「う、鬱実さん! 何故ここに!? 確かやることがあると言って、部屋に戻っていたはずでは!?」
鬱実の登場に、夢香ちゃんが焦りだす。
「ふふ、この秘密基地はあたしのよ? 凛也君の寝取られ気配にあたしが気が付かないはずがないわ! はぁはぁはぁ」
気配はともかく、この空き部屋にも監視カメラや盗聴器が存在しているのだろう。
それを見聞きして、鬱実はやってきたと俺は予測した。
「いや、そんなことより見てないで助けてほしいんだが……」
俺は思わずそう呟く。
「助けを呼ぶ凛也君が私の前で穢される……はぁはぁはぁ」
「おいこら! マジで助けてくれ! このままだといろんな意味で危険なんだよ!」
鬱実のふざけた対応に、俺はつい叫んでしまった。
「くっ、そ、そうだ。鬱実さんも混ざりませんか?」
すると夢香ちゃんが、焦ったように鬱実を仲間に引き入れようとする。
まずい。そんなことを言えば、鬱実が何を言うかなんて決まって……。
「お断りするわ」
「え?」
「へ?」
「は?」
鬱実の言葉に、夢香ちゃんと瑠理香ちゃん、それに俺も含めて聞き間違いかと思ってしまう。
あの鬱実がこの状態で断るだと!? 何を考えているんだ!?
これまでの鬱実の行動を考えれば、混ざらないとしても、その場で傍観者になることも考えられた。
それが今回、完全に拒絶をしている。
「だってそれをすると、本当の意味で凛也君に嫌われるもの」
「あっ……」
「うっ……」
鬱実の何気ない言葉に、夢香ちゃんと瑠理香ちゃんが固まった。
確かに、ここで鬱実まで襲ってくるようであれば、俺たちの関係に亀裂が入ることは免れないだろう。
正直言って、二人の行動はシスターモンスターと重なり、かなり恐怖を感じる。
終わった後、自分がどうなるか予想ができない。
もしかしたら、夢香ちゃんと瑠理香ちゃんに対しての信用が揺らいでしまう可能性もあった。
「そ、そんな……私、そんなつもりじゃ……」
「り、凛也お兄ちゃん、ご、ごめんなさい。るりのこと、嫌いにならないで」
一時的な興奮が収まり、二人は自分たちのした行動に気が付いたのか、俺に謝罪して涙を流す。
「ま、まあ、未遂だったし、この極限状態で色々精神的に参っていたんだろ? 大丈夫だ。俺は怒ってないよ。それより、まずは服を着てくれないか?」
俺はできるだけ穏やかな口調でそう言った。
「は、はい」
「うん……」
そうして目のやり場に困る下着姿の二人は服を着始める。
当然俺はそのとき後ろを向いた。
これから、弟くん収穫祭とかいう地獄が待っている。
おそらく二人は、不安だったのだろう。
もしかしたら、俺が死んでしまうかもしれない。
少しでもそう思ったからこそ、様々な感情がごちゃ混ぜになって、今回の騒動を起こした可能性がある。
こんな時だからこそ、寛容にならなくてはいけない。
二人をそもそも怒っていないというのは本当だ。
これまで一緒に生活してきたこともあり、俺としても悪い感情は抱いていない。むしろ好意的といってもいい。
だからこそ、穏便な形でこの問題を終わらせたかった。
「着替えました」
「るりもです」
二人が着替え終わったようなので、俺は振り返る。
さて、そうは考えたものの、どうしたものか。
俺が既に許しているとしても、二人の罪悪感が消えるわけではない。
また口でどうこう言ったところで、二人が自分自身を許すとは到底思えなかった。
時間が経てば経つほど、二人は今回の出来事を気にするようになるだろう。
本当に、どうすれば……。
俺が苦悩し始めるとそれを感じ取ったのか、二人もソワソワし始める。
するとそこに、鬱実がふざけたことを口走った。
「凛也君を襲ったのだから、自分たちも襲われる恐怖を知ればいいと思うわ。もちろん襲う側が凛也君では意味が無いから駄目よ。でも全くの他人に襲われるのは可哀そう過ぎるわ。だから、あたしが二人を襲うことにするけど、いいわよね?」
何を言っているんだこいつは……。
「い、いったいなにを……」
「ひぃ……」
鬱実の迫力に、二人は怖がり始める。
「おいま――」
「凛也君、止めないで」
俺が止めようとすると、その前に言葉を潰された。
「自分たちのしたことに罪悪感があるのなら、あたしについて来て?」
「うぅ……わかりました」
「うん……怖いけど、仕方ないよね……」
鬱実がそう言うと夢香ちゃんと瑠理香ちゃんは、覚悟を決めてその後ろについていく。
「凛也君、あたしたちお風呂に行くけど、見に来ちゃだめよ?」
「あ、ああ……」
いつもならむしろ見に来いと言いそうな鬱実だが、今回は本気のようだ。
実は、鬱実も怒っているのか?
