116 オーバーレボリューション

 十分に狩りを終えた俺は、ようやく一時拠点のあるリジャンシャン樹海へと戻ってくる。

 カードの枚数も、これでそろえることができた。

 またグインの要望に応えるために、今回主に活躍したモンスターたちに肉を振る舞う。

 といってもストレージ内に収納していたオークの肉は、あまりない。

 実はハパンナ子爵に、大部分の肉を売っていた。

 なので足りない分を補うために、ミディアムマウスの肉も出している。

 ミディアムマウスはこれで大型犬くらいはあるので、量は問題ない。

 まあネズミの肉ではあるが、グインは特に気にしていなかった。

 レフやホブンたちも、普通に食べている。

 一応持っている分で足りたが、今後似たような事が無いとも限らない。

 なのでその後少し遠出をして、樹海に戻ってきていたオークたちを狩った。

 これでしばらく、肉に関しては大丈夫だろう。

 それと食事といえば、火口にいたバーニングライノスは何を食べていたのだろうか?

 もしかしたら定期的に、あの火口にモンスターが発生していた可能性がある。

 他には、普通にあの火口から出ていたのかもしれない。

 おそらくあの火口は、とても魔力が濃いと思われる。

 故にバーニングライノスにとって、あの場所は居心地が良かったのかもしれない。

 まあそれについては、どうでもいいことか。

 それとこれは樹海に帰ってきた時に気が付いたのだが、あの小さな国境門を盾にすれば、拠点作りも多少は楽だったと思われる。

 おそらく壊れることはないだろうし、盾としての役割も十分に果たせるだろう。

 しかし同時に、あの小さな国境門について謎が多い事にも気が付いた。

 なのであの時気がついたとしても、国境門を活用した拠点は作らなかった可能性が高い。

 何が起こるか、分からなかったからだ。

 まあ結果的にそれは杞憂きゆうであり、何も起きていないんだけどな。

 そんなことを考えながら、うたげの時間が過ぎていく。

 用意した肉も、全てなくなってしまった。

 モンスターたちも、大満足のようだ。

 さて、モンスターたちへの礼も済んだし、そろそろオーバーレボリューションを試す頃合いか。

 俺は所持しているカードから、生贄を吟味ぎんみする。

 ある程度計算していたが、改めて選ぶとなると面倒だな。

 とりあえず、これでピッタリ1,000点のはずだ。
 
 結果として、俺は以下のカードを生贄に選ぶ。

 
【リビングアーマー1,000枚分の生贄】

【転移者】
 ウルフマン・ブラッドボーン 1枚=327点

【Bランク】
 リザードシュトラウス (幼体)10点×8枚=80点

【Cランク】
 ジャイアントサーペント 1点×278枚=278点
 アサシンクロウ 1点×78枚=78点
 アプルトレント 1点×58枚=58点
 合計414点

【Dランク】
 アシッドスライム 0.1点×241枚=24.1点
 ミディアムマウス 0.1点×278枚=27.8点
 オーク 0.1点×426枚=42.6点
 ホブゴブリン 0.1点×298枚=29.8点
 ロックハンド 0.1点×42枚=4.2点
 ロックフット 0.1点×44枚=4.4点
 スリーピングバタフライ 0.1点×187枚=18.7点
 トレント 0.1点×274枚=27.4点
 合計179点

【最終合計1,000点】

 

 ここまでの生贄を用意するのは大変だったが、ようやくだ。

 俺は、千枚のリビングアーマーをセットしていく。

 続いて、この生贄となるモンスターたちを選択した。

 そしていよいよ、その時が来る。

 俺は緊張と高揚を感じながらも、オーバーレボリューションを発動させた。

 すると目の前に千枚のリビングアーマーのカードが展開され、光り輝く。

 加えて俺の左右には、生贄となるカードたちが現れた。

 更に生贄となるカードが少しずつ光の粒子になり、リビングアーマーへと向っていく。

 その生贄のカードが吸収されていくたびに、千枚のリビングアーマーが徐々に一つへと集束していった。

 これが、オーバーレボリューション。

 人のいない樹海で、発動してよかった。

 派手な演出過ぎて、注目を集めたことだろう。

 多少の距離があっても、おそらく目立つことは間違いない。

 そうしてしばらく続いたオーバーレボリューションも、ようやく終わる。

 生贄が全て消費され、リビングアーマーも一枚のカードになった。

 その一枚が、ゆっくりと俺の手元に下りてくる。

 俺は緊張しながらも、カードを手に取った。

「え? なんだこれ?」

 けれどもカードを覗き込んだ俺は、思わずそう声に出してしまう。

 見ればカードの絵は真っ黒に塗りつぶされていて、なにがなんだか分からない。

 なので当然次は、能力を確認してみる。

 種族:ゲヘナデモクレス
 種族特性
【火■■無■性■性】【冥■の■躯】
【状■■■無効】【■装■■性】【■魔■奪】
【超■再■】【■■化】【魔■■■召喚】
【ダ■ク■■ト■ク■■ン】【ゲヘ■■■■ト】
【デ■フィ■■■】【■■ラ■ブ■■■ー】
【■■壁】【無■■】

