128 夜番中に試してみたこと

 さて、この間にできる事をやってみよう。

 俺はできるだけ遠くに、アサシンクロウを十数羽召喚する。

 そして先行させて、モンスターを狩らせる予定だ。

 実のところ、カード化が可能な距離には制限がある。

 視界に入っていれば大抵はカード化可能だが、視界の外だとその範囲が狭くなる感じだ。

 なお他のモンスターの視界を借りたとしても、範囲は伸びない。

 どうやら俺本体の距離や見えている範囲が、大きく関係しているようだ。

 ゆえに今回試すのは、先行させたアサシンクロウにモンスターを倒させて、直線距離で近くなった時にカード化を試すことである。

 寝たふりをした現在であれば、他に集中力を削るものはない。

 この試みが上手く行けば、今後何かに乗って移動する際にも、カード化できるようになるだろう。

 アサシンクロウは飛んで先行できるし、隠密も使える。

 この試みにピッタリのモンスターだ。

 ちなみに今回俺が操作するアサシンクロウは、ユニーク個体のやつである。

 種族:アサシンクロウ
 種族特性
【闇属性適性】【闇属性耐性(小)】
【隠密】【暗殺】【追跡】【警戒】
【ナイトビジョン】

 スキル
【鷹の目】【声真似】【体力上昇(小)】

 遠くを見ることのできる鷹の目があるので、モンスターも見つけやすい。

 すると少しして、まだカード化していないモンスターを発見する。

 生憎あいにくアサシンクロウを通じて鑑定を発動できないが、ランクが低いことは分かった。

 見つけたのは、小型犬サイズのモグラである。

 加えて鼻の先端には、ドリルのようなものが付いていた。

 何やら、小さな虫のようなものを食べている。

 どうやらその虫も、モンスターのようだ。

 アリにクモの足をつけたような虫である。

 大きさは、野球ボールくらいだ。

 そこへ、アサシンクロウたちを特攻させる。

 Cランクモンスターの襲撃に成す術もなく、モグラと虫は蹴散けちらされた。

 また実験のため、虫モンスターの死骸を一匹アサシンクロウに運ばせる。

 そしてモグラと虫の死骸から直線距離で最も近くなった瞬間、俺はカード化を発動した。

 すると、問題なくカード化に成功する。

 ローブのスキマから、周囲には見えないように確認した。

 
 種族:ドリルモール
 種族特性
【掘削】【触覚感知】
【ドリル強化(小)】

 種族:ソイルバグ
 種族特性
【集団行動】【土再生】

 種族特性からして、EランクとFランクモンスターだろうか。

 ドリルモールは、穴を掘るときに使えそうだ。

 ソイルワームよりも、穴を掘るのが得意な気がする。

 そしてソイルバグだが、こいつは微妙だな。

 土さえあれば再生できるようだが、それだけだ。
 
 一度でソイルバグを十数枚手に入れたが、ここは十枚にまで減らそう。

 ちなみに、ドリルモールは三枚手に入れた。

 あと七枚ほど欲しい。

 そう思いながら、ソイルバグのカードを十枚にまで消し去った。

 さて、ソイルバグはもういらないが、一応実験をしてみるか。

 俺はゲッコー車の進行方向に、ソイルバグの死骸を先ほどのモンスターと同じ距離に配置する。

 なおこの死骸は、先ほどアサシンクロウに運ばせたものだ。

 そして直線距離で一番近くなった瞬間に、カード化を発動させる。

 ふむ。やはりだめか。

 すると思った通り、運ばせたソイルバグの死骸をカード化することは出来なかった。

 制限時間的には問題無いので、おそらく倒した場所と離れたのが問題なのだろう。

 魂的なものが、その場に留まっているからだろうか?