普段鬱実の怒った姿をほとんど見たことがない俺だが、何となくそれが分かった。
大丈夫だとは思うが、二人への罰が重くないことを祈る。
というか襲うって、本当に何をする気だよ……。
本当に大丈夫だろうか……。
俺は一人残された空き部屋で、不安になった。
それから俺が自室に戻り数時間経った頃、鬱実からメインルームに来るよう連絡が届く。
正直不安だが、俺は言われた通りメインルームに向かう。
「うぅ、穢されました……」
「もうお嫁にいけない……」
俺がやってくると、夢香ちゃんと瑠理香ちゃんの目からは光が消え、燃え尽きたように床に転がっていた。
「これでもう、二人がいきなり襲ってくることは無いと思うわ」
「そ、そうか……」
二人の罪悪感が消失するような凄いことをしたのか……。
知りたいような、知りたくないような、不思議な気持ちになる。
「凛也先輩、襲おうとしてしまい、本当にすみませんでした。代わりにこの浅ましいメス豚をいつでも肉奴隷としてご自由にお使い下さい」
「凛也お兄ちゃん、るりもロリ奴隷になります。いつでも使ってください……」
「は?」
俺は二人の変わりように唖然となり、実行犯である鬱実を見た。
流石にまずいと自覚があるのか、鬱実は俺から目を逸らす。
「ちょっとやりすぎたわ」
「いや、ちょっとじゃないだろ! 明らかにこれは調教されてるじゃねえか!」
これ、元に戻るのか? 戻るよな?
別の意味でこのままだと困る。
「あたし基準でしたのが間違いだったわ」
「おまっ、鬱実のような痴女と一般人じゃ違うに決まってるだろ!?」
「うぅう。凛也君が辛辣ぅ。あたしがんばったのにぃ」
頑張るところを間違い過ぎだろ!
それから、俺は二人が元に戻るように必死に語りかけ、精神ケアをした。
その甲斐もあり、二人は元に近い精神状態を取り戻す。
だが、完全ではない。
「私、今までは一人で凛也先輩を独占したいと思っていました。けど、今は女の子どうしもいいんじゃないかと考えています。それに、こんな世の中です。一夫多妻制でも全然アリですよね」
「るりも、お姉ちゃんに賛成です。あれを知ったら、もう戻れません……。四人で幸せになることを目指します」
そんなことを言い始め、三人はいろんな意味で以前より親密になった。
「本当にやりすぎたわ。私はノーマルなのに」
「お前のどこがノーマルだ! アブノーマルだろ!」
「うぅう。凛也君が辛辣ぅ!」
少し、いやかなりおかしくなったが、俺たちの関係に亀裂が入らずに済んだ。
そのことは素直に感謝できるが、色々と腑に落ちない。
鬱実に任せたのは、やはり間違いだったか……。
いや、俺ではどうにもできなさそうだったし、仕方がない犠牲だと考えることにしよう。
夢香ちゃんと瑠理香ちゃんが鬱実を見る目が怪しくなったが、俺は知らない見ていない。
普段俺に似たような視線を送っているんだ、鬱実もこれを是非味わうといい。
そうして、俺たちは最後の三日間を過ごしていく。
できるだけの準備は整った。
あとは、弟くん収穫祭という嵐が過ぎ去るのを待つだけである。
大丈夫だ。きっと乗り越えられる。
これまでだってそうだったんだ。
俺は、いるかも分からない神に強く祈った。
そして、その時が訪れる。
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