117 失敗からの決意と新たな旅路

「……助かったのか」

 相手は俺を殺す気は無かったみたいだが、一瞬でやられてもおかしくない力の差があったのは間違いない。

 運がよかった事もあるが、ツクロダから解放したのが助かった大きな理由だろう。

 もし普通にカード化したモンスターだったら、恨まれて殺されていた可能性もある。

 そして、俺の手元には指輪が一つ。

 おそらく、ゲヘナデモクレスの種族特性で作られたのだろう。

 俺は一応、鑑定してみる。

 名称:紫黒しこくの指輪
 説明
 ・使用することで、三回だけゲヘナデモクレスを召喚することができる。(残り3)
 ・装備することで、次の能力を得る。 
 【即死無効】【闇冥耐性(大)】
 ・この指輪は以下の能力を持つ。
 【ジン以外の装備及び使用の不可】【自動修復】【サイズ調整】
 ・この指輪は製作者が死亡、または能力を解除したとき失われる。

 即席で作られたとは思えないほど、高性能だ。 
 
 あの理不尽な力を持つゲヘナデモクレスを、三回とはいえ無条件で召喚できるのはでかい。

 加えて、即死無効と闇冥耐性まで上昇する。

 冥属性というのは初めて見たが、闇属性と近い属性だろうか?

