018 作戦実行

「行くぞ!」
「うん!」

 怪魚は今、滝の近くにいる。

 その隙に、俺とペロロさんが動き出す。

 まずは細い道を俺が走り、途中怪魚によって破壊された部分を飛び越える。

「おっと。よし、ペロロさん、いいぞ!」
「わかった。行くよ!」

 何とか無事に飛び越えた俺は、続けて飛んできたペロロさんを受け止めた。

 下着だけなので、柔らかさと温かさが全身に伝わってくる。

 それに、ペロロさんはコアラのように両手足を俺に巻きつけたので、密着感が凄い。

「よ、よし。次に行くぞ」
「う、うん……」

 流石にペロロさんも恥ずかしかったのか、顔を赤くする。

 しかしこの作戦は時間が肝心なので、ペロロさんを降ろすとオタガッパたちの元に向かう。

 そして近付くと激臭の水鉄砲を取り出して、満遍まんべんなくオタガッパたちへと発射した。

「がぱっ!?」
「がが!?」
「ぎょっぱ!?」

 続いて激臭の水鉄砲とピンパチを入れ替えると、そこへ突撃する。

 倒すことが目的ではなく、ある程度の致命傷を与えられれば御の字だ。

 またペロロさんは、負傷したオタガッパたちを次々と地底湖へと投げ込んでいく。

 見た目に反して、ペロロさんは力持ちだ。その力は一体、どこから湧いてくるのかとても気になる。

「がっぱ!」
「ろりっぱ!」
「すもうっぱ!」

 加えて当然だが、オタガッパたちも攻撃されれば反撃してきた。

 この数は脅威だが、これを乗り越えないと作戦の成功はない。

 それに幸いにも、激臭の水鉄砲は効いている。

 臭いを消そうにも、地底湖に自ら飛び込むオタガッパはいなかった。

 結果として各個撃破していき、全てのオタガッパを地底湖へと落とすことに成功する。

「ががっぱ!」
「ぎゃっぱ!」
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!」

 またオタガッパたちの血の臭いに誘われたのか、怪魚がオタガッパたちに襲い掛かった。

 よし、作戦通りだ。

 俺とペロロさんは互いに顔を見て頷くと、最後の作戦を実行する。

 まず邪魔なピンパチをしまい、俺とペロロさんは滝に向って助走をつけると、跳躍して地底湖へと飛び込む。

 最初は静かに入る予定だったが、結局泳いで音を立てれば気が付かれるので、高い身体能力を活かすことにした。

 それに、音を立てずにゆっくり泳ぐ時間もない。

 俺はオリンピック選手も驚くような飛距離を出して、作戦通り着水をする。

 対してペロロさんは驚くことに、俺以上に距離を稼いでいた。

 あれ、これなら細い道で俺が受け止める必要は無かったんじゃ……。

 ふとそんなことを一瞬考えるが、すぐに考えを切り替えてクロールで泳ぎ始める。

 ペロロさん、泳ぐのも速すぎだろっ!

 俺もかなりのスピードで泳いでいるが、ペロロさんはそれ以上に速く、あっという間に滝へと辿り着く。

 また困難の一つであった滝の勢いにも打ち勝ち、ペロロさんは洞窟前の地面に辿り着いた。

 ペロロさん、何となく気が付いていたけど、俺よりも身体能力高いよな。

 俺も急ごう。

「クルコン君! 後ろ!」
「!?」

 するとペロロさんが大声でそう叫んだ。滝の音にも負けず、俺の耳へと声が届く。

 この気配は……まずいっ!
 
 俺の背後から、猛スピードで怪魚が迫ってくることを感じ取った。

 このままでは、洞窟に辿り着く前に喰われる。

 だが、どうすればいい?

