「クソが! それで勝った気でいるんじゃねえぞ! この程度じゃ、ツクロダロボの魔力は尽きないからな! それに犬畜生を先に殺せば、僕ちゃんの勝ちだ!」
そう言ってツクロダは、リビングアーマーを追加で何体も召喚する。
当然狙いは、ブラッドだ。
しかしそれは、予想済みである。
俺は合わせるように劣化失敗作EX1を四体と、ロックハンド+ロックフットたちを召喚した。
幻影化したこいつを見られている以上、もはや隠している意味はない。
「はぁ!? それ、僕ちゃんのモンスターじゃん! 他人のモンスターを奪うとか、まじありぇねえんだけど!!」
「無理やり隷属化させたり、改造している君に言われたくないなぁ」
「ッ! 黙れ!」
俺が言い返すとツクロダは頭に血が上ったのか、先ほどと同じように指先から魔力弾を放ってくる。
その間に、俺はモンスターたちにブラッドを守らせた。
これなら、問題なさそうだ。
ブラッドも強化されているし、死ぬことはないだろう。
なら、これ以上気にする必要はない。一気に反撃開始だ。
「これはどうかな?」
そう言って、俺はダークネスチェインを発動させる。
しかし以前とは違い、雷を纏っていた。
加えて、強度や太さも段違いである。
それにより、ツクロダロボを雁字搦めにする。
「こ、こんなもの! ぐぞぉおお!!」
ツクロダが力ずくで抜け出そうとするが、ダークネスチェインは壊れない。
更に雷が全身に走り、バリアの展開に必要な魔力消費を加速させる。
未だ消えない炎と雷に包まれながら、ツクロダロボは身動きが取れなくなった。
さて、今の内に何ができるのか、確かめておこう。
コイツの体に埋め込まれた魔道具は、意外と攻撃手段が少ない。
大砲・雷・衝撃波がメインであり、他は補助的なものが多かった。
その中で、鋭い四本の尻尾だったものに注目する。
現在は右手の爪を強化するような形で現れているが、本来は別の使い道があるようだ。
消耗は大きそうだが、軽い攻撃でツクロダロボを倒すのには時間がかかる。
幻影化をあまり長く続けるのが難しい以上、試してみる価値はありそうだ。
それにどこまで威力が出るのか、俺も見てみたい。
俺は幻影である先の鋭い四本の尻尾を背中に移動させると、操作して正面の床へと突き刺す。
次に両手を重ねるように前に出し、幻影の大砲を構える。
「おまっ!? 絶対アレをやる気だろ! よせ! ふざけるな!」
ツクロダは俺の行動を見て、慌てだす。
何をするのか、理解したようだ。
まあツクロダが設計したのだろうし、当然か。
しかし、慌てたところでもう遅い。
ダークネスチェインから抜け出せない以上、お前はただのでかい的だ。
俺はツクロダの叫びを無視して、次の準備に移る。
大砲に魔力を込めていき、雷も混ぜていく。
「今すぐやめろ! くそっ! ツクロダロボの武装が全て完成していれば、こんな鎖なんて、楽勝なのに!!」
相当焦っているのか、ツクロダが失言する。
そうか、だからあの魔力弾しか撃ってこなかったのか。
だが逆に、この短い期間でよくここまでの物を作ったというべきだろう。
しかし、それもここでお終いだ。
大砲に光が集まり、莫大な魔力が溜まる。
よし、これだけ溜まれば、十分だろう。
「喰らえ!」
「ま、待てッ――」
その瞬間、雷を纏う炎の波がツクロダロボを襲った。
俺は反動を極力減らすために、背後に全力の衝撃波を放つ。
それでもその威力は凄まじく、融合と幻影化の二重発動をしていなければ耐えられなかっただろう。
これほどの威力なら、行ける。
思った通り、ツクロダロボを倒した手応えを感じた。
そして短くとも長い砲撃が終わり、視界が開ける。
ツクロダロボは、跡形もなく無くなっていた。
だが不思議なことに床や壁は数センチ消失しているが、それだけである。
よく見れば、青暗い壁があった。
おそらくブラッドの強制決闘は、一定の範囲外に影響を与えない効果もあったのだろう。
あの一撃に耐えるとは、流石神授スキルというところか。
さて、問題はアレだよな。
「は、ははは、夢だ。これは、絶対に夢。そうに違いない。だって僕ちゃんは、神になる男なんだ」
ボロボロになった玉座に、身につけた魔道具がほぼ全て砕け散ったツクロダが座っている。
見たところ、魔道具を犠牲にして生き残ったみたいだ。
あの玉座には、そうした効果があるのかもしれない。
実際鑑定してみると、案の定その通りだった。
他にもあらゆる回復速度を上昇させたり、魔道具操作の補助まで可能なようである。
それと俺はツクロダロボのカード化を先に試みるが、できなかった。
おそらくあれはモンスターではなく、完全に魔道具だったのだろう。
まあ、それについては何となく分かっていたので、別に構わない。
それよりも、これでツクロダはお終いだ。
俺はダークネスチェインで、ブツブツと何かを呟き続けるツクロダを捕獲する。