 まあ、それはいい。

 問題なのは、オーバーレボリューションについてだ。

 まさか、こんな罠があるとは思わなかった。

 これは、最初に弱いモンスターで実験をしなかった、俺のミスだな。

 流石に、自分の愚かしさにイラつく。

 一歩間違えば、俺は死んでいた。

 自分の神授スキルだからといって、大丈夫だと勘違いしていたのが原因だ。

 しかしだからといって、オーバーレボリューションを封印する気はない。

 デメリットは大きいが、上手く使えば確実に力になる。

 まずは、ゴブリン二匹から始めよう。

 だが再使用までは、使用したカードの枚数分の日数の半分、つまり五百日後になる。

 これは強化による、時間的制限の半減を含めてだ。

 なのでオーバーレボリューションを再び使うのは、当分先になる。

 強力なモンスターが手に入ると思っていただけに、この失敗による落胆はかなりのものだ。

 加えて、自己嫌悪がやばい。

 ここのところ上手く行き過ぎていた事で、調子に乗っていた。

 無意識に、自分なら大丈夫だと思っていたのかもしれない。

 俺はなんとなく、ゲヘナデモクレスが消えた小さな国境門を見る。

 それにこの小さな国境門も、使えなくなってしまった。

 この先の世界は人工物は見当たらなかったし、人がいるような環境とは思えない。

 だがもしも僅かでも人がいた場合、俺はとんでもないことをしてしまったことになる。

 その世界に、魔王と呼んでも差し支えない存在を行かせてしまった。

 しかし、俺にできることは何もない。

 後先考えずに止めに行っても、無駄死にだろう。

 カードの召喚も解くことはできないみたいだし、カードそのものも消すことができない。

 それにゲヘナデモクレスは、俺からの魔力供給を拒絶している。

 つまりは自身の魔力を使い、召喚を持続させているのだろう。

 どのような方法で補っているかは不明だが、これについては良かったと言わざるを得ない。

 魔力の供給は半ば自動的に行われ、俺からストップすることは不可能だ。

 またゲヘナデモクレスにかかる魔力消費量は、おそらく馬鹿にならない。

 カードに戻せない以上、大変なことになっていただろう。

 けれども、カード化容量がかなり減ってしまったのは、どうしようもない。

 ゲヘナデモクレスは、どう考えてもSランク以上だろう。

 ランクが高ければ高いほど、カード化可能容量を圧迫する。

 なのでこれからは、カード化枚数も気にしなければいけない。

 無意味にザコモンスターを数百枚集めるなどは、止めた方がいいだろう。

 魔力は増え続けているので容量も増えるものの、現在の体感的に容量は半分くらいかもしれない。

 もしかしたらゲヘナデモクレスは、ランク以上に容量が要求されている可能性がある。

 おそらく、オーバーモンスターということが関係しているのだろう。

 同ランクでも、フュージョンモンスターの方がコストが重い。

 それと、似たような感じだと思われる。

 これは困ったものだが、仕方がない。

 命が助かっただけでも、良しとしよう。

 それにいつか倒せるようになれば、いいだけだ。

 ゲヘナデモクレスも、隷属させたければ挑んでこいと言っていた。

 だが不思議なことに、繋がりは感じても居場所が全く分からない。

 またおそらくだが、召喚転移も不可能だろう。
 
 全感共有も、無理そうだ。
 
 もし仮に全感共有が可能だとしても、繋げるのは危険だと思われる。

 なので挑む場合は、渡された指輪で召喚すれば可能だろう。

 それに回数制限があるとはいえいつでも召喚できるという事は、こちらの都合の良い条件で戦うことができる。

 強くなりしっかりと準備をすれば、勝てる可能性も生まれるだろう。

 いずれはゲヘナデモクレスを倒す。これは、俺の新たな目標だ。

「にゃーん」

 俺が頭を悩ませていると、レフが心配そうにすり寄ってきた。

「ああ、もう大丈夫だ。この失敗を糧に、強くなればいい」
「にゃん!」

 “私も強くなる!”

