005 偽装された部分

 気が付けば、俺は何もない六畳間、ホームに戻ってきていた。

 玄関でブーツを脱ぎ、部屋中央で胡坐をかく。

 俺が男の子・・・なのは当たり前だろう? もしかしてナビ子はビッチなのか?

 そう思うと俺はナビ子への幻滅を隠せない。

 贔屓してくれたのはありがたいが、男の子が大好物なのであれば、贔屓されているプレイヤーは思ったより多そうだ。

 というか、偽装か。やはりナビ子は、俺が固有スキルラーニングを所持していることを知っていたのだろう。

 そこは、流石ナビゲーターといったところか。

 幻滅をしたが、得をしたことには変わりは無いので、感謝しておく。

 とりあえず俺は、チュートリアルで今後やるべきことをある程度理解したので、その下準備をすることした。

 右手を前に出し、『スマホよ出ろ』と念じる。すると、右手には問題なくスマホをが出現した。

 これはチュートリアルで教わったのだが、当初ポケットに入っていたこのスマホは、念じることで異空間に出し入れすることができるとのこと。

 ちなみに、このスマホの正式名称は何の捻りもなくスマホらしい。

 もっと中二病的名称だと思っていただけに、逆に驚いた。

 俺はそんなことを思い出しつつも、スマホのアプリの中から、スキルを選択する。

 _____________________

 CP 0/130

 固有スキル
【ラーニング】【精神耐性】

 装着
【】【】【】【】【】

 控え
【クリスタルブレス/100】【偽装/30】【】【】【】

 _____________________

 スマホの画面が切り替わると、このようにCPキャパシティ・固有スキル・装着・控えという順番で表示されている。

 スキルは基本的、CPの範囲内で控えの中から装着することができるようだ。必要CPは、スキルの名称の右側に表示されている数字になる。

 俺は現在、クリスタルドラゴンからラーニングしたクリスタルブレスと、ナビ子の贔屓によって与えられた偽装のスキルを持っていた。

 そういえば、偽装のスキルをラーニングしたということは、俺に偽装のスキルを使ったということになるよな。いったい何が偽装されたのだろうか。

 ふと、俺はそのようなことを思い、何か変化が無いかと体の確認をしようと視界を下げると、左下に何か動くものが目に入る。

「なッ! 嘘だろ!?」

 追いかけるように視線を動かすと、そこには銀色のモフモフしたしっぽがあった。

 思わず手で掴んでみると手触りが良く、さらさらモフモフだ。

 ……もしかして。

 しっぽとくれば耳もあるかもしれないと頭部に手を動かせば、案の定そこにモフモフしたものに触れる。

「まじかよ……」

 どうやら、ナビ子によって耳としっぽが与えられたらしい。偽装スキルとはいえ、ここまでリアルな感触に驚きを隠せない。

 いったい、これはいつまで生えたままになるのだろうか……。

 もしかしたら一生このままなのかと、不安に思ってしまう。

 スキルというのは、熟練度やその人の適性によって同じスキルでも大きく威力等に違いが発生するという説明を受けていた。

 つまり、ナビゲーターという特殊な立場であるナビ子のスキル熟練度は、通常よりも高い可能性があるということだ。

 ……まぁ、そのうち効果が切れるだろ。

 溜息を吐きつつも、どうしようもないことには変わりなく、偽装をラーニングできた代償だと割り切ることにした。

 さて、スキルを装着するか。

 俺は気を取り直して、控えからスキルを装着していく。装着するのは、当然クリスタルブレスと、偽装のスキルだ。

 CPは130もあるし、問題ない。ガチャガチャでCP+100を引いておいてよかった。本来なら、初期CPは30だったのだろう。

 問題なく装着を完了すると、俺はさっそく偽装のスキルを試してみることにした。

 おそらく、ナビ子もこのために偽装のスキルをラーニングさせてくれたのだろうし、やっておいた方がいいよな。

 俺は、自分のスキル欄に偽装のスキルを発動させた。

 感覚的に、こうか? よし、上手く発動したぞ。

 俺が偽装のスキルを活用し、まず固有スキルのラーニングを隠す。そして、もちろん偽装を疑われないために偽装のスキル自体も同様に見えないようにしておいた。

 やっぱり、ラーニングのスキルは知られると面倒ってことだろうな。もしかしたら、プレイヤーの固有スキルもラーニングできる可能性もあるわけだし。

 固有スキルをラーニングできる可能性は大いに高いと言えた。

 というのも、固有スキルと通常のスキルとの違いは、装着する枠とCPを消費することなくセットできるという利点に加え、そのスキルを固有スキルとして所持することができるのは一人だけというものだ。

 つまり、仮にファイアーボールという固有スキルがあったといしても、通常スキルとしてファイアーボールを持っている者がいてもおかしくない。

 ただ、固有スキルはガチャガチャから得られたスキルなので、中には俺のラーニングのように希少な固有スキルを持っている者も当然いるだろう。

 そのアドヴァンテージがある者からすれば、通常スキルとはいえそのスキルをラーニングされれば溜まったものではないだろうな。

 他にも妬みや嫉妬に加え、俺を利用しようと近づいてくる者が現れるだろう。

 被害妄想が過ぎるかもしれないが、それだけ警戒していても損はない。むしろ、そのような状況が起こる可能性を考慮して、事前に備えておく必要がある。

 そう考えると、ナビ子には感謝しなければいけないな。耳や尻尾くらい安いものだ。

 あとはクリスタルブレスを通常スキルで持っているのは怪しまれるので、固有スキルの項目に偽装しておく。

 固有スキルなら使っていてもそこまで問題にはならないだろう。

 そうして、俺はスキルの着脱を終え、準備をある程度終える。


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