方形の机と、左右に向かい合わせたソファーがあるシンプルな部屋であり、他には絨毯や花瓶、風景画などがあるだけだ。

ギルド職員の一人が紅茶と菓子を置いて行くと退出し、一人だけになる。

なんか、色々疲れた……。それに、咄嗟とはいえ、愚者の能力をPVPで使ったのは不味かったかな。

 観客席にいた冒険者たちに見られたけど、今更どうしようもないよな。稀人ってことで納得してくれればいいが。

溜息を吐きながらそう思ってしまう。

 あの場ではあれが最善だったと自分自身に言い聞かせると、同時にこの世界に来てからここまで急展開でゆとりが無かったなとも思った。

結果的に確認不足だったよな。もしかしたら愚者の能力を使わずに切り抜ける方法があったかもしれない。

 とりあえず、色々確認する必要があるよな。ストレージというのはあの稀人の少年から所持品を引き取る際に確認したからいいとして、問題はやっぱりステータスだよな。

ここに通される前に、実は稀人の少年にストレージ内のものを全て出させていた。

 彼は俺と同じようにポイントで初心者セットを選択しており、俺のストレージ内の物と殆ど大差が無く、唯一持っていなかったのは、ランダムガチャで手に入れたというポケットティッシュと、五円玉一枚だ。因みにユニークスキルである限界突破もランダムガチャで手に入れたらしい。

 その後、同じ部屋で待たされるのは嫌なので、彼は問題を起こさないように命令した後、一応縄で縛って別室で待ってもらっている。

 俺はその事を思い出しながら、空いたこの時間でステータスを確認する事にした。変化と言えば、新たに称号欄に増えた連勝者というもの。

 確かこれって最初は勝利者って名称だったよな? それがアルカナ『吊るされた男』の能力で向上したとかアナウンスが言っていた気がする。称号の質が上がるって凄い能力だよな……。

 俺はその能力が気になり、アルカナ『吊るされた男』の能力を確認することにした。

≪名称≫
 アルカナ『吊るされた男』
≪効果≫
 あらゆる試練を乗り越えた際の報酬が向上する能力、『忍耐の儀式』が常時発動する。
 全基礎能力成長率上昇(大)
 この固有スキルは称号【アルカナ『吊るされた男』】を所持していなければ効果を発揮しない。
 この固有スキルはアルカナと名のつく称号所持者に譲渡することができる。
 所有者が死亡した場合、殺害者がアルカナ称号所持者であれば、この固有能力はその者に移動する。
 それ以外の場合、条件を満たした者が新たな所有者として取得することができる。

 これは……。

 明らかに能力過多としか思えない性能だった。

 もしかしてアルカナスキルってどれも壊れ性能なのだろうか……それが三つ。

 俺はそう思うと恐る恐る未だ能力を確認していないアルカナ『運命の輪』の説明項目を表示する。

≪名称≫
 アルカナ『運命の輪』
≪効果≫
 LUKを大幅上昇させ、ドロップ判定を倍化する能力、『幸運の輪』を常時発動する。この固有スキル保持者は、あらゆる運命と遭遇する確率が上昇する。
 LUK成長率上昇(特大)
 この固有スキルは称号【アルカナ『運命の輪』】を所持していなければ効果を発揮しない。
 この固有スキルはアルカナと名のつく称号所持者に譲渡することができる。
 所有者が死亡した場合、殺害者がアルカナ称号所持者であれば、この固有能力はその者に移動する。
 それ以外の場合、条件を満たした者が新たな所有者として取得することができる。

 予想通りだが……なんで一つでも凄いものが三つもあるんだろうか……いくらランダムガチャで手に入れたといっても……。

 脳内にご都合主義という単語が浮かぶが、この状況下では多くて困るということはないと、そう割り切ることにした。

 とりあえず、このアルカナ『運命の輪』というのは、明らかに運に関係している。LUKというのは、ゲームでいう能力値の運の要素という知識があるが、ステータスにはLUKなどの表記は無かった。

 つまり、LUKは隠れステータスであり、基礎能力値の一つでもあるということだ。

 だから俺の適性は運であり、このアルカナ『運命の輪』が原因なのだろう。他の二つは全基礎能力の成長補正だが、これだけはLUK単体補正だしな。

俺がそう結論づけた時、ドアからノックオンが聞こえたので返事をすると、入ってきたのはシフィ―ちゃんとミフィ―ちゃんのお母さんだった。


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