 泳ぐ以外に術はない。

 ここで反撃しようとしても、水中では圧倒的に不利だ。

 くそっ、こんなところで……。

 頬から武器を取り出すために動きを止めたら、その瞬間にやられる。

 どう考えても無理だ。死ぬ。

 だけど、ペロロさんだけでも助かって、本当に良かった。

 これだけが、唯一の救いだ。

 それに、死んでも生き返る。

 けど、悔しいな。

 そして、怪魚が俺の真後ろまで来た瞬間、それは起きる。

 俺の真上を、何かが通り過ぎた。

「僕のクルコン君に手を出すなぁ!」
「ペロロさん!?」

 思わず振り返れば、ペロロさんが怪魚の額に踵落としを叩きこんでいた。

 あの場所からここまで飛んでくるのは、幾らんでも不可能だ。

 途中には滝が流れている。跳躍の勢いは、そこで減衰するはずである。

 加えて何より、この威力はなんなんだ。

 怪魚が気絶したのか、水面に浮かんで動かなくなる。

 対してそれを行ったペロロさんは、自身でもこの事態に驚きを隠せないようだった。

 そして助かった事を理解したのか、ペロロさんも気絶して水中へと沈んでいく。

「ペロロさん!」

 当然俺はペロロさんを助けに向かい、何とか引き上げる。

 怪魚はまだ倒せていないみたいだが、これは諦めるしかない。

 怪魚が気絶している間に、なんとか逃げなければ。

 俺はペロロさんを抱えて、洞窟を目指す。

 意識のない人間を抱えて泳ぐのは、想像以上にキツイ。

 また滝は見た目よりも勢いは弱く、何度かおぼれそうになりながらも無事に泳ぎ切った。
 
 この世界で身体能力が常人離れしていなければ、絶対に無理だっただろう。

 俺は息も絶え絶えに、洞窟を少し進んだところにペロロさんを降ろす。

 また怪魚の様子を見れば、いつの間にかいなくなっていた。

 おそらく気絶から治り、どこかへ行ったのだろう。

 あれを倒せていればと考えるが、生き残っただけでもありがたいと思うことにした。

 それよりもペロロさんのあれは、いったいなんだったのだろうか。

 どう考えても、有り得ない身体能力と言える。

 今はペロロさんも気絶しているので、起きたら訊いてみよう。

 ちなみにしっかりと息をしているので、人工呼吸器などをする必要はない。

 俺は頬にしまっていた衣服などを取り出し、小さなバックに入れていたタオルでペロロさんを拭くと、服を着せる。

 下着は濡れているが、そこは諦めてもらおう。

 替えはないし、脱がす度胸も俺には無い。

 続いて俺も着替えると、ピンパチを取り出して周囲を見張る。

 しかし敵の気配はなく、ここは安全なようだった。

 そう理解すると、一気に体に疲れが押し寄せる。

 さすがに、疲れたな。

 にしても、さっきのは本当に死を覚悟した。

 この世界で多少強くなったと思っていたが、結局井の中の蛙だったな。
 
 オタガッパやオタオーク。他のプレイヤーとの力の差を知って、俺はどこかあなどっていたのかもしれない。

 それがここにきて、いかなる手を尽くしても逃げる事さえギリギリ、いや無理だった。

 ペロロさんがいなければ、俺は喰われていただろう。

 そうした理不尽な敵とも、今後定期的に出会う気がする。

 であれば、このままではいけない。

 何とかして、強くなる必要がある。

 俺は今の状況に何とも言えない悔しさや、後悔の念が湧き上がっていた。

 結果的には助かったが、俺ではなくペロロさんが窮地きゅうちおちいる可能性もあったかもしれない。

 しかもそれがオタオークやオタガッパのように、捕まえて性的な事をする相手であった場合、悔やんでも悔やみきれなかった。

 俺は一人心の中で、もっと強くなることを誓う。

 自分の運が悪い意味で狂っている以上、理不尽なダンジョンに遭遇することは目に見えていた。

 全ての危険を回避することは、まず不可能である。

 なら、強くなるしかない。

 多少の理不尽を乗り越えられるような、そんな強さが必要だ。

 けど、どうすればそれが手に入る? 強い武器やアイテムはもちろん必要だが、それ以上に自分自身が強くなる必要がある。

 ペロロさんのあの常軌を逸した力に、何かヒントがあるかもしれない。

 どちらにしても、今はペロロさんが目を覚ますのを待とう。

 俺はそうして周囲を警戒しながら、ペロロさんの目覚めを待つのであった。

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