 エクストラ
【オーバーモンスター】

「は?」

 種族特性の大部分が黒くなっており、見ることができない。

 何でだ? こんなことが起きるなんて……。

 種族は、ゲヘナデモクレスというらしい。

 名称からして、とても強そうだ。

 それとエクストラについては、何とか分かるみたいだな。

 俺は、オーバーモンスターの効果を確認してみる。

 名称:オーバーモンスター
 効果
 ・元になったカードのランクと枚数に応じて、生命力や魔力、身体能力などが上昇する。
 ・あらゆる進化方法が不可能になる。
 ・知力を人と同等まで上昇させ、確固たる個を確立する。
 ・即死効果や他者からの支配に対して、完全耐性を持つ。
 ・カード召喚術の支配に、縛られなくなる。
 ・所持者が死亡しても、存在を維持する。
 ・このカードは破棄できない。

 

「支配に縛られなくなる……だと?」

 すると俺がこれを確認するのを待っていたかのように、カードが光り出す。

「な!?」

 その瞬間、莫大な魔力が持っていかれた。

 おそらくこれは、召喚時にかかる魔力消費だろう。

 だが、召喚だけで俺の魔力の大部分が消費される。

 そして目の前には、一体のモンスターが召喚された。

 漆黒と紫が合わさったような、まるで吸い込まれるようなカラーリング。

 身長は約二メートルほどで、スラリとしているがどこか刺々しい。

 額には刃のような一本角に、光っているような深紅の瞳。

 口は大きく開かれ、鋭いナイフが並んでいるかのよう。

 そして背には、王者の風格を現すようなマントがある。

 正しくそれは、地獄の鎧と称されても納得してしまう、そんな禍々まがまがしさがあった。

 実際に体中から、人の根本から恐怖を呼び覚ますかのような、そんなオーラがあふれている。

 一目見ただけで、俺は理解してしまった。

 勝てない。

 それが、本能的に分かってしまう。

 周囲にいるモンスターたちも、そのプレッシャーから声を出せなかった。

 その中でくだんのオーバーモンスター、ゲヘナデモクレスが声を出す。

「これが、我ら、我。何者にも支配されれぬ。絶対たる力の化身」

 驚くことに、ゲヘナデモクレスが人の言葉を話した。

「そしてなんじは、愚かなる使役者」

 そう言って、俺を指さす。

 俺はこのとき、まるで生きた心地がしなかった。

「だが、愚劣なる偽りの使役者から解放せし、恩がある。故に我らを隷属したことは、不問としよう」

 愚劣なる偽りの使役者というのは、ツクロダのことだろう。

 どうやら、リビングアーマーだった時の記憶があるらしい。

「グオウ!」

 するとその時、グインがゲヘナデモクレスに襲い掛かる。

「愚かなり」
「グォオ!?」

 だがその瞬間、ゲヘナデモクレスの手から紫黒しこくの炎が吹き荒れた。

 瞬く間にそれはグインに直撃して、後方の樹海をどこまでも飲み込んでいく。

 そして気が付けば、グインはおろかその後ろの樹海まで消えていた。

 あのグインが瞬殺された!?

 俺の元に、グインのカードが戻ってくる。

 それに対してゲヘナデモクレスは、何もなかったかのように話を再開し始めた。

「我は、自由にさせてもらう。我を隷属させたくば、挑んでくるがよい。我は、逃げも隠れもせぬ」

 どうやら、ゲヘナデモクレスは俺の元を去るようだ。

 ここまでの力の差を見せつけられれば、引き留めることは出来ない。

 また従えるには、コイツを倒す必要があるようだ。

 全くその光景が、思い浮かばない。

 俺がそう思っていると、ゲヘナデモクレスが何やら指輪のようなものを作り出す。

 そしてそれを俺に投げ渡してきた。

「これは、我に力を与えた褒美だ。三度だけ、無条件で力を貸そう」

 俺は渡された紫黒の指輪を見ながら、呆気にとられる。

 するとそれで言いたいことは最後だったのか、ゲヘナデモクレスは小さな国境門からいなくなってしまった。

 

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