127 ゲッコー車での移動 ②

 それから道中、俺は情報収取のために荒野の闇の面々の話を聞く。

 村の周囲はFランクモンスターがほとんどで、稀にEランクモンスターが出る程度らしい。

 村の近くにあるダンジョンは全十五階層だが、三人は四階層までしか行ったことがないようだ。

 また五階層目と十階層目には、守護者がいるらしい。

 守護者を倒さないと、次の階層にはいけないようだ。

 これまで挑んだダンジョンよりも、難易度が高そうである。

 とても行ってみたい。

 なので出現するモンスターについては、あえて訊かないことにした。

 訊いたら、行くのを我慢するのが辛くなる。

 そうしてゲッコー車がしばらく進んだ頃、気配感知が発動した。

 購入したばかりの気配感知のネックレスが、さっそく役に立ったようだ。

 すると同時に、ルビスが声を上げる。

「モンスターよ!」

 その声を聞いて、出入り口側にいた冒険者が動き出す。

「まじか! 行くぞ!」
「ヒャッハー! 狩りの時間だぜ!」
「俺が一番だ!」
「戦いだぁ!」

 彼らは好戦的な掛け声を上げて、ゲッコー車から飛び降りた。

「あっ! 私が先に気が付いたのに! 皆、行くわよ!」
「ね、姉さん待ってよ!」
「やれやれ、仕方ないな」

 三人も飛び出したので、俺も続く。

 ゲッコー車の御者も敵に気が付いたのか、動きが止まった。

 そして外に出ると、既に他のゲッコー車に乗っていた冒険者たちが戦っている。

 周囲は光球が浮かんでいるので、意外と明るい。

 俺は三人と共に、他の冒険者が戦っていないモンスターへと向かう。

「ヴウウアウッ!」

 そんな特徴的な鳴き声を出すモンスターは、ぱっと見ハイエナである。

 茶色っぽい毛に、黒いブチが無数にあった。

 また牙が長く、噛みつきには注意が必要そうだ。

 とりあえず俺は、視界に入ったことで鑑定を飛ばす。

 種族:ファングハイエナ
 種族特性
あぎと強化(中)】【集団行動】
【悪食】【夜目】

 集団での戦いを得意としているようだが、俺たちの前にいるのは一匹だ。

「Eランクのファングハイエナだよ! あぎと強化(中)があるから気をつけて!」

 するとギルスがそう言って、注意を促す。

 どうやらギルスは、鑑定のスキルを持っているみたいだ。

「こっちを見ろぉ!」

 続いて盾と槍を持ったダンリが、声を上げる。

「ヴヴヴアぁ!」

 ファングハイエナは、その声に反応して襲い掛かった。

 おそらく、挑発系のスキルを使ったと思われる。

 そしてダンリは、ファングハイエナの攻撃に耐えきった。

 一瞬盾が光ったので、何かスキルを使っているのだろう。

「スラッシュ!」
「アロー!」
「ギャイィンッ!」

 更にそこへルビスがスラッシュを放ち、ギルスが弓スキルであるアローを放った。

 それにより、ファングハイエナが倒れる。

 良い連携だ。俺が攻撃する必要は既になさそうだな。

 だが、ファングハイエナは他にもいる。

 現に二匹のファングハイエナが、こちらに向かって来ていた。

 ここは、俺も力を見せた方がいいな。

「いでよ。トーン!」
「……!」

 そう思い、俺はトーンを召喚した。

 
 種族:トーン(トレント)
 種族特性
【自然治癒力上昇(中)】【硬化】
【エナジードレイン】【身体操作上昇(小)】

 スキル
【樹液生成】【再生】

「ヴウウ!」
「ヴアウッ!」

 ファングハイエナは、突然現れたトーンにおくせずに襲い掛かる。

 トーンは硬化を使うが、噛みつかれた部位に牙が突き刺さった。

 だがそれで倒れるトーンではなく、逆に根で二匹のファングハイエナを捕まえる。

 そしてエナジードレインを発動させて、生命力を吸い取っていく。

「ギャゥウ!」
「ヴヴギャ!」

 ファングハイエナは逃れようと藻掻もがくが、抜け出すことができない。

 エナジードレインで倒そうとすれば時間がかかるし、直接処理するか。

 俺はそう考えると、剣を抜いてファングハイエナの首を両断した。

 当然二匹のファングハイエナは、息絶える。

 カード化したいところだが、それは我慢するしかないな。

「流石Dランク! ジン君強いわね!」
「凄い、トレントだよ! エルフの領域にしかいないモンスターだ!」
「耐久力も高そうだな。それにファングハイエナの牙のあとが、もう塞がっているぞ!」