 まあこの結果が分かれば、今は十分だ。

 俺はその後も、アサシンクロウを操ってモンスターを探す。

 あれは確か、道中に襲ってきた奴だな。

 見つけたのは、Eランクのファングハイエナだ。

 このまま進めば、ゲッコー車を見つけて襲ってくるかもしれない。

 ゲッコー車が止められると目的地に着くのが遅れるので、ここで潰しておく。

「ヴウウアウ!?」

 Eランクのファングハイエナでは、Cランクのアサシンクロウの群れに対処できるはずがない。

 結果として俺は、ファングハイエナのカード化に成功する。

 種族:ファングハイエナ
 種族特性
あぎと強化(中)】【集団行動】
【悪食】【夜目】

 あまり強くないが、夜中や暗い場所であれば役に立つだろう。

 こいつも、十匹ほど集めておく。

 それからアサシンクロウでモンスターを見つけては、狩っていった。

 残念ながら他に持っていないのは見つけられなかったが、十分にカードが集まる。

 ザコモンスターなら、十枚あれば十分だろう。

 そうして狩りを終えてから時間が過ぎ、俺の夜番が回ってくる。

 ダンリに肩をゆすられた俺は、起きたふりをして瞳を開けた。

「起きたか? 順番だぞ」
「ああ。分かった」

 俺はダンリと入れ替わり、ゲッコー車の出入り口付近に移動する。

 他のパーティの冒険者も、入れ替わった。

 俺と同じ時間に夜番をするのは、男が二人。

 一人は、ローブで顔を隠した斥候風の男。
 
 もう一人は、ダークエルフでは珍しい杖を持った魔法使い風の男だった。

 どちらも無言であり、コミュニケーションは取らない。

 まあこの車内で夜番が会話をすれば、他の休んでいる者たちの眠りを妨げることになるので、当然か。

 そんなことを思いながら暇なので、俺はアサシンクロウを操り邪魔になるモンスターを狩っていく。

 結果として夜番の間、敵の襲撃でゲッコー車が止まることは無かった。

 ◆

 それから朝日が昇り、俺たちは現在とある村にいる。

 薄暗いうちから着いたその村で、出発の夕方まで待たねばならない。

 理由は、ナイトゲッコーが動かなくなってしまったからだ。

 夜行性のナイトゲッコーは地面に穴を掘り、簡易的な寝床を作って眠っている。

 ちなみにこの村にも冒険者ギルドはあるようだが、冒険者の質は低い。

 今回の依頼の目的地からは近いが、それを熟せる冒険者がいないのだろう。

 また宿は冒険者ギルド持ちであり、元々ソロだった俺には個室が与えられた。

 同じパーティとはいえ、今回初めて組んだ者たちを同室にはしないみたいだ。

 何が起こるか分からないし、まあ当然だろう。

 さて、一応夕方までは自由時間だが、何をしようか。

 なお荒野の闇の面々は、少し寝ていくそうだ。

 夜番で睡眠時間が短くなったので、仕方がないだろう。

 それに予定では次の朝くらいに着くみたいなので、今の内に寝ときたいのだと思われる。

 他のパーティも、似たような感じだ。

 それと御者は徹夜だったので、しばらくは起きないと思われる。

 何気に今回の依頼で一番大変なのは、御者の者たちかもしれない。

 そんなことを思いながら、俺は村を歩く。

 土づくりの平屋が並び、子供たちも元気に駆け回っている。

 とても平和そうな村だ。

 しかしこれから向かう北の渓谷が放置されれば、いずれそこからコボルトたちがやって来るかもしれない。

 上位種と数百匹のコボルトの群れが現れれば、こんな小さな村はひとたまりもないだろう。

 だとすれば、今回の依頼は失敗を許されない。

 もしCランク冒険者たちでもダメそうなら、俺が何らかの形で手を出すしかなさそうだ。

 するとその時、偶然一人の少年が俺の視界に入る。

 十歳ほどの少年が、建物の影から他の子供たちを見つめていた。

 うーむ。ハブられているのだろうか?

 そう思っていると、少年の肩に一匹のソイルバグが乗っている事に気が付く。

 体に小さな布が巻かれているので、おそらく使役しているのだろう。

 少年は、テイマーなのだろうか?

 だとすれば、上手くいけば情報収集ができるかもしれない。
  
 失敗したら失敗したで、別に構わなかった。

 俺はそう思うと近くの石で出来たベンチに座り、夜に手に入れたソイルバグを三匹召喚する。

「キィー」
「キキィ」
「キィ?」

 そして生活魔法の土塊で球を作ると、ソイルバグたちに投げ渡す。

 ソイルバグたちは、それをヘディングで交互に打ち合い、落とさないようにする。

 崩れないように魔力で固めているので、土にもかかわらずとても丈夫だ。

 また一見地味な光景だが、周囲から見ればそうではない。

「なんだ?」
「ソイルバグが何かしているぞ!?」
「なんだか可愛いわね」

 珍しい光景に、人が集まってきた。

 すると建物の影に隠れていた少年も気が付き、近寄ってくる。

「わぁ」

 少年はソイルバグを使役しているからか、これが意外に高度な事だと気が付いたみたいだ。

 俺の場合モンスターは絶対服従だし、全感共有で直接操ることもできる。

 普通のテイマーがモンスターに命令するのとは違い、難易度はそこまで高くはないだろう。

 続いて俺は生活魔法の火種を操り、輪を作る。

 それをちょうどいい高さに浮かべ、ソイルバグを飛び込ませた。

「おおっ! 火の輪を飛び越えたぞ!」
「すげえ!」
「よく躾けられているわ!」

 これには周囲も驚き、絶賛する。

 また少年も、目を輝かせた。

 そしてしばらく続けた後にパフォーマンスが終わると、ダークエルフたちは小銭を俺に手渡してくる。

「良い見世物だった!」
「面白かったぜ」
「可愛かったわ!」

 俺からすればはした金だが、こうして得た金銭は金額以上の価値を感じた。

 だがいつも通り二重取りが発動して、二倍に増える。

 今回ばかりはため息が出そうになるが、仕方がない。

 そうしてダークエルフたちが去っていき、俺の目の前には一人の少年が残った。

「あ、あの!」

 すると向こうから、俺に声をかけてくる。

 何も起きなければこちらから声をかけようと思っていたので、ちょうどいい。

「何か用か?」

 俺はそう返事をして、少年の言葉を待つのだった。

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