 レフも、やる気十分のようだ。

 それに、グインもこれで終わらないだろう。

 あいつは、かなりの負けず嫌いだ。

 今後は強くなることに、貪欲になるだろう。

 俺もデミゴッドの種族に、胡坐あぐらをかいてはいられない。

 もっと強くなる必要がある。

 そしていずれは、ゲヘナデモクレスを倒す。

 俺は自身の心に、強くそのことを刻み込む。

 様々な葛藤かっとうが頭をよぎるが、ゲヘナデモクレスを追いかけるのは今ではない。

 ゲヘナデモクレスを生み出し解き放ってしまった罪を、俺は飲み込む。

 現状倒せない以上、それを背負っていくしかない。

 だからいつか必ず、成しげてみせる。

 その日まで、今日という日を忘れない。

 俺はレフ以外のモンスターたちを、カードに戻していく。

 そしてずっと前からつけていた、耐毒の指輪(下級)を右人差し指から外す。

 代わりに、ゲヘナデモクレスから渡された紫黒しこくの指輪をつけた。

 よし、何時までも落ち込んではいられない。

 気持ちを切り替えていこう。
 
 この小さな国境門を使う訳にはいかなくなったし、当初の予定通りオブール王国の国境門を使うことにする。

 色々とこの小さな国境門の謎は残っているが、今回は諦めるしかない。

 いずれ分かる切っ掛けが得られるかもしれないし、その時に確かめればいいだろう。

 そういう訳で俺はオブール王国の国境門に待機させている、フォレストバードを意識して視界を繋げた。

 すると既に国境門は、開いているようである。

 まあ予兆はハパンナの街を出る前からあったので、驚きはしない。

 問題は、繋がった先がどのような相手かだ。

 とりあえず俺はレフと共に、フォレストバードを目印にして召喚転移を発動した。

 そして移動が完了すると、無数のフォレストバードを放ち偵察に行かせる。

 流石にアサシンクロウでは、隠密があっても目立ちすぎるだろう。

 中には、隠密を看破する者もいるかもしれない。

 対してフォレストバードであれば近くに森もあるので、いてもおかしくはないだろう。

 あるとすれば、その森にフォレストバードがいない場合か。

 それで尚且なおかついない事を知っている者に気がつかれたなら、その時は他の手を考えることにする。

 だがこの考えは杞憂きゆうだったようで、十分な情報が得られた。

 どうやら相手の国はこちらを攻める気はないが、侵攻してくるのであれば徹底的に報復をすることを示唆しさしているらしい。

 元々オブール王国も現状侵攻する気はないので、結果として平和的に解決したようだ。

 それなら一時的な貿易も可能に思えるが、相手がそれを拒んだとのこと。

 相手はとても排他的はいたてきであり、人族を見下しているらしい。

 特徴としては耳が長く、金髪碧眼へきがんで容姿がとても整っているようだ。

 そしてその他国の種族は、やはりというべきかエルフである。

 実際多くの者が、エルフと口にしていた。

 ということはこの国境門の先に、エルフの国があるのだろう。

 キャラクターメイキングでエルフがいることは知っていたが、実際に見たことはない。

 排他的という部分が少し気がかりだが、行ってみようと思う。

 俺はこの大陸に召喚している全てのモンスターを、カードに戻す。

 理由は国境門を越えれば、維持のために必要な消費魔力量が馬鹿にならないからである。

 そして俺が国境門に近づくと、当然止められた。

 なのでハパンナ子爵に書いてもらった書状と共に、万能身分を俺は提示する。

 すると何の問題もなく、先へと通された。

 元々Bランク冒険者以上であれば、行き来は自由なのだ。

 創造神によって、それは定められている。

 ゆえに俺が差し出した万能身分は、そうした身分証に見えたのかもしれない。

 この大陸に来た時とは、大違いだ。

 あの時は万能身分証を見せる余裕がなかったので、まあ仕方がないのだが。

 それと進んでいるうちに、色々な思い出が脳裏をよぎる。

 良いこともあれば、悪いこともあった。

 失敗したこともあったものの、どちらかと言えば成功した事の方が多い。

 おそらくこれからも、何度か失敗することがあるだろう。

 けれども過去の出来事から学び、成長していけばいい。

 まだこの世界に来てから、一年も経っていないのだから。

「いくぞ」
「にゃん!」

 そうして俺は、レフと共に国境門を通る。

 これで長い間滞在していたオブール王国とも、お別れだ。

 だがいつか、この国にまた来よう。

 俺は様々な想いを胸に、エルフがいる国へと渡るのだった。

 ◆ ◆ ◆

「なぜ、やってこない……?」

 紫色の空が広がる世界で、そうつぶやく存在がいた。

 物陰に隠れ、遥か上空の小さな国境門を見つめている。

 それは地獄の鎧を思わせるモンスター、ゲヘナデモクレスだった。

 ゲヘナデモクレスはジンが自分を追ってくるはずだと思い、身を潜めていたのである。

 種族特性の能力から、相手に気が付かれることはまずない。

 しかし数時間経過したのにもかかわらず、ジンは現れなかった。

 カード召喚術の支配から逃れられるゲヘナデモクレスは、自身の居場所が分からないように小細工をしている。

 逆に言えばその影響で、ゲヘナデモクレスもジンの居場所が分からない。

