周囲を見れば、多くの者がリードと同じように反対のようだった。
普通に考えれば、無謀なので仕方がない。
俺が一人が特攻しても、無駄死にするだけだと思っているのだろう。
だが、これが最もこの国が助かる方法だ。
時間が経てば経つほど、取り返しがつかなくなる。
敵がこの国に進軍して来たら、おそらく耐えられないだろう。
その前にツクロダを倒して、銃と輪を破壊しなければならない。
「リードが何と言おうと、私は行くよ」
「な、なら僕も行く! 君を一人にはできない!」
「それはダメ。正直言って、リードは足手まとい」
「なっ!?」
俺の言葉に、リードが衝撃を受けたように驚く。
だがこれは事実だ。リードがいない方が、スムーズに進む。
まあ、これで納得はしてくれないだろう。
なら、仕方がないか。
転移者の秘密を、ここで言おう。
全てが終わったら、この大陸を去ればいい。
元々、一つの大陸にこだわっている訳ではないからな。
「これは秘密だったんだけど、ツクロダと私は元々同じ場所から来た存在なんだよね。向こうは理不尽な力を持っているけど、同様に私も理不尽な力を持っているんだよ」
俺の雰囲気が少し変わったからか、周囲が静まる。
「この姿だって、決勝戦で出した大きな黒いモンスター、レフと融合した姿なんだ。私の正体はジンだよ。少し口調がおかしいのは、融合の影響かな」
「そ、それは本当なのか!?」
「ジンさん……だったのですか?」
「ねこのおねえちゃん、おにいちゃん?」
その告白に、皆が驚く。
だがそれを気にせず、俺は言葉を続ける。
「それに私は、一度に数百のモンスターを召喚できる。加えて今の私は、従えているモンスターたちよりも圧倒的に強い。だから私が単独で乗り込むのが、一番可能性が高いんだよね」
言葉だけで現実味は無いだろうが、先ほどと空気が若干変わった。
「止めても無駄だからね。時間がないんだ。今からでも、私は行くよ」
そう言うと、ハパンナ子爵が一度思案するそぶりをした後、発言する。
「わかった。ジン君……いや、今はジフレさんなのかな? 現状君に頼るほかなさそうだ。正直、話が本当なら他の街は壊滅状態だろう。このままでは、我々の未来は暗い。だからできることをしよう。何か頼みがあるならば、言ってくれ」
「と、父さん!」
リードが声を上げるが、ハパンナ子爵は無視をする。
その目は覚悟が決まっており、俺に全て託すようだった。
結局のところ、今の状況が悪化しても、好転する可能性は極めて低い。
であるならば、少しでも可能性のある部分に賭けたのだろう。
信じてくれたのは、理不尽な事を目の当たりにしたからかもしれない。
加えて俺が助けなければ、今頃命は無かったからだと思われる。
「ありがとうございます。では、地図と魔力を回復するポーションを頂けないでしょうか? この融合は常に魔力を消費しているのです。一度解除してしまえば、おそらくしばらく使えなくなりますので」
俺は丁寧な言葉遣いを意識して、正直にそう答えた。
レフとの融合は、ホワイトキングダイルの時よりも消費が少ない。
けれども少しずつだが、魔力の消費が回復量を上回っている。
戦闘を行えば、より魔力の減少は加速するだろう。
ここでこの融合を解くのは、得策ではない。
レフをしばらく召喚できなくなるのを考えれば、このまま特攻した方が成功率が高まる。
またカード化できなくなるのも、戦力の補充という面で困るだろう。
なので、魔力ポーションは必須だ。
「分かった。今すぐ用意しよう。もちろん、ポーションは量と質をそろえよう」
「助かります」
「構わないよ。私には、これくらいしかできないからね」
ハパンナ子爵はそう言って、兵士の一人に命を下した。
それからしばらくすると、地図と大量のポーション類の入ったマジックバッグが渡される。
だがストレージに入れる都合から、マジックバッグから取り出すのは二度手間になってしまう。
なので全て取り出して、ストレージに改めて収納した。
ちなみにマジックバッグは、返却している。
これで準備が整ったので、俺はさっそく出発することにした。
「ねこのおねえちゃん、行っちゃうの?」
するとどこか悲しそうに、ルーナが近付いてくる。
なので目線を合わせて、頭を撫でてあげるつもりでいた。
しかしその時、レフが表面に出てくる。
「にゃーん」
そう言って、ルーナの頬をペロリと舐めた。
「きゃっ、ね、ねこちゃん!」
ルーナは俺の内にいるレフを感じ取ったのか、笑顔を浮かべる。
だがしかし、傍から見たら幼女の頬を舐めた変態だった。
「レ、レフが出てきたみたいだね。ルーナとは仲が良かったから、悲しそうな顔を笑顔にしたかったみたい」
そう、言い訳をするしかなかった。
一部今のを見て興奮している者がいるが、気づかないふりをする。
「そ、そうか。ルーナも喜んでいる。ありがとう。一瞬責任を取ってもらおうかと、真剣に悩んでしまったよ」
そう言うハパンナ子爵の目は笑っていなかったので、今の言葉はおそらく本気だろう。
レフの行動で、全く酷い目に遭った。
融合というのは、こういうリスクもあるみたいだ。
身体の所有権はほぼ俺に渡されているが、完全ではないらしい。
もしホワイトキングダイルとの融合だったのであれば、体の所有権を主張するのは大変だっただろう。
「ジン君、僕は今でも反対だけど、気をつけて。絶対に、生きて帰って来てほしい」
「うん。約束する。戻って来るよ」
何はともあれ最後にはリードとそんな言葉を交わし、俺は闘技場の会場へと出る。
ハイオークとオーク軍団は、このまま残しておく。
また襲撃が無いとも限らない。
そして待たせていたグリフォンに乗ると、いよいよ空へと飛び立つ。
見送りは現状危険があるので、遠慮してもらっている。
さて、目的地はラブライア王国の王都だ。
おそらくそこに、転移者のツクロダがいるだろう。
この大陸の未来のために、コイツには消えてもらうことにする。
「行くぞ」
「グルル!」
そうして俺は、グリフォンに命じてラブライア王国へと向かうのであった。
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ご覧いただき、ありがとうございました。
これにて、第二章は完結です。
次回からは第三章が始まります。
そして更新ですが、しばらく一日一話になります。
また諸事情で、更新の再開は2/21からになります。
ご理解のほどよろしくお願いいたします。<m(__)m>
詳しい経緯は、活動報告に書いてあります。
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引き続き、倒したモンスターをカード化! 通称モンカドをよろしくお願いいたします。
乃神レンガ
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