004 チュートリアル後半

「いやいや、終わってないからねッ! 君、生き返ってるから」
「あ……本当だ」

 気が付けば、俺はまた草原に立っていた。近くにはナビ子もいる。ちなみにクリスタルドラゴンは影も形もなく、その痕跡も消えている。

「あれ。あれれ? 君、精神ぶっ壊れてないね? 大抵は何かしらの精神異常を起こすはずなんだけど……ふむふむなら精神回復の処置は必要なさそうだねッ!」
「……」

 俺は思わずナビ子をジト目で見てしまう。チュートリアルとはいえ、この仕打ちはあんまりだと。

 おそらく、俺はガチャガチャで引いた精神耐性の固有スキルのおかげで大丈夫だったのだろうな。

 俺はそう結論づける。

「そんな目で見ないでよー。これは一度体験してもらわないと、効率が悪くなっちゃうんだ!」
「効率?」
「そうそう、人は死んでも生き返ると分かっていても、なかなかその危険に飛び込もうとしないからねッ!」

 それはそうだろう。実際死の直前は走馬灯が走ったし、一瞬だが痛みを感じたような気がした。たとえ生き返ると分かっていたとしても、死ぬのはごめんだ。

 俺がそう思っていると、続けてナビ子が語りだす。

「でもね、これから君たちプレイヤーは、何度も死を体験することになる。そのたびに逃げて困難を避け続けていると、全く成長できないからねッ!」
「……」

 その言葉を聞いて、俺は今後死を何度も体験せざるを得ない場所に放り込まれるのかと、言葉を失った。

「まあまあ、それについては追々実体験できるからいいとして、プレイヤーの命について解説するよッ!」
「プレイヤーの命?」

 そうしてナビ子が解説したプレイヤーの命は以下の通りだった。

 ・プレイヤーは死んでも復活する。
 ・復活箇所は基本プレイヤーのホーム(最初にいた六畳間の部屋)
 ・プレイヤーは年を取らず、見た目が変わらない。
 ・プレイヤーが本当の意味で死を迎えるのは、残された寿命を使い切ったとき。
 ・短期間で死にまくると寿命が減る。
 ・死亡後は一日の間あらゆる能力が半減する。

 以上のことから分かったことは、俺は十五歳の外見のまま、百歳までの八十五年間生きることになるらしい。

 ちなみにこのチュートリアルでは、死亡してもペナルティは無いそうだ。

「そうそう、稀にだけど、寿命を延ばすアイテムやクリア報酬があるから、寿命を延ばしたければ探してみるといいよッ!」
「なるほど……」

 確かに、まだ見ぬ他のプレイヤーがいたとして、あのガチャガチャを寿命ぎりぎりまで回し続けた人とかいそうだな。

 三回で回すのを辞めてよかったと、俺は安堵した。

「それじゃあ、次のチュートリアルだけれど……」

 それから、ナビ子による様々なチュートリアルを行った。といっても大体は説明だ。クリスタルドラゴンのような理不尽はあの時だけらしい。

 一度じゃ覚えきれそうにないが、要所要所で思い出してみるか。

 そうして、おおよそのチュートリアルを終えた。

「最後に、何か質問を受け付けるけど何かあるかい?」

 記憶を無くし、よくわからないゲームに放り込まれた現状で質問するとすれば、これしかないだろう。

「それじゃあ、どうすれば元の世界に帰れますか?」
「わからない!」
「は?」

 ナビ子の回答に俺は開いた口が塞がらなかった。

「うんうんわかるよ。みんな似たような反応するからね。けれど、本当にわからないんだ。私はただのナビゲーターだからねッ!」
「そ、そうなのか……」

 どうやら、そう簡単に事は進まないようだ。

「ちなみに、黒幕は誰だとか、チートアイテムの場所とか、消えたく記憶についても分からないからねッ!」

 しようと思っていた質問はことごとく分からないらしい。

 仕方が無いので、後は適当にチュートリアルで受けた内容に対していくつか質問をして終えた。

「お疲れ様ッ! これでチュートリアル終了だよッ! クリア報酬は棍棒と、スライムの魔石一個、あとはアイテムポケットのシステムが解放されるよッ! アイテムポケットは好きなアイテムを五つまで収納できる便利システム!」

 ナビ子がチュートリアルの終了を宣言すると、目の前にウインドウが出現した。

 _____________________

 ランク:0
 名称:チュートリアル
 種類:特殊
 クリアタイム:48分32秒

【参加者】
 ○ルイン・セイジョウ

【報酬】
 ○初心者の棍棒×1
 ○魔石(F)×1
 ○アイテムポケット解放×5枠

 _____________________

 なるほど、こんな風にクリアウインドウが出現するのか。

 下部にある確認の項目をタップすると、ウインドウは問題なく消え去る。

「それじゃあ、お別れだねッ! 私とは性質上出会うところが限られているけれど、その時はよろしくねッ! 後は最後に一つ教えてあげるけど、この世界はゲームだけれど、ゲームじゃない。つまり、普通のプレイヤーが集まるオンラインゲームとは違って、平等じゃないんだ!」
「え?」

 そういうとナビ子は、唐突に俺の頬を両手で包む。

≪スキル『偽装』をラーニングしました≫

 そして、脳内にそんな機械音声が流れてきた。

「つまりね。ナビゲーターが一プレイヤーを贔屓ひいきすることもできちゃんだ! 面白そうな子には頑張ってほしいからねッ! 応援してるよ! なんせ私は、男の娘・・・が大好物だからねッ!」

「は?」

 最後何を言われたのか理解できないまま、俺の視界はチュートリアルの終了を迎えて、そのまま暗転した。


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