 すると三人が戦いを見ていたようで、好奇心と驚きの声を上げる。

 やはりこの国にいるモンスターであれば、召喚してもそこまで怪しまれない。

 エルフの森にいたことは既に話しているので、俺がトレントであるトーンを使役していても問題ないという訳だ。

「コイツはトーン。タンクとして優秀だ。けれども見た目通り動きは鈍いし、攻撃手段もあまりない感じだ」
「なるほど。タンクとして頼りになるわね」
「トレントは確か意思が薄いから心を通わせづらく、使役するのが難しいと聞いたことがあるけど、それを使役しているなんて凄いよ!」
「優秀なタンクか。汎用性では、負けてないはず……」

 二人には好印象であるが、盾を使うダンリは若干危機感があるみたいだ。
 
 それとギルスは思ったよりも、モンスターへの知識が豊富だった。

 使役系スキルを所持しているように見えないが、その知識はどこから来ているのであろうか?

 これは下手にこの国にいないモンスターを召喚したら、怪しまれるかもしれない。

 そんなことを思いながら周囲を見渡すと、既にファングハイエナの群れは全て討伐されたようだった。

 何人かの冒険者がトーンを警戒しているため、送還に見せかけて消しておく。

 勘違いして、攻撃してくる冒険者がいないとも限らない。

 それからファングハイエナの解体をして、必要な部位だけを持っていく。

 超級生活魔法の解体は、流石に今使う事はできない。

 周囲を見れば、牙と魔石だけ取り出している者がほとんどのようだ。

 またアイテムバッグを持っている者は、毛皮や肉なども持っていくみたいである。

 ルビスはアイテムポケットのスキルを持っているので、同様に毛皮や肉なども集めていた。

 俺もアイテムポケットのスキルを使えることになっているので、同じように解体して収納しておく。

 そしてファングハイエナの襲撃を無事に乗り切ったので、俺たちはゲッコー車に戻る。

 ちなみにゲッコー車は、周囲の景色と同化して透明になっていた。

 加えて隠密系スキルも発動しているのか、気配も薄い。

 これならモンスターと戦っている間に、ゲッコー車が襲われる可能性は低いだろう。

 意外と優秀なモンスターだ。

 鑑定してみたいところだが、鑑定すると使役している者にそのことがバレる。

 それはオブール王国で俺も体験済みなので、間違いない。

 なので、安易な鑑定は控える。

 いずれアサシンクロウに探させて、カード化するときに確かめよう。

 そして再び、ゲッコー車が動き出すのだった。

 ◆

 夜もけると、冒険者内で夜番を行う。

 ゲッコー車には、三パーティ合計十二人乗っている。

 なので各パーティ一人ずつ出し、出入口付近に移動した。

 順番は四人で話し合い、俺の番は最後になる。

 なおデミゴッドである俺は、数日徹夜しても問題はない。

 それもあり、寝たふりをして警戒をするつもりだ。

 同時に、アサシンクロウと意識を繋げて偵察を行う。

 アサシンクロウはナイトビジョンのスキルが使えるので、夜中でも周囲がよく見えるのだ。

 それはそうと、皆ゲッコー車の中で慣れたように眠っている。

 座りながら器用に眠っており、ずり落ちることはない。

 しかしそれもそのはずであり、ゲッコー車にはシートベルトのような紐があった。

 当初は安全のためかと思っていたが、寝る時に身体を多少なりとも固定するためのようである。

 通りで、出発時に誰もつけないはずだ。

 それとゲッコー車だが、先ほどよりも速度が上昇している。

 深夜の方が、ナイトゲッコーは元気のようだ。

 同時に揺れも少し激しくなるが、冒険者たちはそれくらい許容範囲なのだろう。

 また御者は安全なルートを選んだのか、モンスターの襲撃もない。

 アサシンクロウで周囲を見る限り、いるのはEランク以下のモンスターばかりだ。

 Dランクのナイトゲッコーを警戒して、近づいてこなかった。

 ちなみに、御者は徹夜でゲッコー車を走らせているみたいである。

 確かナイトゲッコーは昼間動かないらしいので、その時に睡眠をとるのだろう。

 同時に昼間は、俺たちも暇になると思われる。

 そう考えると確かに、ナイトゲッコーが夜行性というのは唯一の欠点だな。

 あと暇と言えば、寝たふりをしている今もそうだ。

 ならちょうど良さそうだし、アレを試してみよう。

 俺はそう考えると、さっそく行動に移すのだった。

 

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