「行くぞ!」
「うん!」
怪魚は今、滝の近くにいる。
その隙に、俺とペロロさんが動き出す。
まずは細い道を俺が走り、途中怪魚によって破壊された部分を飛び越える。
「おっと。よし、ペロロさん、いいぞ!」
「わかった。行くよ!」
何とか無事に飛び越えた俺は、続けて飛んできたペロロさんを受け止めた。
下着だけなので、柔らかさと温かさが全身に伝わってくる。
それに、ペロロさんはコアラのように両手足を俺に巻きつけたので、密着感が凄い。
「よ、よし。次に行くぞ」
「う、うん……」
流石にペロロさんも恥ずかしかったのか、顔を赤くする。
しかしこの作戦は時間が肝心なので、ペロロさんを降ろすとオタガッパたちの元に向かう。
そして近付くと激臭の水鉄砲を取り出して、満遍なくオタガッパたちへと発射した。
「がぱっ!?」
「がが!?」
「ぎょっぱ!?」
続いて激臭の水鉄砲とピンパチを入れ替えると、そこへ突撃する。
倒すことが目的ではなく、ある程度の致命傷を与えられれば御の字だ。
またペロロさんは、負傷したオタガッパたちを次々と地底湖へと投げ込んでいく。
見た目に反して、ペロロさんは力持ちだ。その力は一体、どこから湧いてくるのかとても気になる。
「がっぱ!」
「ろりっぱ!」
「すもうっぱ!」
加えて当然だが、オタガッパたちも攻撃されれば反撃してきた。
この数は脅威だが、これを乗り越えないと作戦の成功はない。
それに幸いにも、激臭の水鉄砲は効いている。
臭いを消そうにも、地底湖に自ら飛び込むオタガッパはいなかった。
結果として各個撃破していき、全てのオタガッパを地底湖へと落とすことに成功する。
「ががっぱ!」
「ぎゃっぱ!」
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!」
またオタガッパたちの血の臭いに誘われたのか、怪魚がオタガッパたちに襲い掛かった。
よし、作戦通りだ。
俺とペロロさんは互いに顔を見て頷くと、最後の作戦を実行する。
まず邪魔なピンパチをしまい、俺とペロロさんは滝に向って助走をつけると、跳躍して地底湖へと飛び込む。
最初は静かに入る予定だったが、結局泳いで音を立てれば気が付かれるので、高い身体能力を活かすことにした。
それに、音を立てずにゆっくり泳ぐ時間もない。
俺はオリンピック選手も驚くような飛距離を出して、作戦通り着水をする。
対してペロロさんは驚くことに、俺以上に距離を稼いでいた。
あれ、これなら細い道で俺が受け止める必要は無かったんじゃ……。
ふとそんなことを一瞬考えるが、すぐに考えを切り替えてクロールで泳ぎ始める。
ペロロさん、泳ぐのも速すぎだろっ!
俺もかなりのスピードで泳いでいるが、ペロロさんはそれ以上に速く、あっという間に滝へと辿り着く。
また困難の一つであった滝の勢いにも打ち勝ち、ペロロさんは洞窟前の地面に辿り着いた。
ペロロさん、何となく気が付いていたけど、俺よりも身体能力高いよな。
俺も急ごう。
「クルコン君! 後ろ!」
「!?」
するとペロロさんが大声でそう叫んだ。滝の音にも負けず、俺の耳へと声が届く。
この気配は……まずいっ!
俺の背後から、猛スピードで怪魚が迫ってくることを感じ取った。
このままでは、洞窟に辿り着く前に喰われる。
だが、どうすればいい?