「ひぎゃぁああ!? こ、殺さないでぇえええ! 僕ちゃんが悪かった! 全部あげるから! 奴隷にもなる! だから、殺さないでぇえええ!!」
そう泣き叫ぶツクロダだが、俺は警戒を怠らない。
今なら可能だと思い、鑑定をしてみる。
すると予想通り、ツクロダを鑑定することができた。
名称:アソブ・ツクロダ
種族:人族
年齢:16
性別:男
神授スキル
【創造者の指先】
エクストラ
【言語理解】【鑑定】【修復】【契約召喚】
【モンスターボックス】【契約数上昇(大)】
【魔力上昇(大)】【魔力操作上昇(大)】
【技量上昇(大)】【気配感知】【上級鑑定妨害】
スキル★
【状態異常耐性(大)】【病気耐性(大)】
【魔法耐性(大)】【物理耐性(大)】
【苦痛耐性(大)】【即死耐性(大)】
【自然魔力回復速度上昇(大)】【集団指揮】
【隠密】【逃げ足】【絶倫】【他種族交配】
どうやら創造者の指先というのが、ツクロダの神授スキルらしい。
エクストラのモンスターボックスは、モンスター専用の収納能力のようだ。
またスキルの横に★があることから、習得容量が最大になっている。
全体的に魔道具製作と召喚、あとは耐性に特化している感じだ。
魔道具がなければ、本人の戦闘能力は高くはない。
気になるのは、スキル(大)までスキルをランクアップするためには、ある程度使い慣れている必要があることだろう。
ツクロダに耐性系を鍛える根性があるとは思えないし、ランクアップの条件を緩和する魔道具を作ったのかもしれない。
個人的に少し気になるが、どうせツクロダを始末すれば無くなる物だ。
下手に交渉して、生存の可能性を生む必要もない。
ここで始末するのが、一番だろう。
「ぼ、僕ちゃんを殺しても、洗脳は解けないぞ! それに、魔道具も全部壊れる! そうなれば、たくさんの人が死ぬぞ! いいのか!」
そんなことは、最初から理解している。
だがツクロダを生かす方が、結果として多くの命が失われるだろう。
こいつが大陸を制覇したら、国境門から他国に攻め込むはずだ。
それに現状でもここまで面倒な相手だったのに、逃がせば次は手が付けられなくなる可能性がある。
おそらくツクロダの神授スキルは、転移者の中でも最強格だろう。
時が経てば経つほど、面倒になっていく。
ここで倒すことができるのは、まさに僥倖だった。
「最後の言葉はそれだけ? じゃあ、もう始めるね」
俺はそう言うと、幻影を動かす。
「や、やめろ! そいつを近付けるな! ひぃいい!!」
ツクロダの足元からゆっくりと、幻影が登っていく。
そして溶けた一部がツクロダに垂れると、肌を焼き始める。
「あっ、あつっ!? と、溶ける!? ぼ、僕ちゃんの身体がぁ!?」
この溶けた一部は、触れると相手を溶かす性質があるようだ。
戦っている時は、ここまで一度に浴びることはなかったので、気が付かなかった。
「た、助けて! 死にたくない! とけちゃう、僕ちゃん溶けちゃうからああ!!」
そう泣き叫ぶツクロダは、様々な高い耐性と苦痛耐性が仇となり、痛み自体をあまり感じていないようである。
痛みがない分、その恐怖は逆に増していることだろう。
俺はそこで氷塊を周囲に展開して、氷鏡を作り出す。
「ひぃ!? 僕ちゃんの顔があぁ!?」
そこに写し出されるのは、既に皮や毛を失った人体模型のような姿。
目が無傷なのは、おそらくわざとだろう。
「君が実験と称して弄んだ者たちは、皆これ以上に苦しんでいたんだよ?」
「嫌だぁああ!! 僕ちゃんは神になるんだぁああ!! 助けてえええ! 神さまぁあああ!!」
俺の言葉など、もはや全く聞こえていないようだった。
これ以上は、もういいか。
時間も残り少ないし、そろそろ始末しよう。
そう思うと、幻影の大砲がツクロダの頭上に移動した。
少しずつ、エネルギーが溜まっていく。
「じゃあね」
「や、やめろぉおお!! 死にたくなッ――」
そうしてエネルギーが解放され、ツクロダは塵も残さず消え去る。
これで、終わりか。
『転移者を殺害したことにより、10ポイント獲得しました』
『神授スキル【二重取り】が発動しました。追加で10ポイント獲得します』
するとタヌゥカの時と同様に、そんな声が聞こえてくる。
だがタヌゥカの時は違い、半分の10ポイントになっていた。
「うぉ!? ポイント!? 転移者を殺すとポイントが入るのか!?」
どうやら、俺とブラッドでポイントが折半になったみたいだ。
まあ、これは仕方がない。
元の残りと合わせて、これで30ポイントになった。
スキルをランクアップさせるには、少々心もとない。
だがそれよりも、今は他に考えることがある。
「ポイントよりも、早くここから逃げるよ!」
「っ!? あ、ああ!」
ツクロダが死んだことで、さっそくダンジョンの崩壊が始まったようだ。
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