さて、この間にできる事をやってみよう。
俺はできるだけ遠くに、アサシンクロウを十数羽召喚する。
そして先行させて、モンスターを狩らせる予定だ。
実のところ、カード化が可能な距離には制限がある。
視界に入っていれば大抵はカード化可能だが、視界の外だとその範囲が狭くなる感じだ。
なお他のモンスターの視界を借りたとしても、範囲は伸びない。
どうやら俺本体の距離や見えている範囲が、大きく関係しているようだ。
故に今回試すのは、先行させたアサシンクロウにモンスターを倒させて、直線距離で近くなった時にカード化を試すことである。
寝たふりをした現在であれば、他に集中力を削るものはない。
この試みが上手く行けば、今後何かに乗って移動する際にも、カード化できるようになるだろう。
アサシンクロウは飛んで先行できるし、隠密も使える。
この試みにピッタリのモンスターだ。
ちなみに今回俺が操作するアサシンクロウは、ユニーク個体のやつである。
種族:アサシンクロウ
種族特性
【闇属性適性】【闇属性耐性(小)】
【隠密】【暗殺】【追跡】【警戒】
【ナイトビジョン】
スキル
【鷹の目】【声真似】【体力上昇(小)】
遠くを見ることのできる鷹の目があるので、モンスターも見つけやすい。
すると少しして、まだカード化していないモンスターを発見する。
生憎アサシンクロウを通じて鑑定を発動できないが、ランクが低いことは分かった。
見つけたのは、小型犬サイズのモグラである。
加えて鼻の先端には、ドリルのようなものが付いていた。
何やら、小さな虫のようなものを食べている。
どうやらその虫も、モンスターのようだ。
アリにクモの足をつけたような虫である。
大きさは、野球ボールくらいだ。
そこへ、アサシンクロウたちを特攻させる。
Cランクモンスターの襲撃に成す術もなく、モグラと虫は蹴散らされた。
また実験のため、虫モンスターの死骸を一匹アサシンクロウに運ばせる。
そしてモグラと虫の死骸から直線距離で最も近くなった瞬間、俺はカード化を発動した。
すると、問題なくカード化に成功する。
ローブのスキマから、周囲には見えないように確認した。
種族:ドリルモール
種族特性
【掘削】【触覚感知】
【ドリル強化(小)】
種族:ソイルバグ
種族特性
【集団行動】【土再生】
種族特性からして、EランクとFランクモンスターだろうか。
ドリルモールは、穴を掘るときに使えそうだ。
ソイルワームよりも、穴を掘るのが得意な気がする。
そしてソイルバグだが、こいつは微妙だな。
土さえあれば再生できるようだが、それだけだ。
一度でソイルバグを十数枚手に入れたが、ここは十枚にまで減らそう。
ちなみに、ドリルモールは三枚手に入れた。
あと七枚ほど欲しい。
そう思いながら、ソイルバグのカードを十枚にまで消し去った。
さて、ソイルバグはもういらないが、一応実験をしてみるか。
俺はゲッコー車の進行方向に、ソイルバグの死骸を先ほどのモンスターと同じ距離に配置する。
なおこの死骸は、先ほどアサシンクロウに運ばせたものだ。
そして直線距離で一番近くなった瞬間に、カード化を発動させる。
ふむ。やはりだめか。
すると思った通り、運ばせたソイルバグの死骸をカード化することは出来なかった。
制限時間的には問題無いので、おそらく倒した場所と離れたのが問題なのだろう。
魂的なものが、その場に留まっているからだろうか?