泳ぐ以外に術はない。
ここで反撃しようとしても、水中では圧倒的に不利だ。
くそっ、こんなところで……。
頬から武器を取り出すために動きを止めたら、その瞬間にやられる。
どう考えても無理だ。死ぬ。
だけど、ペロロさんだけでも助かって、本当に良かった。
これだけが、唯一の救いだ。
それに、死んでも生き返る。
けど、悔しいな。
そして、怪魚が俺の真後ろまで来た瞬間、それは起きる。
俺の真上を、何かが通り過ぎた。
「僕のクルコン君に手を出すなぁ!」
「ペロロさん!?」
思わず振り返れば、ペロロさんが怪魚の額に踵落としを叩きこんでいた。
あの場所からここまで飛んでくるのは、幾らんでも不可能だ。
途中には滝が流れている。跳躍の勢いは、そこで減衰するはずである。
加えて何より、この威力はなんなんだ。
怪魚が気絶したのか、水面に浮かんで動かなくなる。
対してそれを行ったペロロさんは、自身でもこの事態に驚きを隠せないようだった。
そして助かった事を理解したのか、ペロロさんも気絶して水中へと沈んでいく。
「ペロロさん!」
当然俺はペロロさんを助けに向かい、何とか引き上げる。
怪魚はまだ倒せていないみたいだが、これは諦めるしかない。
怪魚が気絶している間に、なんとか逃げなければ。
俺はペロロさんを抱えて、洞窟を目指す。
意識のない人間を抱えて泳ぐのは、想像以上にキツイ。
また滝は見た目よりも勢いは弱く、何度か溺れそうになりながらも無事に泳ぎ切った。
この世界で身体能力が常人離れしていなければ、絶対に無理だっただろう。
俺は息も絶え絶えに、洞窟を少し進んだところにペロロさんを降ろす。
また怪魚の様子を見れば、いつの間にかいなくなっていた。
おそらく気絶から治り、どこかへ行ったのだろう。
あれを倒せていればと考えるが、生き残っただけでもありがたいと思うことにした。
それよりもペロロさんのあれは、いったいなんだったのだろうか。
どう考えても、有り得ない身体能力と言える。
今はペロロさんも気絶しているので、起きたら訊いてみよう。
ちなみにしっかりと息をしているので、人工呼吸器などをする必要はない。
俺は頬にしまっていた衣服などを取り出し、小さなバックに入れていたタオルでペロロさんを拭くと、服を着せる。
下着は濡れているが、そこは諦めてもらおう。
替えはないし、脱がす度胸も俺には無い。
続いて俺も着替えると、ピンパチを取り出して周囲を見張る。
しかし敵の気配はなく、ここは安全なようだった。
そう理解すると、一気に体に疲れが押し寄せる。
さすがに、疲れたな。
にしても、さっきのは本当に死を覚悟した。
この世界で多少強くなったと思っていたが、結局井の中の蛙だったな。
オタガッパやオタオーク。他のプレイヤーとの力の差を知って、俺はどこか侮っていたのかもしれない。
それがここにきて、いかなる手を尽くしても逃げる事さえギリギリ、いや無理だった。
ペロロさんがいなければ、俺は喰われていただろう。
そうした理不尽な敵とも、今後定期的に出会う気がする。
であれば、このままではいけない。
何とかして、強くなる必要がある。
俺は今の状況に何とも言えない悔しさや、後悔の念が湧き上がっていた。
結果的には助かったが、俺ではなくペロロさんが窮地に陥る可能性もあったかもしれない。
しかもそれがオタオークやオタガッパのように、捕まえて性的な事をする相手であった場合、悔やんでも悔やみきれなかった。
俺は一人心の中で、もっと強くなることを誓う。
自分の運が悪い意味で狂っている以上、理不尽なダンジョンに遭遇することは目に見えていた。
全ての危険を回避することは、まず不可能である。
なら、強くなるしかない。
多少の理不尽を乗り越えられるような、そんな強さが必要だ。
けど、どうすればそれが手に入る? 強い武器やアイテムはもちろん必要だが、それ以上に自分自身が強くなる必要がある。
ペロロさんのあの常軌を逸した力に、何かヒントがあるかもしれない。
どちらにしても、今はペロロさんが目を覚ますのを待とう。
俺はそうして周囲を警戒しながら、ペロロさんの目覚めを待つのであった。
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