007 一時の休息

 ダンジョン探索を終えた俺は、無事に部屋へと戻ってきた。

 相変わらず二畳という、狭い部屋である。

 段ボールをマット代わりにしており、薄いタオルケットと枕が大部分を占めている状態だ。

 他には壁にハンガーフックが取り付けられており、そこに直接ブレザーがかかっている。

 あとは充電の切れたスマホが転がっており、上履きは部屋の隅に置いてあった。

 それと他の段ボールには、僅かばかりの食料と飲料が入っている。

 これが、現状の部屋だった。

 ポニカを使うことで部屋を拡張できたり、家具を設置することができる。

 しかし装備やアイテムの事を考えると、そんな余裕はない。

 まあ、なけなしの金で買った鉄の剣を以前失った事がでかいのだが。

 ちなみに、トイレや風呂は壁に設置されているモニターから、公共施設に移動できる。

 他にも、娯楽施設やショッピング施設などにも移動できた。

 ここに来た当初は無かったのだが、少しずつ行けるところが増えている。

 そこには当然、他のプレイヤーもいるわけだ。

 また基本的に施設内での暴行や窃盗は禁止されており、行った場合は罰則が与えられる。

 状況によっては、独房に移動させられるといううわさだ。

 ダンジョンは理不尽だが、そうした部分では安心できる。

 そんなことを考えていると、空腹からか腹が鳴った。

 今日はかなり稼いだし、食べに行くか。

 もちろんモニターから直接買い物はできるが、ショッピングエリアで購入するほうが安い。

 なので基本的に、俺は買いに出かけている。

 モニターからショッピングエリアを選択すると、さっそく移動した。

 すると目の前の景色が瞬間的に変わり、大型ショッピング施設の巨大ホールに出る。

 周囲にはたくさんの人がおり、行きかっていた。

 この世界に来てから、実はそれほど日にちは経ってはいない。

 けれども人というのは慣れるもので、それぞれ新たな生活を送っている。

 まあ逆に、現状をなげき行動に出る者もいるわけだが……。

「私たちを日本に帰せー! 不法な拉致を許すなー!」
「生活の保証をしろー! ダンジョンでの強制労働反対!」
「記憶を返せー! 思い出を返せー!」

 そんな風に、高らかと声を上げる集団がいた。

 どこからか横断幕と看板を用意して、この世界に連れてきた自称神に訴えかけている。

 年齢層は比較的高く、ダンジョン探索に順応できなかった者たちだ。

 しかし、それも仕方がない。

 運動能力や反射神経が悪いと、ダンジョン探索は厳しくなる。

 また若者の方が現状に順応しており、そうした者たちは固定のパーティを組み始めていた。

 それによってますます稼ぎが悪くなり、場合によってはゼロになる。

 加えて生放送で心無い言葉をぶつけられれば、心が折れてしまうだろう。

 日を追うごとに、こうしたデモを行う人数は増えていた。

 ちなみに、この世界には幼い子供はほとんどいない。

 それがある意味、救いだろうか。

 加えているのは日本人ばかりであり、外国人はほぼ見かけない。

 自称神の仕分けというのは、こういう意味だったのだろう。

 他国の人は、また違った目に遭っているのかもしれない。

 あとは彼らの一人が言っていた記憶喪失は、事実である。

 親兄弟や友人、通っていた場所や住んでいた場所の名前など、都合の良いものだけが喪失していた。

 俺も記憶が虫食い状態であり、思い出せない。

 だがそれに対して特に違和感はなく、思い出せないものは思い出せないで仕方がないと思っている。

 逆に喪失したからこそ、心の安寧が保たれていた。

 どちらにしても、俺は彼らに賛同することは無い。

 デモを行ったところで、俺たちをこの世界に連れてきた自称神が、何かするとは想えなかった。

 俺は視線を逸らすと、空腹を満たすためにフードコートへと足を運ぶ。

 そこには無数に自動販売機のような物が並んでおり、俺は適当にラーメンを購入する。

 支払いは掌を読み取りパネルに重ねるだけであり、網膜や音声認識でも支払い可能だ。

 支払いを終えると、取り出し口に瞬間移動してきたみたいに現れる。

 自動販売機から出てきたラーメンだが、普通の店レベルのクオリティだ。

 俺はラーメンを取り出して空いてる席に着くと、食べ始める。

 ダンジョンクリア後の昼食は、格別だ。

 俺は比較的午前中にダンジョン探索をすることが多く、午後は自由に過ごしていることが多い。

 他のプレイヤーの攻略動画を見たり、公共の訓練場で汗を流している。

 そうして食べ終えると、器などを返却口に返してフードコートを後にした。

 さて、今日は何をしようかな。

 とりあえず、何かしらの情報が表示されている電光掲示に向った。

 ダンジョンの基本情報や、モンスターの詳細などが定期的に表示されている。

 有用な情報が更新されていないか、俺は視線を移す。

「とうとう、来たか……」

 表示されている内容を見て、俺はそう呟く。

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『第一回イベント開催』
 参加自由のサバイバル。
 特定の時間まで生き残り、ポイントが高いものが優勝。
 優勝商品に加えて、優勝者は神に1つだけ願いを伝える事が可能。
 詳しいルールはイベント開始時に説明されます。
 参加はモニター画面より受付。
 イベント開始まで残り時間【24時間26分32秒】

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 こんな世界だ。何かイベントのようなものが起きるのは、何となく予想できていた。

 それに優勝者は、神にお願いを伝える・・・事ができるらしい。

 叶えると書かれていないのが、とても引っ掛かる。

 神なのに、そこは寛容かんようじゃないんだな。

 まあ、優勝者がプレイヤー全員を元の世界に帰して記憶を戻せと言うかもしれないし、それを考慮しているのかもしれない。

 けれども、大抵の願いは聞いてくれるだろう。

 俺に優勝はまず無理だが、参加はするだけしてみよう。

 イベントということもあって、まともなダンジョンに行けるかもしれないし。

 そうと分かれば、今日の午後はイベントの準備に費やすか。

 出費が痛いが、何が起きてもいいように道具なども買いそろえなければ。

 俺は明日行われるイベントに向けて、準備を進め始めた。

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