まあこの結果が分かれば、今は十分だ。
俺はその後も、アサシンクロウを操ってモンスターを探す。
あれは確か、道中に襲ってきた奴だな。
見つけたのは、Eランクのファングハイエナだ。
このまま進めば、ゲッコー車を見つけて襲ってくるかもしれない。
ゲッコー車が止められると目的地に着くのが遅れるので、ここで潰しておく。
「ヴウウアウ!?」
Eランクのファングハイエナでは、Cランクのアサシンクロウの群れに対処できるはずがない。
結果として俺は、ファングハイエナのカード化に成功する。
種族:ファングハイエナ
種族特性
【咢強化(中)】【集団行動】
【悪食】【夜目】
あまり強くないが、夜中や暗い場所であれば役に立つだろう。
こいつも、十匹ほど集めておく。
それからアサシンクロウでモンスターを見つけては、狩っていった。
残念ながら他に持っていないのは見つけられなかったが、十分にカードが集まる。
ザコモンスターなら、十枚あれば十分だろう。
そうして狩りを終えてから時間が過ぎ、俺の夜番が回ってくる。
ダンリに肩をゆすられた俺は、起きたふりをして瞳を開けた。
「起きたか? 順番だぞ」
「ああ。分かった」
俺はダンリと入れ替わり、ゲッコー車の出入り口付近に移動する。
他のパーティの冒険者も、入れ替わった。
俺と同じ時間に夜番をするのは、男が二人。
一人は、ローブで顔を隠した斥候風の男。
もう一人は、ダークエルフでは珍しい杖を持った魔法使い風の男だった。
どちらも無言であり、コミュニケーションは取らない。
まあこの車内で夜番が会話をすれば、他の休んでいる者たちの眠りを妨げることになるので、当然か。
そんなことを思いながら暇なので、俺はアサシンクロウを操り邪魔になるモンスターを狩っていく。
結果として夜番の間、敵の襲撃でゲッコー車が止まることは無かった。
◆
それから朝日が昇り、俺たちは現在とある村にいる。
薄暗いうちから着いたその村で、出発の夕方まで待たねばならない。
理由は、ナイトゲッコーが動かなくなってしまったからだ。
夜行性のナイトゲッコーは地面に穴を掘り、簡易的な寝床を作って眠っている。
ちなみにこの村にも冒険者ギルドはあるようだが、冒険者の質は低い。
今回の依頼の目的地からは近いが、それを熟せる冒険者がいないのだろう。
また宿は冒険者ギルド持ちであり、元々ソロだった俺には個室が与えられた。
同じパーティとはいえ、今回初めて組んだ者たちを同室にはしないみたいだ。
何が起こるか分からないし、まあ当然だろう。
さて、一応夕方までは自由時間だが、何をしようか。
なお荒野の闇の面々は、少し寝ていくそうだ。
夜番で睡眠時間が短くなったので、仕方がないだろう。
それに予定では次の朝くらいに着くみたいなので、今の内に寝ときたいのだと思われる。
他のパーティも、似たような感じだ。
それと御者は徹夜だったので、しばらくは起きないと思われる。
何気に今回の依頼で一番大変なのは、御者の者たちかもしれない。
そんなことを思いながら、俺は村を歩く。
土づくりの平屋が並び、子供たちも元気に駆け回っている。
とても平和そうな村だ。
しかしこれから向かう北の渓谷が放置されれば、いずれそこからコボルトたちがやって来るかもしれない。
上位種と数百匹のコボルトの群れが現れれば、こんな小さな村はひとたまりもないだろう。
だとすれば、今回の依頼は失敗を許されない。
もしCランク冒険者たちでもダメそうなら、俺が何らかの形で手を出すしかなさそうだ。
するとその時、偶然一人の少年が俺の視界に入る。
十歳ほどの少年が、建物の影から他の子供たちを見つめていた。
うーむ。ハブられているのだろうか?
そう思っていると、少年の肩に一匹のソイルバグが乗っている事に気が付く。
体に小さな布が巻かれているので、おそらく使役しているのだろう。
少年は、テイマーなのだろうか?
だとすれば、上手くいけば情報収集ができるかもしれない。
失敗したら失敗したで、別に構わなかった。
俺はそう思うと近くの石で出来たベンチに座り、夜に手に入れたソイルバグを三匹召喚する。
「キィー」
「キキィ」
「キィ?」
そして生活魔法の土塊で球を作ると、ソイルバグたちに投げ渡す。
ソイルバグたちは、それをヘディングで交互に打ち合い、落とさないようにする。
崩れないように魔力で固めているので、土にもかかわらずとても丈夫だ。
また一見地味な光景だが、周囲から見ればそうではない。
「なんだ?」
「ソイルバグが何かしているぞ!?」
「なんだか可愛いわね」
珍しい光景に、人が集まってきた。
すると建物の影に隠れていた少年も気が付き、近寄ってくる。
「わぁ」
少年はソイルバグを使役しているからか、これが意外に高度な事だと気が付いたみたいだ。
俺の場合モンスターは絶対服従だし、全感共有で直接操ることもできる。
普通のテイマーがモンスターに命令するのとは違い、難易度はそこまで高くはないだろう。
続いて俺は生活魔法の火種を操り、輪を作る。
それをちょうどいい高さに浮かべ、ソイルバグを飛び込ませた。
「おおっ! 火の輪を飛び越えたぞ!」
「すげえ!」
「よく躾けられているわ!」
これには周囲も驚き、絶賛する。
また少年も、目を輝かせた。
そしてしばらく続けた後にパフォーマンスが終わると、ダークエルフたちは小銭を俺に手渡してくる。
「良い見世物だった!」
「面白かったぜ」
「可愛かったわ!」
俺からすればはした金だが、こうして得た金銭は金額以上の価値を感じた。
だがいつも通り二重取りが発動して、二倍に増える。
今回ばかりはため息が出そうになるが、仕方がない。
そうしてダークエルフたちが去っていき、俺の目の前には一人の少年が残った。
「あ、あの!」
すると向こうから、俺に声をかけてくる。
何も起きなければこちらから声をかけようと思っていたので、ちょうどいい。
「何か用か?」
俺はそう返事をして、少年の言葉を待つのだった。
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