017 作戦を練る

 あの怪魚に大ダメージを与えられるとすれば、尻穴爆竹の串しかない。

 どうにかオタガッパに突き刺して、それを怪魚に喰わせれば倒せる可能性はある。

 だが、これは理想論に過ぎない。

 仮にオタガッパに突き刺したとしても、怪魚に喰わせる前に爆発する。

 なら怪魚が喰らいつく直前に突き刺して、なんとか離脱すれば良いとも思うが、これも難しい。

 俺はそこまで、超人的な反射神経を持ち合わせてはいない。

 それは、ペロロさんも同様だろう。

「本当に、これは困ったな」
「そうだね。僕もどうすればいいのか分からないよ」

 対岸のオタガッパたちを見れば中央に集まり、怯えてうずくまっている。

 先ほどのようにペロロさんが煽っても、効果は無さそうだ。

 試しに落ちている石を投げてみるが、当たってもビクつくだけで変化はない。

 他にできることは無く、硬直状態が続いた。

 そんなときふと上を見上げれば、奥にある滝の上部からオタガッパが流れてくる。

「がぱ?」

 新しく現れたオタガッパは、スイスイと泳いで仲間がいる場所に向かう。

 だがそんな悠長に泳いでいれば、当然怪魚に狙われるわけで。

「がぱぁぁ!!?」

 瞬く間に、オタガッパは怪魚に喰われてしまった。

「うぁ、やっぱり、むりだよ。あれ……」

 その光景を見て、ペロロさんが顔を青くしながら呟く。

 対して俺といえば、一点を見て固まっていた。

「もしかして……」
「どうしたの?」

 俺の反応に、ペロロさんも気になったのか声をかけてくる。

「あの滝をよく見てくれ、見え辛いが、奥に洞窟の続きがあるように見えないか?」
「えっ!? 本当に? あっ、薄っすらだけど、見える気がする!」

 この地底湖の水は透き通っているからか、距離が多少あっても目を凝らせば何とかそれが確認できた。

「もしかしたらあの奥を進めば、出口があるかもしれない。そもそも、ボスエリアだからといって、必ずしもボスを倒す必要はないのかもいしれないな」
「そ、それって、助かるってことだよね!」