「なぜ、なぜだ……」

 また自由にさせてもらうと口にしたものの、正直自由というのが分からなかった。

 それでも口にしたのは、ツクロダに支配されていた進化前の記憶ゆえに、解放されたいという強い想いが積み重なっていただけである。

 また同時に支配者への強い恨みと、ジンへの感謝がごっちゃになり、混乱していた。

 結果として口では突き放すような言い方だったが、ジンに構ってもらいたくて仕方がない。

 そのことに、ゲヘナデモクレスは自分でも気が付いていなかった。

 この感情を、そもそも知らないという事もある。

 ゆえにゲヘナデモクレスは、少々病んでしまう。

「我を生み出しておきながら、捨てるのか? 見捨てるのか?」

 するとゲヘナデモクレスは、自身の指に紫黒しこくの指輪を作り出す。
 
 これはジンに渡した物と対の関係になり、その繋がりから情報を得ることができる。

 もちろんジンの指輪では、ゲヘナデモクレスの情報を得ることは出来ない。

 ゲヘナデモクレスが、一方的に情報を得ているのである。

 なおジンのカード召喚術とは違い、指輪は一度生み出せば継続して魔力を支払う必要はない。

「別の場所へ、行くだと……!?」

 すると指輪からの情報により、ジンが別の国境門を渡ったことを知る。

 その瞬間、ゲヘナデモクレスから恐怖のオーラが溢れた。

「許さぬ」

 ゲヘナデモクレスはそう一言口にすると、跳躍して上空にある小さな国境門を通過する。

 次にリジャンシャン樹海に戻ると、オブール王国の国境門へと駆け出す。

 そして瞬く間に辿り着いたゲヘナデモクレスは、そのままの勢いで国境門へと飛び込むのだった。

 ゲヘナデモクレスを止められる者は、誰もいない。

 そうしてエルフの国に渡ったゲヘナデモクレスだったが、付近にジンの姿はなかった。

 なので一先ずは、人のいない場所へと移動する。 

 また走っている間に多少冷静になったことで、あることを思い出した。

『我は、自由にさせてもらう。我を隷属させたくば、挑んでくるがよい。我は、逃げも隠れもせぬ』

 するとゲヘナデモクレスに、これまで感じたこともない気持ちが胸に込み上げてくる。

 あれだけの啖呵たんかを切っておいて、今更簡単に会うことはできない。

「う、うむ。まだ時期尚早か。それにあの者は我が欲しくて仕方がないはずだ。必ず、我を求めてくるだろう」

 そう自分を納得させて、勢いのまま会うことは止めた。

 しかし、ジンのことが気になって仕方がないのも事実だ。

「そ、そうだ。千体分の武器などを用意してくれた恩があったな。我は恩は忘れぬ。故に我が見守ってやろう! これは隠れている訳ではない! そう、見守るだけだ!」

 ゲヘナデモクレスはそう言い訳を口にすると、無駄に高い能力を活かしてジンを見守ることにした。

 普通の鎧とは違い、ゲヘナデモクレスが動いても無駄な音は鳴らない。

 加えて元々鎧ゆえに、じっとしているのは得意だった。

 隠密行動自体には、適しているのである。

 また優秀な種族特性があるので、例えジンが相手だとしても、見つかることはまずない。

 ダメ押しに隠密に適した装備を作り出し、万全を期した。

 今のゲヘナデモクレスを見つけるには、感知系の神授スキルが必要だろう。

 そしてゲヘナデモクレスは、指輪の情報を頼りにジンを発見する。

「見つけた。見つけたぞ。我を見捨てたことは業腹だが、許してやろう。これからは、我が見守ろう。これは恩を返すためだ。別に、お前のことを思っての事ではない。勘違いするでないぞ」

 そうして他の誰にも見つかることなく、ゲヘナデモクレスはジンの監視を続けるのであった。

「な、何か異様な感じがする……何だ?」

 するとジンも一瞬何かを感じたものの、結局それだけである。

 直感のエクストラでも、ゲヘナデモクレスを見つける事はできなかった。

「我はここだ。我はここだぞ。何で気が付かない? 何で見てくれない?」

 ジンがこの病み始めているゲヘナデモクレスの存在に気づく日は、果たして来るのであろうか。

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 これにて第三章は終了になります。
 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
 レビューや応援していただけると、ありがたいです。

 次の第四章は、エルフの国になります。
 初の人族以外の国ですね。

 そして次回の更新ですが、最長で一週間ほどお休みを頂きます。(^-^;
 早くて三日くらいですね。

 理由は、全くプロットができていないからです。(^-^;
 最近色々作中の設定や情報が増えてしまったため、執筆までに時間がかかるようになってしまいました。

 今も自転車操業でして、三章終了まで毎日更新を絶やさないようにするのが限界でした。(^-^;

 そういう訳で、少々お時間を頂きます。
 ご理解のほどよろしくお願いいたします。
 <m(__)m>

 またお知らせにて第三章の裏話なども書いていますので、気になる方はどうぞ。

 乃神レンガ

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