 俺の言葉に希望を見出したのか、ペロロさんの顔に笑みが浮かび上がる。

 しかし希望は見えたとしても、状況が良いとは言えなかった。

「無事に辿り着けて、なおかつ見間違いでなければ、という事に限るがな」

 そもそも前提として、あの滝の裏に辿り着くまでには、複数の困難が待ち受けている。

 1.怪魚に破壊された元細い道。
 2.中央のオタガッパたち。
 3.滝までの距離。
 4.降り注ぐ滝。
 5.それら全ての間襲ってくる可能性のある怪魚。

 簡単に思いつく困難は、こんなところだろう。

 それをペロロさんに話すと、再び表情に影が差す。

「そうかぁ。やっぱりそうだよね。けど、さっきまでの可能性ほぼ0よりもマシだよ」

 可能性はあってもペロロさんは不安なのか、そう言いつつ浮かべる笑みは、どこかぎこちない。

 普段は明るく頼りになるペロロさんだが、怖いものは怖いだろうし、不安になるのも仕方がなかった。

 こんな時気の利いた言葉の一つでも、思い浮かべばいいのだろうが……。

 だがそうだとしても、俺もペロロさんには助けられたし、出来る限りのことは言おう。

 そう思った俺は、不安な表情のペロロさんに視線を合わせる。

「へ?」

 急に俺と視線の高さが同じになったからか、ペロロさんは驚いたように小さく声をこぼす。

「ペロロさん。俺はあまり上手いことは言えないけど、これだけは言うよ。俺が君を守る。だから、俺と一緒に冒険してくれないか?」

 そう言って俺が笑みを浮かべると、ペロロさんは顔を赤くしながら、小さく答えた。

「う、うん。冒険する」

 ペロロさんはそれだけ言うと、プイっと俺に背を向ける。

「も、もう。カッコつけちゃってさ! それに、僕の真似じゃないか。けどまぁ、元気は出たよ。クルコン君にそこまで言われたら、やるしかないね」

 そして再びこちらへと振り返り、ペロロさんはいつも通りの明るい笑顔を浮かべるのだった。

 ◆ 

 あれから俺とペロロさんは作戦を練り、次に滝から現れたオタガッパが怪魚に喰われてから、行動を開始することを決めている。

 理由としては滝に辿り着く直前で、オタガッパが流れてきたら成功率が下がるからだ。

 一分一秒が、この作戦では貴重である。

「こ、これは流石に恥ずかしい。ね、ねえ。これ放送では光で隠れてるよね? 隠れてなかったら僕は泣くよ」
「だ、大丈夫だ。これまでの経験では、下着も光で隠れるはずだ」
「僕、クルコン君のこと、信じてるからね? もし違ったら、責任取ってよね」
「あ、ああ。分かった。分かったから、そんな堂々としないでくれ」

 現在俺とペロロさんは、下着姿になっている。

 衣服や道具などは、持ってきていたゴミ袋に入れて、俺の頬袋の空きスペースに何とか収納した。

 ペロロさんにも押し込んでもらい、サイズ的にかなりギリギリだったが、全て俺の頬に収まったわけである。 

 ちなみに、この効果を発動させている泥棒リスの頬袋は、当然外せないので紐に縄を通して俺に括りつけていた。

 また俺から泥棒リスの頬袋が離れると、頬から物を取り出せなくなる。

 しかし俺の体のどこかに触れていれば、再び頬から物の出し入れが可能になった。

 入れていた物にも、異常はない。

 そして話を戻すが、滝までの間を泳ぐことになるので、俺とペロロさんは現在下着姿である。

 ペロロさんは白く可愛らしい下着を、堂々と俺に見せつけていた。

 俺に見せるのは恥ずかしくないようで、それよりも動画の放送で知らない人に見られる方が嫌とのこと。
 
 まあ、その気持ちはとても理解できる。

 俺だって知らない人に動画越しとはいえ、見られるのは嫌だ。

 けれども友人とはいえ、男の俺に対して堂々とし過ぎだろう。

 パンチラしたときは恥ずかしがっていたのに、この差はいったい……。

「ふふん。僕のプリティロリボディは素晴らしいだろう! し、親友のクルコン君だからこそ、見せてあげているんだよ! それに作戦上恥ずかしがっていたら、それこそ成功率が下がるんじゃないかな? あれ? もしかしてクルコン君、本当に僕の体が気になるのかな?」

 そう言っていつの間にか友人から親友に格上げされていると思いつつも、メスガキのように笑みを浮かべるその姿に、俺は多少なりともイラっとした。

「逆にペロロさんこそ、俺の体を舐め回すように見ているんじゃないのか? 男だって、そんなジロジロ見られれば分かるものだ。 あれ? もしかしてペロロさん、本当に俺の体が気になるのか?」

 対抗して、俺もペロロさんを煽る。

 それに対して何か言い返してくるだろうと身構えていると、予想外の反応が返って来た。

「えっ、わ、分かるの……? うそっ……。え、えっと、男の人の体を生でこんな近くで見たこと無かったし、意外とクルコン君良い体していると思っちゃって、つ、つい魔が差したと言いますか……」

 ペロロさんはそう言って、あせったように視線を右往左往うおうさおうさせる。

「い、いや。そうか。俺も少し言い過ぎた。ペロロさんになら、見られても気にしないよ」
「気にしないの?」
「え?」
「な、何でもないよ! そうか。そうだよね。クルコン君は既に動画で色々見せちゃっているからね。今更気にしないか」
「ぐはっ!?」

 俺はこれまで行ってきたダンジョン探索での痴態を思い出し、ダメージを受けた。

「ははっ、そうだよな。パンイチくらい、今更見られてもなんとも思わないや……」
「く、クルコン君! 気をしっかり! ごめんよ! 僕も言い過ぎた!」

 そうして俺とペロロさんがこうしている間に、滝の上からオタガッパが流れてくる。

「だ、大丈夫だ。問題無い」
「パンツ一枚の装備でも?」
「問題無い!」

 そしてオタガッパが先ほどのように、怪魚に喰われた。

 命を懸けた作戦が、いよいよ始まる。

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